第五十七話 調合料理と謎効果
「ほえ~、なるほど……料理で上がるポイント、多いなぁ」
牧場から戻った私は、試しに自分でも料理をして、変換した時のポイントの変化を調べてみた。
その結果、傷んだ野菜は1ptが2ptに。
普通の野菜は5ptが7ptに。
上質な野菜は10ptが15ptに。
特級の野菜は20ptが30ptまで上昇した。
レア度が高いほど貰えるポイントの上昇量が大きくて、料理する利点が大きいことが分かる。……けど。
「料理はすればするほどフィールドワークの時間が減るのが難点なんだよねー」
牧爺は完全な生産職で、ほとんどフィールドワークをしないって言ってたから、料理に集中してポイントを稼ぐのは理に適ってる。
でも、私の場合は探索とフィールドワークを並行したいから、普通にやったら牧爺ほど効率が上がらないんだよね。
いや、特級はやった方がいいんだけど……今日はお昼くらいから、お姉ちゃんと一緒にやる予定だし。出来れば一緒にフィールドで遊びたい。
「というわけで……私はここに、新たな実験をしたいと思います!!」
私の宣言に、探索を終えて牧爺から貰った料理を食べながら休憩しているモンスター達がこてりと首を傾げる。
今私の目の前にあるのは、いつもの料理セットではなく、調合用の道具。
いかにもそれらしい見た目で異色の煙を吹く、《魔女の巨釜》だ。
そう、私はこの新しく買って来た道具を使い、《調合》スキルを使って料理を作れないか試そうと思うの!!
なんでわざわざそんなことをするかというと、《調合》スキルは《料理》と違って魔力を消費する分、料理よりも更に手間が短縮されていて、一度作ったものはリストに登録しておけば、材料を突っ込むだけで完全オートで次々作成できるんだよね。
《炎精霊の杖》のお陰で今の私は2回は調合する魔力があるし、たぬ吉がたくさん集めてくれた《魔茸》が魔力回復薬の材料になるから、成功すれば料理よりも手間いらずになること間違いなし。
ちなみに、杖がないと私は調合出来ないし、杖があると経験値が入らないから、調合しても私のレベルは上がらないよ。ここ大事。
「まあ、まずは実際にやってみてからだねー」
というわけで、いつも料理してる感覚でポイポイと食材を魔女の巨釜に放り込む。
桜色の野菜たちが、何やら毒々しい紫の液体の中でぐつぐつと煮込まれていく光景は、控えめに言ってグロい。
本当に食べられるものになるんだろうか? ちょっと心配だよ。
「わわっ」
なんて思いながら覗き込んでたら、ボンッ! と巨釜が煙を吹き、調合が完了した。
どこからどう考えても失敗したとしか思えないエフェクトだけど、大丈夫かな?
そう思って、ドキドキしながら釜の底を覗き込むと……。
「……普通に出来てる」
少なくとも、見た目の上ではちゃんとした料理が出来上がった。
手を伸ばしてみたらどこからともなくお皿が出現したからそのまま持ち上げてみたけど、匂いとかも特に異常はない、普通の野菜炒め。
いや、なんで釜で煮込んだら野菜炒めになるのかは分からないけど、出来たんだから仕方ない。
「さて、味は問題ないか一応見てみないと……」
「キュオオ」
「って、あ、ピーたん!!」
毒見しようかと思ったら、突然飛び掛かって来たピーたんに先に食べられてしまった。
大丈夫だろうか? と心配になったけど、特に状態異常に陥ることもなく。
野菜炒めを平らげたピーたんは、そのまま探索のために飛び去って行った。
「うーん、大丈夫かな? まあ、流石にゲームだし、食中毒とかは起こさないでしょ。……多分」
一応、もう一度試しに作って、毒見して……終わったら、ポイント変換しに行ってみようかな?
他の子も早く何か食べたいって顔してるし、手早く作っていこう。
「んー……おお?」
そんな風に、魔力回復薬を飲みながら調合料理を作っていると、ふと気付いた。
調合って、料理と違って色んな素材を混ぜれるから、他の素材を使ったらもっとたくさんポイント貰えたりしないかな?
「よーし、やってみよーっと」
とりあえず、たぬ吉が大好きなマンドラゴラを入れてー、それからー……。
「……大丈夫かな、これ?」
そんな感じで色々と雑多にレアアイテム(ってみんなに教えて貰ったもの)を詰め込んで調合したら、桜色の団子みたいなのが出来た。
えーっと、なになに……? 名前は《桜団子》、効果は……《探索範囲拡大》、《桜特攻》?
「いや、桜特攻ってなにさ」
意味が分からないよ、なにそれ?
探索範囲拡大は、まあなんとなくイメージつくんだけど……とりあえず、効果の詳細を……。
「ポンッ」
「あ、たぬ吉!」
スキルの詳細を見ようとしたら、今度はたぬ吉に食べられてしまった。
しかも、たぬ吉までそのまま探索に行っちゃうし。
もー、うちの子はちょっと食いしん坊が過ぎるよ!
「仕方ないなあ……まずは、みんなが満足するまで料理作ろうか」
というわけで、私は改めて調合料理に邁進し……元々の「料理に使う時間を節約することで、フィールドワークに使う時間を増やす」という当初の目的がどこかへすっ飛んでしまうことに。
結局、どれだけレアアイテムをつぎ込んでも貰えるポイントが増えることはなかったし、今回の実験は失敗だったかな? 一応、みんなやたらと気に入ってくれたみたいだから、今後も作るけど。
そんな感じで、私はさしたる成果を得ることもなく、お昼の休憩時間を迎えるのだった。




