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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十五章 夢は朝焼けに覚める
103/105

102 あなたの名前は?



「ファクトを特定できないのか??」

チコがイライラして言う。


「総師長は会っていないと言っています。ワズンさんは連絡しても出ないし…。」

「メイジスたちは?」

「何も知らないそうです。」

アセンブルスが抑揚もなく返事をした。メイジスはユラス側のサダルの側近である。


「……行こう。」

机にあったデバイスを取って動こうとする。

「どこに?」

「ユラスに行く。」

「…気は確かですか?」


「……なんでだ?ユラスに行くだけだろ?」

「サミットにも行かなかった人が今ユラスに行ったら、それこそいいように叩かれますよ!!」

温厚なレオニスもさすがに怒る。

「そうですよ。議長の誕生日にも行かなかったのに。」

「お誕生日をお祝いしてほしい人間じゃないだろ……」

嫌な顔をするチコ。

「……そういう問題じゃないんですってば。そんなんだから、いろんな女性が贈り物を持って議長に会いに行くんですよ…。」

「しかも弟のためとか、ほっとけばいいんです。ファクトですよ。それこそユラス中が呆れます。」

「サイコスや響の件もあるだろ?」


「それは何かあったら私たちが動きます。今はガジェやマイビーたちもいますし。チコ様はファクト関連で動かないでください。」

「………。」

チコは仕方なく椅子に座り、考えるように沈み込んだ。




***




そしてユラス。



仕事を切り上げて駆け込んできたカストルは、ユラスのダーオ本部礼拝堂で目を見開いた。


ワズンがファクトを連れ、そしてもう一人男を連れている。


「総師長!お久しぶりです!」

「…この前ぶりだけどな。ファクトには本当に驚くな。」

「ありがとうございます!」

「そのなんでも前向きに取ることろもポラリス似だな。」

「もしかして嫌味ですか?」

「いや、どっちでもない。」

「そうですか!父よりは卑屈な性格なんですけど。」

前向き過ぎる父には、ファクトも時々イライラするのだ。



おじさんもカストルに礼をする。

カストルも深く礼をした。


「…………。」


礼拝堂に静寂が響く。


「…多分ですけど。そうですよね?」

ファクトが言うと、カストルはおじさんに座ってもらいその額に手を置いた。


カストルからは青と金の光が見える。


しばらくそのままでいて、力を収めると、カストルは礼拝堂の同じ長椅子に座り込む。そして、そのまましばらく祈ってから答えた。

「………そうだな。」


「………。」

飄々としたおじさんは、力の抜けたカストルを見ている。


「ワズン。ファクトとアンタレスに行けるか?護衛は変わってもらうようにする。向こうには言わなくていい。対応に困るだろう。」

「おいおい、そっちで話を進めるなよ。まだここで仕事があるんだ。可愛らしいお子さんの護衛をしていてね。」

おじさんが嫌そうだ。慣れてみると軽い感じの口調で話してくる。

「まだ行くとは言っていないだろ?」



「………君にはいくつか質問したい。」


カストルは立ち上がって改まる。

「まず君の名だ。」



「『ボーティス』?」



「っ?!」

みんながファクトを見る。答えたのはおじさんではなくファクトだった。



普段なら消えていくはずの夢の記憶が蘇る。


「おじさんの名前、『ボーティス』?」


「………っ?」

一番びっくりしていたのはおじさんだった。







***




「響、ちゃんと話そう。」

「いやです。大嫌いと言ったはずです!」


ヴィラの近くまで言い合いをしている。

「そこには入れないなら、どこかで泊まろう。」

「いやです!話し合いなんかしなくても実家には戻りません!」


「言っときますけど。私っ、ベガスにマンションの2つや3つ買えるくらいのお金は持っていますから!」

「…………。」

言い切る響におののくお兄様。


「サイコスか?その仕事は危ないだろ?」

「講師でも、インターンでもそれなりのお金を稼いでるんです!私の勝手です!」

「聞いたんだ。サイコスは響にこなせるような仕事じゃない!」

「お構いなく!こなせていますから。」

遂に我慢できなくなったお兄様が、響の肩を掴む。

「待つんだ。」

「やめて…」


と言ったところで、不愛想な顔の男がお兄様の手首を掴む。そして軽くねじり込まれた。

「い、痛!」


タラゼドだった。

「響さん?大丈夫?」

「あっ、あっ、あっ…その人は…。」


「兄です!」


バッと手を離すタラゼド。投げなくてよかった…。


「つうっ。」

「すみません。響さんの友人です。」

「…まさか…………」

このセリフの続きを察したタラゼドがどうにか言い訳を言う。

「響さんの女友達の、友達です!」

あれ?合ってるか?分からなくなるので気を取り直し、本題に入る。


「あの、先に用事を言わせてください…。ここで待っていたんですけど、全然来ないし電話にも出ないから…。そしたら事務局にいるっていうので今行こうと…。」

「…だから何なんだ?」

お兄様が急に現れた軍人張りの男を睨んだ。

「ファイの代わりに母から…。あ、ファイは響さんの友達なんですけど、今まだちょっと整理できないらしくて、代わりに母が響さんにこれをと………」


何か食べ物などお土産の入った袋を渡される。

「母からの手紙も入っているので。」

それを聴いたとたんに、響は唇をかみしめ、差し出された袋を受け取り、泣きたいのをぐっと我慢する。

髪を掻き分けるふりをして、少しだけ涙をぬぐった。

あれもこれも一気に来て、全部投げ出したい。


自分の中だけで生きてきた時は、とっても楽で自由で、いつも好きなことができたのに…。控えめにしてきたつもりなのに、どうしてみんなを怒らせてしまうのだろう。

「ありがとうございます……。お礼はメールしておきます…………



「響さん、ファイも気が高ぶっていただけだから。…反省していたからさ。チコさんもいろいろ説明に来たみたいで。」


「…何かあったのか?」

完全に下を向いてしまった響を、お兄様がのぞき込むがグイっと顔を押される。お兄様に顔を見られたくない。


「響さん、友達と少しいろいろあって………。

あの、落ちついたらファイに会ってあげてほしい。」

これがタラゼドにフォローできる精いっぱいだった。多分チコは放っておいても平気だが、ファイと響にとっては繊細な話だろう。


「大丈夫です…。」

「………。」

何が大丈夫なのか読み取れないが、礼をして家の方に一人駆けていく響を見送った。






「…。」

初めて妹に嫌そうに顔を押されたお兄様は、押されたところを触り呆けている。

「響…………なんで…。」

しゃがみこんでしまう。


「………あの、『お兄様』?大丈夫ですか?」

「ちょっと待て?なんでお兄様なんだ?」

それに他意はなく、響が『お兄様、お兄様』と言うのがアーツでウケて、響兄の代名詞になってしまっただけである。

「尊敬する大学講師のお兄様なので……。」

無難な回答をしておく。


「…はああああぁぁぁ…。」

「お兄様もしかして、泊まるところ決めてないんですか?自分は寮なんで泊められないんすけど、この辺ホテルや宿泊所もありますし。」

「飲もう!」

「は?」

「こんなことがあったら飲みたくなるだろ?」

「………自分、今は酒は飲みません。」

「…なら付き合ってくれ!奢る!!」


「ちょっと待ったー!!」

そこに駆けて来たイオニア兄ことゼオナス。ついでにキファとタチアナも来ていた。なぜかジェイも連れてこられる。


「私も混ぜてください!!」

「は?」

「ここで働いているゼオナスと言います。私は家借りてるので、飲みつぶせます!」

「…君の知り合いたち?」

タラゼドに尋ねる。お兄様は近くに来たキファの水色頭にビビっている。

「まあ、この辺にいるのは…だいたい顔見知りです。俺は、最近来たのはあまり知らないんだけど。」

タラゼドは仕事尽くしで最近のメンバーを知らない。

「……じゃあ行こう!」





そうして、始めに焼き鳥を食べに行き、その後にゼオナスの家で二次会。


俺は何をしているんだと思いながらも、タラゼドは響に対して空回りしているミツファ家の事情を知る。


つまり、一般的、社会的に常識人で名家なミツファ家族には、ちょっと変わったどんくさい響が理解できないのだ。それに加えて、だからこそ自分たちも色濃い人間だと気が付いていない。響以外はバリバリの伝統一家、なおかつキャリアな人たちなのである。ついでに響の父方は西アジア香道の家元だ。

こっちから見たら話しを聞く限り、響が一番取っつきやすくまともである。


そして、ゼオナスは仕事の話をし、なぜかお兄様とも人脈を作ってしまう。

お兄様は母方の祖母が蛍惑物流の妻。つまり響の祖母である。自分は東アジアに近い都市サイファー郊外で建築関係、メカニックなどのメンテ用品工場経営家系の女性と結婚をし、専務として働いているらしい。


多少酔ってはいるが、今ベガスがどう動き、河漢やアーツとの関連などゼオナスの話をじっくり聞いている。


リノベーション会社の現場責任者として動いているタラゼドや他のメンバーは、時々質問に答えながら、結局その日ゼオナスの家に泊まってしまった。



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