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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第十九章 シンクタンク
30/105

29 表裏一体



ファーラムの反省会とこれからの見通しなどが終わって、ベガス所属の他大陸担当者会議が終わった。


少しの間、こちらで勉強をしたり、アジアやユラスの自分の家に帰る者もいて、半分が先に任地に出発となる。


「シロイ!」

「ああ、チコ!…様。」

「チコでいい。リズアルにもよろしくな。」


サウスリューシア組の年長者でチコの元上司で同僚でもあるシロイは、親家族ごと赴任しているのでそのまま現地に戻る。

「あ、言っていなかったけど、孫ができた。もう4人もいる。」

え!と驚くチコ。

「…そういう事はこまめに連絡しろ!…リズアルももうお祖母ちゃんなのか…。会いたいな。」


「チコはどうなんだ。」

「………。」

「可能性がない訳じゃないだろ。」

チコは眉が下がって答えない。


2人は少し端に移った。


「離婚するのか?」

直球のシロイに少しだけ戸惑う。

「…多分。でもまだ言わないでほしい。みんなが知ってるわけじゃない。」

「…だったらもっとうまくやれ。どう考えても距離が不自然だろ。知らない奴らが動揺している。議長夫人を狙っている奴らの思うままだぞ。」

「………。」

「もし離婚したらその後どうするんだ。」

「…他の大陸にでも行こうかなと。」

「アーツはどうするんだ。」

「3弾の試用期間が終わったら、彼らで動いていける。」

「再婚は?」

「しない。出来ないし。誰かの事に気を遣わずに、自分の仕事に集中していく。身動きしやすくなるし、その方が効率もいい。サダルは別居にしたいらしいけど。」

シロイは呆れた顔をする。


「できると思うか?結婚はしないといけないだろ。周りが騒ぐぞ。」

「……」

「お前らがフリーなったら周りがそのままにしておくわけないだろ?」

「……?」


「…サダルは籍はそのままでいいとか言っている。でも、議長は責任もあるしそういう訳にはいかないだろ。出家中でもあるまいし。カストルか誰かがユラス議長の座にふさわしい女性をきちんと見てくれる。」

「…はあ…。お互い触ってもいないというのは本当だったのか…。」

シロイはチコの弾力を残したメカニックの両腕を掴み、自分ときちんと顔を向い合せる。


「サダルだけの話じゃない。チコもだ!」

「??私も?」

「チコも独り身ではいられないぞ。」

「…え?」

「当たり前だろ。待ってる奴もいる………。」

ますます分からない。

「………ワズンとは一緒にはならない。もう言った。」

「…言った?」

「本人に言った!!」

「………。」

シロイ、呆れる。


「離婚の話が、向こうで広がっていたからワズンから連絡が来た。」

ワズンかわいそうだな…と思うが仕方ない。


「サダルとだって、カストルからの話じゃなかったら受けなかった。いつ死んでもおかしくない人間といる必要はない。サダルとワズンもその方が幸せになれる。

カストルとデネブがずっとセイガ大陸の父と母としての位置にいてくれたから……お返しもしたかったし。あの夫婦の間にはきちんと天倫も立っているから。」

「カストルはもう、祖父母だろ。」


シロイはチコの肩を叩いた。

「まあ、ワズンだけじゃない…。チコへの認識も変わっているしな…。」

そして拳骨でチコの頭を小突く。

「うっ」

「でも、アジア(ここ)で幸せそうに暮らしていてよかった…。未来もちゃんと幸せになるんだ。他の奴が驚くくらい、健康で長生きしろ!………誰でもなく、チコがな。」

「……。」


「シロイ本部長出発しましょう!」

アジア人の女性が呼んでいる。

「本部長なのか。会社員みたいでいいな。」

2人で笑っていると、その女性と数人がやって来る。


そして女性がチコに抱き着いた。

「チコ様…。知らない間にベガスもチコ様も変わっていて寂しくて悔しいです!」

「私も変わった?」

「そうです!」

「あ、まあよく話すようにはなったな。言われるし、自覚もしてる。あいつら言う事聞かないし、自分で察しろで終わらせると好き勝手するし…」

その女性はチコをもっと強く抱きしめてそれ以上言わせないようにすると、またお会いしましょう!と、みんなと去って行く。シロイも手を振った。


サラサやVEGA事務局員、アーツ数名、そして、何人かいたユラス人たちも彼らを見送った。




***




「次はロボメカニックだな。」


「その前にシンクタンクがあるぞ。」

「楽しいのはロボメカニックの方だろ?」

名前はダサいが男子注目のイベントだ。


「コンパニオンがいるのは祭典の方だからな!」

「マジか。参加必須だな。」

真面目な男子会議。ニューロスのシンクタンクの後に、メカニックの企業祭典があるのだ。


妄想CDチームは、アンタレスで行われるビックイベントを確認中。寮の1つでスナック菓子の封を開けラーメンをすすりながら、不健康を楽しんでいる。


ファクトは悩み中だ。

シリウスには会いたくないが、仲違いしたままのラスには会いたい。幼馴染のヒナやタキたちにも理由を話してラスのスケジュールを聴いた時、ラスが飛び級していたと知って驚く。科も変わり、学校も変わりタキたちも疎遠になっているという。


「ファクトは両方行くのか?」

「んー。悩み中。この最新アーマーロボは気になるが、行って目立つのはイヤだ。」

「サラサさんさ。チコさんを行かせたがってたから、一緒に行ってやったら?」

「それ、シンクタンクの方だと思うけど。」

「…なんかユラスの皆様がいらっしゃる時は、チコに会うなと言われた。」

「…ああ。それは仕方ない。下手したら今度はマスコミにも見つかるし、弟狂をこじらせている場合ではない。」


ファクトはみんなに宣言する。

「そして…、ストーカーシリウスも避ける!!」


「いいなー。シリウスにストーカーされてるなんて。あの顔であの声で隣に迫って来るなんて。」

「そうだった!ラムダ、実物とブレイクタイムまでしたんだってな!羨ましすぎる!!」

みんな盛り上がるが、ファクトとしてはあの距離で迫ってくるから気味が悪い。どうしろと言うのだ。



でも、ふと思い出す。


人間と違和感のない、見分けがつかないシリウス。


愁いを秘めた笑顔と、チコのように嬉しそうな思いっきりの笑顔。

そして、チコよりも人間らしい弾力と伸びのある皮膚。


ファクトは手を見ながら、あの時つないだチコと、シリウスの手が重なる。


それに、初対面で明確に感じた、シリウスの「人間のようで人間でない、メカニックのようでメカニックでもない」あの気持ちの悪い違和感にも、自分が慣れてきている事に気が付く。




シリウスは何に向かって動いているのだろう。


ファクトは思う。


今シリウスの中で形成されているのは、人間の与えたプログラムなのか、自立した自己なのか。




シリウスの全てが人間的であることは最大の評価点だが、彼女の根本的目的はそこでない。


彼女自身がコンピューター世界のOSになることだ。



シリウスのベースは世界で最も読まれている『聖典』。


しかもこれは、前時代までの聖典の解釈とは違い、現時点で正道教に最も近い、天敬の上で重んじる家庭が基盤となっている。

そしてシリウス自身もただプログラムの通りに動いていくわけではない。自己判断をするのだ。聖典の未解釈や多様な解釈で揉めている全て膨大なデータから、合理的神学的、人類学的に、もっともつじつまの合った総合的な解釈していく。


歴史や家系図、暗号なども他の聖典と共に。



「愛、慈愛」が根本にある部分は、過去から現在まで不動だ。


だが、それだけでなく歴史が本来のプログラムと、どう多重多様に変わっていったかを読み取り、人類が備えるべきであった知恵と理知を取り戻していく。


例えば、聖典の正統家系は明らかに()()()()()()()()()。一つの分岐点では、歴史の頂点に残るはずだった目的の()は、現在残る()()()()()()()()()()()のだ。

その中でも、始め未来に続くはずだった真っすぐ伸びる霊線の持ち主は、末席の子供たち。だから神は何度も()()()()()()()()()()、情熱の愛を、時には愁いを注ぎ、その証を預言者たちが聖典の詩に残した。


だが、彼らは離れてしまった。

二人姉妹を嫁にした男は、妹を愛した。妹は天の位置にいて、その息子は最も神に愛される。

けれど海外で首相になっていたその子供は全てを全うしたが、一つだけできなかったことがある。


それぞの子孫たちは、数百年神が呼び掛けても、呼びかけの意味が分からずその地位を離れてしまったのだ。本来、姉の子未来のヴェネレ系統が歴史を引き継ぐ予定ではなかったのだ。


そういう歴史が、今どこに繋がっているのかも全て解読していく。


そうして、人間とメカニックの距離を理論的に明確にしていくのだ。



正道教ベースの信念は「メカニックは人間の友愛や家族的位置の対象にはなっても、男女の情愛の対象にはなれない」と揺るぎない。



『人』と『それ以外』は、命の重みという意味では明確に違う。

それが正道教である。




一方、ニューロス改革派はニューロスの人権と住民権、婚姻の拡大を望む。

つまり、シリウスを人権のある存在と認めつつも、シリウスシステムの拡大を望まない。シリウスシステム自体が正道教に近い聖典信仰から生まれているからだ。


彼らはずっとその闘いを続けている。



正道教理念は、昔の新教、旧教に仏道も混ぜたような世界だ。

万象は現象の中で全てひとつであり一体であるが、万象の中の人『人類だけは明確に無二の一点』としている。


一方、旧教の最盛期の後に、それぞれの神不在や宗教、権力層の腐敗や無理解を嘆いて始まったのが無神論や唯物論、もしくは正堂教内外の反対派諸宗教、諸団体である。


つまり、末端はともかく、信仰者も唯物論者もベースは神論者なのである。


そして、人間の道理において、分岐の多くは憎悪から始まる。




最初の兄が憎悪で人殺しをし、そして兄弟は嘆きながら分離していったからだ。







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