2 シリウスです。こんにちは。
この話はZEROミッシングリンクⅡの101話からの続きです。
こちら→101 土に降り立つ天使
https://ncode.syosetu.com/n8525hg/104
河漢の広場は静まり返っているのか、騒めきなのか。
何とも言えない驚きに包まれた。
シリウスがいる!あれがシリウスなのか。
一般の人間より目立つ佇まい。なのに、不自然さがない。
ムギ家から戻って来たヴァーゴ、ウヌクも、「お゛?!」という感じだ。広告やTVで知っている顔がいる。
その真ん中で、シリウスは笑顔のままキョトンとしていた。
「あの…参加させてください。いいですか?」
「えっと、ニューロスアンドロイドは住民登録があるのか保険とか登録できるのかも分からないし…。」
何か違和感を感じたサルガスが戸惑っている。
「ヒューマノイド登録がありますわ。」
そして、近くにいたメンバーが固まっているのを見てにっこり笑い、胸の前に手をかざし左足を引くユラスの略式の礼をする。みんな、なんとなく頭を下げて答えた。
「でも、少しお手伝いするだけなので、そのままではいけませんか?登録すると全て行政やSR社に確定情報が行ってしまいます。」
ヒューマノイドの登録情報は、アンタレス行政でなく中央政府に集まる。サルガスは冷静に質問を返した。
「情報が行って不都合なことでも?」
「皆さんに関心があるんです。ずっと放置されていた河漢が動き出すんですもの。優秀と言われた倉鍵や正道教のチームですら動かせなかった河漢を。実地で知りたいと思ったんです。
その雰囲気を、少しだけでも。」
アンドロイドなのに、情報を貰うだけではダメなのか。
後ろでタウと南海のリーダーが顔を見合わせ、一応VEGAに連絡を入れた。
近くにいたシグマやローにも改めて挨拶をする。
「こんにちは。皆様、ご一緒したらいけないでしょうか?」
色気も何もない、ただ普通で清楚なだけの感じなのに、シリウスが少し寂し気に笑って言うと、2人は赤くなり戸惑ってしまった。河漢や南海の一部のメンバーも釘付けだ。しっとりと、でも爽やかで意思のある動きの一つ一つに見惚れてしまう。
周りが自分に注目しているのに気が付き、シリウスはジャケットのフードで頭を覆った。
「目立たないようにフードを被ります。」
「あーーー!!」
「お姉ちゃん見たことある!!シリウス!」
そこで、親について来た河漢の子供たちがシリウスの近くに来た。
「こんにちは。ここに住んでいるの?」
シリウスは2人の子供をふわっと抱き上げた。
「そこにパパいる!」
子供が指を指す方に男性がいたので、会釈をするとパパも頭を下げ手を振る。シリウスが子供たちを降ろすと、子供たちは親の方に掛けて行った。
シリウスとは厄介なのが来たと、サルガスが心でため息を吐く。
そこに、さらに厄介な奴が来る。
「サルガス―!!」
祝日で学校が休みのファクトとラムダである。広場にバイクを置いてこっちを気にすることもなく大声で叫ぶ。
「今日、ムギんちで子供たちの面倒見るって約束してたから行くねー!遅れたけど、大丈夫かなー。」
「ファクト!転ぶってば!」
フードを被ったシリウスと一瞬目が合うが、ラムダを引っ張って走って行こうとするファクト。
ヴァーゴは知っているが、ムギ家は現在大混乱状態である。来るのが遅すぎる。
待っていた人が目の前にいるのに無視されてしまったシリウスは、思わず叫んでしまう。
「ファクト!!」
周囲がシリウスに注目した。なのにファクトは右手で敬礼し、
「こんちは!」
と、それだけ言って去って行った。
「…………。」
半分無視される感じでしょんぼりしている。
置いてきぼりのシリウスを見ると、なんというか支えてあげたくなる憂いさとかわいさがある。
「ファクトの事、知っているんですか?」
ミザルの息子だし、知っているのだろうがサルガスが一応聞いてみた。
「ええ。挨拶をして少しお話した程度ですが。彼、掴みどころがないですよね。」
「そうですね。」
アンドロイドにもそう思われているのかと、ファクトに呆れるしかない。
タウが声を掛けた。
「アーツでしなくても、公式に活動できる場がいくらでもあるじゃないですか。」
「…全部準備されたものです。私が動くのは半分パフォーマンスですから、自分でも手応えのあることをしたいんです。自由時間が少しだけあるので。」
「でも、あなたが来ると、ここでのことが筒抜けになるんじゃないですか?」
「全部ではありませんが、そういう部分は多少なりともあります…。でも、知られてもSR社の一部か中央政府です。河漢の事も元々知っているでしょう………。」
「なぜここに?」
「………皆様は自由でしょ。それに私を守ってくれる。」
「自由?守る?」
今、会ったばかりなのに?
「私のために騒がないと思ったのです。私は顔が広すぎるので…。自由があっても一人きりなんです。ここなら私の自由が掴めそうで。」
そう言って笑ったシリウスのはにかんだ笑顔は、どこかで見たことがある笑顔だった。
それにしても、意味が分からない。あまりに接点のない話だ。
アーツとシリウスの繋がりは、SR社に関わるチコとファクトしかいないが、これまで2人ともシリウスに関わっているようには見えなかった。
「でも、シリウスがここに来たら、河漢も悪目立ちします。」
「…その可能性はありますね…。」
困った感じのシリウス。
そして、また2機のバイクが入ってくる。
カウスを付けたチコが降り立った。
「チコ!」
サルガスの呼びかけにシリウスが静かにこちらに来るチコを見た。
その時、シリウスとチコの間にふわっとした光が舞う。
まるで時が止まったような、変な違和感と同調。
2人の間に、不思議な空気感が構成された。シリウスはチコに向けてそっとアジア式の礼をする。
真顔のチコがそれには無反応でシリウスに声を掛けた。
「何しに来たんだ?」
「………ボランティア希望です。」
「…はあ。ファクトと似たようなことを言うんだな。」
「………」
「ベガスやファクトに近付くとミザルが怒るぞ。」
「私はベガスには入れません。」
シリウスはベガスには入れない。電波の届く場所に入ると、すぐにSR社に伝達が行く。
「それで河漢に?」
「…それだけではありません。手応えがほしいんです。自分で何かを成す手応えが。私には自由があるのに、生活は決められたプログラムだけです。」
「人間の生活を豊かにするために作られたんだろ?人間の願い通りに生きればいい。」
チコはそっけなく言う。
「私に自由を与えたのに?」
「さあ。私にはお前に答えを出す道理はないから。」
「初めてお話できたのに、やっと………。
あなたは意地悪なんですね。」
「まあね。」
「…?」
2人の会話に周囲はどう反応するべきか分からない。話の焦点が分からないし、終止苦笑いのシリウスと、無表情のチコ。
端から見ると、どっちがアンドロイドなのか分からない状態だ。カウスも、サダルがいた時のように、姿勢を正したまま黙って2人を見ている。
「なら今日は、何がしたい?」
「…場がシラケてしまったのでなんだか居心地が悪いです。ただ、皆さんのお手伝いがしたかっただけです。」
場の空気も把握できるのかと、見ている何人かがその性能に驚く。人間のファクトたちですら空気が読めないのに。
「引っ越し手伝ってもらうか、子供の面倒見てもらったら?」
居た堪れなくなったヴァーゴが言ってみると、シリウスに向かってチコが言った。
「そうやって人間を絆すんだな。」
辛辣な言葉だ。
「今日は帰ります。」
少し寂しそうな笑顔で言うと、シリウスは大型バイクを呼ぶ。そのバイクにヴァーゴをはじめとする男子メンバーが感嘆の声をあげる。
「おお!RⅡ-ジェットスノーモデル!!」
アンドロイドのシリウスにも反応するRⅡの最新型だ。
もう一度全体に礼をして、浮いているバイクに飛び乗ると、真上に上空してそのまま去って行った。
黒髪なのに明るく輝く艶。その去り姿も美しく、何人かが見とれている
みんな言葉がない。
「チコさん、ひでー」と思いながらも、怒っているチコが怖いのでシグマやローたちは何も言わないのである。
「別の対策も考えないといけなくなったな…。」
頭を抱えるチコと、笑うしかないカウス。
「SR社には連絡しますか?」
「あっちも把握していると思うか?」
「さあ。多分。」
「こっちからは何も言わないでおこう。」
「分かりました。」
「サルガス。シリウスの事は後で話し合おう。」
「分かった…。」
そこに、空気の読めない…空気を読もうとしない男からサルガスに連絡が入る。
『子供が外で遊びだして、収集がつかないから誰かヘルプ~!!!(´;ω;`)』
あいつは、なぜシリウスを見てもあんなんなんだ、と思いながらウヌクを指定した。
「ウヌク。親が戻ってくるまで3期に戻らなくていいから、ムギんちで子供見てろ。」
「え?!!マジ?」
「前に行っているんだろ?」
ウヌクは仕方なくムギの家に戻って行き、サルガスは現場をもう一度指揮し直した。
この日ウヌクは子供たちに早めの夕食まで食べさせた。久々に半日筋トレをしたアーツの試用期間初日より、心身ともに疲れたという…。