1 問答を始めよう2 偉人天才たちが見る神
新章が始まりました。
※この物語は
『ZEROミッシングリンクⅡ』の続きになります。
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聖書、聖書物語を知っていると、より楽しめます。
とくにこの回の前半は、旧約を知っていないと分かりにくいです。苦手な方は***まで飛ばしてください。内容は、あくまで物語の中の解釈ですのでご了承下さい!
そこで教授は目の前にいる生徒たちに挑戦的に聞いた。
「では、なぜヴェネレ人があそこまで賢く、少数でも世界経済や科学を掌握できたか分かるかい?」
ヴェネレ人は世界聖典の正統血統で、唯一ここまで続いてきた民族だ。近代科学や経済人の大御所が揃っている。
教授はボードから椅子のある教卓に戻ってそこに座った。
「有神論、無神論関係なく、まず今日の課題は君たちの心や頭で神や聖典を捉えてはいけない。
ヴェネレ人をはじめとする、世界の聖人、偉人、天才たちが見て来た神の世界を見るんだよ。」
そう言いながら、ボードにたくさんの著名人の顔が映される。
「彼らは闇雲に信じているわけじゃない。そこに科学の真理があり、そこに胸に届く何かがあるからだよ。正道教徒でなくとも、前時代以前から世界の偉人は多くの人が聖典を読んでいるよ。伝記などで調べてごらん。」
正堂教は、新約を基とし、さらに新時代の清教徒的教会のアジア式の呼び方だ。現在人類の半数以上が冠婚葬祭など習慣的信仰も含め何かしらの形で信仰を持っている。
「それに、百年、数千年前の、電気もコンピューターもなかった時代の人々の神観、社会主義や民主主義もなかった時代の人々の神観だけを見てもいけないよ。彼らと私たちは見るものも、天の父が語ったことへの理解や解釈も少し違うはずだ。社会主義、民主主義はこの前習ったよね。本当は2千年、数千年以上前に成そうとした両方とも大事な価値観、世界観だよ。」
教授は笑う。
「では、ヴェネレ人がなぜ世界を掌握したか。答えのある人。挙手を。」
「はい!」
と元気に手をあげたのは、幼いファクトだ。
「聖典レオス記です!」
「一部正解。それはなぜかね。」
もっと抽象的な答えが来ると思ったので、教授は構える。彼らは中間層の小学1、2年生だ。
「彼らは霊性や聖典において、最初から神から知恵やヒントを貰っていたからです!生まれた時から知恵があったなんてズルいです!皮膚病の事も、畑の事もみんな知っているじゃないですか!」
「預かっていたという言い方もできるな。ずるいかもしれないが、その分彼らには責任があったんだ。
それにしても君。よくあんな、地味な章を読んでいるね。もしかして民族記とかも呼んだのか?」
レオス記は、延々と「何々をしてはいけない、何々をしろ」と、決まりが続く地味な章である。「皮膚がこうなったら、こういう状態になるまで隔離しろ。」「畑はこう扱え」とか延々と書いてあるのだ。民族記はこれまた延々と部族の人数などが記されている章である。子供が楽しいわけがない。大人でも折れる。
「はい!1回通読するごとに千円お小遣いをもらえるから、もうすぐリーオが買えます!聖典を読むのが一番お小遣いが多いので、5回読みました!」
リーオは最新ゲーム機だ。
「え?千円のために千ページ以上ある聖典を5回も読んだのか…?新約だけではなく?絵本の物語でのなく?」
旧約は子供が見るにはかなり残酷な部分もある。レオス記には「近親と関係を結んではならない」など、性への戒めまである。
「外伝も入ってるのです。父さんにあれじゃないとだめだと言われました!」
外伝はけっこうえぐい拷問の記述もあるのだ。ただ、ファクトのフォーカスは『読めばリーオ』。そこである。そもそも聖典の言葉の意味が分からない。
教授が若干引いている。小1のお小遣いには高いが、教授的には小1の孫があの辞書のような聖典を通読したら、5千円でも1万円でもあげたいところである。お金の問題ではないが。
ファクトの隣で、まだ眼鏡を掛ける前の小さなラスが、リーオゆえに目の輝いているファクトを白い目で見ている。
「で、教授!このレオス記って誰が書いたんですか?」
「誰だろうね?科学も医学もない、問題は生贄やまじないで終わらせていた時代にヴェネレ人やユラス人はもう知恵を持っていたんだよ。おもしろいだろ。その前に、もっと先の質問を深めよう。」
そう笑ったところで時間だ。今度までの宿題になる。
中央区裕福層の横、蟹目にある可も不可もない中間層の小学校。
神学、霊性学の時間が終わる。
「ファクト―!また訳の分かんないこと言ってんな~!」
少し太っちょで男勝りのヒノがファクトの頭をグリグリする。
「やめなよー!」
ユリが2人を引き離したところで、男友達のリウやタキも来る。
「もうすぐリーオなのか?買ったら俺にもやらせろよ!」
「お前らそれしか考えてないのか?」
ラスとリゲルが呆れているが、男子たちとヒノはそのまま運動場にサッカーをしに向かった。
***
南海の午後。
工房でライは、数人の同僚と共に、舞台用ドレスの裁断した生地を仮縫いしていた。
その横でファイが、マネキンのトルソーに、大まかに切ったレースを仮止めしている。
そこで着信が鳴った。
「はい。ファイでーす。」
AIに小さめの音のスピーカー切り替えてもらい、別の作業に切り替え電話に出る。
『ファイ姉~?ルオイだよー!元気してるー?』
「はいはい。元気だよ。」
『なんで帰ってこないの~!!』
「なんかずっと慌ただしかったから…。」
『お兄は?』
「知らない。タラゼドは仕事で夜8時から10時くらいに帰ってくるからあまり会ってない。」
『何それ!残業代割マシマシマシでもらいなさいよ!!!』
ファイは一人っ子、ルオイは友達タラゼドの末妹である。
『今度ママの誕生日なんだよー!去年2人とも来なかったんだから絶対絶対帰って来て!!』
「…去年はごめん…。」
『電話で言っても私の言う事聞かないから、ファイ姉から言っておいて!来週の金曜夜ね!6時に来て!』
「分かった。仕事中だから切るねー。」
『絶対、絶対だよ!!』
隣りの寮の友人ライが作業を止めて聞いてくる。
「タラゼドさんのご家族と仲いいの?」
「高校の間は、タラゼドの家にいたからね。」
「そうなの?」
ちょっと驚く。
「タラゼドは友達の家に行っちゃったけど。なんか腐れ縁だよね。あそこの3姉妹に混ざってたよ。」
「3人も姉妹がいるの?大房なのに珍しいね。四兄妹?」
「そんな感じ。」
「フェルミオさんのプレゼント何にしよう…。」
フェルミオはタラゼド母。今度の誕生日で46歳だ。
[私やタラゼドに、買ってきてほしいものがあったら連絡ちょーだい。]とだけ打っておいた。