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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第十八章 フォーラム
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24 それだけで元気が出る

途中から見に来てくださった方に。


コロナでオミクロン株が命名される前から、オミクロン族の設定、登場をしていたので、このままの名で行くのをお許しください。よろしくお願いいたします。


―皆様、お体ご自愛ください―



次の日のフォーラム会場は実質シンポジウムになる。


ここには、サダルやシリウスも参加するが、サダルはVEGA総長として挨拶をするだけだ。捕虜解放後、自国以外で初めての一般への顔出しのため、おそらく注目されるがあえて10分程度で収め質疑もしない。


「マイラさん、VEGAってすごいんですね…。」

サルガスたちは昨日のVEGAワールドの報告を聴き、少し恐縮している。


想像以上に複雑で込み入った活動をしている。

初期はセイガ大陸西側の戦争処理の中で、孤児や力のない家庭の支援、兵にされたり監禁されていた子供たちの心身共のケアをするだけだった。と言っても、人を殺めた子、虐待、性被害者、それらに伴う医療処理、投薬被害者へのケアと生易しいものではなく、その代わり元軍役していた人間たちが職員に多く付いた。


元軍人が管理するなど危ないと言われていたが、オミクロン族中心のユラス地方軍は非常に信仰的で、自己修道的精神も強かった。事業のため連合国からの定期霊視検査も受け入れ、様々な平和条約にも合意した。


それが、サダルやカフラーの世代である。

サダルは軍人ではないが、ユラス首相と共にピラミッドの頂点的存在だ。実質的な細かい軍の指揮は任されていて、現首相とはよい関係を保っている。


帰国組マイラはチコと共にその弟世代。藤湾のカーフやレサトたちは弟と子供の中間世代になる。




***




「でさ、昨日話が盛り上がっちゃって、気が付いたら夜になってたわけ。」


ファクトが昨日来なかった理由を説明をしていた。今日はキロンたち農業組も上京していて、うれしくてテンションが高い。

「でも、今日は早く帰るよ。シリウス来るって言ってたから、早めに撤退する。」

「なんで?会ってあげればいいのに。かわいそうだよ。」

ラムダがなぜ逃げるのかと責めた。

「ストーカー的だからな。俺の『ゴールデンファンタジックス』もストーキングされている…。」


「ミザル博士の息子だから、共感性があるんだろ?」

キロンが喋るだけでうれしいファクト。ただ、シリウスには関心がない。キロンの方が好きだ。

「そう?俺も大学は農大(そっち)に行こうかな…。」

「お前が俺のストーカーになってどうする。大人しくベガスで勉強してろよ。」

「ファクトが大人しくなることはないよ。」


CDチームが盛り上がる中、キファが鬱陶しい。

「だから、何盛り上がってたんだ?ああ?俺、響先生不足なんだけど。」

「……。」

顎を掴まれるが、ファクトは目を逸らして答えない。




そこで始業ブザーが鳴り、2日目がスタートする。




いくつかの挨拶のあとで、サダルが出て来た。


長い髪をハーフアップで結い上げ、膝下までのローブを腰で締め上げ、さらに前開きの羽織を掛け、ブーツを履いている。


そしてやはり、クスリともしない表情で、最初に天と連合国に感謝の意を表す。捕虜解放についても天と尽力した全ての機関に感謝を示すと大きな拍手が起こった。


野次馬精神なのか、純粋な興味なのか、この時は立ち見が出るほどフォーラム会場は人でいっぱいで、会場外のサテライトや設置画面などの周りも人が集まっていた。

東アジア人から見ても、なぜ東邦アジア顔がユラスの長なのか、誰もツッコまないが皆疑問には思っていることだろう。でも、その親近感がユラスとアジアが繋がることができた1つの要因なのかもしれない。親近感といっても、他のユラス人の方がよっぽど愛想がいいが。


そしてサダルは、非常に簡潔に、そして明確にVEGAの方向性と、今後連合国が向かうべき世界とその義務を示した。それは、自国、私生活が貧窮していても、少しでも外部に関心を持ち、せめて世界の未就学層を無くす、労働の均衡化など世界に貢献するようにという事であった。牧師でもあるので、それをやめない国、人は、絶対に神から見捨てられることはないと明言した。



「なぜなら、自分はその捨てられることのなかった、拾い上げられたアジアからの実なのだから」


と科学者にしては珍しい抽象的な言葉を残して壇上を降りた。


非常に大きな拍手が沸き起こる。




が、ここでもヌケヌケ発言するファクト。

「で、チコは何してんの?サダルメリクの奥さんでVEGA総長で、アーツの事務局長なのに。」

ファクトはベガスにいるユラス人が去るまで、チコと顔を合わせないように言われているので、チコの顔に痣があることも知らない。


挨拶が終わると、シリウスの出番がある午前11時前までに、会場を去ろうと決めて、リゲルやラムダ、キロンたちと小会場を回ることにした。


そこで、おもしろそうな議題を発見。『真の武道は自己修練と自己管理』。


「なにこれ。これ行かないと。」

と、ついて来たみんなに話も振らず勝手に入る。一部は他の小会場に行ったが、ラムダやリゲル、キロンは一緒に入った。すると、そこに頭を反り上げた寺の坊主が講演をしている。まだ若く、坊さんにしては体格もいい。さすが武道の講演者。


そして承認をして入って来たファクトとリゲルを見付けると、目を丸くした。


「…。お?ファクトか?」

「はい?そうですが?」

「リゲルもいるな!なんでピンク頭なんだ!」


講師の若い坊さんの顔を確認して二人は驚く。

「おおーー!!師匠ジュニアじゃないですか!」

他の聴衆も何事かと見ている。

「あー、いや。皆さん。私の父の昔の教え子です。私もこの子たちに教えていたんですよ!」

師匠ジュニアこと坊さんは、懐かしそうにファクトの肩を叩き、周りからも拍手が起こる。あの頃師匠ジュニアは髪も男子の流行ヘアでまだ学生だった。幼少期、ヤンチャ過ぎてミザルに寺に入れられ、寺でもうるさすぎて持て余し、お坊さんから流気道を習わされた時の流気道の師匠の息子である。


「ハウメア!」

そして、驚いたことに聴衆の中にハウメアもいた。

ハウメアはアーツ第1弾のAチームであり女子のリーダー。空手の師範でもあり子供に空手を教えて、パルクールもしていた。

なんだなんだと見ている聴衆に、ハウメアも軽く挨拶をするように言われ、昨日メイン会場で紹介があったアーツの一員と話す。それからと簡単な武芸を披露しながら、その会場は盛り上がった。



しばらく経ってからいきなりファクトが叫んだ。

「は!もう10時55分!俺は帰る!11時になる!」


そう言ってファクトは「どうも!」と会場を出て行ってしまったので、師匠ジュニアが呆れている。

「なんだ。本当に落ち着きのない奴だな。午前11時のシンデレラか。あいつは。」




タッタカ走りながら、近くの出入口から撤退しようとした時である。


入口付近が騒めいた。


そこに瑞々(みずみず)しい女性がスタッフと共に歩いている。

美しい黒髪の優しい顔。河漢で会う時とは違う、礼装。


「シリウスだ。」

「シリウスじゃないか?!


予想外の登場。

シリウスは裏方で待機などでなく、SR社の広報たちと共に直接一般出入口から会場入りしたのだった。



周囲も「シリウスだ」と騒めいている中、シリウスはすぐにファクトに気が付く。驚きつつも抑えられない笑みを滲ませ、少し遠くから笑顔で手を振った。


こんなに出入り口があるのになぜここで出会う…と、せっかくシリウスから逃げようとしたのにゲッとなるファクト。ファクトが一瞬だけ敬礼ポーズでシャキッと返すと、シリウスはおかしそうに笑った。

追って来たラムダも、シリウスがいて固まってしまう。でも、あの時の約束通り手を振った。すると、シリウスも嬉しそうにラムダに答えて手を振る。


そしてファクトたちに、歩きながら両手全身でファイトポーズをしてメイン会場の方に向かって行った。

付き添いたちが突然のポーズに驚く。




楽しい。

とシリウスは思う。


自分を個人として知って、いつも一緒にいる友達たちが自分の周りにいるだけで、こんな風に心が躍る。


この心は情報の空間で得るものとは全く違った。



SR社の広報たちは、いつもと違うポーズをするシリウスをファンサービスだと思って見ていた。




***




「という訳で皆様…。」


その夜の8時。全てが終わり、南海の会議室は集まれるメンバーが集まっていた。


「お疲れ様でした!ありがとうございます。」

サルガスが頭を下げて言うと、大きな拍手が起こる。

「フォローアップミーティングは明日行うが、ゼオナスさん。簡単な成果をお願いします。」


「まず、世界各地の企業後援、教育、学校機関の後援が一気に増えた。」

ほほう…、それはすごい、とまた拍手をしながら聞き入るアーツ。

「そして、大きな国家ではないけれど、大学教授や有識者、ベガスに仕事として入りたい企業からもアクセスが来ている…。」

ふーん。とそこまで聴いてみんなの心は一致する。


え?それ、今後誰が対応するの?ヤバくない?


ただでさえ今の仕事でいっぱいいっぱいなのに、そんな頭の使うこと誰がするのだ。河漢だけでなく、試用期間も同時に動いているのだ。今となっては試用期間という名のブートキャンプだが。


「大丈夫だ。アーツでする仕事と行政や他機関がする仕事をここできちんと分けていく。ただし、全主導権を持っていかれないようにな。ここまでアーツでまとめて来たんだ。横から入ってもらう時も秩序を保ってもらう。」

「だから、その整理、仕分けの仕事を誰がするんですか?」

これだけVEGAワールドが集まると、サラサもアーツばかりに手を掛けられないし、VEGA側の大変な事業内容を知ってしまうと、これ以上アーツを見てもらうのも気が引ける。


「私がする。」


ゼオナスの言葉に、最初に弟イオニアがぶっ飛ぶ。

「は?」

周りも「おお?」という反応だ。


「ヒマだしな。」

暇だからかい。とツッコみたいが、頭のいい人はいくらでもほしい。

「既に、サラサさんとチコさんからスカウトされた。」

仕事早過ぎである。まだ出会って1週間も経っていない。

「それに、もっと内部業務のできる人間を雇う。これだけの仕事を管理ができる体勢ではない。」

兄が淡々と説明する中、イオニアも変な顔をしている。



最後にサルガスが区切り、正規職員、スタッフは明日午後3時に反省会をするから、それまで休みという事で解散になる。仕事がありながら手伝ったメンバーには夕食をごちそうした。




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