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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十五章 夢は朝焼けに覚める
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99 世界で一番かわいい戦闘員たち



その頃、ベガス駐在ユラス人たちは、驚きのあまり飛びあがる。


チコに至っては本当に飛びあがっていた。

「かわ、かわい~!!!!」


恐ろしいことに、チコに求婚したジョアがものすごい戦闘力を送ってきたのだ。


「チコ様。ザルニアス家長男ジョアの第一子、シーバイズと申します。9歳です!」

「チコ様、ザルニアス家の…長男の…ジョアの長女、ビオレッタと申します。6歳です。ビオレッタは(すみれ)です。かわいいお花です。」

妹が言い終わるまで、ハラハラ待つ兄。妹が言い切ったら軽く背中をつついて二人で礼をする。


それから、別のもう少し小さい三人の子供たちも同じように挨拶をする。伯母メレナの息子たちだ。メレナは夫が一般人、自身は普段は家業を手伝い軍も行き来するためダーオの実家にいた。夫が一般人と言っても大企業の経営者である。



「かわいい!かわいい!超かわいい!!!」

そんなチコを冷たい目で牽制するカウス。

「チコ様。いい歳した男子にかわいいとか言うと、嫌われますよ。」

でも、9歳のシーバイズは緊張して何も頭に入っていないようだ。真っ赤になって直立している。


「チコ様。お久しぶりです。今後よろしくお願いいたしま…」

ジョアの弟ジンズが再度挨拶に移ろうとしたところで…


バシ!


と、近くにあったペッドボトルを投げつけるチコ。

「うわ!」

ジンズは反射的にキャッチする。運動神経はいい。

「掴むな!」


子供たちの向きを変え、向こうに連れていく駐在たち。

ちなみに、この場にはサラサやサルガス、タウたちもいて、この状況全体に呆れつつも様子を見る。


「何が『うわ!』だ!!ジンズ!!

連絡もなくいきなり人を送り込んでくるとは!!!」

「連絡はしていました。もう藤湾の学校にも転校手続きが住んでいますし。上越(かみごし)のマンションを買っています。」

この人たちの買っているは、1棟分だ。

「はあ??アセン…。お前知ってただろ?」

「…本国からヴェネレ人に占領されるなと通達が来ていまして。そういうことは軍で管理することではありませんし。」

「何がだ?!じゃあ、私は現役じゃないのになんで駐屯まで見てんだ?ああ?!!」


「…チコ様。落ち着いてください。もう、アンタレス側とも話が付いていまして。」

「ジンズ…。お前…。」


そう、建設、建築業などに携わっているザルニアス家関連が、一族ごとベガスに入って来たのだ。ユラス最大のゼネコンである。ジョアは現地議員なので動けない。代わりにその補佐の弟ジンズが一旦アジアに来た。最終的にはメレナが残り別の親族たちが来るが、ベガスの可能性を見て事業参入したいとやって来たのだ。


素材、建築技術はアジアの方が優れているが、スペースデザインは西側の方が秀逸だ。ザルニアス家はユラス国家の首都再建の際、世界中に人材を送ってそのノウハウも身につけた。既に出来上がった街でどう空間を構成していくかも。

アジアはどうしても小ぜまに作ってしまうので、建築界でユラスとのタッグは歓迎されたのだった。ただ広いだけでもなく、かといって込み入って迷路のようにもしない空間。そんなデザインができるデザイナーたちも確保している。


実は、アンタレス文化の中枢、日暈(にちうん)の高校や大学で既に共同プロジェクトがスタートしており、今度その実験建築を地方の分校に建てるのだという。


そしてユラスには長年未開発で放置された資源がたくさんあり、その一部もザルニアス家が握っている。



「何で勝手に進めてんだ…。

ジョア、そんなこと一切言わなかったな……。」

「申し訳ありません…。前ユラスに行った時、すっかりその話の報告も兼ねていたのかと。」

「………。」

そんな報告はなかったし、前回の時点どころか、だいぶ前から進んでいる話であろう。

前回はプロポーズしていました、と知っている人間は言いたいが人が多いので黙っている。


「視察して、プロポーズしに来ただけですよね?」

そんな空気を察しても、なお余計な男カウスが余計なことを言う。


「は?」

弟ジンズが驚愕な顔をする。

「え?知らなかったの?」

一族で示し合わせたことではなかったのか。

「フられましたけど。」

「あ、当たり前です!!恐れ多い………の前に議長の奥様ではないですか?!!!」

ジンズ、その辺の認識は兄と違ってまともであった。


「カウス、もう喋るな。」

カウスも襟首を掴まれた。



すると、窓から見て険悪さを悟ったのか、横の部屋に移っていたビオレッタが駆けて来て叔父ジンズに抱き着いた。

「うわあ!!おじ様をいじめないで!!おじ様はね、チコ様は素晴らしい方だって…それで、それで…うう。わああん。」

目にいっぱい涙をためて一生懸命説明している。ジンズはビオレッタをそっと抱き上げギュッとしてあげる。シーバイズ以外の子供たちも駆けて来た。メレナの少し小さい子たちだ。メレナ次男以外はみんな泣いている。末っ子は上の子につられ泣きである。


これはズルい。かわいい。


「子供泣かして最低ですね。」

カウスを無視して話を進めるチコ。

「ちょっと待て、6歳で親元から離すとはどうにかしているだろ?」

「私が母替わりでしたからお気遣いなく。」

ジョアの妹メレナがニッコリ笑う。メレナはベガスに残るので問題ない。

「サダルは許したのか?」

「メレナならよいと………。」

ジンズは帰国する。

「………。」


「チコ様が議長と連絡を取り合わないからでしょう。」

「…………」

個人の会話とは別の報告事項だとは思うが、今あれこれ言うとカウスを喜ばせるだけなので黙っておく。


「ザルニアス家を海外に送るように言われたのはチコ様と聞きましたが…。なので予定より急いで…。」

メレナの言葉に怒るチコ。

「ジョアは堅物すぎるから、外国人と結婚したいなら海外生活でも経験しとけってことだよ!男が来なくてどうするんだ!!」

「……まあ、そうでしたの?」

メレナは元々国際感覚があるので、ジョアかジンズが来なければ意味がない。


チコはガクッと肩を落とす。

「…なんというかチコ様…。今まで議長が不在で仕方なくトップに立ったからでしょうか?こんなに怒る方だったんですね!」

「………。」

楽しそうなメレナをうらめしそうに見る。なぜ既婚者にプロポーズしてくる人の一族が近くに来るのだ。



サルガスとしては、ジョアが河漢に関心があったことを思い出す。今後どんな構想を立てているのか聞きたかった。


今ベガスが構築する『まち』のビジョンに『共生と余裕』というものがある。


人はある程度、生活の余裕があると明らかに犯罪が減る。とくにギャングなどは大分減るとサウスリューシアで実証されている。安全、余裕があれば犯罪は一気に減るのだ。豊かだからこそ増える犯罪もあるが、安全が保障されれば、国が荒むほどギャングやマフィアが横行する世の中にはならない。


そして、人と人を疎遠にし過ぎないこと。共生はどんな人でも、何でも受け入れるという意味ではない。秩序を守った上で、人と人が関係を切らない距離を築いていくことだ。


人が孤独に耐えられるのは、若い内と体力、健康が保証されていること、そして情報やネットがあるからだ。


でもそれは一瞬で崩れ去るものでもある。

若さはじわじわと減っていき、ある日突然それが永遠でないことが、自分の中で符合する。

目上の人間たちが言っていた、疲れやすい、目がかすむ、痩せない、病気になりやすい、回復しにくい…と加齢の兆候を身をもって理解する。


その時に、孤独に耐えられるのだろうか。


そして、その『一人でも生きていける』というのは、『先進地域』という、国内外の誰かの犠牲の上に成り立っている社会で実現しているものなのである。



少なくとも、これまでの時代は…。




***




「ジョア議員、すごいところを突いてきましたね。」

チコは子供大好きである。


「ていうか、子供の前で父親や叔父をあんなに怒ってひどすぎます。トラウマものです。」

「まだチコ先生を嫁にしたいのかな?」

「チコ様、議長と仲良くしておかないとヤバいですよ。未だユラストップ世界では二人は離婚することになっているらしいです。次は誰が来るかな。マージン家辺り?」


「いい加減にしろ!だったら、お前らが議長夫妻は仲がいいって噂を流せよ。」

「え?仲良くないのに?」

「仲いいぞ。」

「え?どういうふうに?」

「一緒に寝た。」


静まる駐屯。

「…。」

「…。」

「添い寝なら子供とでもします。」

今度はアセンが無駄口を叩く。

「…。」


「添い寝でもすごいじゃないですか!」

「…夫婦に関する薄ら寒い会話はやめよう。パイラルが赤くなっている。」

遠慮ない既婚者の会話にパイラルが赤いし、チコも居た堪れない。なぜこいつらは、添い寝だと知っているのだ。


「そういえば…ファイは柔らかくてよかったな…。」

「…。」

もう、自分の夫のことが頭にない。男の事すら頭にない。本当に神様はなぜこの人を女性にしてしまったのだろう。



「とにかく、ベガスで見る限り『議長夫妻は超円満』ってことにしておいてくれ。」

「もう一度会ってくれませんと、ウワサを上塗りできません。会ってないのですから。呼んだらどうですか?」

「呼んでくるわけがないだろ。今地球の反対側でサミット期間だし。とにかく『仲良し』のウワサをバラまいておいてくれ。電話でも毎日会話をしているとか。」

「めっちゃ嘘つきじゃないですか。最低ですね。」

「戦略と言え!」


捕虜解放以後、初のサミットに奥さんもいなくてかわいそうと思う一同である。ちなみに、首相の出るサミットとは違い、民族総議会というものであり、様々な族長や王族が集まる。既婚者は普通夫婦で参加する。

スケジュールは開けられると言ったのに、行かなかったのはチコだ。




そこでカーフからまた連絡が来る。


『あの…チコ様。昼以降にファクトと会いました?』

「ファクト?いや?」

『あ、何か変わったことがありましたか?』

「?ないぞ。ザルニアス家が一族で乗り込んできたくらいだ…。」

『…え?本当に来たんすか?』

「は?カーフも知っていたのか??」

『ははは…。』

「…。」


『あの、その前にもしかして緊急なんですが、先、ファクトとサイコスの練習をしていたんですけど…突然チコ様の名前を呼んで、どこかに行ってしまって…。電話にも出ないから…。』

「…。」

『今になって気になったんですけれど。』

「分かった。一旦切る。」



「アセン。ファクトの位置を調べられるか?」

「…。」

アセンブルスは答えずすぐに調べる。


「まさか、またユラスに行っていないだろうな。」

「行っています。」

調べていると既にアジアを出ている。


「は?リストには?」

「軍人や政治関係でもなく、犯罪も犯していない一般人をリスト入りできません。アジアでは。それにファクトはアジア人ですので、公安か外務相、法務省などの許可がないと、ユラスの一存で動けません。」

「DPサイコスの関係者だろ?!」

「それでも、まだ認定されても、候補でもないですし、理由が弱すぎます。」

「ユラス入国を止めろ!」


「…入国していますね…。」

「…。」

チコは信じられない顔をしている。

「すみません。私もまさかここまでファクトの動きが早いとは思っていませんでした。」

とりあえず謝るアセンブルス。


「響にサイコスを完全に閉じるように言ってくれ。グリフォ。体心計を常時付けさせるように。」

「はい。」



…ユラスになんて全然興味なさそうだったのに…。なぜ?



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