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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第十七章 フォーラム前夜
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14 ゲットすべきお兄様



フォーラムの4日前。


思わぬ客が南海を訪れた。


背はやや高めだが、長身の多いミラやVEGA事務局周辺では目立たないほど。メガネを掛けた黒髪。歩きでキャンプでもしてきたかのような大き目のリュックを背負っている。

「イオニアの話を出したらここを紹介されたのですが、流星(リウシン)イオニアいますか?」


「えーと待ってください。」

イータがサラサを呼ぶ。

「はい。イオニアはここにはいませんが。どちら様ですか?」

「いない?仕事中ですか?」

「あの、どちら様で?。」


眉間に皺を寄せ、男は固い表情でつぶやく。

「イオニアの兄です。」

「お兄様?!」

後ろで見守っていたイータが驚く。おそらくサルガスやタウたちも兄の事は知らない。身分証明だけさせてもらうと、本当に兄である。


「イオニアはここに住んでいるんですよね?最初は大房のアストロアーツに行ったんですが、ここだって言われて。」

「ここにはいません。」

「え?」

「少しお話しされますか?」


ロビーのソファー席に場所を移して飲み物を出し、その間に兄と接触し状況を話していいか、イータにイオニアへ電話確認をお願いする。


状況を見ながらサラサは話を進め、イータから「構わない」という返事をもらい、サラサは身内がここを訪ねて来たこと、母の通院の付き添いなども含め、実家に戻っていることなど説明した。


「…そうですか…。」


無表情で横を向き、脱力している男。


「実家に帰りたくなくて、イオニアのいる所に泊めてもらおうと思ったんですが…。」

「イオニアはまだ荷物など少し残っているけれど、寮なんです。相部屋というか、8人部屋で…。」

「…寮?」

目を見開く兄。

「男子寮?」

「そうです。なのでお泊りは無理かと…。」


「あいつが寮なんかにいたんですか??ルームシェアも嫌だって感じの奴なのに?!」

「え?そうなんでしょうか。半年で出てもよかったんですが、面倒だからってそのまま寮にいて。」

「寮って…女性とか連れ込めないでしょ?!…あ、下世話な話で申し訳ないですが…。」

「もちろん。学生もいますし、棟自体男女明確に分かれています。少なくともここにいる間は、女性はいませんでしたよ。今は知りませんが。」

信じられないという顔をしている。


「…。」

悩むイオニア兄。


「あの、この辺ってウィークリーとかホテルとかあります?とにかく帰りたくないので、寝るだけの安いホテルでいいんですが。」

「ええ、いくつか。」

「それと、バイトしたいんです。」

「バイト?」

「短期の仕事ってありますか?そういうの紹介してくれる窓口でもいいです。ここ、他の街と違って仕組みが分からなくて…。」


南海広場周辺は、特殊な公共施設や移民の一時住居なので、一般の人には分かりにくいだろう。


そこで、イオニア兄も元会社経営者だという事を思い出すサラサ。そして近付くフォーラム。


「取り敢えず雑務ですが、日曜日までVEGA(うち)でお手伝いしていただけないでしょうか?バイトの方にもプラス能力給をお出ししています。面接と少し採用試験さえさせてもらえれば、今すぐにでもお願いしたいのですが。」


お金には困っていないが、時間はある男。

固そうな表情で「うち?」と頭を傾げた。




***




そして、その男はすごかった。


「お、有名大卒ですね。しかも意外。文系なんですか?国際コミュニケーション…」

VEGA事務局のお兄さんがイオニア兄、ゼオナスの経歴を珍しそうに見ている。


「経済大学を中退されて編入…。」

「経済大学は楽しくなかったから…。」

父親に無理やり行かされたのだ。でも、家の商売は経済学部に行かなくても回るような事業。だったら在学中に海外に逃げる機会を得ようと、国際関係に切り替えた。あの頃は、海外逃亡に失敗したが。


「なら、校閲(こうえつ)とかできますか?土曜からフォーラムが入るんで、急いでいるんです。」

「校閲?」

本や資料の言葉や正誤性などを確認していく仕事だ。



そこで、VEGAの一番薄い資料に目を通していく。イータやソア、その他の事務メンバーも近くで見ていた。

「…イオニアもこういう活動をしていたんですか?」

「いえ、イオニアさんはもう1つの方です。まだ事務局が移転できていないんですが、今ここにもう1団体入っているんです。」


VEGAは新参と言っても10年を超える歴史があること、また最初から専門の職員が入ったりうまく外注しているため、元々の資料の完成度が高い。

少しだけザッと見ると、参考資料やこれまでの内部記録に間違えはない。少し分かりにくい文などはチェックしていく。


「まあ、やることはそんな感じですね。」

事務局のお兄さんが、今度はアーツの資料を出してくる。

ゼオナスは、そちらにサーと目を通し、そして始めはペンを入れていたがそれもやめ、途中からただパラパラ見ているだけなのか、速読ができるのか、すごい勢いでページをめくっていく。


最後のページが終わると、止まって資料で机を叩いた。

ダン!


「…どうされました?」


「読んだ。」

読んだのか。スゲー。と思う周り。


「何だこれは!全然分からん!!!」


「え?!はい、ごめんなさい!」

イータたちもびくりとする。

「去年作って、この前正式に立ち上がったばかりの団体なんです。」


練りに練って、大学の先生たちにも確認してもらったので、団体概要の理念、目的、計画などはしっかり書かれているが、組織構成、現在のまで事業の経緯や活動の現状がよく分からない。試用期間なるトレーニングと河漢が同時進行なのも理由だろう。

「皆さんは頭と実体験で流れが分かっているでしょうが、初めて目を通す人には分かりにくすぎます!」


「ここまでの資料はイオニアさんがまとめてるんです。」

と、スタッフが指を指す。

「…あのクソったれ、中途半端な仕事でその上、途中で放棄していきやがって…。しかも馬鹿か。こんな本好きしか見ないようにダラダラ長く書きやがって。論文か!」

いきなり口が悪くなり、怒り気味の兄。

「この団体の研究機関がこの団体だけ見るわけでもあるまいに、もっと簡潔に書け!!論文なんて付属資料でいい!」

イオニアの原稿と、その後の原稿の差も激しい。

「あいつ、『ひまわりぽかぽか家族』を見たことがないのか!!子供にも分かりやすく5分で説明してるだろ!!元営業とは思えん!!」

子供番組で、世界の職業や職場、工場などを5分で紹介していくコーナーがあるのだ。


「こんな辞典みたいな原稿、土曜までに正確に仕上げられるわけがありません!」

と、言葉を外向きに戻してさらに怒る。


ソアが説明する。

「一旦フォーラムまでに第1校を仕上げて、フォーラムの意見を取り入れながら改正し、最終的に正式なものにしていきます。なので、印刷をする最終稿ではありません。」

「フォーラムに参加する目的は?」

「まだ世間的には無名な団体、活動ですので、有識者に理解を得て、能力のある人間を引き抜きたいんです。あと、団体よりもベガス構築の広報や一般への理解です。」


「…ぬるい!」

みんなの注目が集まる。

「…フォーラムなんて専門の人間たちが来るところだろ!有識者への理解とヘッドハンティングに集中した方がいい。」

そうしてもう一度考える。


「移民移住支援活動なんて、中途半端に世間に広報してもバッシングの的だ。

先に確実な実績の礎石を建てるんだ。世の中を動かす側の人間を先に取り込んで、こちらでもその人たちに必要とされる基盤を作ってから世間に出た方がいい。」


ほーと、スタッフたちは思う。そういう話は内部でもしていたが、ここに来てものの30分でヌケヌケの現状を理解してしまった。


「この厚みの資料を完成させようと考えるな。参加団体がいくつあるんだ。突然2級組織になったとはいえ、埋もれるぞ。一先ず中学生でも分かる感じで団体概要と、今の活動の区分け、実績を載せればいい。頭脳系はいないのか!ここに!」

頭脳系もいますが少なすぎる上に分散。頼りある第2弾は関わったばかり、その他はみんな外に駆り出されています…と言ってもいいのか。頭脳系でないので難しく考えて、あれこれ詰め込んでかえって分かりにくくなっている。


「……」

眉間にしわを寄せて、うーんとゼオナスが考えている。



そんな光景を見ながら…既にサラサは目を光らせていた。




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