第五十二話 初日の成果と貢ぎ盛り
「さあ、今日の戦果お披露目と行くよー!」
モッフルに乗って移動しながら、たぬ吉とチュー助のタッグでカモネギバードの野菜アイテムを掠め取る流れで半日駆けずり回り、今現在は日も傾いた夕暮れ時。
一旦休憩に入るべく、私はホームへ舞い戻っていた。
ちょうど、他のみんなも探索から帰ったみたいだし、今日集めたアイテムとそのポイント換算を発表して一日を締めようと思う。
『おー』
『待ってました!』
『めちゃくちゃサクサクアイテム奪い取ってたからな、結構集まったんじゃね?』
『探索の方も、いつもかなり大量に集めてたし、今回もヤバそう』
『いやでも、全員戦闘タイプの探索だろ? 流石に控えめなのでは?』
『楽しみ』
みんなもワクワクと結果待ちしてくれているようなので、私は探索に出ていた子達からアイテムを回収し、フィールドワークで集めた分と合わせてカウントに入る。
インベントリの枠は一つ99個までだし、野菜の種類ごとに枠を使うので若干数えにくいんだけど……まあ、そこは電卓機能を呼び出してと……。
「えーっと……特級の野菜が32個、上質な野菜が28個、それと……普通の野菜が216個、傷んだ野菜が389個。だから、えーっと……イベントptは、今日一日で2389ptです!!」
『『『…………』』』
「あれ、みんなどうしたの?」
あれだけ予想で盛り上がってたから、何かしらリアクションがあると思ってたのに。だんまりなんてどうしたのかな?
そう思ってたら、そこから一気にコメントが流れ出した。
『待って待って待って、いくらなんでも多すぎでしょ』
『なんでそんなに集まるの!?』
『クレハちゃんがフィールドワークで手に入れたのってほぼ特級と上質だけだったよね。え、戦闘モンスター四体の探索で500以上のアイテム集まったの!?』
『おかしい、絶対におかしい!!』
『そもそも特級がそんなに出るのもおかしいんだけど、そこはまあクレハちゃんだから良しとしよう』
『それにしても普通の野菜多すぎでしょ!?』
『俺なんて野菜の総数でも100行かないぞ……ポイントにしたら1000どころか500にも届かん』
『そんなもんだよ、普通……』
どうやら、私の集めたアイテムの量は常識外れだったみたい。
特級の数は私だからしょうがないっていうのがよくわからないけど、みんなが驚いてるのは特に野菜の物量なんだって。
「うーん、それについては、一応通知でそれっぽい理由が来てるんだけど……なんか、うちの子が探索中に、色んな人からイベントアイテム分けて貰ってたみたい」
探索終了時、うちの子にアイテムをくれた人の名前は、通知欄に表示される。
でも、その通知の量が本当にヤバい。みんな、イベント初日だよ? なんでよりによってイベントアイテムをそんなにくれるの?
『あ、あー……』
『そういうことか……』
でも、なんか視聴者のみんなはそれで納得したらしい。
ちょっと、私はわからないんだから、自分達だけわかってないで教えてよ!
『まず前提として、クレハちゃんは我らが幸運の女神である』
「うん、前提からしておかしいけど、続けて?」
『クレハちゃんのモンスター、少し前から話題だったんだよ』
『アイテム譲渡すると、それよりレアなアイテムを高確率でくれるって』
『それで、一部レアアイテムの採取クエストで沼ってる奴とか、単に話題に乗っかりたい奴がこぞってクレハちゃんのモンスターに貢いでた』
「あー、最近やたらと譲渡通知が来ると思ってたら、それが理由で……ていうか、そんなにうちの子ってレアアイテム拾ってるの?」
このゲーム、具体的にレア度の表記がされてるわけじゃないからよくわからないんだけど。
『めっちゃレア集めてる』
『実は俺も譲渡したことあるけど、ただの薬草がレアキノコになってビビったし』
『マンドラゴラとか当たり前に持ってるよな……』
「あのキノコ、たぬ吉が結構気に入ってるからね」
この前も、桃色キノコと一緒にシチューの材料にしたし。
と言ったら、視聴者みんなにドン引きされた。ホワイ?
『レアアイテム引き過ぎてクレハちゃんの感覚バグってんな……』
『まあクレハちゃんだし』
「よくわかんないけど、話が逸れてるよ! それで、何がどうしたらそこから今回の件に繋がるの?」
『おっとそうだった』
『要するに、傷んだ野菜やら普通の野菜をクレハちゃんに貢げば、高確率で上質だったり特級の野菜に交換して貰えるわけだ』
『傷んだ野菜が特級になれば、ポイント二十倍だしな。下がることほぼないなら貢ぐ以外に選択肢なぞない』
『そんなわけで、探索に出てるクレハちゃんのモンスターを見付けたプレイヤーは、ほぼみんな持ってるアイテムをくれたわけだ』
『一番余ってる普通だったり傷んだ野菜をな』
「な、なるほど」
うちの子が持ち帰ったアイテムが多い理由はわかったけど……まさか、そんな事態になってるとは思わなかったよ。
それで、塵も積もれば、みたいなノリでやたらといっぱい野菜が集まったのか。
『これ、下手すると全プレイヤーで総合トップ狙えるんじゃ……?』
『レベル1でトップか、出来たらすごいな』
『よし、俺らもクレハちゃんに貢ごうぜ!!』
『もう貢いでる俺に死角はなかった』
「嬉しいけど、無理しなくていいからね!? みんなも欲しいアイテムあるでしょ!?」
イベントアイテムだよそれ? 貢ぐ前に自分のポイントにしようよ。
『いや、そもそも傷んだ野菜が特級に化ける可能性クソ高いガチャなら、俺らとしても引かない方が損なんだよな……』
『クレハちゃん一人飛び抜けても、俺らの順位なんて大して変動ないしな』
『むしろ楽しいからもっと引き上げたい』
『やらない理由はないぞ』
「う、うーん……? そういうもの……?」
確かに、言われてみればみんなにはさほど損はないよね。貢いだ以上のリターンはあるし。
だったら他のプレイヤーには貢がないのかと聞いたら、イベントアイテムですらない石ころや薬草になって返ってくる可能性も高いから嫌だそうです。
そ、そうなんだ。
『よーしお前ら、俺らの力でクレハちゃんをトッププレイヤーにするぞ!!』
『『『うおーーー!!』』』
「ねえみんな、本当に元取れてるんだよね!? 探索中のことは私何も干渉出来ないから、ダメでも怒らないでね!?」
盛り上がるコメントを眺めながら、私はなんとも複雑な気分で天を仰ぐ。
なんか、本当にトップに押し上げられそうな雰囲気になってるけど……こんな形で上位に入って、怒られたりしないよね? 大丈夫?
そんな不安な気持ちを抱き、少し怖くなりつつも……なんやかんやで、休憩前にちゃっかりみんなを探索に出しておくのだった。




