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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第十八章 フォーラム
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21 地味なイベントも頑張る



フォーラム当日の早朝。


やはりチコの頬は少し腫れ、一部赤黒くなっていた。


「…。」

絶句のアーツ一同。

「チコさん…。ひどい、こんなの。」

イータが声を震わす。話だけ聞いていたリーブラたちもショックを受けている。


「大丈夫だ。おかげで昨日の河漢の交渉が進んだ。」

「は?」

「私にビンタを食らわす強者がまだいるのかと、向こうが勝手に委縮していた。」

「……」

それは、なんと答えたらいいのか。


「今日はどうしますか?仮にも事務局長にベガスの総長ですからね…。」

「…そう思ったら…人前には出られないな…。サルガス任せられるか?」

「…多分…。」


「サダルさんはあの女とのこと、何か言ってました?」

「さあ、報告は聞いていると思うけど、あっちは駐屯所の方で別の話をしていたから会っていない。」

「…。」

「あの女は?」

「さあ、ユラスの揉め事はユラス人に任せたから。ソライカも溜まってんだろうな。

ここだけの話にしてほしいんだけど、ソライカは周りに言われてずっとサダルを待って。サダルが突然族長の位置に現れなければ、他の人間にあてがわれるはずだったんだ。そんなことをしているうちに、ユラス現地の高位貴族の結婚適齢期をとうに過ぎてしまったし。まあ、かわいそうな部分もあると思ってやってくれ。」

あれを許せるのかと、みんなため息をついた。




***




動画は見ていたけれど、フォーラムってなんなんだと思っていたアーツ。


組織、業界、職種でいろいろあるかとは思うが、見た感じはテレビで見る国連会議や総会みたいな雰囲気で、2日に分けて分野や組織ごとの報告や討論をしていく。


全体のメイン会場と、細かい議題を話す小会場が3か所あり、アーツは連合国認定2級を持っている新組織のため、討論より組織内容の発表と関係者への共有がメインであり、そこは参加必須だ。つまりお披露目である。

ファイたちは討論会場の外で、希望者に資料配布や広報をする。

フォーラムのサイトからデジタルでも確認できるが、アーツはまだサイトなどそこまで準備ができていないし、しない予定だ。一旦内輪だけの組織に留めるつもりでいる。


珍しく、半分以上のメンバーがスーツを着ていた。

とにかく頭良さ気に見せておけとのサラサから命令であり、そこまでバカなのかと反論したいが、サイトで確認した参加者の顔ぶれや経歴を見て、みんな黙ったという次第である。一同面倒事はイヤなので、何事もなく穏便に済ませたいのだ。ただ、髪の派手さまでは直してはいない。


会社員時代は営業をしていたので、タウを筆頭にメイン会場は乗り切る。



「こういう所にイオニアがいてくれたらいいんだが。」

テキトウさと冗談を加えていいならシグマの方が弁が立つが、この場はそういう訳には行かない。イオニアは現在ここにいないが、アーツ第1弾唯一の有名大出身者で彼も営業経験がある。


が、会場に来てからその兄ゼオナスが、衝撃の報告。

「イオニアなら呼んだぞ。」


「はあああ?!!」

「よく分からんが、ミツファ講師って人が参加しないなら行ってもいいと。聞いたらアーツではそんな人、参加しないと言っていたから。」

ミツファは響の名字。アーツでもそれを知らない人がいるだろう。どちらにしても響はここには参加しない。


「イオニアを呼んでも、河漢から3地域への移動が始まる前に去ったし、今の現状を知らないだろ…。」

「サラサさんに許可をもらって報告書も送ったから、全部確認してると思うが。内部資料も送っている。」

「仕事が速いな…。」

このゼオナスも4日前に来たばかりであるのに、もうすでに紙面上ではアーツの全体像を把握している。そういう意味ではイオニアも頼れるのかもしれない。


そこに、ファイに連れられてスーツ姿のイオニアが来た。

「みんな~!イオニアがいるよ!」

泣きそうなファイ。

「よう。」

イオニアが手を振る。


「…元気だったか?」

サルガスが呆れたように聞く。

「まあ、そこそこ。サラサさんには挨拶してきた。」


兄ゼオナスが怒ったように言った。

「イオニア、補佐でいいから何かあったら役に立つことしとけ。あと、アーツのメインが終わったら、河漢に役立ちそうな人材見繕っとけ。」

「分かった。議題を確認して、スカウトは小会場の方がいいな。メイン会場の有識者は頼むわ。」

そんな適当でいいのか。こっちが必死に打ち合わせをしてきたのに、1分程度で二人の話が終わった。


一部メンバーは思う。天は二物を与えないというが、タウにしてもイオニアにしても、三物以上は貰っている。どういうことだ。


「ファクトは?あいつとクルバトはどこにでも現れるのに。」

「あいつは午前中、リーブラとリゲルと一緒に響さんの論文関係の話に付いて行った。なんで論文なのに藤湾大の学生じゃなくてあいつらを連れて行くんだ。」

「それを言うな!」

とシグマに叩かれるロー。

「…。」

サイコス関係かな?とイオニアは思った。



「おーい!みんな!頑張っているかー?」

聴いたことのある声に振り向いてみると、婚活おじさんこと、ロディア父である。

「あれ?なんでおじさんが?」

ファイが不思議がる。


「企業席もあるからね。」

「企業の立ち上げた団体ですか?」

「それもあるけれど、企業義務の中に社会奉仕への貢献もあって、大企業は大体どこも大型団体の賛助会員だからね。とくに自分たちで組織を持たない場合は、次年度の支援企業を選んだり、支援した団体のチェックをするんだよ。」

「へー。」

のんきに「へー」と言っているが、ファイ以外はみんな知っている。


その分は免税になるし、1年の純利益に対し一定の割合の社会貢献、もしくは従業員還元は法で決まっている。それ自体が税金のようなものだが、そのお金は直接支援団体に非課税で渡され、活動資金や人件費になり、1円も(たが)わず、清算が必要である。おじさんがベガスに立てた会社にはまだ自社団体はない。

アーツもその経理を今はVEGAにお願いしているが、今年までにアーツ自体で財政管理できる人間を雇う予定である。


「せっかくアンタレスにいるから、今年は見に来てみようと…。来年度は皆さんにも支援しますよ!」

「ありがとうございます。」


そこで目ざとい婚活おじさん、すぐに新しい男子、ゼオナスに注目する。

「お?君、未婚者?」


「本当にやめて!」

人混みの先にロディアがいた。

「あ、娘に叱られてしまう…。」

婚活おじさんは小さくなる。

「仲直りしたんですか?」

「首都ディナイからロディアの叔母も来ているので、無理やり引き合わされたんだ。別居してるって知られてね…。ハハハ…。」

他地方のフォーチュンズ系列などからもたくさん来ているらしい。


みんなが挨拶をする中、サルガスはロディアに手を振った。ロディアは赤くなるが、元々おじさんの素行に赤くなって怒っていたので、事情を知るタウやベイド以外はその赤さの違いに気が付かなかった。




***




そして午前の議題が始まる。


勉強として一旦全員が、メイン会場で公聴することをサラサが指示。


1級団体のVEGAは、組織ごとにこれまでの報告をどんどんしていく。VEGAベガスはチコ次席の(つづみ)という男性がメインスピーカーだ。数百人の前でだいたいの報告を行った後、質問されることに数人のベガススタッフがどんどん返していく。

あの締まりのない私物だらけの南海事務局で働いている人たちとは思えない。


「新しい事業にアーツベガスの後援とありますが、アーツとは?リンクの参考資料だけでは、分かりにくいのですが河漢事業だけをVEGAからスピンアウトした団体という事でしょうか。でも、ベガスの南海や藤湾はVEGAなので、何かに特化しているのでしょうか。」

気難しそうなスーツのおじさんが、アーツの名を出すので思わず大画面に写った男性に注目してしまう。


テロップの肩書に、どこかの国の大学教授とある。


「午後からも説明がありますが…」

鼓が説明を続けていく。


それに関しては、「先進地域青年の教育事業」を理由にすることにしている。

1に未就学者、大学や専門教育希望者への専門性育成、通学支援。2に移民受け入れ側の人間の教育。3に他地域民、移民との和合が図れる人材育成。直接に社会奉仕、まちづくり事業に参加、事業に就職したい人間の育成というのが、答えである。

アーツはこういう質問事項に全員が答えられるか、聞きながら確認している。


午後の説明では、VEGAとなぜ層が違うのかという説明も含まれ、大房の話もすることになるだろう。最初に前科者、義務教育未終了者もいることを伝えておく。大房の評価を下げた、血粒を晒したと揉めないように、大房行政ともどう説明するか事前に打ち合わせをしている。



「思った以上に地味なイベントだな!コンパニオンもいないし。」

ローが本音を言う。

「アホか。楽しいのはエキスポや企業祭典だっつーの。」


こうして、頭を動かすのもそれなりに楽しいが、ベガスだけで各地域数団体、その他のTVCMまでするような大型組織数件。いい加減眠くなってくるのであった。




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