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第八十六話 とある情報屋の日常

 俺の名はコウタ。最近ではついに女神専の情報屋なんて呼ばれ方もするようになったTBOプレイヤーだ。


 そんな俺の一日は、女神のホームを外から観察することから始まる。


 ……こらそこ、ストーカーとか言うんじゃない。俺の目的は女神だが、より詳しく言えば探索に出るクレモン達だ。


 女神自身の突飛な行動は、配信によってみんなが普通に知ることが出来るしな。

 もちろん俺もチェックするが、ブログに載せるべき情報はむしろクレモン達の行動にこそある。


 だが、クレモン達の行動は女神本人すら把握出来ていない。そうなると、探索に出る瞬間を抑えて追跡するしかないんだよ。分かってくれたか?


「っと、今日はたぬ吉と……なんだ? あの蜘蛛」


 見たことのないモンスターと行動を共にするクレモンを見付け、今日はこいつを追跡すると決定する。

 なんだか、面白いことが起きそうな予感がするんだ。


「もしかして、イベントで手に入った卵から孵ったモンスターか? 随分時間がかかっていたが、ついに生まれたか」


 もし俺の予想が当たっているなら、一番乗りで新しい情報を手に入れられそうだ。


 これは見逃せないと、町の外へ向かって突き進む二体を動画で記録する。


 そもそも、女神の指示でもなく勝手に探索に出るモンスターが、どうして二体一緒に行動しているんだという突っ込みを本来ならすべきなんだが……クレモン相手にその程度の疑問を覚えていては、女神専の情報屋など務まらない。


 クレモンは特別、クレモンなら仕方ない。これが合言葉だ。


「目的地は……迷いの森か?」


 自分だけの……とはいえ他の多くのプレイヤーも内心に刻んでいるであろう合言葉を胸に、たぬ吉と蜘蛛の尾行をすることしばし。


 到着したのは、始まりの町からほど近い、迷いの森という初心者エリアだった。


 ふむ、最近はもっと難易度の高いエリアを探索することが多かったし、たぬ吉がここに来るのは久し振りだな。あるいは、同行している蜘蛛のモンスターを育てる目的で?


 モンスターが勝手に他のモンスターを育てるなんて普通はあり得ないんだが、クレモンだしな。


 クレモンは特別、クレモンなら仕方ない、だ。


「ポンポン」

「ギギギ」


 早くも合言葉を口ずさみながら観察していると、たぬ吉が蜘蛛に何やら熱心に話し掛けていた。


 ……何を話しているかさっぱりわからないが、近くにモンスターが来ているぞ、大丈夫なのか?


「ポンポン!」


 と思っていたら、たぬ吉が話を続ける傍らで《デコイ》と《発光》を駆使してモンスターを遠ざけていた。


 器用過ぎるだろう、どうなっているんだ本当に。


「ギギギギ」


 そんなたぬ吉の話を、蜘蛛は何度も相槌を打ちながら熱心に聞いている。


 挙動があまりにも人間臭すぎるんだが、本当にただのプログラムなんだよな? 中に誰か入っていたりしないよな?


 いや、落ち着け俺、クレモンは特別、クレモンなら仕方ない。


「ギギギギ」


 そうこうしているうちに話が終わったのか、蜘蛛が敵のモンスター……ブラックウルフへと向き直る。


 気付けば五体も集まっているのに、それら全てがたぬ吉によって翻弄されている様は中々すごいな。


 というか、たぬ吉の種族……ロケートラクーンは10レベルで進化するはずなんだが、女神はいつになったら進化させるのだろうか?

 流石に、これだけの戦闘が出来て10レベルにもなっていないということはないと思うが。


「ギギギ!」


 考え込む俺を余所に、蜘蛛はブラックウルフのうち一体に糸を吐きかけた。


 行動を制限するスキルだろうか? と思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。


 紫色に変色したその糸に絡め取られたブラックウルフは、《毒》の状態異常に陥ったのだ。


「ウオォォン!」


 ここに来て、自分達がたぬ吉に化かされていることに気付いたんだろう。五体のブラックウルフ達が一斉に蜘蛛の方を見る。


 蜘蛛はまだ、生まれたばかりのレベル1。たぬ吉の援護が無ければ到底敵わない相手だが、当のたぬ吉はむしろ《デコイ》すら消し、完全に静観する構えだ。


 大丈夫か? と不安に駆られる俺だったが、そんなことはお構い無しに蜘蛛は立ち向かう。


 なんと、毒糸で絡め取ったブラックウルフを操り、他のブラックウルフへとけしかけたのだ。


「ウオォン!」

「ガウ!? ウオッ、ウオォン!」


 これもまたスキルなのだろう、他のモンスターを操り人形にして同士討ちさせるとは、恐ろしいスキルだ。


 しかし、それだけでは二体までは同時に相手出来ても、五体同時は不可能。


 どうするのかと思ったが……なんと、互角に思われたブラックウルフ同士の対決は、あっさりと蜘蛛が操るブラックウルフの勝利で幕を閉じたのだ。


「一体どういうことだ? 単に操るのが上手いという感じでもないし、むしろ毒のせいで体力的には不利のはず……いや、あれは……!」


 そこで俺は、あることに気が付いた。

 最初に捕まえたブラックウルフには確かに毒糸を絡ませているが、それは全身ではない。


 爪や牙など、攻撃に用いる部位にだけ毒糸を巻き付けることで、毒の被害を最小限に抑え……なおかつ、そのブラックウルフが他の個体へ攻撃する際、毒の属性を付与しダメージを引き上げるという手法を取っているのだ!


「まさか……そんな戦い方を、生まれたてのモンスターが……!?」


 いや、生まれたてとか関係ないはずなんだが、思わずそう叫んでしまうほどに知的なスキルの使い方だ。


 というか、こんなの普通のプレイヤーがやろうとしても絶対に真似出来ない。相手の前足だけ狙って糸を吐けとか、そんな細かい指示出来ないだろう。


 もしや、先ほどたぬ吉と話し込んでいるように見えたのは、こうしたスキルの工夫を伝授するため!? 《デコイ》と《発光》の組み合わせを披露することで、スキル同士のコンボという発想を蜘蛛に与えたというのか!?


「恐るべし、クレモン……!!」


 その後も蜘蛛は、毒糸で強化したブラックウルフを操りつつ、自身も毒糸による妨害を行うことで巧みに立ち回り、格上のモンスター五体を見事単独で殲滅してしまった。


 そんな蜘蛛を見て満足そうに頷くたぬ吉はまさに、弟子を見守る歴戦の戦士と言わんばかりの風格を醸し出している。


 一応、誰でも手に入る初期モンスターのはずなんだがな。進化すらまだだし。


「新しい蜘蛛のクレモン……これは、またとんでもないのが現れたな……」


 蜘蛛は蜘蛛で、配信の中ではステータスの低さから使えない子ではないかと意見されていたが、蓋を開ければとんでもない強さだ。


 いや、女神以外がこのモンスターをテイムしても弱いと思うが、女神のクレモンとなった時点で例外になるらしい。


 この情報で、またブログが賑わいそうだ。


 そんなことを考えながら、俺はたぬ吉主導の蜘蛛育成周回を、しばし観察し続けるのだった。

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