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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第十八章 フォーラム
24/105

23 陽キャとか無理



サルガスとロディアは一旦メインエントランスに戻る。


ロディア父たちの食事会に加わらなくても、帰りは一緒に帰るよう言われたので、アーツのブースで待つことにした。


「あ、サルガス!帰らなかったの?」

ファイが嬉しそうだ。キファや数人のメンバーもいて、お客さんと話し込んでいる。


「外でロディアさんと会ったから、おじさんの用が済むまで待ってる。」

そういうサルガスに、ロディアは少し赤くなって俯く。

勘のいいファイは、これは何かあったのか、それともロディアさんが一方的に意識しているのかと悟った。


目が合ってロディアが慌てて話す。

「ファイはまだいるの?」

「人が来るからねー。ロディアさん。先、おじさんたちここに来てて、他の企業さんにアーツ紹介してたよ。その前にもヴェネレ人もいっぱい連れて来てた。」

凄い営業力なのに、娘の婚活は全部成功しなかったおじさんである。やっと、一歩進んだけれど。



そこにまた面倒な客が来た。


「サルガスーーー!!!」

抱き着こうとして避けられたのは、褐色肌のきれいな女性、歌手&ダンサーのパイ。

「なんでパイが…。」


「よー!!」

「おー!マジでツィー?!!本当に若返ってる!!!」

「笑えるー!ウワサになってるよ!髪切ったって!」

「改名もしたとか!」

そして、テンションの高い集団、アストロアーツの常連客やパイの友人だ。ツィーはサルガスの元の名前である。

「………。」

すごく嫌そうなアーツメンバー。とくにサルガス。


「ちょっと。他のお客さんに迷惑かけることしないでよ。まず黙って。即!」

怒るファイ。身分証明、持ち物検査などの後に承認を貰えば、メインフォーラム会場、ディスカッション会場以外は誰でも入れる。パイがいちいち南海に行って、アーツのスケジュールを確認してきたのだ。


「ファイもキレイにしてんじゃん!」

「営業だからね。」


「サルガスー。私変わったと思わない?」

パイが色気を使ってくる。

「は?谷間が見えてないこと?」

「やだー!サルガスそんなところしか見ていないんだ?」

パイはベガスで散々注意されたので、アーツやベガス関係の場には胸や足、腹、背中は出さないことにしているし、今日来た他の女子にも服装に気を付けるようパイ自ら指導したのだ。得意げである。

ただし、長めの足、上がったヒップに豊かに弾む手入れの届いた髪。地味目な格好でも隠しきれないスタイルで、目立つ集団なのだ。


「私、今ね、学校行ってんだよ。音楽の専門学校。偉くない?」

「そうか、偉い偉い。」

「それだけ?あのチコさんって怖い人に言われて通ってるの!褒めてよ。」

「今、褒めただろ?」

「…。じゃあ、ご褒美のお祝いにプリン作って!」

超ぶりっ子してくる。

「…。」

冷めた目のサルガスに、全く引かないパイ。

「えー、ツィー。私と付き合おうよー。髪切ってもいい感じだし!」

周りの女子たちも騒がしい。


「ちょっと、パイ。黙りなさい。あんたたちも静かにしてパイ連れてどっか行って!」

ファイが制すると一緒に来ていた男子が言う。この前タラゼド母の誕生日にアストロアーツで声を掛けて来た客の男だ。ファイとはそこまで仲良くないのに馴れ馴れしい。

「おい、ファイ。お前なんでこういうの紹介してくれないんだよ。楽しそうじゃん。」

リーフレットや冊子をパラパラめくる。


そうなのだ。アーツは「いい子になって社会奉仕してる奴ら」と大房ではからかわれ舐められているが、これだけ事業の骨格がはっきりしてくると、実は見ている方も楽しい。自分たちで本物のまちづくりの一角を担うのだ。


「あんたに社会貢献は似合わない。説明がめんどいし、今日の狙いはあんたたちじゃないから。」

「ファイ、営業なんだろ?俺に営業しろよ。それにお前にできるなら俺にもできるだろ。ツィー、なんで俺、誘ってくれなかったんだよ!」

「茶化すだけの奴は誘わない。うざい。」

「えー!ひでー。」

「なあ、ツィー!これから飲みにいこーぜ!語ろう!朝まで!!」

「おーーー!!」

みんな盛り上がる。

「他に誰かいる?イオニアとかいないの?」

「この前連れて来た黒髪ロングのお姉さんは?」

「うるさいな。さっさと帰れば?行かないよ。」

ファイがキレかかっているし、黒髪ロングに反応するキファ。響がなぜ大房民に知られているのだ。



そこで、パイが自分の中で最重要なことを思い出した。

「ねえ。で、婚約者って今日来てるの?ベガスの人?」


「ああ、エアさんね。」

横で聴いていたキファがいつもの如く、いらぬことを言う。

「エアさん?!」

パイ率いる下町ズが声を揃える。


サルガスが、20分前にリアルエアさんであり固形エアさんになったロディアの方をそれとなく見ると、無言で完全に固まっていた。ちなみにロディアは現在会話から全くの蚊帳の外である。


「エアっつーの?そいつ締め上げる。」

パイが汚いセリフを吐いて、指を立てようとするが、さすがに付き添いの友達も手を押さえ込んで、ここではやめろと宥めていた。

「まだ結婚前ならいーでしょ?!」

と怒るパイ。一応大房にも、婚約している二人の横っちょに入るとか最低、という価値観ぐらいはある。多分。


パイ以前に、これが大房下町ズなのかと頭の回らないロディア。




ロディアはやっと分かった。

妄想CDチームがABチームに散々言っていた意味が。


『あいつら陽キャには、関わりたくない。』

『俺らは奴らの奴隷で空気だから。でもそれでいい。空気でいる。』

『イエー!とか言う奴、マジ無理。』


『陽キャ』という言葉が分からなく、説明されてもなんとなくしかピンとこなかった。なぜなら人間関係から逃げて30代まで来てしまった上に、真面目に勉強だけしてきたロディアの世界はとても狭かったからだ。

サルガスが陽キャかは分からないが、以前の仕事上そういう人が集まってくるのは事実だ。


ヴェネレの社交界に馴染めなかった自分を思い出す。タイプは違うけれど、ベガスを一歩出れば、サルガスたちの世界は全くの異国なのである。よくよく見れば、ただの下町ズなのだが、今、ロディアの頭の中はそれどころではない。




ロディアは20分前の自分に言いたい。


絶対後悔すると。

これなら自分も妄想CDチームに隠れていたい。キロンやラムダのような優しい世界にいたい。ジェイのコンビニでたむろしていたい。


サルガスの彼女と晒されるのも、サルガスが自分と付き合っていると思われるのもお互い針の筵なのではと。自分があの人たちと話ができるとは思えない。対抗できるとも思えない。


今だってそれこそ空気だ。


多分、気を遣ってくれているのだとは思うが、サルガスはロディアに話を振らない。そこに混ざらなくていい安心と、自分の存在感の無さへの焦りの両方が沸き起こる。


このお付き合い、下手したら今夜終了。

いや、既に終わってしまっているのではないかと思ってしまう。


短い夢だった。





そこに、ロディア父と伯母が迎えに来て、少しみんなと会話をして帰ることになった。


ここでは婚活はしなかったが、驚いたことに初めて見る陽キャ下町ズとも楽しく話しているロディア父。なぜ、自分は母の美貌も両親の社交性も受け継がなかったのか。


ヴェネレ社会の夫と妻は、「プライベートを分ける以上に互いに支え合うとことが主軸文化である」という上流社会の常識の範囲で育ったロディアは、サルガスを支えて行けるのかと思考不能になるのであった。




***




その日の夜。


フォーラムに参加しなかったチコは、河漢で話を詰めて戻って来た。


この前の襲撃組織、最後に襲撃したのはチコの方だが、彼らの何人かは河漢事業に賛同した。


河漢の多くの土地は最終的に更地予定であるし、ベガスは性犯罪に非常に厳しい。花街を仕切って来た彼らの一部はベガスには入れないのだ。そのため、河漢でも街として残す地域があり、そこでの仕事紹介や、既存組織との共存計画などを話し合って来た。


ただ、最終的にはトップがあのバカ息子なので彼らは分解になる。

親父(おやじ)の元に戻るのか、ここでチコたちにつきあうのか。チコは親父の方ともすでに話をしている。


完全に足を洗える条件も提示しておいた。

それは、VEGAユラスで教育、奉仕期間を従事することである。つまりマフィアではなく、ユラス軍関わる組織の下に入るのだ。

犯罪に関わった者は東アジア公安を通して出国できるルートがある。一般ルートではアジアを出られないが、自国の特警監視の元、ユラスの連合国限定エリアに入り、連合国法で一定基準以上に霊性の明るい人間、更生可能な人間のみ服役できる特殊な施設がある。重犯罪者、そして紛争、犯罪組織指導者は入れない。

そこはいくつかのエリアに仕切られ、戦争被害者の治療や再教育も行われている。


もう1つのマフィアともそれらの話をする。河漢には大きくは青龍と赤龍の組織が入っていたのだ。


河漢警察は動きが鈍くて頼れないし、いろいろな反発もあるだろうから、東アジア各機関に行政区分を超えて助けてもらうようにもお願いしている。ユラスが入るより説得力があるからだ。




戻ってから、南海の屋上のベンチに座り込むチコ。

近くにはカウスとパイラルがいる。


まだ建物の照明もあり周りは明るいが、星もきれいに見えた。


自宅にもVEGA事務局にも行きたくない。駐屯所ではサダル含むユラス軍が人事会議をしている。本当はそこに参加しないといけないけれど、足が進まない。寝るにはまだ早い。


少し目をつむってチコは決心する。

「よし!」

立ち上がってユラス駐屯所に向かった。




***




駐屯には、西アジアから大佐クラスや海軍からも人が来ていた。今回はサダルと信頼の近い面々で、軍以外の人事も含んで話している。


中心国家ダーオは海無しだが、南に大型の島を有しそこに空軍海軍が置かれている。陸軍は族長家系が。海軍と空軍は首相側が引導を有している。ただ、サダルの時代にこの二者は非常に親密な関係を築き上げ、現在は一体である。



ごつい男どもが会議をしている中、後ろのドアから遅刻した生徒のようにこっそり入り込むチコ。

全然隠れてはいないが、注目しないでほしいという意思表示であろう。


みんな明らかにチラチラ見ている。コ型に長机が並べられ、席がない者は周りに椅子を持って来たり、立っていた。雑然として末席が分からないチコは、入口付近にいる顔見知りから丸椅子を奪い、立っている人間の隅で小さくなって座った。腫れは引いたが痣を隠すために顔にテープが貼ってある。



「ベガス総長。」

しばらく放置されていたが、いきなりサダルが呼んだ。

「はい!」


みんなの注目が一気にチコに集中する。周りに立っている人間もわざわざチコが見えるように動いてくれるので、思わず心で舌打ちした。

心配そうな顔と、笑いをこらえている年長組の顔が並ぶ。



サダルは顔も合わせず話を続ける。

「まず、ベガス総長、VEGAベガス総長から外す。藤湾からも引く。それは決定だ。」

初めて聞くメンバーが騒めいた。


「VEGAベガスはエリスやサラサ、(つづみ)がいるからな。ベガス自治区域については、もう少しベガスが安定したらアジアの人間に席を譲った方がいい。

そこに書いてある河漢の業務が片付いたら、VEGAの総監だけ取り敢えず残す。しばらくそれだけに力を入れろ。」


サダルは一言だけ加える。

「まだ先は未定だ。チコ自身で考えればいい。」

「…はい。」


離婚話を全く知らないメンバーは、なぜこの時期に二人が離れるような任地になるのか分からない。政治上の意味合いが大きい結婚ではあったが、近くにいないと夫人の座がユラスでは実質空くとこになる。


それに、今は丸椅子でこんなに縮んでいる人でも、チコへの信頼は地方軍や若手の中では非常に大きい。役目が無くなることもないはずだ。離婚話を知る面々は、二人の先が決定するまで周りの不安を煽らないような策を立てなければと思った。これではいかにも、チコに好きに出て行けと言っているようなものである。



何とも言えない表情でサダルたちの話を聞くチコの目はコンタクトをしていないので、青緑の中に少しだけ紫を走らせる光が見える。


その目がどこを見ているのか分からない。


チコですら先が見えていない。

でも、光は灯っている。


ずっと見ていたいような、輝く石のような、星の瞬きのような目。


その目を見た周囲は小さく息を飲んだ。




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