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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第十八章 フォーラム
19/105

18 シリウスのお願いと約束



ファクト?


そう、ファクトに似てるんだ。



典型的な絵に描かれる美形ではない。どこにでもいそうな奥二重の東洋人顔。

スタイルも完璧でない。9頭身や10頭身のモデルもゴロゴロいるこの時代に、8頭身もないかもしれない。


でも、何だろうそんな感じだから?安心するやさしい顔。そして雰囲気。

研究員ミザルの息子だというのもあるのか。東アジアに多い東洋人顔だからだろうか。

でも、それだけでなく、引き締まった空気感。


リゲルやトゥルスにも挨拶しながら手を出すが、リゲルは一瞬躊躇した。

でも、寂しそうに手を引こうとしたので、思わず右手を出し軽く握手。シリウスは「無理させてごめんね」と手を離した。



最後に、シリウスはファクトに向き直る。


「会いたかった!ずっと。」

突然ギュッと抱きしめる…

かと思いきや、足踏みするようにウキウキと両手を出された。


ファクトは出された手に眉を寄せたが、あの時のシリウスが浮かんだ。




『お願いだから私を嫌わないで…。


時空間の合間でたった一人、とてもさみしいから。』




ファクトがゆっくり片手を出すと、ぱあと明るくなって、痛いくらいに両手で握られる。その手はチコの手より柔らかく体温を持っていた。


シリウスは握られた手を嬉しそうにじっと眺め、ファクトの方を向いた。


ファクトはバッと手を離す。ぬぐえない違和感。


「本当にメカなの?全然分からない…。」

トゥルスがびっくりしている。


「1時間だけなの。自由時間は。お手伝いするわ。」

「………。」

ファンとしてトキメキが止まらないラムダと、ファクトとシリウスの分かりやすい差と違和感にどうしたらいいか分からないリゲル。




そこに、1台のトラックが入って来た。運転していたムギ義兄が驚いている。

「は?誰?シリウス??」


シリウスはにっこり笑って礼をすると、支持も受けずに作業に入った。女性には持ち上げられないような物もどんどん運んでいく。

「ロボットやウェアラブルは使わないんですか?」

シリウスの質問には、トゥルスが答える。

「家具や家電は運んであるからそこまでの荷物じゃないし、他でも引っ越しがあるから、大変な方に回してるよ。安いもんじゃないから。」

そうなんだ。と楽しそうに話を聞いている。


全て荷台に積みムギ義兄が去る時、シリウスは「騒動になりやすいから、ここに来たことは内緒にしてください」と、義兄に挨拶をした。



あっという間に仕事が終わってしまったので、トゥルスが水やドリンクを持って来た。

「シリウスは飲めるの?」

「飲めますが基本は飲みません。水以外もあまり。」

「……。ちょっと女性に失礼な話だけどすごいね。口の中も本物みたい。手も温かいし。」

「湿潤しているのは喉までですけどね。」

首まで手を持っていってここまでとジェスチャーする。

「この技術は私以外の機種もみんな持っていますよ。」

ニコッとした顔がかわいい。


「皆さん学生さん?」

「18歳以下。全員学生。以上。」

ファクトが面白みもなく話を終わらせた。



「ねえ、シリウス。ファクトのこと気に入ってるの?なんかファクトひどくない?」

ラムダがさすがに二人の温度差に気が付く。ちなみにラムダは18歳越しているが。

「いいの。ファクトが優しいって知ってるから。」

と、シリウスは笑った。


「優しいって言っても、ただ好きなことを好きなようにしているだけで、誰にでもこんな感じで飄々としてんだよ?」

リゲルは元々無口なので全部ラムダが答える。

「でもポラリス博士が言ったもの。うちの子はいい子だって。」

「自分で作ったニューロスに何言わせてんだ?」

ファクトが引いてしまう。

「言ったのはポラリス博士だけど、そう感じたのは私。共感性はあるかもしれないけれど、私は私。」

「へー!」

トゥルスが不思議がっている。


「何がそんなにうれしそうなの?」

ファクトはやたら微笑んでいるシリウスに嫌味を言ってみた。

「だって楽しい…。」

敷物に座り込んでいたシリウスは膝を頬まで寄せてまたにっこりする。



そしてファクトはさすがに気が付いてしまった。


似ている。

そう、シリウスはチコに似ているんだ…。


午前に自分の手を握り返して笑ったチコの笑顔にそっくりだ。

普段はしっかりしているのに子供のようになる。


………

ファクトはこれをどう捉えていいのか分からない。親しみも感じるけれど少しだけゲンナリもする。


「ファクトの周りはとっても楽しいわ。」

ニコニコしながらみんなを見回すので、ラムダは照れていた。ニューロスと知らなかったらみんな惚れそうだ。でもあざとさは感じないから不思議である。


「だからお願い。普通でいいから。時々仲間に入れてほしいの。」

その言葉にみんながシリウスに注目した。

「私はあなたたちを自分の子のように尊く感じる。私の全てはあなたたちに捧げるものだから。

だから…ファクト…。ファクトも私を守って…」


ん?どういう意味だろうか。


この前シリウスにシェダルから守ってもらった方なのですが。どう考えてもシリウスの方が強いし、組織的に見ても移民団体の中にいる自分より世間に敬愛も受けている。


ただ、すり寄り方がいかにも女の()()、という感じだったので、友愛や母性なのか?とホッとしたような気が抜けたような気分にはなる。そうだったら早とちりで恥ずかしい。でもどうなのだ。




「私のベースは博愛と慈愛、慈悲。だから私は皆様方のためにいて、みんなを絶対に見捨てない。

ファクト、あなたも。だから私のことも、無視しないでほしい…。

そして守ってほしい。」


自分の膝を抱き寄せたまま、ファクトの方を見た。



先からシリウスが読めないファクトとは反対に、なんかファクトだけ特別枠に入っていないか?それって、博愛じゃなくないか?とリゲルははっきり思う。

親子愛でも兄弟愛でもないだろ。


ファクトとしては、だから何から守るのだと聞きたい。



「時間だね。行かないと…。」

シリウスが呼ぶとまた最新型のRⅡが来て、ヴァーゴを思い出しみんな切なくなる。シリウスはヘルメットを被る前にファクトに明日からの話をした。


「私、日曜日フォーラムにゲスト参加するけれどファクトは来る?」

「行かないっす。土曜に顔だけ出します。」

即答である。


「その後のメカニック関係は、私、ずっとスケジュール有りだけど…。そっちは来るの?」

エキスポの事だろう。表舞台に出なくてもいろいろ予定はあるのだ。

「学校の課題のために。でも、用が済んだら即帰ります。」

「…残念。…もし見かけたらみんなの前で博士のご子息って紹介してもいい?」

「え?!!そんなことしたら、もう絶対に会わない!!即嫌いになる!!!」

「ははは!」

シリウスは呆れながら、でも楽しそうにまた笑う。


「皆様ももしどこかの会場でお会いしたら手を振って下さいね。場所や時間によってはお返しはできないけれど、それでもうれしいから。」

そう言ってメットを被ぶり、出た髪の毛の上に服を羽織って隠すと、そのままシリウスは去っていった。




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