第九話 薄幸少女と新装備
ちょっと投稿遅れました、すみません!
「あ? レベル1、筋力1で装備出来る武器防具だと? うちには置いてねえよそんな一般人向けの代物」
「で、ですよねー……」
町にあったNPCショップで半ば門前払いを喰らった私は、がっくりと肩を落としながらトボトボと歩く。
屋台の弁償クエストを終えた私は、二度目の惨事を避けるべくモッフルを待機状態にしてインベントリに収納し、たぬ吉と共に町中にあるお店を巡っていた。
あの売り子衣装みたいな可愛い戦闘向けの服なりを買えないものかと思ったんだけど、装備品の中に私が使えそうなものは全く見付からない。
名称:レザーアーマー
種別:防具
効果:体力+10、防御+5
能力:なし
装備制限:プレイヤー、筋力5以上
一番性能が低いやつでも、こんな感じ。
ま、まさかこんなところにも幸運特化の弊害が出るとは……ちょっぴりショックだよ。
「うぅ、何か良い手はないのかな?」
『そう言われてもなぁ、そもそもレベル1のまま進めるなんて運営も想定してないだろうし』
『プレイヤーメイドならワンチャン……?』
『いやいや、店売り品でこれだぞ、プレイヤーメイドはもっと制限厳しいだろ』
『プレイヤーが売る装備なんて店売り品より高くて高性能って相場が決まってるしな』
「うぅ~」
欠片ほどの希望もなさげなそのトークを横目に、溜息一つ。
性能はこの際低くても目を瞑るから、せめて見栄えの良い服が欲しいよぉ……。
「おいおいおいおい、なんだこのひでえ装備の山……お前これでよく店なんて開こうと思ったな」
「うん?」
そんなことを考えていると、よく通る男の声が町の片隅から聞こえてきた。
ちょっと奥まった路地の中、声がするその場所を覗き込んでみると、そこには大きな大剣を背負った大男がいて……その先には、小さなブルーシートを広げ、ちんまりとした露店商を開く女の子の姿が。
「ご、ごめんなさい……で、でもでも、これが私の作った中では精一杯良さそうなもので……」
「えっ、これネタじゃなくてガチのやつなの? お、お前レベルいくつだよ? 器用値は?」
「レベルは10で……器用は80です……」
「いや、なんでそれでこんなもんしか作れないんだよ……おかしいだろ……」
「ごめんなさい……」
厳つい男に睨まれた女の子は、小さくしゅんと萎縮してしまっている。
銀色の長い前髪に遮られて、表情までは読み取れないけど……その哀愁漂う姿は、今にも泣き出しそうに見えた。
もしやあの男、あの子に意地悪して泣かせてるんじゃ? よーし、それなら……!
「ちぇすとぉーーーおぉ!?」
「うおっ、なんだ!?」
男に後ろから飛び掛かった私は、見えない壁みたいなものに阻まれて弾きかえされてしまった。
うぅ、まさかこれも、筋力1の弊害!?
『いやいきなりなにしてんのクレハちゃん!?』
『町の中は決闘以外の暴力行為禁止だぞ』
『下手したら垢バンだからな』
「ええ!? そうなの!?」
ど、どうしよう、私結構ヤバいことやっちゃった!?
そう思いながら地面を転がってたら、件の大男に助け起こされてしまった。あら優しい?
「よっと。大丈夫かよ? いきなり何してんだお前は」
「ありがとうございます……じゃなくて! 女の子を泣かせちゃダメですよ!」
びしっ、と私が指を突きつけると、大男はバツが悪そうにつるりと刈り上げられた頭を掻く。
予想外の反応に戸惑っていると、当の女の子が間に割り込んで来た。
「ち、違うんです! この人はその、ただのお客さんで……!」
わたわたと慌てながら話す彼女に事情を聞くと、どうやら生産活動に勤しむうちに、活動資金が底を突いてしまったらしい。
それを回収するため、なけなしのお金で露店商を開いたはいいものの、肝心の商品の性能が酷すぎて全く売れず困っていたんだとか。
「モンスターも探索に出しているんですけど、運が悪すぎて全然アイテムが回収出来なくて……ここで少しでも売らないとって、たまたま来てくれたこの人に、いっぱいセールスしてたんですけど……やっぱり全然ダメみたいで……」
ここで言う運が悪いっていうのは、ステータスじゃなくてリアルラックの方らしい。
今この時も、手持ちのモンスターは全員フィールドの探索に出しているけど、なぜか毎度フィールドボスやユニークモンスターに出くわしたり、採取ポイントからロクなものが採れなかったりで、上手くいった試しがないんだとか。
薬草すら採れず、雑草や石ころくらいしか持って帰れないというんだから、これは中々筋金入りだね。
……私が初めての探索で薬草も魔茸もマンドラゴラも同時引きしたことは黙ってた方が良さそう。うん。
「うーん、なるほど……とりあえず、私の勘違いだったみたいですね。急に襲いかかってごめんなさい!」
「俺も自分の面がどんなもんかは分かってるし、いいってことよ。しかし、こっちはどうすっかなぁ」
ペコリと頭を下げる私を制しながら、大男は困ったように落ち込む女の子に視線を落とす。
「可哀想だし、俺としてもなんとかしてやりてえとこだが、流石にこうも使い道がねえとなぁ……」
「使い道……さっきも言ってたけど、どんなもの売ってるの?」
私は女の子にそう問い掛け、店の商品を見せて貰う。
すると……そこには面白い効果のものがたくさん並べられていた。
名称:体力回復薬・毒
効果:体力が少し回復するが、一定確率で何らかの状態異常を引き起こす。
名称:魔力回復薬・毒
効果:魔力が少し回復するが、一定確率で何らかの状態異常を引き起こす。
回復アイテムであり、状態異常薬でもあると。
扱いとしてはデメリットアイテムみたいだけど、運勝負が得意な私としては、こっちの方がむしろ都合が良いかも。
みんなに聞いてみたら、この手のアイテムはどう使っても経験値が入らないみたいだから、レベル1のまま進むって決めてる私にとっては尚更ベストだ。
そして、それ以上に私の目を引いたのがこちら。
名称:紅玉のバトルドレス
種別:防具
効果:筋力-30、防御-30、敏捷-30、知力-30、器用-30、幸運+100
能力:不死の加護
装備制限:プレイヤー
スキル:不死の加護
効果:自身の体力がゼロになった時、一定確率で体力1の状態で復活する。CT60秒。
「この装備、すっごい……!!」
『お、おう……本当にすげえな……』
『なんだこのえげつないステータスダウン』
『一応幸運だけはえげつない上昇量してるが……』
『いらねえw 幸運とか一番いらねえステータスだぞw』
『不死の加護は普通に使える効果なのがより悲しい』
『逆にどうやったらこんな装備作れるのか聞きたい』
私に同意するように、口々にコメントを呟く視聴者の人達。
けど、私が言いたいのはそこじゃない!
「違うよみんな、よく見て。これ、装備制限が一切ないの!! 私でも装備出来る!!」
『いや確かにそうだけども!w』
『これ幸運以外全てのステータスが既に1のクレハちゃんが装備したらどうなるんだ?』
『1が下限だから、実質デメリットゼロに……なるのか?』
「そう、つまり私にとっては、ただただ強いスキルをくれる装備になるんだよ!」
いやそれは違うだろ、というツッコミがいくつか入ったけど、私にとってはそれが真実だからいいんだよ。
それに何より、このドレス可愛いしね。
赤を基調に、白いフリルがあちこちにあしらわれたそのドレスは、私の金髪赤目のキャラクターにぴったりだ。
ちょっと人形味が増して、ロリっぽさが際立つのが気になると言えば気になるけど……まあうん、胸もリアルよりはあるんだから、きっとそこまで子供には見えないはず……!!
「というわけで、この装備とアイテム、私が買いたい! いいかな?」
「え、えぇ!? い、いいんですか?」
「うん! 言い値で……って言いたいところだけど、私もちょっとお金ないから……この辺りのアイテム、お金の代わりにならないかな?」
そう言って、私がメニュー画面からトレード機能を呼び出し、そこに適当にアイテムを放り込んでいく。
それを見て、女の子のみならず側で成り行きを見守っていた大男や、視聴者のみんなまで顔を引き攣らせた。
木片×88
木材×32
絹糸×44
麻糸×72
羽毛×76
薬草×38
魔茸×16
ゴブリンの角×18
ゴブリンの皮×23
ゴブリンの棍棒×10
『待って待っておかしいおかしい』
『ゴブリンとか薬草とかはまあ分かる。昨日集めてたもんね』
『その大量の木材糸羽は一体どこでどう手に入れた!?』
「えっ、昨日一晩たぬ吉とモッフルを家の中で放し飼いにしてたら集めてくれたんだけど……そんなにおかしいの?」
『おかしい。一晩で集めるには桁が一つ多いだろ』
『一応絶対不可能って数字じゃないとは思うけど……ええ……』
なんだかすんごいドン引きされてる感じがするよ。
まさかこれがそんなにすごい量だったなんて……後でたぬ吉とモッフルにたくさんご褒美あげないとなぁ。
あ、モッフルは屋台の料理食べちゃったからなしでいいかな。
「こんなこと、あるんだ……私、一晩どころか三日かけて、それぞれ十個ずつ行かないくらいだったのに……」
『いやそれはそれでおかしいだろ』
『いくらなんでも少なすぎる……』
『両極端な二人だなおい』
「うん、そうだよね……私、何を作ってもデメリット持ちの呪い装備しか作れないし、みんなが当たり前に集めるようなアイテムも全然集まらないし……やっぱり、ダメな子だ……」
目の前で、ズズーンと落ち込む女の子。
見た目は私と同じくらい、つまり小中学生くらいに見える子がこうして悲しんでると、何か少しでも励ましてあげたくなってきちゃう。
「大丈夫、全然ダメな子なんかじゃないよ」
「え……?」
落ち込む女の子の手を、私は両手でぎゅっと握り締める。
顔を上げたその子に、私は精一杯にこりと笑いかけた。
「他の誰にとってもダメだったとしても、私にとってはあなたの作った装備とアイテムが、他の誰のアイテムより有用ですごいんだよ。だから自信持って」
「私の作ったものが……ほ、本当に……?」
「うん! なんなら、これからもずっと私のためにアイテムを作って欲しいくらい!」
「ふえっ!?」
突然ボッ! と顔を真っ赤に紅潮させ、陸に打ち上げられた魚みたいに口をパクパクさせる女の子。
どうしたんだろう、体調でも悪いのかな? でも、せめてこれだけは聞いておかないと。
「私、クレハっていうの! あなたは?」
「わ、私は……ティアラ……」
「ティアラちゃんか。それじゃあ……」
ぴぴぴっとメニューを操作し、トレード申請の前にティアラちゃんへと送ったのは、私からのフレンド申請。
同じゲームを一緒に楽しむ、仲間の証だ。
「これからよろしくね、ティアラちゃん!」
ほとんど一方的にそう告げて、私は手を伸ばす。
そんな私の顔と手を交互に見つめ、しばし迷うように視線を彷徨わせながら、ティアラちゃんは私の手を取ってくれて──
こうして私は、このゲームで初めてのフレンドを得るのだった。