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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第十八章 フォーラム
27/105

26 接近戦演習



サダルが去った夜明け。


いつもの如く絶好調になったチコは、覇権を取り戻すがごとく、東アジアに許可を取りイベントを開いてしまう。


ユラス軍…と思われる人物たちの接近戦演習である。


「よし!今日も天気がいいから気分もいい!」

昨日も同じように天気が良かったのに、あのどんより具合と比べて、地獄から一気に天界に引き上げられたよな清々しい顔をしている。天気がいいから気分がいいのではなく、旦那がいないから気分がいいの間違えだと誰もが思っているも、そこは微塵と感じさせない番長への配慮。


「番長、すごくいい顔してる……」

「チコ様、即日決行って、すごい行動力ですね!」

「あんな風に笑える人なんですね………」

至る所からそんなつぶやきが聞こえる。


見学していいのは東アジアの軍含む公務員や認められた聖職者関係。藤湾の一部学生と、VEGAとアーツ所属の人間。アーツ第3弾も許可された。撮影、その場での通信は一切禁止である。




「全員ーー、天に敬礼!」

ザッと60人ほどの男女が所属や軍服ごとに並び、天に、連合国に、そして共にあるアジアに敬意を(ひょう)した。アジア圏以外のユラス軍は、今日までアジアに滞在が許されているのでサダルに付き添って帰った4人以外、だいたい全員参加している。

片面バスケットコート4倍ほどの、木だけでなく岩や積み土のある広場。片側に観客席もあり、その片側はおそらく的を立てるであろう台などがある。



見学に来たエリスが挨拶代わりに祈り、チコが簡単に観客にも説明をして演習をスタートさせた。


「あの人は本当に旦那がいないと元気ですね。」

「チコさんって、よく分からない性格だよね。」

「え?めっちゃ分かりやすいけれど。旦那がいなくてスッキリしている。」

それはみんな知っている、と思う周囲一同。

仕事を午後勤にしてもらい、ファイやジェイもいる。演習の名目は全体教育だが、何の教育なのか誰にも分からないので、部下が適当に理由を付けておいたらしい。


サルガス、タウをはじめとする大人組は、なぜあんな忙しかった日の翌朝からこんなことを始めるんだと呆れているが、イータもターボ君を連れてやって来ていた。

ユラス軍の演習なんてもう二度と見られないかもしれないと、イオニアも来たところ、タラゼドも見に来ていた。イオニアは悪態をつくが、向こうは気が付かないのでそれも頭にくる。


「おおーー!!!師匠ジュニアー!!」

「おはようファクト、リゲル。こんなところで訓練していたんだな。」

フォーラムで小学生ぶりに会った坊主頭の青年は感心して南海を見渡した。ラムダたちも挨拶をする。

「そうっす!ハウメアもいるんだ。」

「メール回って来たからね。」

ハウメアは許可をもらって、空手道場の同僚たちの他、剣道やテコンドーなど交流のある道場の人たちを連れて来ていた。まだ小さいその子供たちもいる。


そして、やはり東アジア軍の横にアジア特警もいて明らかに人数が多い。アジア軍の見学者より多くいるので、おそらく向こうに警備を任せているのだろう。ユラス軍と合同演習がない特警が、見たいと駄々を捏ねたのか。ファクトが手を振ると、特警のおっさんも手を振り返した。




恐ろしいことに、この演習。


実弾は使わないが、銃器使用許可。全て演習用だが持病持ちの人、心臓が弱い人には使えないくらいのショックはあり救護班ももちろん待機している。だが、下町ズは思う。あんなガタイのいい奴らに心臓マッサージなんてされたら、胸がつぶされる。胸骨いくつ折れるんだ。


数機、ニューロスメカニックもいた。犯罪組織や国際法に従わない軍、組織などから回収した機体は、法の範囲でウイルス除去と再調整をして演習にも使われたりするのだ。



ユラス軍は簡単に組み合いをしたり、体を慣らして装備を着けていた。


各10人とニューロス1機、ロボ2機ので1チームとなり、胸と頭、腰回りののプロテクターが一定の攻撃に反応したら戦闘不可で、全員不可になった時点で負けだ。みんな、重々しい全身プロテクターの顔も見えない重装備をしている。


「てかこれ、演習って言うか3分戦拡大バージョンじゃん?」

「やっぱり平和なアンタレスで溜まってんだろあの人たち。とくにベガス駐屯。」

「ああ、カウスさんとか…カウスさんですね。」

広大な基地があるわけでもないので、東アジア軍に頼らなければ普段演習もできないのだ。みなさん運動したいようなので、サッサと遠征に送ってあげてほしい。





幕開けのブザーと共に、対面20名と6機がスタートする。



…と、開始1分もせずに、


ズダン!!と、場内に響く轟音がして、1機のロボが地面に叩きつけられた。そして、背中に飛びついて来たニューロスの頭を後ろに手を回して掴み、耳に手を入れて捻じれるほどに鷲掴みにして、グガン!と前方の先の機種に叩きつけて2機が一気に潰れる。


「ひえ!」

思わず場内が反応する。


「あーーーーー!!!!なんだ!やめさせろ!!」

チコが怒ってコートに向かい、ストップさせた。


そしてニューロスとロボ、2機を一瞬で無残に破壊した男を掴み、芝の方に大きく投げつける。


「誰だ!最初にカウスを投入した奴!!」

そう、やはりそんなことをするのはユラスの中でもカウスであった。カウスに似たガタイが数人いる上に、似た動きをするオミクロン族の人間もいたので気が付かなかったのだ。そもそも最初にカウスは出すなと指示をしておいたので救護班にいると思っていた。

「私です。」

と、1人が出てくると、その兵もチコに殴られてグラついていた。ただ、高性能のフェイスアーマーをしているので普通だったら殴った側が痛い。

「カウスは出すなって決まりなんだよ!少なくとも最初は大人しくさせておけ!」

「申し訳ありません!知りませんでした!」

下町ズは、叱られている兵を見ながらかわいそうにと思ってしまう。


「いいじゃないですか。たまには一番手でも!」

カウスが楯突くと、ヘルメットの上から頭を思いっきり(はた)かれていた。カウスじゃなかったら首がどうにかなっていそうだ。

「潰すなと毎回言っているだろ!!」

「見分けられなかったのに、何言ってんですか。」

「なんでお前に気を配らないといけないんだ!」


「なんというか、あの無残な残骸を見ると…ニューロス改革派が騒ぐのが分かる気がする…。」

人型のニューロスやメカの機体がおかしなことになっているのは、たとえメカニックでも気持ちのいいものではない。

「チコさんでなく、カウスさんを他の大陸に送った方がいいな。もっと荒れている地域に。」

みんな同意した。



その後、チームを補充され、再スタート。


恐ろしいことに武器で殴るのもあり、1人に3人でかかるのもあり。体格的に女性兵だと思われる人物も大柄の人間を背負い投げしていた。軍服が淡色の部隊は、信じられないことに散弾銃が飛び交う中でも突っ切っていく。重装備でも当たれば痛いはずだ。演習だからか、みんな隠れるとこもなく一気に相手に向かっている。


いくつかの技が飛び交う中、チコは見学席のタウたちの所に席を移った。

「この中で、今、誰が指揮官か、誰が一番強いか分かるか?どっちが勝つかも。」

話が聞きたくて他のアーツメンバーも寄って来た。

「濃紺色がサウスリューシアチーム。ベージュ色が強い方が東ユラスだ。サウスリューシアにも元ユラスのトップクラスがいる。」


と、そこにもっと聞きたいイオニアやタラゼドも入って行く。そして面倒なことにツイストスパイラルのウヌクも話を聞きに来た。

「ああ?お前大房で寝てろ。」

「何で来てんだ。お前が家で寝てろ、クソ。」

タラゼドは加わらないが、アホどもが牽制し合っている。

「久しぶりだな、イオニア。座れ。」


チコに指示されて大人しく説明を聞くイオニアやウヌクたち。

「あっち、オミクロンが中心の東ユラスの部隊だ。あいつらはユラス基準でもちょっとおかしい。

指揮官はいるが、誰が倒れてもそのまま任務を遂行できるし、どいつも指揮官並みだ。霊性も高いから、相手の弱みも見える。そして、周辺国の戦い方も知っているから近寄るな。一気に殺られる。先のメカみたいに。」

みんな青くなる。やはりカウスを敵に回してはいけない。というか、前もって関わるな以外の戦法がないではないか。過去の自分の行動からやり直すくらいしなければ逃げられなさそうだ。


フルメカニックは全退場、既にサウスリューシア側が3人、東ユラスが7人になっている。


「ただし、サウスリューシアにはマイラと、シロイ、サイコス使いのガジェかいるからな。シロイは元東ユラスだ。」

シロイは初対面でチコを抱き上げた年長者だ。その3人しか残っていない。


サウス側が追い込まれると思いきや、いきなりグローブを外した兵が手を振ると、ダン!と青白い閃光が突き抜け東ユラスが一気に2人倒れた。無傷に見えた2人の胸のプロテクターも反応して4人が戦闘不可になる。


「おお!!!あれはなんだ!!」

ファクト大興奮。

「かっこいい!!」

「サイコス?!」


東アジア軍や公安、師匠ジュニアも目を見張る。


「すごい!」

そこに、アーツとは横反対側の入り口から、リーブラと共に見に来たのは響。

思わず見てしまうイオニアに、母の誕生日会以降初めて見る響に反応するタラゼド。


その兵士はもう一発、先の閃光を食らわすと東ユラスが1人倒れ、後の2人もシロイとマイラに胸を突かれて戦闘不可になり1回戦が終わった。拍手や歓声が起こる中、響は待機のユラス兵に何か尋ねて握手をされている。




そして、先の演習場中央に感嘆の声が起こる。

先、サイコスを放ったユラス人。ヘッドプロテクターを外したサウスリューシア側のサイコスターは、スッキリした顔立ちの東洋系の女性であったのだ。


アーツが驚いてチコに聴く。

「内陸のユラス人?」

「ああ。」

内陸のユラス人とは、ユラスではユラス民族の血の濃い中で生まれた人間を言う。つまりユラス系人種から生まれた東洋顔だ。

「女性にもいるんですね。アジア顔で生まれるユラス人…。」

「東洋系の顔の方が、なぜかサイコス使いが多いし時々強烈なのがいる。」

「へえ…。」


響がそのサイコスターの女性兵に手を振ると、女性はチコの方を向き跪いて礼をしてから響とどこかに行ってしまった。響が去って安心すると、イオニアは片手で頭を抱えて椅子に沈み込んだ。

「………。」

やっぱりかわいい。頭の中はそれである。



そしてチコは説明を加える。

「あと今の勝負な、実践だったら東ユラスが勝つ。」

いきなり言い切る。


「容赦ないからな。」

嫌な理由だ。

「サウス側は演習なら東ユラスが手加減するのを分かっていて、全力で踏み込んだんだ。」

「マイラさんは軍人なんですか?」

「兵役していたからな。16から。あいつは体の割にすばしっこい。で、お前らだったら最初に誰を狙う?」

「指揮官とか?」

「指揮官がカウスみたいなのだったらどうする?倒せないだろ。あと、先みたいに全員指令系統みたいな力があったら……。あいつら、素では私より強いからな。」

敵の指揮官がカウスだったら、駿足で事が終わる。何が起こっているかも分からず即死であろう。それこそ、死んだことすら分からずにそこで地縛霊にでもなりそうだ。

死ぬの回避の説明なのに死ぬ来しか見えないが、アーツが真剣に聞き入っている。



しかし、横で聴きながら、「それ、平和構築の非営利団体経営に全然関係なくないか?」と思う、ゼオナスであった。これはツッコんでいいのかどうなのか。


逃げろしか対処法がない。もしくは逃げ切れもしないので、そんな戦闘になる前に必死に命がけで和平交渉しろとの教訓か。




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