第五十四話 レタスお化けと探索介入
ドラコの圧倒的な強さに慄きながら、私の樹海攻略は進む。
あくまで目的はイベントptだから、フィールドボスの撃破はどっちでもいいんだけど……なんでも、一度でも撃破したことがあるエリアのボスは、イベント限定のボスモンスターに置き換わるそうで、せっかくならそれも狙ってみようかと思ってる。
そのためにも、まずは樹海エリアのフィールドボスを倒さなきゃいけない。
ドラコはすっごい強いし、まあ楽勝でしょ、と思っていたら……。
「……あれえ? 樹海エリアのボスってこれなの?」
「オオオオン」
そこにいたのは、巨大なレタスに目と口と蔦をくっつけた、野菜お化けみたいなモンスター。野菜王レタスカイザーだった。
王様なのか皇帝なのか、どっちなのさとどーでもいい突っ込みを心の中に秘めつつ、視聴者のみんなに問い掛けてみる。
『いや、ここのフィールドボスはアークミノタウロスのはずだぞ』
『一言で言えば、二足歩行の巨大な牛』
『断じて野菜ではない』
「へー、アークミノタウロス……」
なんだろう、最近よく見る名前な気がする。
具体的には、うちの子の好物的な意味で。
『クレハちゃん、アークミノタウロスいつの間に倒したの?』
「倒してないよ、うん。私は倒してない」
原型すら見たことないし。
『私はってところになんか含みを感じるのだが』
『そういえば俺、この前偶然見かけたクレハちゃんとこのモンスターにアイテムあげたら、アークミノタウロスの肉くれたんだよな』
『え……もしかして、クレハちゃんの知らない間にモンスター達が勝手にフィールドボス倒してたの?』
『始まりの平原みたく稀にボスのアイテムがドロップするやつじゃないのか』
『いや、それはボスの装備品とかの話でな、肉は流石にドロップしないぞ』
「へ、へー……」
全然知らなかったよ……え、それじゃあやっぱりうちの子、私の知らない間にここのフィールドボス倒してたの? しかも、割りと頻繁に。
うーん、なんだろう、ごめんね見たこともないフィールドボスさん。イベントが終わったら、ちゃんと私も倒しに来てあげるから。
……覚えてたら。
「オオオオン!」
そんなこと言ってる間に、巨大レタスが蔦を振り回しながら襲い掛かってきた。
……レタスに蔦なんてあったっけ?
まあ、モンスターだし細かいことは気にしたら負けだよね!
「というわけで……ドラコ、任せた!!」
「ゴアァァァ!!」
早速丸投げすると、ドラコは咆哮を挙げてレタスに突っ込んでいく。
巨大なレタスと深紅のドラゴンがぶつかり合い、凌ぎを削る怪獣大決戦。
熱いぶつかり合いのはずなんだけど、レタスとドラゴンっていう組み合わせのせいですごくシュールだ。
『クレハちゃんのドラコとかち合って即死しないとは、このレタス強いな』
『レタスの癖にな』
『まあ腐ってもボスですしおすし』
『いやレタスが腐ってたらアカンw』
『フレッシュでもボスですしおすし』
『いや置き換えたらいいってもんでもない』
『普通に意味不明な文章になっとるがなw』
そのシュールさのせいか、コメント欄もよくわからない会話になってるし。
「オオオオン」
「ゴアァァァ!!」
ペチペチと蔦で殴り付けるレタスに、鉤爪を使って叩き伏せようとするドラコ。
一見拮抗しているように見えるけど、体力ゲージの減りは明らかにレタスの方が早い。
この調子なら、普通にドラコが押し勝ちそうだ。
「うーん、これは勝ったね!」
『お、そうだな』
『見事なフラグを建築するクレハちゃん』
『これはあと一歩のところで新しい挙動が出てくるパターン』
『言うてクレハちゃんだしどうにかなるでしょ(偏見)』
『それもそうだな(予言)』
「みんな本当に私をなんだと思ってるの?」
ぶっちゃけもし本当に予想外のことが起きてピンチになったら、どうしようもないからね? 今回はドラコしかいないから、突破されたら助けてくれる仲間もいないし。
「オオオオン!!」
そんなこと言ってたら、本当にレタスが新しい挙動を見せ始めた。なんと、蔦の各所からトマトやナス、ピーマンなどの野菜を生やし始めたのだ!!
……いや、なんで!? 君レタスじゃなかったの!?
「オオン!!」
そして、そのまま生やした野菜をポイポイと投げ付けて来た。
遠距離攻撃なんて聞いてないよ! でもまあ、あまり早い攻撃でもないから、急いでドラコの後ろに隠れればどうにかなる。
そして、ポコポコとドラコにぶつかる野菜の雨。
少し不安だったけど、大したダメージもなさそうだし、平気みたいだね。
「グオォ」
……と思ったら、ドラコは自分にぶつかって地面に落ちた野菜を、夢中になって食べ始めた。
こらっ、ドラコ! 拾い食いしたらお腹壊すよ! ぺっ、しなさい、ぺっ!
ていうかそれ以上に、今は戦闘中だからー! 戦ってくれないと私が死ぬー!
「オオオン」
「ひえっ、こっち来た!?」
ドラコが野菜に夢中になっている間に、レタス本体が私を襲うべく突進してきた。
ヤバいヤバい、このままだと本当に私が死ぬー!
「ブモォォォ!!」
そう思っていたら、突如私を追い越してレタスに突っ込んでいくサイが一頭。
レタスに突進をかまし、その勢いを止めるどころか押し返す姿にほっと息を吐き……っていうか……。
「ゴンゾーじゃん!? どうしてここにいるの!?」
君探索行ってたはずだよね!? 探索終わったとしても、一度ホームに戻るはずじゃ!?
そう思って慌ててメニューからモンスターの状態を確認したら、ゴンゾーはまだ探索中になっていた。
えっ、てことはこれ、探索中モンスターの支援攻撃? 自分が探索に出したモンスターが支援に来ることなんてあるんだ
『なんという神憑り的なタイミング』
『さすがはクレハちゃんのモンスター、有能』
『でも探索中の支援は一回こっきりだろ? もう打ち止めでは』
そんな視聴者コメントの通り、一度レタスをぶっ飛ばしたゴンゾーはそれで満足したのか、ドラコと一緒に落ちてる野菜を食べ始めた。
ゴンゾーお前もかー!
「オオオン!!」
そして再び襲い掛かる、レタスによる野菜投げ。
ドラコにはほとんど通じなくても、私が食らったら即死するだろうその攻撃が目前まで迫り──!
「キュオオオ!!」
今度はピーたんが現れ、私にぶつかりそうだった野菜をキャッチし、そのまま飛び去って行った。
……え、何今の。攻撃でもなんでもないんだけど、それで終わり?
『今のまさか、採取行動……?』
『え、そのレタスが投げる野菜、イベントアイテムなの?』
ピーたんの行動を見て、なにやら視聴者から思わぬ予想が飛び出した。
試しに、ドラコとゴンゾーが食べてる野菜の一つを拾ってみると、《傷んだ桜トマト》の名前が。
……本当にイベントアイテムだったんだね、これ。
「ってことは……このレタスに延々野菜投げを続けさせれば、イベントアイテム取り放題ってことだよね!?」
『いや草』
『どうやって投げさせるんだw』
『ドラコが動いてくれない今、物理来たら今度こそ終わりだぞ』
「ふっふっふ、こういう時のための杖だよ!! 《炎精霊の杖》、発動ーー!!」
このスキル、CTが軽く三分くらいあるからあんまり使いたくないんだけど、今使わずにいつ使うって話だからね。
筋力が下がれば物理攻撃の頻度は減るし、知力が上がれば特殊攻撃の頻度が上がる。ドラコと戦った時に学んだ知恵だ。
さあ、良い感じのステータス変動、来い!!
・レタスカイザー、《筋力ダウン(極大)》、《知力アップ(中)》
・ドラコ、《防御アップ(極大)》
「よし来たーーーー!!」
『めっちゃくちゃ狙い通りのステータス変動起こしてて草w』
『神引き過ぎるw』
杖の効果で、見事物理攻撃の威力減衰に成功したことで、予想通りレタスはひたすら野菜投げを行ってくる。
それを、私はドラコの懐に隠れてひたすらやり過ごし、落ちた野菜をせっせと拾い集めていく。
攻撃に使われた後だからか、そのほとんどは傷んでいてポイントとしては美味しくないんだけど、傷まずに落ちてきた野菜もそこそこあったから、これで一気にポイント稼げるね。
「オオオン!!」
「ゴアァァァ!!」
そうしてひたすら野菜集めを続けることしばし。
レタスにかけられたデバフ効果が消えるのと時を合わせ、ようやく満腹になったらしいドラコが戦闘に復帰する。
お腹が膨れて力が漲っているのか、散々野菜をぶつけられていた痛みなど感じさせない迫力を見せるドラコに対し、心なしかレタスが怯えているようにも見えた。
「ゴアァァァ!!」
そして放たれる、ドラコ渾身の《バーニングフレア》。
圧倒的火力を誇るその一撃がレタスに直撃し、こんがり焼きレタスになったところで──
私の初めての樹海攻略は、無事に終了と相成ったのだ。




