第五十三話 ドラコ VS 森のモンスター軍団
「さあ、今晩はでっかい獲物ぶっ倒すぞーー!!」
『こんばんはー』
『なんかやけに気合い入ってるな、クレハちゃん』
『どったの、なんかあった?』
休憩として晩御飯を食べた私は、再びTBOに舞い戻って来た。
自棄っぱちみたいに叫んだら、視聴者のみんなに心配されちゃったけど、別に大した事情なんてないよ。
みんなに貢がれるだけでトップに立つなんて微妙だから、ちゃんと私自身も野菜集め頑張らなきゃなって思ったのと、後は……。
「お姉ちゃんが仕事で忙しくて今晩は帰って来れないかもって、一緒にご飯食べれなかった。むぅ」
『お姉ちゃんに会えなくて寂しかったのか』
『お姉ちゃんっ子かわいい』
『クレハちゃんかわいい』
『元気出せ、クレハちゃんには俺らがいるぞ!!』
『お前らがいてもなぁw』
頬を膨らませて不機嫌さを露わにしていると、視聴者のみんなは口々に励ましてくれる。
いや、一部かわいいかわいい連呼してるだけの人もいるけど、賑やかだと寂しさも少し紛れるのは確かだからよしとしよう。
「まあそういうわけで、今晩は《深淵の樹海》エリアに行くよ。ドラコが初めてフィールドワークにやる気出してるから、強さの確認も兼ねてねー」
「ゴアァ」
第二の町周辺で一番有名なレベリングスポット、《深淵の樹海》。
昼間にやってた《迷いの森》よりずっと敵のレベルが高くて、あそこの金のカモネギ(なんかユニーク個体だったらしいね。結構出て来たけど)くらいの強さの敵が基本になって来る。
流石に昼間の面子で来るのはちょっと悩む場所だけど、うちで現状最強のモンスターであるドラコがいれば、きっと何とかなるでしょ。
ボスだった頃よりは弱くなってるし、この子一人しか連れてないのが懸念事項だけど……そこはまあ、後ろ目で眺めてれば大丈夫なはず。
「さーて、何が来るかなー……と言っても、このイベント中は大体カモネギバードだけど」
『他のモンスターが出ないわけじゃないけどね』
『ダイヤビーとかタイラントベアとか出るよ』
『どっちも中々強くて厄介。倒せば経験値美味しいけどね』
「へ~」
ダイヤビーはダイヤモンドみたいにキラキラした蜂のモンスター。高い耐久と素早い動きでプレイヤーを翻弄しつつ、数の暴力でチクチク攻撃してくる厄介者。
タイラントベアは、一言で言えば大きな熊のモンスター。筋力も敏捷も防御も全てが高い水準で纏まっていて、ユニークを除けば樹海最強のモンスターなんだって。
「じゃあ、カモネギバードを狙いつつ、その二種類のモンスターにも気を付けなきゃねー」
『おう、そうだな』
『今クレハちゃんの目の前に全部いるけどな』
「えっ」
元々樹海エリアは薄暗くて前が見づらかったのと、今はコメントを見るのに夢中になってたから気付かなかったけど、確かに目の前には凶悪な熊さんとピカピカの蜂さん軍団がずらりと並んでいた。
ついでに、その隙間を埋めるようにカモネギバードもちょろちょろと。
いや、うん。ちょっと多くない? モンスターハウスにでも突っ込んじゃった?
「ゴアァァァ!!」
これは逃げた方がいいのでは。いや、逃げる足もないんだけど。
なんて考える私を余所に、ドラコが単身、モンスターの群れの前に一歩踏み出した。
い、いくらドラコでもこの数を相手に厳しいんじゃ? 大丈夫かな?
『ドラゴンVS森のモンスター軍団~カモネギを添えて~』
『果たしてどうなるか』
『ワクワク』
「呑気だねみんな! ええい、ともかく私もやるしかないか、《応援》! それと、《炎精霊の杖》起動!!」
ともかく、目の前のモンスターを倒さなきゃ始まらない。
というわけで、私に出来る限りの支援をドラコに施す。
応援によるステータスアップ、それに杖の効果で《炎属性攻撃アップ(小)》《防御アップ(小)》がついたから、ひとまずよし。
出来ればもう少し上の強化を施してあげたかったけど、ステータスダウンもあり得たことを思えば全然良い方だろう。
後はドラコの頑張りに期待するだけ……!!
「ビビビ」
そんなドラコ目掛け、蜂さん軍団が突っ込んでくる。
頑丈な防御と高い敏捷に任せた突撃は、私じゃあ目で追うのも難しい。
それに対して、ドラコは。
「ゴアァァ!!」
翼を広げ、ふわりと飛翔。それと同時に、《バーニングバスター》のスキルで次々と炎のブレスを撃ち放った。
紅蓮の炎が雨となり、不用意に飛び込んで来た蜂さん軍団に降り注ぐ。
森を焦土に変えんばかりに激しいエフェクトを撒き散らすその攻撃がひと段落つく頃には、蜂さん軍団は綺麗さっぱりいなくなっていた。
……あれ、あの蜂さん軍団、防御高いんじゃなかったっけ?
「グルォォ!!」
そんな炎の攻撃を掻い潜り、続けて迫って来たのはタイラントベア。
丸太みたいに太くて大きな腕を振り上げ、着地したばかりで無防備なドラコへとその爪を振るう。
やばい、これは躱せない! ……と、そう危機感を抱いたんだけど。
「……グルォ?」
ガキンッ! と硬質な音を響かせ、タイラントベアの爪を真っ向から受けて平然と佇むドラコがそこにいた。
ダメージは流石に受けてるんだけど、全体の体力からすれば全然微々たる量。
無傷と言って差し支えないレベルだ。
「ゴアァ!!」
そして、お返しとばかりに放たれる、ドラコの《切り裂く》攻撃。
丸太どころか大樹の幹よりなお太く大きな鉤爪の一撃を受けて、熊さんは大きく吹き飛ばされる。
「ゴアァァァ!!」
そこへトドメとばかりに放たれる、《バーニングフレア》。炎のブレス、単発攻撃。
それによって、熊さんの体力は綺麗さっぱり消し飛ばされ、見事熊の丸焼き……は出来ないけど、文字通り消し炭にしてしまった。
え、なにこれ。うちのドラコ強すぎない?
「ク、クワ……」
「クワーッ!!」
「あ、逃げた」
圧倒的な強さを見せるドラコに恐れをなしたのか、最後に残っていたカモネギバード達が一斉に逃げ出す。
その野菜が一番重要なアイテムなのに! と思っていたら、ドラコはそんな彼らにも容赦なく炎を吐いた。
「ゴアァァァ!!」
「クワッ!?」
「ク、クワーッ」
しかしその炎はカモネギバード達本人は焼かず、その周囲を囲うように地上を燃え上がらせる。
あれ、このスキル、ティアラちゃんとこのルビィが使ってた《フレアサークル》だよね? なんでドラコが覚えてるの? いつの間に?
「グルルル……」
疑問を覚える私を余所に、炎に囲まれ逃げ場を失ったカモネギバード達に迫るうちのドラコ。
口の端から炎を漏らし、唸り声を上げて獲物を睨むその姿は、もはや炎の死神みたい。
カモネギバード達もよっぽど恐ろしいのか、身を寄せ合って震えている。
いや、君たちそんな挙動あったのね。
「クワ、クワ……」
「クワクワー!」
そして、恐怖の末にカモネギバード達は自らその手に持っていた野菜をその場に置き、一目散に逃げ出した。
野菜を手放した時点で撃破された扱いにでもなるのか、カモネギバード達はドラコの作った炎の壁をなかったかのように素通りし、樹海の奥へと走り去っていく。
「ゴアァァァァァ!!」
そんなカモネギバード達を追うこともなく、勝鬨の咆哮を上げるドラコの姿は、まさに王者と言わんばかり。
それに対して、ずっとだんまりだった視聴者達は、簡潔なコメントを残していった。
『【悲報】森のモンスター軍団、ドラゴン相手に手も足も出ず』
『ドラゴン強すぎて草』
『もうこのモンスター連れてる時点でクレハちゃんがトッププレイヤーであることに誰も疑問持たないでしょ……』
うん。
今回ばかりは、私もちょっとそう思った。




