31 ふたりの手と手
いつもの事ですが、前回誤字が多すぎてごめんなさい…。
「ロディアさん。」
「ううぅ…」
同情で気を引こうとしているようでみっともないので泣き止みたいのだが、他人にここまで話したのは初めてという事もあって、緊張もあるのかまだ涙が引かない。
「ごめんなさい…。」
そしてやっとロディアは笑う。
「なんかスッキリしました。付き合うもやめるも、どちらでも好きに決めてください。」
「ロディアさん、先も話したけれど、足が悪いことは分かって決めたことだし、それは間違いなくロディアさんの足ですよ。足の事は今決めなくていいことだと思うけれど。」
ロディアの手を握るサルガス。
「このままお付き合いは続けましょう。」
「………!
…………いいんですか?本当に…。」
「俺も俺で、こんな店、初めて来たし…。おじさんの仕事関係を手伝う能力も、そういう暮らしをさせられる力もないんですが………」
「そんなこと考えていないので、大丈夫ですよ。」
「ぼったくりしそうな祭の出店の飲み屋以外で、値段のないメニューも初めて見ました…。寿司屋だって聞けば時価ぐらい教えてくれるじゃないですか。」
このレストランで値段を気にする客はいないだろう。あまりにも違うロディアとの生活。
「マナーはしっかりしていましたよ?」
「大房の店始める前に、短期で専門学校には行っていたので…。レストランぐらいは行くし…。」
二人は向かい合って笑う。
ロディアからの目から涙が出てくる。
サルガスが手を離さなかったので、しばらくそうしていた。
***
ホテル玄関に来たタクシーにそのまま乗って、南海に帰る二人。
着いた路地でしばらく話していたが、サルガスは重大なことに気が付く。
「……あ。今、凄いことを思い出した。」
急に渋い顔をするサルガス。
「どうしました?」
「忘れてたけど、俺、前科者なんだけど。」
自分の方が、ヤバいことを言っていなかった。必須事項であろう。
「………。」
サルガスの顔を凝視してしまう。
「フォーチュンズ創立者の娘さんの相手が、それってヤバくない?」
けれど、ロディアは落ち着いている。
「…父も知っているから問題ないですよ。そういうのは全部。」
「え?なんで知ってるんですか?」
「フォーラムで話していたじゃないですか。」
統一アジアでは高2の年度から前科が付くし、軽犯罪以外は少年でも罪になる。サルガスは高校2年最後の時だ。
「父ならアーツと関わった時点で、事務局に多分全部聞いていると思います。」
「でも、個々人の情報まで知らないでしょ。」
「そうしたら個々人をある程度別口で調べると思いますし、霊性の試験が通ったので、信頼しているのだと思います。チコ総長やカストル牧師も入っていらっしゃいますし。」
真顔で見つめるロディア。ベガスの住民や勤務、通勤者になるには、性犯罪と重犯罪者は除外され、記録に残らなかった霊性まで見られる。それにはクリアしているという事だ。てか、個人で調査ってどういうこと?
「服役とかしていたんですか?」
「初犯だし金を払えば出られたし、がんばれば示談にも出来たけど、どんなところか見てみようって1か月入ってみた…。」
「え?」
「高校楽しくなかったし。」
世の中にはそういう人もいるのかと驚く。
「……どうでした?」
「学生だからって、刑務作業より勉強させられた…。」
「………。」
「それに、職員の人にもう少し服役してほしいと言われた。」
「え?」
「あの頃、自分の柄が悪かったから周りへの牽制になって、他の囚人が大人しいからいてくれと。別に今みたいに格闘術とかできなかったんだけど。」
「…………」
確かに会った頃のサルガスは、女性が話しかけるよな風貌ではなかった。仕事でなかったら、避けるタイプだ。
「髭は剃らされたけれど、あそこは髪長くてもよくて、最初ドレッドだったし。管理できなくて途中でやめて、解くのが大変で坊主にしたな。そういえば。」
ドレッドってなんだろうと思うロディア。
「でも、ペナルティーもつくしお勧めはしない…。とくに国際結婚をするとなるとマイナスになることも多いし…。ロディアさん…ごめん。」
どんな罪で服役していたか聞いてもいいか考えているところに人がやって来た。
「お!サルガス!ロディアさん!!」
「ファクト君!?」
「そうです!先輩たちデートですか?!」
会っても害はないが、あの気軽さがなにか人の癇に障る男、ファクトである。何が先輩だと思うも、この男は冗談で言っているのかデートだと本当に思っているのか。
「ファクトは何してんだ。こんな夜に。」
「ランニングです!なんか力余りまくってて!一緒に走りますか?」
「……朝か夜、どっちか勉強しろよ。今高3で大学行くんだろ?」
「体育の教員にもなりたいので運動しないと。」
「いや、勉強だろ。」
「それにオーラを貯めておかないと。」
「は?オーラ?」
「一発でやられそうなのばかり揃うから、防御を掛けておく。」
ポーズをしながら、また馬鹿なことを言い出す高校生。何と戦うのだ。
「なんか星がザワザワしてて落ち着かなくて。」
「星?」
ロディアが空を見上げると、街路樹の間から透き通ってキラキラ光る宙が見える。
「週末、シンクタンクだからかな?みんな揃うし。」
「みんな?ファクト君のお友達が来るの?」
「違う。SR社のシャプレー社長に母さんに父さんだろ。それからサダル議長に、シリウス…。だからかな。他にもなんかいろいろザワザワしてる。」
「不愛想なのと、やたら愛想を振りまくのしかいないな……。」
サルガスの率直な感想だ。
「俺は友達に会いたいだけだから、その恐ろしい集団から逃げないと。」
「会うためのオーラじゃなくて、逃げるのか。」
「もち!」
会ってどうするのだ。そんな集団。伝心を研ぎ澄まし、声が聴こえたら逃げるのみ。
「で、サルガスたちは何してるの?デート?」
えっ、と動揺するロディアだが、サルガスは答える。
「そうだけど。」
「!」
ロディアは思わずサルガスを見る。
「変な憶測を立てられるよリ、ここまで察してるなら、こいつには明確に言っておいた方がいい。みんなでどうでもいい予想や妄想を立て始めそうだ…。」
「……そうですね。」
想像がつくので、反論できない。
「ファクト。まだ周りには言うなよ。きちんと順を追っていくから。」
「了解!」
ロディアはヴェネレ世界から逃げて30歳。やっとできた身近な友達がいるベガス。ここで結婚問題をこじらせたら、強く立ち上がれるのか先が見えなくなるのか分からない。サルガスはできる限り、このまま結婚に向かいたいと思った。
ファクトの登場で他人に知られ、赤くなってしまいながら、ロディアは二人にヴィラの前まで送ってもらった。
***
「だから、なんでこんなに早く来るんだ!」
「早くって、もう金曜ですよ。」
アセンブルスが冷たく言う。
「明日でいいだろ!」
ユラス駐屯で怒っているのはチコ。サダルが金曜にベガス入りするらしい。
「………」
もうチコはマイラたちに隠しもしないので、みんな呆れている。
「総長って、ああいう性格なんですよ。呆れました?」
「カウス!黙ってろ!」
最初にベガス入りしたサウスリューシアのマイラはじめとする数名もベガスに残っていて、その中の軍関係者が駐屯所に来ていた。VEGAでなく、ユラス軍が各地の活動でどう動くか調整をしていく。
「当日入りでいいだろ!また月曜までってなんだ!ユラスなら日帰りできるのに!」
「あのスケジュールで日帰りさせるって、最低ですね。」
「総長がコソコソ逃げていろんなことを引き延ばすからでしょ。さっさと話しを付けてください。」
カウスもやっぱり味方しない。
「ユラスはそんなに暇なのか?おかしいだろ?議長だろ?」
「大叔父一家が戻って来るそうです。」
「………。」
顔も合わせず仕事の処理をするアセンブルスの一声に固まる。
「イーストリューシアにいた?」
「そうですね。今はイーストに移っていますが。護衛のニューロスヒューマノイドも2体買います。」
ナオス族長一家のサダル祖父の弟家族。海外の自由民主主義先進地域にいたため虐殺を逃れた一家だ。敵ではないし、向こうは男子直系だ。
そこで初めてアセンブルスは顔を上げた。
「ひとまず最初に1100億の機体を1機。大叔父一家に付けます。もう一機来たら総長は用無しになるので夫婦よく話し合って下さい。」
「用無しって…お前、絶対に後で後悔させてやる…。」
「………」
「大叔父か…。」
チコは少し考えにふけり、それ以上この話をやめた。
「あ!そうだ。アセン。」
「雑談は聞きません。」
「お前、結婚しないのか?」
「………。」
無視するアセンブルスと、反応する周囲一同。
「プライベートですのでお答えしません。」
「ユラス人議長要人のクセに何がプライベートだ!だったら私のことにもあれこれ言わず、日程をいい感じに調整しろ。」
なるべくサダルに会わない日程という事だ。
「…………」
「それで早く結婚しろ!私の周りで男女行き遅れが多くて、ユラスに行く度に方々に叱られているんだ!!お前らもだ!」
他一同も巻き添えになる。ユラス人はアジア先進地域より結婚が早いが、ここには30代未婚が多い。
「…あなた方お二人の事はプライベートではありませんので。それに、本土から離れているし先進地域にいますからどうしても…。というか、それが復讐ですか?ショボいですね。」
ユラスにいれば、イヤでも親族たちに結婚させられる。
「早く結婚させられろ!したら絶対に良かったと思うぞ。な?カウス、フェクダ?」
「……。」
一番説得力のない人が喚いているので、誰も答えようがなかった。




