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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第十九章 シンクタンク

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34 一番ヤバい人



「兄さん姉さん!パシリ戻りましたー!」

ファクトは、リゲルやソラ、ソイド高校生組でドリンクなど買い出しをしていた。


「あいつ、自分から買って出たくせにパシリとか言いやがって。」

シグマが悪態をつく。


「って、あ!サダル議長じゃないですか!」

「…心星ファクトか?」

「そうです!そういえばお義兄様ですよね。よろしくお願いいたします!」

ヤベー。そういえばあいつ、義弟かよ。とみんな無言で驚く。


「義弟になるのか?」

「チコの旦那さんなら!」

旦那だろ。本当にこいつは言い方をどうにかしてほしい。サルガスが苦い顔をする。


ファクトは立礼しドリンクを差し出す。議長にエナジードリンクや「スッキリおめめ!」という、がんばる系の物を渡しては駄目だと、無難にお茶とコーヒー、フルーツフレイバーの炭酸水を置いておく。護衛にもコーヒーを渡し断られたが、サダルが受け取るように言ったので飲んでくれた。


「まだ高校生なのか?」

「そうです!」

「両親とだいぶ違うタイプだな。大学には行くのか?行きそうにない顔をしているな。」

サラッとひどいことを言う。

両親はこの歳で大学どころか、霊性学、神学も含めいくつかの博士でもう研究所のトップだった。

ファクトは運動能力と美術以外は中の上。少し得意なものもあるが、だいたい平均である。ちなみに美術は態度と提出物のみ合格。昔から「芸術だと思えば見れる。ヘタウマの境地」と友達に言われるセンスであった。


「途上地域で教師をしたいので、必要なら行きます!」

「…行けるのか?」

みんな思う。こいつは行こうと思えば行けるだろう。能力なのか、運があるのか。当たり障りのない道をいつの間にか歩んでいる。そういうヤツだ。

「頑張ります!」


「元気だな。そういえば、なんでそんなにチコと仲がいいんだ?私でもそこまで仲良くはないぞ。」

「ブっ!!」

飲んでいた飲み物を吹き出すロー。周りも「いいのか、そんなこと言って!」という反応だ。

「何ていうか…分かりやすいので。チコは性格が父さんに似てるから!」

「ポラリスにか?それは気が付かなかった。」

似てるか?と、この前のフォーラムをサボってSR社で父ポラリスと会食をした一部下町ズは思う。あの奥様ラブラブの男に?チコと言えば、6年前は笑うこともほとんどなく、ユラスにとってチコは厳しい上官だったと聞いている。そして、旦那ラブラブ度は皆無に等しい。



みんなの戸惑いに気が付かずファクトは続ける。

「すぐ言い訳にならない言い訳して逃げるっしょ!ウチの父もそうです!!」

「………なるほど。」

それらな納得できる。

ポラリスの事は分からないが、チコはそうだ、なるほどとみんなも思う。いつも言い訳が言い訳になっていない。メディアで見る分にはしっかりした人に見えるのに、ファクト父もそうなのか。



「でも、明日シンクタンクなのに、こんな風にアーツにいていいんですか?準備とかは。」

「別に。顔を立てるだけだからな。」

「顔?」

「ユラスのじじいどもがヴェネレに引けを取るなとうるさくて。軍事規模とニューロス分野しか勝てるものがないからニューロス自慢でもしたいんだろ。生産しているのはアジアなのにくだらない。」

「………。」

ファクトが意味が分からなくて、サダルを見て「ん?」と黙ってしまう。それに気が付いて、サダルはファクトに答えた。



「…私は別に、ユラスがどうなろうが正直どうでもいいんだ。」


「…?!」

この発言に周囲が凍る。


え?議長様ですよね???ユラスの。


サダルはかったるそうに前髪を掻き上げて遠くを見た。完全にウザそうな顔をしている。大房の勉強しない奴らが計算をさせられている時を遥かに越えるめんどそうな顔だ。こんな例え、一国の議長に申し訳ないが。


シグマは一応聞いておく。

「あ、今のは聞かなかったことにしておいた方がよろしいでしょうか?」

「その方がめんどくさくはないな。私がユラスを嫌っていることなど、古参はみんな知っているから隠すことでもないが。」

「………………」

嫌っているとまで読み取れなかったのに、余計なことまで知ってしまったと思うアーツ。

「今はかわいいと思える奴らもいるし。まあ、黙っとけ。」



ヤベー。キタぜ。一番ヤバい奴がユラスの議長だった…。


と、思わざる負えないアーツ一同。



「シャム。お前、今、余計なこと話すなよ。殺されるぞ。」

「うぃっす!」

「でかい声出すな。」

またシグマに口を塞がれる。


「クルバト書記官。お義兄様はジョブ覇王のままでいいでしょうか?」

ファクトはクルバトにこっそり聴く。

「覇王とか言うとインターハイ全国制覇!みたいな感じだし、魔王だと今となっては響きがかわいいし。破壊神?」

「んー。保留…。どれもしっくりこない。」

何かが塗り替えられた議長であった。




***




次の日、シンクタンクはファクトにとっては正直つまらないイベントであった。


世界の有識者たちが、有効なニューロス技術や世界におけるニューロスの存在意義について語るのだが、最近覚えきれないほどの人に出会うので、正直ニューロスなど関わっている暇がないのだ。会場も大会場1か所しかない。


ファクトとしては、ニューロスメカニックは、宇宙、環境、工業分野で人間が関われないことや、介護などロボットがした方がいい分野で頑張ってくれればいいんじゃない?程度の認識だ。人間のコミュニケーションのパートナーに、という考えはない。心星家のAI、家族である貝君とそのジュニアで十分だ。


人間関係が充実していると、正直考えるまでもない。



そして、ファクトはすぐに悟った。

ここで幼馴染のラスを見付けるのは難しすぎると…。見つけても動けない。


なぜならみんな席も立たずに講演を聴き、休憩になるとどこの出入り口を使うのかも分からない。一部民族衣装以外、みんな似たような制服やスーツ姿。連合国非営利組織フォーラムは会場も多く、もっとザワザワした感じだったのに、ここでは動き回るのはスタッフくらいで探しに動くのも難しい。2階席もあるし、そもそもラスが出席するのかも分からないのだ。


学生席とかあるのかな…。多分聴講席だろう。


リゲルとファクトはラスを探すが今のところいない。会場を出入りする度にセキュリティーチェックがあるし、席も全て指定席。動き回るには会場端の壁際くらいしか場所がなかった。



開会の辞、各人挨拶が終わると、盛大な拍手と共にSR社社長、シャプレー・カノープスが現れた。


いつもの仏頂面、三白眼でオミクロンより強いんじゃないかと言う厳つい風貌。

しかし、スーツをきれいに着こなし清潔感のある男は、ニューロス界最高峰のトップ企業であり研究者として挨拶をする。


当たり障りのない話から始まり、シリウス完成から1年を過ぎ見守ってくれた全てに感謝し、今後ニューロスアンドロイドが目指す世界、怪我や病気の人のための義体の技術的進化と医療界とのセッションなどの話題を話した。


「シリウスはいないんだな。」

リゲルが不思議がる。

「目玉に取っておくんだろ。後で出てくるよ。」


ゲスト席のサダルの札のあるところに、まだサダルはいない。目立つのが嫌いな感じで、昨日の様子だとめんどくさいんだろうなと思う。


その時だ。



ファクトの携帯が鳴る。

バイブのデバイスに映るのは「ラス」の文字だった。


「?!」

驚いてリゲルと目を合わせ、静かに着信を受ける。


『ファクト?』

「うん。ラス?」

『そうだけど。何してんだよ。会場内にいるのか?』

「2階席の壁の方に…。」

『出て来いよ。2B出入口外にいる。』


「…分かった…。」


2人は変な気持ちで出口に向かった。



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