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第五十九話 お姉ちゃん再び

 調合で料理を作って手間を短縮しよう、なんて企みの実験を終え、お昼休憩を挟んだ私は今、ホームの中でそわそわと人を待っていた。


 ここ二日ほど仕事が忙しくて家にも帰ってない、私の家族。愛するお姉ちゃんを。


「う~、まだかな~」


 ホームに配置されたソファに転がり、バタバタと足を暴れさせながら独り言を呟く。


 たった二日と言えばそれまでだし、そもそも本当に顔を合わせられるわけでもないんだけど、やっぱりゲーム越しでもお姉ちゃんに会えるのは嬉しい。


 これを言うと、スイレンなんかは「相変わらずシスコンだね~」とか言うんだけど、別に私はシスコンじゃないよ。ただお姉ちゃんが好きなだけ。


 妹っていうのはね、ただ妹であるというだけでお姉ちゃんが大好きな生き物なんだよ。よって私はシスコンじゃない、オーケー?


「クレハちゃ~ん! 久し振り~!」


「あ、お姉ちゃーん!」


 そんな風に一人で誰にともなく言い訳を重ねていたら、ホームの扉が開いてお姉ちゃんの声が聞こえて来た。


 すぐに駆けて行けば、そこには確かに桜色の髪をしたゲームアバター状態のお姉ちゃんの姿が。


 迷わずそのお腹に突撃すると、ポフッと受け止めながら頭を撫でてくれた。えへへ。


「あ~、ゲームの中だけどやっとクレハちゃんと会えたわ。元気にしてた?」


「うん、私はいつでも元気だよ! お姉ちゃんこそ、夜はちゃんと寝てる? ご飯ちゃんと食べてる? コンビニ弁当で適当に済ませてないよね?」


「あ、あはは、大丈夫よ、あはは……」


 全力で笑って誤魔化そうとするお姉ちゃんに、私は笑顔から一転して思い切りジト目を向ける。


 お姉ちゃん……やっぱりここは私も会社に乗り込んで生活習慣の改善を訴えないと……。


「それで、今日はどれくらい一緒に遊べるの?」


「うーん、ひとまず一時間くらいかしら? 今晩にはひとまず家に帰れそうだから、その準備もあるしね」


「ほんと? やったー!」


 お姉ちゃんがやっと帰ってくる!!


 それなら、私も今日はほどほどにして早くログアウトしようかな。

 お姉ちゃんの帰還を祝って、盛大にパーティーしないと!!


「まあ、また予定が変わる可能性もないことはないけれどね……ここ最近、またよく分からない問い合わせが増えてるし。初心者救済モンスターがどうとか、フィールドボスがモンスターの随伴上限以上の数にタコ殴りにされてるのを見たとか……本当、何が起きてるのかしら?」


「うーん、なんだろう?」


 前回は私のゲームプレイがヘンテコ過ぎるせいでお姉ちゃんに迷惑かけちゃってたけど、今回は関係なさそうだね。


 初心者救済もなにも、私がまず初心者みたいなもんだし。他のプレイヤーとも、さほど多く関わってないし。


 モンスターの上限だって……まあ、探索中だったうちの子が助けに来てくれたことはあったけど、あれは普通に起きることだってみんな言ってたもん。


 うん、やっぱり私のせいじゃないね!


「わからないけど、お姉ちゃんを困らせる輩は私がぶっ飛ばしてあげる! 最近はうちの子もすっごく強くなったから、そんじょそこらのプレイヤーには負けないよ!」


「ふふふ、頼もしいわね。じゃあ、今日はクレハちゃんに守って貰っちゃおうかなー?」


「まっかせなさい!!」


 思い切り胸を張りながら、えっへんと鼻を鳴らす。


 今日は姉妹水入らずということで配信もしてないから、普段の情けない私を知ってる視聴者のみんなもいない。


 一時間だけだけど、お姉ちゃんの前でカッコいいとこ見せて、私の成長を見せ付けるんだ!


「というわけで……どこ行こう?」


 気合いを入れたはいいけど、一時間くらいお姉ちゃんと遊ぶならどこがいいか、何のアイデアも持っていないことに気付く。


 そんな私に苦笑しながら、お姉ちゃんは私を撫でた。えへへ。


「それなら、今やってるイベント限定のインスタントダンジョンがあるから、そこに向かいましょう。二人だけでパパッと遊んで、イベントアイテムもたくさん手に入るわよ」


「おお、そんなのあるんだ、いいねー!」


 流石お姉ちゃん、このゲームの製作運営に一枚噛んでるだけあって物知りだ。


 たぶん、こんな時間にゲームをやれているのも、そのインスタントダンジョン関係で何か確認しなきゃならないことがあるからなんだろうけど、結果として一緒に遊べるならそれでいいや。


「じゃあ、早速いこー! うちの子は誰を連れてこうかな……」


「キュオオ」

「クオォン」


「よし。じゃあ、ピーたんとポチ、ついてきてー!」


 悩んだところで、ちょうど二体のモンスターがすり寄って来てくれたので、午後はこの子達を連れていこう。


 お姉ちゃんも、前回と同じくバトルウルフのガルルを連れ、向かった先は始まりの町の中央広場。


 ここにある、各エリアを繋ぐ転移ポータルに、イベント限定のインスタントダンジョンへの道が繋がっているらしい。


「それじゃあ、行くわよクレハちゃん、ついて来てー!」


 お姉ちゃんに先導され、転移する。

 少しばかりの浮遊感と、視界が切り替わる感覚。それが終わった後、目を開けると……。


「ん……うわぁ……!!」


 一面の農園が広がっていた。

 地面が見えないほどに緑豊かに広がる草葉と、それに紛れて実る色とりどりの野菜達。


 見ているだけでサラダの一つでも作りたくなるような、そんな光景の中……当然のように、奴もいた。


 今回のイベントで、畑を荒らす厄介者として散々にプレイヤー達から懲らしめられている、カモネギバードが。


「このインスタントダンジョンでは、カモネギバードを一定数討伐すると次の階層への道が開かれるの。でも、その条件を満たす前にカモネギバード達に一定数の野菜を持ち逃げされるとゲームオーバー、元の町に戻されるわ」


 お姉ちゃんがそう説明する間にも、カモネギバード達が集まってくる。


 一面の野菜畑を徘徊しながら、どの野菜を奪おうか値踏みするように。


「全五階層。最後にはイベントボスも待ってるから、お姉ちゃんと一緒に、サクッとクリアしましょ♪」

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― 新着の感想 ―
[一言] 妹っていうのはね、ただ妹であるというだけでお姉ちゃんが大好きな生き物なんだよ。     ↑ これを世の中ではシスコンと呼ぶ
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