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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第十八章 フォーラム
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28 弟



「人事の話が最後までできなかったな…。」


ここはユラス大陸の中心国ダーオの首都郊外。

ユラスのラボ横の軍設備。


サダルは側近たちと、来週のシンクタンクの予定を組んでいた。1人がデバイスに目を通したまま、「うわっ」という顔する。

「議長。ベガスからの報告見てます?」

「いや。」


何人かが話に入ったりして、デバイスを見た数人がやはり「うわっ」という顔をする。

「フォーラムの事なら後にしろ。私には報告だけでいい。」

「違います。あいつら演習しています。」


「……」


一瞬目が点になる、全員。


「演習?」


「残った奴ら、朝から演習という名の試合をしています!!」

「?!」


「聞いてないが?」

サダルが表情もなくそれだけ言う。

「後報告にならない程度の微妙な時間に、微妙な場所に報告していますね。チコ本人から。あと、演習と言っても合わせ稽古程度だそうです。言い訳はそんな感じで。」


全員がそれぞれ報告書を見る。「動画見ます?」と、1人がサダルに画面を見せると、超絶に盛り上がる会場が映っている。


大きなチココールの後にカウスコールが入り、カウスは後ろ首から持っていき倒してチコの胸を突こうとしても懐に入れず、一瞬でカウスの巨体が抑え込まれ足で胸を蹴られると、プロテクターが反応してカウス退場になる。


「あいつ、人の奥さんの後ろ首掴むってサイテーですね。」

が、そのサイテーな男を脚で蹴っ飛ばした後、他に入る人間もあっという間に蹴散らしていくチコ。

「あー!ユラス、もう少し耐えろよ!!こいつらもクソか!」

瞬殺されていく自分の仲間たちに呆れる。かなり耐えた数人もアセンブルスの投入で一気に退場。アセンブルスは組んでチコを倒す作戦に参加せず、裏切り者の刻印を受けながら、躊躇なく一蹴りで瞬時に全員のセンサーを狙う。


最後は、チコ対アセンブルスになり、アセンコールが湧く。


チコを倒せる期待の新星かと思いきや…、最終的にアセンブルスも足で蹴飛ばされ演習用の植木になだれ込み、試合が終わった。


大歓声が起こって会場大盛り上がりだが、画面を見ているユラスの会議室はしーんとしている。

「………」


「………。」

「…な、なんっすか?!これ!」

「あいつら、俺らが去ってからこんな楽しいことしてたのか???」

「あー!!チコ!何なんだ!!!」


座席に戻って来たポニーテールのチコが、女子たちに抱き着かれて笑っているところまで映っていた。一番小さい女子がチコのうなじを触ってデコピンされていたが、すぐにチコが結い留を外すので、その女子が怒っていた。意味が分からない。

最後は「撮るな」と冷たい顔でチコが言い、撮影者にタオルが投げられて映像が終わっている。撮影者はユラス組だ。


「…………。」

眉間を押さえているサダル。分かる、その気持ち。と思う全員。


「あいつら帰って来たら締めますか?」

「いい。ベガス管轄でベガスがしたことだ。放っておけ。」



後発組が予定の帰国時間ではなく、その日の最終便に予切り替えているところも頭にくる要素である。


ベガス、サダル管轄の軍人、関係者は東アジアから許可があればその日の便を変えられるし、ユラス組は軍所有の飛行機だ。入管さえ動けば出発時間の調整ができる。なお、追撃に備えて分散し、全て脱出可能の中型以下の飛行機で、一部はギュグニーと北メンカル、タイナオスを避けた陸路で移動する。



サダルの横で、年配の男が聞く。

「で、どうするんだ?チコとの縁を切るのか?」

「難しいところだな…。もし大陸を変えたら、地球の裏側まで調整に行けるのは自分だけだ。自分も長期は開けられない。軽い検診ならいいが、前みたいなことがあったら困るな……。」


リューシア大陸は東西南北中央に別れ、先進地域には優秀な研究者もいるが、チコのような機密と身分のある超高性能ユーロスは、いくらSR社とはいえどこにでもケアを任せられるものではない。アジア以外のシャプレー直下のラボはタニアの研究所と、オリガン大陸は活動地から800キロ離れた所の中規模施設だけだ。ユラスとベガスはSR社とは別のサダル管轄下のラボで、SR社の規模はないが高性能ニューロスを調整できる。


「それに…」

年配の男はユラスの運命を見つめるように、サイドテーブルのデジタル地球儀を見た。


その地球儀は太陽、ベテルギウス、土星に変わってから地球になり、ノースリューシアから亡命者記録が写し出された。


「亡命したナオス一族から連絡が来ている。」

「…。」

無表情で驚くサダルの方を向いて、話を続けた。




***




どこかの荒地のどこの建物だろうか。


あまり(せい)を見せないその風景は、そこにいる人々の反映のようであった。


チコを襲撃しシェダルと名乗った、黒の混ざったグレー髪をした男は、荒れた肌を掻きながら窓際で外を見ている。

おもしろくもなく、ただ風が吹き、枯れそうな木が揺るだけ。



シェダルは思う。


あの日、


姉だと言われていた女は、前情報通り全く自分と違う髪色と目をしていた。そして大きな瞳。似ているのは少し低い鼻と大きめに見える瞳くらいだろうか。博士たちは輪郭も似ていると言っていたが。けれど、目の形は違う。


ただ雰囲気は、どことなく自分が知っているものだとは分かった。


完全なニューロス体の見本がほしい。表向きだけの理由かもしれないが、殺すか引きずってでも連れてこいと言われた。でも、本人を見たらそんな気分にはなれなかった。


セイガ大陸にいる完全な完成ニューロス体は、人間ではシャプレー、そしてヒューマノイドのシリウス、スピカとカペラ。他にも数体いるが、どれも立場やセキュリティー、追跡が強すぎる。


その中で唯一自由に動いていたのはチコであり、ユラスからも見捨てられそうで、出生も分からない異民族。過去紛争にも参加し、失踪の動機を作れる人物。



そして、そう言った男たちは知っていた。「あの女は甘い。心の隙を突けばいい。お前の出生を名乗るんだ」と。


自分には執着のある人も土地もない。だから誰も人質になれない。

なので、自分の人質になったのは「メンテ」だ。生涯メンテナンスを担ってくれることを約束に従っているが、どれもこれも気に入らない。


正直もう死んでもいいかなと思ったときに、気にはなっていたその女に会う。だが意外なことに、対抗してくると思った女は自分よりも生に執着のない顔をし、弟だと言ったら、驚いた後にしばらく見つめて自分の髪に触った。

俺は言ったのに。

『お前は利用されているだけだ。アジアや連合国、研究者どもに。しなくてもいい実験をあれこれされ、人形みたいにされたんだ。』


なのに、あの女は言う。

「知ってる。知ってるよ。でも、いい。」


「俺はよくない!」

と、足を関節から踏みつける。


何が違う?素材か?技術か?アレルギーなのか?時々掻きむしった男の肌から血が流れる。なぜ接続部分が安定しないんだ。動くと肉がきしむ。

「知らないわけないだろ。捨て駒にされた奴らを!まあ誰が生き残ったところで、関係ないがな。どちらせよ、俺はいつまで経っても未完成だ。」

同情心にい訴えれば、落ちるとも言っていた。


あの女は何か言おうとしていたが、恵まれていたくせに生きのびる気すらなく、頭にきたので立てないまでにはしてやった。


「ごめん…。」

と、それでも小さく言う女。



そして血が繋がっている訳でも一緒に暮らしていたわけでもない男が、苦労も何も知らない顔をし、その横で弟になっていた。

ムカついたがおもしろくもあった。



興味の対象が増えたからだ。



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