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第四十七話 イベント準備と料理人クレハ

「さて、イベントと言っても、何を準備しようかなー」


 所変わってTBOのゲーム内。イベントの開催が目前に迫った中で、私は自分のホームでお茶を啜りながらまったりと考え込んでいた。


 ティアラちゃんがデザインしてくれた、私の家。

 資金がギリギリだったからサイズとしては小さいけれど、木造の壁は目に優しく、料理をするためのキッチンに加え、庭へと続くテラスが備えられた解放感のある作りはモンスター達と過ごす空間としては申し分ない。


 みんなも気に入ってくれたのか、庭ではポチとゴンゾーがどつき合うような重々しい音を立てながらじゃれ合い、お昼ご飯を独り占めしようとしたチュー助をたぬ吉が追いかけ回し、その隙をついてモッフルとピーたんは食後のおやつを根こそぎ食べてしまっていた。

 なお、ドラコは一人チュー助がどこからともなく採って来た《虹色鉱石》を鑑賞しながらゴロゴロしている。


 ……うん、平和だなぁ。多分。


「まあ、せっかくならこれを活かせるスキルとか欲しいけど……」


 そう呟きながら空に掲げるのは、この前ドラコとの戦いで入手した《炎精霊の杖》。私としてはドラコに返したつもりだったけど、テイムしたら使ってくれとばかりに再度貰ってしまったものだ。


 この杖のお蔭で、経験値が取得出来なくなるというデメリットと引き換えに、これまで魔力不足でテイム以外のスキルが使えなかった私でも、他のスキルが使えるようになった。


 と言っても、現状私が使えるスキルはテイム以外だと《応援》と《調合》くらいなんだけどね。


「まあ、《応援》も使い方次第では強いみたいなんだけどねー」


 思い出すのは、ドラコとの戦闘の最中、ティアラちゃんの《応援》によって、ルビィの《デコイ》スキルで生まれる囮の幻影の数がやたらと多くなったこと。

 《応援》は最初に覚えられるスキルで、効果は「対象モンスターの筋力と知力を上げる」なんだけど、どうもそれ以外にも隠し効果があるらしく、全容はまだ判明してないらしい。


 私にそれを見付けられるかと言われれば、そんな気はしないけど。


「んー……まあ、難しいことはいいや! 私はいつも通り行こう」


 色々考えた末、私はそう結論付けた。

 私が新しいスキルをいくつも習得したところで、使いこなせるわけがない。ぶっちゃけ、うちの子が持ってるスキル内容も全部把握出来てないし、把握しても実戦の中でまともに指示飛ばせないし。


 いつも通り、うちの子の有能さに賭けて頑張って貰おう。丸投げとも言う。


「ほらみんなー、喧嘩しないのー、ご飯ならまた作ってあげるからー」


 そういうわけで、そろそろ現実逃避を止めてパンパンと手を叩けば、モンスター達はそれまでの争いをやめてぞろぞろと集まって来る。

 現金だね君達。え、ドラコはご飯よりお宝がいいって? うん、この後みんなを探索に出すから、持ってきて貰えることを期待してね。


「さて、何作ろうかなー」


 インベントリのアイテムを眺めながら、追加で作る料理の内容を考える。


 とはいっても、さっき食べさせてあげたばっかりだし。余り物のアイテムで我慢して貰おう。


「えーっと……お、なんか珍しいキノコがある。それに……ミルク? ピーたんが採って来た野菜もあるし、これでシチューにしようかなー」


 《特級厳選桃色キノコ》って、なんか変な色だし毒とかあるんじゃないかって心配になるけど、特にそんな説明文もないし、大丈夫でしょ。

 あと、《アークミノタウロスの乳》に《飛翔キャベツ》にと……これでよし!


「ふんふふんふふーんっと♪」


 ホームに設置された大鍋にポイポイと食材を入れ、料理スキルを使った簡単調理。

 リアルみたいにあれこれ手間をかけなくていいから比較的楽ではあるけど、ちょっと物足りなさもあるのはご愛敬。


 みんな待ってるし、早さは正義だ。まあ、一つずつしか作れないから、それでも時間かかるんだけどね。


「よーし、出来た! はいみんな、お待たせー」


 というわけで、出来上がったシチューをみんなに振る舞うべく、大鍋を抱えて庭に出る。ちなみに、持ってる鍋は一つだけど、料理の個数としては二十個分だ。


 同じ料理だといくつ作ってもこんな風に運べるのは便利だけど、物理法則ってなんだっけ?

 まあ、ゲームだから細かいことは気にしてたら負けなんだけどさ。


 そんなことを考えながら、ドデカイ鍋からいくら掬ってもなくならない魔法のシチューをお皿に移して配膳していけば、みんながっつくように食べ始めた。


 さっき食べたばっかりなのに、どんだけ食い意地張ってるのようちの子達は。


「まあ、元気に頑張ってくれればそれでいいんだけどねー」


「ポン?」


「あはは、こっちの話こっちの話」


 一番近くにいたために私の呟きが聞こえたのか、首を傾げるたぬ吉を軽く撫でる。


 そんなことをやりながら、しばし。

 お皿どころか鍋の中まで空っぽになるまで食べつくし、ようやくみんな満足したのか、ご満悦な表情でゴロゴロしだした。

 可愛い。じゃなくて。


「ほらみんなー、たくさん食べたら次は運動の時間だよ。イベントに向けてレベル上げたりスキル覚えたり、色々やることあるんだからねー」


 私自身はレベルを上げるつもりがないからこれを言うのもなんだけど、みんなを強くするためなら協力を惜しむつもりはない。


 というわけで。


「さあみんな、私と一緒にフィールドワークに出たい子は手を上げてー! 先着三名早い者勝ちだよー!」


 私がついてフィールドワークする子三体と、探索に出る子四体。これでアイテム集めとレベル上げ、スキル収集を行う。


 探索に出た方がアイテムが集まるし、運よく他のプレイヤーと出くわせばスキルを覚えられるかもしれないけど、レベル上げをするならフィールドワークの方が効率が良い。


 私がついてることの利点は無きに等しいけど、《応援》スキルで援護だって出来るようになったしね、さあ、みんなこの指止まれー!


「ポン」

「フワフワ~」

「キュオオ」

「グルル」

「チュー」

「ブルル」

「ゴアァ」


 手を掲げて宣言する私を余所に、一斉に探索に出ていくモンスター達。どうやら、私と一緒にフィールドワークしてくれる子は誰もいないらしい。


 ……もしかして、みんなも私のこと、単なる料理人だと思ってない?


 頭を過る可能性を否定する根拠が何一つない現状に、心の中で涙しつつ。

 仕方ないので、その日の私はみんなが帰って来るまで、余り物のアイテムでひたすら料理を作ることに邁進するのだった。

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