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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十五章 夢は朝焼けに覚める
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100 なかった光



少し時間は戻る。


高速飛行機を降りて、入国に向かいながらファクトはワズンに連絡する。

「そうです。あのショートショックほしいのですが…。」

『というか、ファクトもう来るのか??!』

「という訳で、一応連絡はしました!絶対連絡しろって言っていたので。でも、今回は銃だけ受け取ったら自分で行動するので大丈夫です!」

『は?そういう問題じゃない!!』

「大丈夫です。ワズンさんの家に向かってもいいし、今無理なら指定した時間に指定した場所で受け取ります。」

『…いい。今まだ仕事に行く前だ。空港に向かう。待ってろ。』


入国手続きをすると、しばらくしてワズンが入国ロビーに来た。


「ワズンさん!」

「お前は!」

ガツッと頭を叩かれる。


「あの後チコにこっぴどく叱られた上に、基地でもチコの弟を勝手に帰すなとすごい言われたんだ……。」

ベガスにもユラスにも怒られたワズン。知り合いの子の面倒を見ただけなのにかわいそうに。

「なんでチコがワズンさんに怒るの?」

「連絡をくれなかったって。」

「じゃあ、今も連絡しないと怒られるかもね。」

「……分かってて言ってるのか?はぁ………」


「まあいい。送って行ってやる。どこに行きたいんだ?」

「この前のトーチビル。」


車の中でショートショックを受け取とり、承認をして稼働させ腰につける。


「ワズンさんは出勤してね。迷惑は掛けないよ。ちょっと確かめたいことがあるだけだから。」

「少しだけなら時間がある。」



実はファクトは飛行機などの移動の際も、霊性を送り続けていた。こっちからの伝心は成功したことはないので実験の見様見真似だが。



あの光の主は数時間前には確実にトーチビルにいた。


車の中で目を閉じて精神を集中させる。


いる。まだあの光が見える。

でももしかしたら、土地や空間に染み付いた記憶、サイコメトリーかもしれないけれど。





「大丈夫か?着いたぞ…。」

「ありがとう、ワズンさん!」

待ち切れなくて掛けて行く。

「待て!俺も行く。」


2人で高速エスカレータを待つ。折角もらったのに、ビル入口で武器関係はお預けになるが気は高ぶる。



ファクトは胸のドキドキが抑えられなかった。

紫とピンクの光。あれは何なのだろう。


チコと同じ色というだけでない。

チコと同じ雰囲気も持っていた。


エレベーターが到着して上に上がる。


会いたい誰かに会える。この上に何かがある。



そして、エレベーターは到着した。

まだ数日前なのに、懐かしい気分になる。


周りを見渡すと、普通に人がいる。親子、カップル。友人同士、老夫婦…。

誰かを探すように走り回る。



あの光の主。



どこに。


向こうだろうか。



………


……………。


ない。


いない。






…………。

あちこち見渡して分からない。




………何もない。



そう。

もうあの光はなかった。







展望台をもう一周回っても何も見えない。

呆然とするファクト。

「…………。」

「何を探しているんだ?」

ショックで答えられない。



でも、ふと見ると、展望台のマップパネルのアジア側が、その光を静かに残していた。

そのパネルの上の燃え尽きる前の光をそっと触るファクト。


「……………いない………」



あの光は、ただいつかの時代に誰かだそこにいたと、ただそれだけの残像だったのか。

それともチコに似た、誰かか。


ユラス改革の先頭にいた族長夫人だ。誰かの憧れの心が、空間に浮いていたのかもしれない。




項垂れて床に座りこむ。


「どうしたんだ?」

ワズンが心配そうに寄って来て、しゃがんで目線を合わせた。


「…光の残り()だったんだ…。」

人でない。メンカルには何か思いだけが飛んだという事もあり得る。同じようにここにも光だけが残ったのか。もしかして、似た光は世界中にあるのかもしれない。

あれが何か知りたい思いが強すぎて、前回の自分の思念が残ったのかもしれない。


「…………。」


「ワズンさん。俺、帰ります…。」

「は?いつも何なんだ?お前は!」

「ユラスに行くなって言われたから、多分すごく怒られるだろうし…。」

そして気が抜けて座り込んだまましばらく動けなくなる。



………チコに繋がる何かなら知りたかった。


いつもあんな風に、どこかに消えてしまいそうな人だったから、確かな何かを見付けたかった。他人から使命を与えれられなかったら、どこかに行ってしまいそうで…。ここにいてもいいんだよと。


そして、自分が見えるものが何なのか知りたかった。



「………チコが…どこから来たのか知りたかったんだ…。ギュグニーとかじゃなくて。そうじゃなくて。ちゃんと………」

「ファクト…。」

「………」



「おい、鳩。」


その時後ろから男の声がした。




***




『え?響さん、時長(ときなが)にいたんですか?』

電話で驚くパイラル。


「そうです。」

『何をされに?』

「見学です。どういう所かきちんと見ておこうと。研究室の子たちが行くし、一度見に行ってはいるんですけどね。あ、もうすぐアンタレス中央駅です。」


パイラルから体心計を常時つけておくように言われる。

「またファクトが何かしているんですか?それとも『彼』が動いてるんですか?」

『ファクトがまた勝手に…。』


「ユラスに??!」

詳細を聞いて驚く響。またユラスに行ってしまうとは。

『響さんは、誰かそばにいます?』

「学生が3人です…。」

『女性はいますか?』

「1人います。」

『…分かりました。早く帰ってきてくださいね。』

響も本当は保護範囲に入れたいのにと、パイラルは困ってしまう。



響がアンタレスにいない。時長にも道中にも、軍も特警もない。チコに報告するとなると、また重くなるパイラルであった。




***




数日後。


南海ではまたまた新しい客が訪れ、事務局は騒然となっていた。

「響がいないってどういうことですか?」

「…分かりません。」


「どうした?」

現場から戻って来たタウが騒動の中に入った。

「よく分からないけど、東洋風のきつそうなイケメンが響さんを探している。」

ローが答えると、タウは項垂れる。

「…またなのか…?」



「連絡しても出ないし、お住まいの方に行ってもいませんし。学校の方で何かお仕事されているか聞いた方がいいと思うのですが…。」

事務局員が対応していると、向こうから響が駆けて来て事務局の中に入ろうとする。

「ごめんなさい。私です!出張していました。」


そして、人混みの中からその客の姿を見た途端、固まってしまう響。

「……。」

「電話にも出ず、何をしていたんだ?」

「……。」


サラサも向こうから駆けて来た。

「みんな、解散して!お客様に失礼です。」

仕方なく周りは去って行く。

すばらく俯いたまま黙っていた響に男は話し掛ける。

「行こう。ちゃんと話をしよう。」


「いやです。」


「?!」

近くにいたサラサが驚く。

「いやです!話したくないです。」

「何を言っている。話したくないとかそういう問題じゃないだろ!」

「………。」

響に迫っている男がまた来たのかと何人かが止めようとするが、サラサがそれを手で制した。


「サラサさん。あなた方はここで一体響に何をさせているんですか?」

「させているも何も、大学の講師です。」

「人の電話にも出ない人間が大学の講師?何度電話したと思っている。」

響は研究室を閉め、講師職を蹴ったばかりで、反論できることがない。

「ここの人たちは生活の面倒を見てくれているだけです。仕事とは別です。」

「とにかく話すぞ。」


響の手を掴む。

「待ってください。話すなら私も入れてください。」

サラサが割って入るが、間に入れさせない。

「まずは響と話す。」


遠目でちょっとただ事ではないと思うアーツだが、何人かは分かった。

多分あれが、この前の朝に響が恐れていたという『お兄様』であろう。


「いやです。サラサさんを間に入れてくれないのなら、絶対に嫌です!」

スカートを握りしめて仁王立ちしている。

「…いつからそんなに我が儘になったんだ?」



「…どうして私はこんなふうに…兄の声に怯えて生きる人間になったんでしょうね。」

「………。」

少し驚いている兄。


やはり『お兄様』であった。


下町ズは驚いてしまう。

「お兄様…?ナンパ男じゃなかったのか…。」

「またお見合い相手かと…。」

「…は?…。」

少し慌ててしまうお兄様。


「私は成人しています。お金も自分で稼いでいます。お兄様に何か言われるいわれはありません。」

「家一軒買えないだろ?プラス所得もなく、国に支えられて生きていくつもりか?」


東アジアは生活の最低保証をしてくれる。購入品は全てカードか生体認証支払いで記録が残るし、場合によっては半共同生活だが飢えることはない。プラス所得とは過剰所得の事で、大まかに言うと中間層の平均的な生活費を越える所得のことだ。過剰と言うと言い方がよくないのでプラス所得と言われている。

「プラス所得はあります。でもお兄様には関係ありません。」

「響さん、とにかく部屋に入って。」

事務局と個室のミーティングルームと迷って、サラサは事務局に入れる。



まだ残業している者も多く、こっちの方がお兄様が人目を気にして言い合いにならないと思ったからだ。




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