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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十五章 夢は朝焼けに覚める
104/105

103 軍用車両に囲まれる



戻ったマンションでチコは仰向けにベッドに倒れ、そっと天に祈る。


響もだが、ファクトにも何もないように。



チコにとってファクトはミザルであり、ポラリスであった。


自分を正式な家族にしてくれた、書類上だけでも子供にし、姉にしてくれた唯一の人たち。

ファクトに何かあればミザルが崩れ、ポラリスも心を痛めるだろう。親になってくれた人たちを悲しませたくなかった。


それに、ミザルとポラリスに何かあれば、世界の動向に直結する可能性もある。


そしてファクトは、チコが子供の時から代わりになって守って来た大切な子だった。





アジア、アンタレス時間23時半。


いま()()の周りには誰もいない。いても事情の通じやすい、SR社の核になる人間だけだろう。チコは起き上がり、悩んだ末にデバイスで連絡を取る。



『もしもし。シリウスです。』


チコの着信を受け取ったのはシリウスだった。


「ファクトの居場所を知りたい。」


『…挨拶もなくせっかちですね。』

「私の連絡に反応しないんだ。」

シリウスの雑談に応じずに話を進める。


『初めてあなたから連絡が来て、とっても嬉しいのに…。』

「ファクトの近くにシェダルはいないか?」

『大丈夫。いないと思います。ただ、「()()()」のニューロス体ですので、少し把握しにくいのです。「北斗」は入っているので、どうにか追えますが。

……多分調整中です。彼はたくさん調整がいるので。』


「…………」


『ホッとしました?まさかチコからの連絡がこんな普通の電話で来るなんて。』

クスクスと笑っている。

「………何が面白い?」

『うれしいのです。あなたのことがとっても大切だから。ずっとお話ししたかった。』


「ついでに言っておく。ファクトには絶対に手を出すな。」

『手を出してなんていません。』

「だったら距離を置け。」

『チコと同じです。チコほどではありませんが、いつも逃げられてしまいますので…。』

「…………はぁ…。」

変なため息が出る。


「ファクトが安全ならいい。もう切る。…感謝している。」



『もっとお話ししていたかったけれど…おやすみなさい。

きっとすぐ来ますよ。あなたの大切な人たちは。


私も…


会いたい…』



「…?」




そう言ってシリウスはデバイスを切る。



シリウスはメールを残していた。


[アンタレス国際空港23:50到着 G125便]


仰向けになったままそれを見たチコが、ガバ!と起き上がる。

いろいろなことが心配すぎてまだ装備を外していなかったので、そのまま玄関を出て護衛のフェクダに指示を出す。


「フェクダ!国際空港に向かう。アセンブルスに連絡して、カウスも呼べ!」




***




「…まさかユラスに来て、アジアまで飛ぶとはな…。東アジアにはあまり縁がないのだが。」


まだ直ぐに仕事に入るわけではないらしいので、ファクトたちはおじさんに1日でいいからアジアに来てほしいと頼んだのだ。


アジアは多少入国が厳しかったが、既にユラス入国が通っていることと、カストルの証印を貰っていたためどうにかおじさんも入国できた。おそらくファクト感覚で、ゲーム的には殺し屋か傭兵っぽそうなおじさんは、入国も出国も他の人より面倒な検査をされていた。おじさんが直接言ったわけではないが、ヤバい職業には間違いないだろう。ユラスと違って、アジアに職業傭兵なんてほとんどいないのだ。とくに東アジアは。


「信じられん…。付き添いとはいえ、デバイスしか持たずに来てしまった…。」

ワズンが自分に呆れている。

「俺だって、今回ユラス入国でデバイスしか持ってなかったよ。学校から直接来たし。」

3人ともデバイスとパスポートだけで国越えしてしまった。


「おい、鳩。」

「鳩ってやめてほしいんだけど。鳩にあんまいい印象がない…。公園の害鳥というか…。ファクトと呼んでください。」

「おう、ファクト。あの話は本当なんだろうな。」

「多分。」

「ここまで連れて来て、多分とか言うな!」


「ワズンさん。どうかしました?」

「…ん。なんか変な感じがする。」

「薬莢の匂いがするな。」

「そこら中、軍人が歩いてますから、変な行動しないでくださいね。」

空港内は銃を構えた軍人たちを時々見かける。



無事、入国ゲートを出てロビーに出ると、おじさんは帽子を被り、マフラーを巻き直していた。

おじさんの素顔はけっこう甘くて渋い顔だ。目は大き目で少し垂れているとことが、父ポラリスに似ている。体格は背丈はサルガスやタウくらいだろう。もうすぐ50半ばだと言っていたが、目の周りしか皺もなくそんなに歳には見えない。



しかし、エントランスを出て、タクシーを拾おうとした途端、3人はビビってしまう。


「は?」

おじさん困り顔。


自分には区別がつかなかったが、東アジア軍1台、ユラス軍2台の軍用車両が自分たちを囲んだのだ。


「おい、鳩!お前何のつもりだ?!いきなりなんだ?!」

「え?え?傭兵ってヤバかったのかな?」

「ふざけんな!しかも傭兵って言うな!」


「…ユラスだろ?」

ワズンがため息を吐く。




そこで、優雅なプラチナブロンドを街灯に光らせて車から降りて来たのは、完全に目の据わったチコであった。


そして、ワズンを一瞬睨んでファクトの方に真っすぐ来て、

バン!と頬を叩いた。


「………。」

何も言わないファクト。


後ろにいたカウスや他の兵たちも息を飲む。


「行くなと言ったはずだ。しかも報告もなく。」

「………」

「チコ、待て。」

「ワズンは黙ってろ。ファクト一人の問題じゃない。」

「………誰かに何か言ったら止められると思って…。」

「何のために………シェダルが動くかもしれないこの時期に、何のためにユラスに行くんだ。」

「……。」

「言っただろ。ベガスにいる間は………学生のうちは私がファクトに責任を持つ。勝手なことはするな。」


「………。」

それを呆気に取られて見ているおじさん。


「この方は?」

「ユラスからのお客さんです。カストル総師長に言われて一緒に来ました。」

ふくれっ面でファクトが言う。軍人独特の匂いがするが、ユラスと聞いてチコは納得する。


「ワズン、説明を聞く。一緒に乗れ。ファクトは客人とカウスの方に乗れ。」

カウスはチコと同じ方に乗っていたが、ワズンで十分護衛になるからか別になる。

東アジア軍と話を付けて、ユラス軍2台はベガスに向かう。



「あ、お客さま、どこか送って行くところありますか?途中からはタクシーになってしまうんですが。」

カウスがテニアに尋ねる。

「いや。この鳩と同じ場所に行く。…ファクトと。」

「ベガスに?」

「ユラスの知り合いだよ。おじさんを案内しようと思って。」

もうベガスに知り合いがいるのかと呆れる。

「ならベガスに行きますね。ファクトは……大丈夫ですか?先の…。」

「ああこれ?」

頬に手を当てるが、痛みよりもチコの怒った顔が痛かった。

「チコ。すっごい心配していて、ユラスに乗り込む勢いだったので許してあげて下さい…。」

「……うん。説教されるよりはいいや。」



一方、片方の車両。ワズンとチコだ。

「どういうつもりだ。」

「…髪切ったんだな。」

「…関係ないだろ。」

「………。」



「言わないってファクトと約束したから。

男同士の約束だ。」

「何がだ?これだけ人を動かしてか?こっちは人の安全も守らないといけないんだ。前回は響が外出先でDPを使っただろ!ファクトは博士たちの息子なんだ。何かあったらミザルと亀裂ができる!」

それは身内の安全を越えて、ニューロス研究にも関わって来る。

「…悪かったとは思う。」

「そう思うなら説明しろ。」

「…後でファクトから聞け。」

「………。」

チコは頭を抱えた。




そして、高速に出ようとする手前だった。


ダン!と、チコたちの乗っている、後方の車のエンジンフードに何かが乗った。



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