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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第十八章 フォーラム
23/105

22 ロディアの告白への告白

ロディアがサルガスに告白します。



『ヤベー。スゲー。マジか。』


この程度の語学力しかない下町ズがなぜか、世界を動かす有識者たちに肩を叩かれながら声を掛けられている。



アーツのお披露目は夕刻前の最終だった。


この2年で新たに立ち上がった連合国認定組織はアーツベガスのみ。

名前くらいは見たこと聞いたことのあるような、有名組織ばかりの後に出番。


その結果は…

非常に好評。


なぜか温かく迎え入れられ、自分たちが目を丸くしたくらいである。


なんだあいつ、マジ優秀だな。と思っていたマイラに引けを取らないぐらい、メインスピーカーのタウも優秀であった。イオニア、ベイド、シグマはもちろん、第2弾のミッションスクール昴星(むらぼし)出身ミューティアや、大房のソアも非常に話が上手かった。


サルガスやベイドは普段のリーダー役の方が向いてはいたが、ベガスに集合したユラス人からも賞讃を受ける。「アーツってなんなんだ。奴らは良く分からない」で済まされていたのになぜか認めてもらって、チコやエリスにすぐにでも報告したい気分である。


連合国認定に必要な2年の実績条件が1年で許可された特例組織で、立場に中身が伴わず悪目立ちすると思っていたが、彼らは演技派でもあった。


なぜなら今日来た面子の半分が元、もしくは趣味でダンサー、CM出演などしていたメンバー。人前で自分を見せる(すべ)を身につけていた。そういう意味ではただの店長であったリーダーサルガスが一番普通人であるが、業界新人という事で不器用さも許容される。むしろそこが愛される。


それに加え、既に蛍惑系企業やコンビニ大手も賛助会員となり、130人以上の正会員が所属。


「いつも祈りが長くて、30秒内に収めてほしい。」と常々思っていた後援の正道教牧師たちの存在も大きかった。

そして、宿敵SR社にまでファクトが十四光チートを発光させ営業。方々(ほうぼう)に個人会員になってもらい、その名前に心星夫婦だけでなく、SR社社長シャプレー・カノープスまで連なっている。DPサイコス施術の際に、その場にいた博士たちにも名前公開込みで賛助をお願いしたのだ。




そして彼らは若かった。


学校組織である藤湾だけ見るとVEGAの方が低年齢だが、アーツは職員が全員20代以下。この規模でそんな組織は他にない。

下町ズ最年長31歳のヴァーゴは職員ではないし、エリス牧師はアーツの内輪的な責任者であって認定組織としての職員ではない。20代、30代前後の参加者に注目を浴びただけでなく、なぜかおじさんたちにも気に入られ、休憩に入った際、多くの人が話しかけて来たのだ。



加えて目立っていた。


「ヤベーな。」

「俺ら天才か?」

「ちょっぴり荒れた低中所得層から、何かに目覚めて平和貢献する、立派な若者に見えたのだろう…」

「ギャップ萌え?」

「マジか。俺らもモエの対象なのか。」


普通だったら、こんな集団で社会貢献の非営利組織に参入する層ではないのだ。大房は。


むしろ、世界のために貢献したい人材が育つようなエリートや普通学校でもなく、支援が必要なほど緊迫さもなく、貧困層までいかないのでそれなりに自活で生活もでき、でも、少々荒れて底辺とも言われ、仕事も未来も補償がない…かもよ?程度の『最も注目されない、視野にもない、放置される』層。


その青年層が、大房行政、商工会などを動かし学歴を更新しているのもインパクトが大きかった。



そしてそれは、時代が望んでいる『世界均衡化』への1つの足枷でもあった。


『世界均衡化』、これがこのフォーラムの1つの帰結点である。



歴史上、主義や宗教は時代で自由、身分制度の撤廃、人権の獲得など躓きながらも高度に変遷してきたが、自由民主主義という時代になっても唯一変わらないのは経済、生活の不均衡である。


連合国ですら、やっと超過度の個人資産の解放。公共、下請けや従業員などへの還元が義務付けられたののだ。企業や組織、そして王室皇室も全ての資産とその財源公開が義務になる。その結果、全てが世界に公開されたわけではないが、何割かは真っ黒なお金であった。


VEGAやアーツはそれを大衆の生活や教育に流していくものでもある。

上げられる可能性のある場所から、全体を底上げするのだ。衣食住生活だけでなく、精神性においても。そして、義務のある税としてだけの支援でなく、各々の自主性において。


この生活の均衡化が歴史上もっともできない事業の1つであった。政権よりも宗教よりも司法よりも、経済が最も最後まで解放や格差が縮められなかったものだ。



どうしても人間のすることである故、穴や不備はあるがそれでもこれまでの事業に比べ、VEGAやアーツの活動ははるかに効果のあるものであった。



実は、ユラスの内紛は勢力争いでもあったが、それだけではない。


ユラス終戦後、私財拡大に関心のなかったサダルが私財開放を進めていき個人名義、氏族名義の膨大な資産の大部分を行政や軍事他、事業継続費に変換。それが、少年兵復帰組織VEGAの最初の活動資金でもある。任意の令達だったが既存権力の令息世代もサダルに傾いていたため、それに反発した企業、資産家たちが、サダル不在にその意志を引き継いだチコ・ミルクを叩き消そうとしたものでもあった。


結局チコ自身も、もう1つ国籍があるアジアにまで追われるとこになる。





会場は1時間半休憩に入り、騒がしく人々が動いている。


「まあいい。メインは乗り切った。」

サルガスがいきなりモードを変えて、ダレる。


「え?まだ夜の部もあるし、明日もあるけど?」

「今日はもういいだろ。元気な奴らで頑張ってくれ。イオニア、ありがと。」

この期間、睡眠不足過ぎて死にそうなサルガスは早く寝たかった。


「みんな、お疲れ様!よかったよ。来年もよろしくね!イオニアもお久しぶり。ありがとう!」

しかし、サラサのお褒めの言葉に唖然とする一同。

「はあ?来年?」

「ここまで大きいのは1年置きだけど、小規模で毎年報告はあるから。」

「ワールドカップですら4年に1回なのに、何すかそれ!」

「1回経験をしたからもう大丈夫だよ!」


「つうか、ファクトは何してんだ?午後来るとか言ってたのに、来なかっただろ。」

「あいつはメインで目立たせるより、小会場に行った方がいいから明日でいい。」

よく分からないあのコミュニケーション力はその方が活きる事であろう。


「おい!なんでお前ら夕食まで食ってんだ?!」

そこで、電話をしていたシグマが、不機嫌なまま電話を切る。

「なんだ?ファクトか?」

「あいつら、親の職場で響さんたちと夕食まで食っているらしい!」

サラサ、サルガス、イオニア、キファが反応する。響もいて親の職場って、完全にDPサイコス関係だろ。


「親の職場…?朝から行ってこんな時間まで何をしてるの?!」

驚きのサラサ。ここにヘッドハンティングに来たのに、尻尾でSR社に無二の人材を引き抜かれたらたまらない。この隙を狙うとは侮れないSR社である。


「ちょっとサルガス!ヴァーゴに迎えに行かせなさい!!」

「親父と飯食ってるだけだろ?」

「なに寝ぼけたこと言ってんの!」

「ヴァーゴなんか行かせたら、一緒に飯食ってくるだけだぞ。」

「はあ…。私はまだここから動けないし。」

響が関わっているので微妙だが、チコ関係でないとカウスも動かしにくい。


「俺が行きます!」

キファが言うと、みんな白い目になる。

「…。だからお前悟れ。どこまでクソなんだ?」

今まで淡々と仕事をしていたイオニアがキファの頭を掴む。

「は?クソでもいいんですが?」

キファは響に会いたいだけである。


「とにかく俺は明日に備えて帰る。じゃあな。」

「俺も今日は無理だ。ソアも帰ろう。無理しない方がいい。」

サルガスとベイド、そして呼ばれたソアは身内以外にも、礼や握手をしてきてくれる周囲に挨拶をしながらエントランスに向かう。



その時サルガスの着信が鳴った。


「…あ、いや。俺はもう帰るけど…」

『なら少しお話しできますか?』


ロディアである。




***




「ごめんなさい。忙しいのに呼び出して。」

ロディアは広い敷地内の、先の会場とは少し離れたところにサルガスを呼んだ。


「おじさんはいいの?」

「父は伯母や、他の会社の方と食事に行きました。私は逃げて来て…。」


ロディアは顔を上げてサルガスを見る。

何か決意している顔。


「あの、私、今日じゃなくてもいいというか、明日も日程があるのにごめんなさい。…今日はそんな場合じゃないと思ったんですけど…今、気持ちのあるうちに言わないと、もう言えなさそうで…。」

「……」

お互い顔を見ていると、ロディアが俯いてしまう。

「………」


話しながらだんだん顔が赤くなっていく。サルガスは、この前の話のイエスかノーの答えだろうと思い、何も言わずに待つ。


しばらくしても言葉が出ないロディアの目線に合わせて少ししゃがむと、ロディアも覚悟したようにもう一度目を上げた。



「あの、サルガスさん。まだ気持ちがあったら…お付き合いしてくれますか……」



「…ロディ…」

「あ、待ってください!」

咄嗟にサルガスの答えを遮る。


サルガスが自分に手を振ってくれたから決心がついたのだ。多分時間が経っても、この前のままに待っていてくれたのだろうと。


「もちろん結婚前提で…、その…体や性格や面倒な部分とかもあると思うんですか…。私に呆れなければ、ずっと一緒にいる前提で…。きちんと祭司様から祝福を受けるまで、そのキスとかも待ってほしいし…。こんな話、つまらない女だと思われそうですが、私には大事なことで…」

キスと言いながら沸騰している。

「……」

「私、自分では誰かにお付き合いの話をする勇気もなくて…、好きとか以前にサルガスさんの方から言ってくれたから、それ以外他にないから、それだけで浮ついているのも確かで…。そんな風でよければ…あの…」

何を言っているのか分からなくなって、混乱し始める。マイナス要素がこんなにもあるのだから。


否定するなら今の内にしてほしい。心が本当に沸騰しそうだ。


「…ロディアさん。」

「……」

「…ロディアさん!」

「あっ!はい!」


サルガスは、頭を押さえるように耳を塞いでしまったロディアの前に手を差し出し、そのロディアの両手を包んで車椅子の膝の上に持っていった。


「ロディアさん、これからよろしくお願いします。」

「…え?なにを?」


自分の頭でずっとぐるぐるしていたことを言い切ってしまい、サルガスに告白の返事をしたことが、一瞬抜けてしまう。


思わずサルガスが笑う。

「ははは…。ロディアさん、お付き合いしましょう。」


「………」

「…。」

「ほんとですか…?」

「本当です。」


「最初は、おじさん仲介のお見合いからのお付き合いくらいの気分でいましょう。だったらこれから気持ちを作って行けばいいし、好きなのかとか今結論を出す負担もないと思うし。」


「……お願いします。」

「よろしく…。」


大きな手がロディアの両手をもう一度握るが、ロディアはバッと離した。

「…ごめんなさい!ダメです!祖父や父以外こんなに近かったことがないんです…。」


「分かった。ごめん。」

また笑うが、ロディアはこの後どうしたらいいのか分からない。


サルガスは車椅子の後ろに回る。

「おじさんの所に行く?」

「いえ、今日はもう帰ります…。父とはまだ…一緒にいたくありません。」


「…あの、この事。もう少し気持ち固まるまでみんなには言わないでくれますか?近い人たちはいいけれど…。」

「もちろん。サラサとチコさんはいい?」

「…はい。」


そこに伯母からの電話が入る。戻ってくるように言われているようだ。


「はあ…。もう一度会場近くのレストランまで戻らないと…。怒ってる。」

「一緒に行こう。」

「…はい。でもまだ父には言わないでくださいね…。」

サルガスと目を合わせられない。


そう言いながら、二人は街灯の灯る通路を歩く。自分は胸が今までになく沸騰しそうにドキドキしているのに、サルガスは普通そうだ。



でもうれしい。


先まで緊張しかなかった世界がキラキラして見える。こんな世界があるなんて知らなかった。


こんな浮ついた気持ちがあるなんて。


それに、何か心から安心する…。




…が、ロディアにとって男性との初めての込み入った話も、初めての世紀の告白も、


この後、ものの15分で後悔に変わるのであった。



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