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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第十九章 シンクタンク

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32 『レッツ!僕のメイキングシティー!』


ちょっときつい言葉がありますが、それも楽しく受け入れる大房民です。



この金曜日。


恐ろしいことに、ロディア父をはじめとするヴェネレ人たちはもうベガスに参入する小売業の話を付けに来ていた。


ヴェネレ人はヴェネレ語、ユラス語、西洋言語、共通語も堪能。


これまで話が来た一部アジア企業やベガスの移民たち、そして河漢で商売をしていた人がそのまま入って行こうとしていたが、既に箱はあるのだ。そこでうまく商売を回そうと思えば、個人店レベルの経営力では街全体を発展させられない。河漢の感覚では、他地域のアンタレス民を満足させる入荷もサービスもできないだろう。小さな商店を残しつつも、いつか他の地域に並べる経済センスは付けなければならない。河漢の特色を出すにしても、これまでのような犯罪が横行するような雰囲気は排除していかなければならないのだ。



これまでの計画では、現在の人口増なら既存の人々と南海やミラで回せるので、徐々に住まいを拡大するつもりであった。



しかし、そこにドカーンとヴェネレ商人たちが入って来たのだ。

しかも地域の半発を食らわないように、既存の商売人と共栄していく企画書まで既に準備している。


アンタレスへのプレゼンもばっちりであった。

え?いつから?と思わざる負えない。

これヴェネレ人、経済的支配の図?



少し前は近代世界の、トップを走っていたアジア。


しかし、アジア…アンタレスと言えば、移民ベガスめんどくさい、スラム河漢めんどくさい、その後の発展もっと面後くさい状態。中間層以上を良くすればそれでいいのだ、河漢を触るなとその姿勢を何十年も続けて来た。


今は、「敢えて放置してたのに、ベガスが勝手に動くし、仕方ないからやるか」みたいな感じだ。そんなアジアがヴェネレを牽制できるわけがない。





聖典は言う。



宗教性を捨て、清貧の心を捨て、行動やメディアで妬みと怨みを増長し、淫欲に走った国は一気に崩れていくと。


だんだん、無節操や無気力の世代が生まれてくるのだ。



だいたいそこでみんな滅ぶ。

強大国が滅びるのは外部からではない。内部に既に穴が開いているのだ。


宗教をカルトにまとめて忌避し、聖典そのものから引き離し、自己で考え学び思索することをもやめさせ、ただただ今ある日常に翻弄(ほんろう)され、欲を満たし、人を妬み、なんとなく日々を過ごさせ、全ては他人のせいか開き直りで、思いのままに性をむさぼっていく大都市は、ある意味いい感じに唯物論者の理想の世界に仕立てあげられた分かりやすいモデルなのだ。


生活こそ支配なのである。




そう、勝利を得て頂点に来た者の行く先は、最後は「己との戦い」になる。


自国と、自身との。

そういう意味では自由民主主義の中にいる人間は、みんな自己や霊性を試されているのだ。


大きなホクロを取ってしまえば、それより小さいホクロやシミが目立ってしまうように、今度は自分たちが鏡に映される番だ。


そこで、貞節を守れず、得た頂点に慢心し、うまく下を見ることができず沈んでいき、頂点後に下り坂で、弱いと思た国よりも低い場所に沈没する。

精神性や霊性が低下して、正道を歩む人々を識別できず、さげすみ追い出すようになり、地域が曇っていく。かつての超大国たちが、不貞許容、クスリの蔓延で衰退していったように。


そして、穴が塞がらなくなった時に、やる気に満ちていたり、横で待っていた敵やライバルにあっけなく打たれる。


こんなに歴史で同じことを繰り返しても、また同じ道を歩むのだ。人類は。

人は自堕落になってくると、口だけが動くようになり、自分たちは違う、もしくはもういいと向上性を捨てあきらめたりする。


霊性学で習う話だ。





90%くらい俺らじゃん?と思う下町ズ。

「ヤベー、霊性学そのままじゃん。アンタレス。というか俺ら?」

「大丈夫だ。救いようがなくとも、チコさんたちを出し抜いて世界を破滅させる有能さも気概もない!巨悪にはなれない。よくて雑魚だ!」

「俺ら既にゾンビ側じゃね。」

「つーか、チコさん最近大房のオバちゃんだし、俺らに似てきてる。最初の凛々しさがなくなってるし。」

「俺ら寄りにしてどーすんだよ!それこそ地獄に落とされそう。」



それからみんな冷静に思う。

「アジア。ヴェネレ人に沈没させられない?」

「婚活おじさんが実は最も恐ろしい天帝とかそんなのあり?」

「アンタレスなのに、主権が変わりそうだな。」


「だから、ユラスやアジアの人材を確保してきたんだろ?」

イオニアは帰ってしまったが、現在その兄ゼオナスや南海、藤湾OBたちが、行政と一緒になって既に様々な人やアジアの中小企業とも都市計画の話を進めている。


ヴェネレからは一旦フォーチュンズ系列の小型マートが数店、輸入品メインの薬局、モバイル関係の店、通販で買うより話が速く済む工具店などが入ってくることになった。マートは、アジアからも中型企業の申し出が数件あり、失敗したり路線を変えたりしてもいつでも対応できるように、現在の計画では人口が増えるまで中小型店のみとなっている。



『レッツ!僕のメイキングシティー!』というショボいタイトルの割に、超込み入った街作りで有名なあのゲームさながらの展開にワクワクする下町ズ。


「でも、この人口のアンタレスでも結構潰れる店があるし、廃れた商店街もあるのに、どうなんですかね?」


それにはサラサが答える。なにせヴェネレ社会までよく知っている、不思議なうちの顧問。


「そういう意味で、アンタレスはきれいになり過ぎたよね…。

礼は重んじるけど、他人行儀、他人行儀で自分以外他人になって声も掛けられない。

ヴェネレ人は食べつくした草原でも、一本の雑草も逃さないように経路を見付け、何度も立ち上がる精神を持っている。そして、失敗してもいつまでも落ち込まない。けっこうな有価証券や副業を持っているし友人、親族に頼ってすぐに次の商売を探す…。

ベガス挑戦が失敗しても、それを糧に次の道に切り替えるだけだね。」


それほどの資産もある。


そうして、ロディア父は自分の故郷、中央大陸に飽きて、大国滅亡の二の舞を歩みそうなアジアに遊びに来たのであった。


黙って話を聞きながら、なんか恐ろしい父を持つ人に手付けてしまったのではないか。と、自問するサルガスである。




***




夕方。


サダルが来るまでファクトと屋上にいるチコ。


グリフォという女性兵と、レオニスが護衛に付いている。


「待って。これ、倉鍵でおいしいの買って来た。」

ファクトは袋からケバブを出し、2人の護衛とチコにあげる。チコはファクトが包みを開くのをじっと見ている。

「今日は牛肉にした。肉山盛りにしてって言っておいたから。…て、あ!もしかしてサダル議長と食べる?」

「今一緒に食べる。SR社で打ち合わせしてから来るって。遅くなると思う。グリフォたちも食べろ。」

護衛は交互に食べことにし、チコが手を付けるのを待つ。ユラスでは目上の人間か年長者が手を付けて、周りの食事が始まる。


「いい、グリフォ。一緒に祈って食べよう。」

そう言うので、3人で食べることにした。


「…チコ。本当にシンクタンク行かない?」

「…行かない。」

「ファクトも行かなくていいぞ。シリウスが付きまとってんだろ?」

「…父さんたち知ってるかな?」

「……さあ、普通だったら知ってると思うけれど、ミザルは乗り込んでこないな…。」

また父が、母ミザルにされこれ隠しているのではとハラハラする。


「あのさ、チコ。」

「母さんや父さんを恨んでない?」

「…?」

「………。」

「…なんでそんなこと言いだすんだ?」


「チコは自分で臨んでニューロス化したの?」

「……。」


グリフォが気まずそうにする。

「ゆっくりお話しください。少し席を移ります!」

「グリフォ、大丈夫だ。」

「…いえ…」

しかし、チコはグリフォの手を握るように抑えた。


「ファクト………」

ファクトは食べるのをやめて、チコを見つめる。

チコはグリフォの動きが止まったら、そっと手を離した。


「ファクト。誰に何を言われたのか知らないけれど、一つだけはっきり言えることがある。」

「………」


「ポラリスを、自分の父を信じろ。」


「信じる?」

「信じられないこともあるかもしれない。人として許せないこともあるかもしれない。」

「………。」

やはり、何かSR社は倫理に外れる多くの事をしたのだろうか。そんな可能性は、実は今までだっていくらでも考えて来た。人間が被験者になる世界なのだ。


「ファクト………」

「………。」

「でもポラリスを信じるんだ。その先にあるものも…。」

「………」


「周りの人間も闇雲に進んできたわけじゃない。お前の両親を信じるんだ。」

「…。」

「分かったか?」

「…分かった。じゃあ、チコは怨んでないってこと?」


チコは微笑むように頷いた。落ち着いた、温かい、宙に吸い込まれるような目で。



グリフォもそんなチコの顔を見て、少し安心もし、でもまだ心配気な雰囲気もある。。レオナスは何も言わずに周囲を見渡していた。



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