第三十一話 採掘作業の光と闇?
「よいやさー、ほいさー」
陽気な歌を口ずさみながら、リズミカルにピッケルを振り下ろす。
カァン、カァンと甲高い音を響かせて、岩場からポロポロと鉱石アイテムがドロップする。
そうしてある程度山になったそれを指先で触れると、纏めてアイテムとしてインベントリに収納された。
石ころ×2
鉄鉱石×8
銅鉱石×3
銀鉱石×6
紫水晶×1
紅玉×1
「おー、順調……なのかな?」
手に入ったアイテムを見ても、正直何がレアで何がそうじゃないのか、私には判断する知識がない。
そこで、ひとまず今回受けた採取系クエストの内容を確認することで、必要数にどれだけ足りないかチェックすることに。
クエスト:腰痛鉱夫からの依頼①
内容:鉄鉱石20個の納品
クエスト:腰痛鉱夫からの依頼②
内容:銅鉱石20個の納品
クエスト:金持ちドラムの宝石趣味②
内容:紅玉3個の納品
クエスト:金持ちドラムの宝石趣味③
内容:紫水晶3個の納品
クエスト:細工職人の緊急依頼①
内容:銀鉱石10個の納品
一人が一度に受けられるクエストは全部で五つ。パーティで受けると人数分増えていく。
フリークエストだからか、ナンバリングされてるのに①から順番にしか受けられないということはなく、また一度達成したから二度と受けられないというわけでもない。
そんなわけで、私達が受注したクエストは全部で十五個もあるんだけど、今拾ったアイテムに関係するのはこの五つだ。
石ころがハズレっぽいけど、まあ順調と言っていいんじゃなかろうか?
『採掘ポイント一つから宝石系二つも……やっぱ運いいなクレハちゃん』
『普通はこんだけ掘ったら三割くらいは石ころだぞ』
「そうなの?」
視聴者のみんな曰く、これはかなり幸先がいいらしい。
それなら、胸を張って二人に報告出来るかな?
「ねえ二人とも、調子は……」
そう思いながら振り返ると……。
「《ライトニングストーム》!!」
「────!?」
ペガサスに乗ったまま、上空から雷の竜巻を起こしてゴーレムを殲滅していくスイレンの姿がまず目に入った。
ゴーレムじゃ絶対に手が出せない空の上から圧倒的火力で蹂躙する様は、確かに《天雷》の名に相応しい活躍ぶりだ。
活躍しすぎて、何ならうちのポチが完全に暇を持て余して昼寝してる。
うん、視聴者のみんなから聞いたモンスターごとの作戦設定っていうので、《敵を見付け次第攻撃》にしてるんだけど、見事にやる気ゼロだね。
まあ、スイレンのアレに飛び込んだら巻き込まれそうだし、仕方ない……のかな?
このゲームにフレンドリーファイアはないから、気にする必要ないんだけどね、本当は!!
「うん、スイレンは忙しそうだからティアラちゃんとこ行こう。おーい、ティアラちゃ……」
うちのおサボり中なポチとスイレンは一旦置いといて、一緒に採掘に勤しんでいたはずのティアラちゃんへと声をかける……も、それは途中で中断された。
なぜならそこには、相棒のルビィが灯す尻尾の炎でも照らせないほどの深い闇を背負って落ち込むティアラちゃんの姿があったからだ。
「えっ、ど、どうしたの!? 何かあった!?」
「クレハちゃん……私、役立たずでごめんなさい……ふえぇ……」
「いや本当にどうしたの!?」
ひとまずティアラちゃんを落ち着かせて事情を聞くと、どうやら採掘によってドロップしたアイテムに問題があるらしい。
手慣れた様子で採掘してたし、結構貯まってるのかな、と思いながら可視化されたインベントリの中を見せて貰うと……。
石ころ×60
「…………」
『こ、これはひでえ』
『どうしてこうなるのw』
『いやいや、聳え立つ試練の採掘場だぞ? どんだけ運悪くても半分は鉄鉱石くらい出るだろ』
『ティアラちゃん不憫過ぎて草』
『圧倒的過ぎる不運に笑うしかない』
「ふえぇ……!! やっぱり私ダメな子だぁ……!!」
「あー、落ち着いてティアラちゃん!! ほら、石ころにもきっと使い道はあるから!! ……あ、あるよね?」
私が何も言えない中、あっさりとトドメを刺してくれた視聴者に、どうにかフォローをとお願いする。
が、その瞬間シーンと静まり返るコメント欄。こらー! 逃げるなー!
「うー、まあほら、ティアラちゃんは採掘ポイントの探知とかで活躍してるし! 運だけなら私がいくらでもフォローするから元気出して? ね?」
「う、うん……ありがとう、クレハちゃん……」
ありがとうとは言うものの、ティアラちゃんの元気は中々戻らない。
仕方ない、ここはとっておきを用意しますか!
「ティアラちゃん、はいこれ、あげるね」
「ふえ?」
私は首から下げていた装備品──《幸運の首飾り》をティアラちゃんの首にかける。
ぶっちゃけ大した効果もない、幸運を上げるだけの装備品だけど、気休めにはなるんじゃないかな。
お婆ちゃんに薬を届けたお礼に貰った奴だから、あんまり人にあげるのもなーとは思ってたけど、ティアラちゃんならいいだろう。
「いや、えっ、そ、そんな、こんな限定装備貰うわけには……!」
「いいのいいの、私にとってはただの飾りみたいなものだったし。ついでにこうして、と……」
慌てるティアラちゃんを制しながら、私は首飾りを両手で私の胸元へ持っていく。そして、
「ティアラちゃんに良いことがたくさんありますように」
目一杯の想いを込めて、そう祈った。
「ふえ、あっ、はわ、なにを……!?」
「えへへ、ほら、私運が良すぎてみんなから『ご利益ありそう』なんてよく言われるからさ。そんなものが本当にあるなら、私はティアラちゃんにあげたいなーって」
「ふえぇ!?」
お姉ちゃんが前に言ってたけど、運なんて案外、本人の心持ち次第でいくらでも変わる。
悪いことばかりだと思ってれば何が起きても不幸に感じるし、逆に良いことばかりだと思ってればどんな出来事も幸運になる。
だから、こんなしょーもない祈りになんの効果もないだろうけど、ティアラちゃんが少しでも前向きになれたなら嬉しいな。
と、そんなことを考えてやったんだけど。
「そ、そんな……私“だけ”に、なんて……う、嬉しい……クレハちゃん、私のために……」
「ん?」
なんか微妙にニュアンスが変わってるような……まあ、気のせいかな?
『あかん、運気の前にティアラちゃんがやべー方向に振りきれてきたぞ』
『修羅場の気配』
『果たしてこの事態にスイレンはどうするのか』
「え、なんでスイレンの話が……?」
「あーーー、ズルーーーイ!!」
「ぶへらっ」
視聴者コメントに首を傾げる私へと、スイレンが突っ込んできた。
ちょ、いきなり抱き着かないでよ、今のフレンドリーファイアがあったら私死んでたからね絶対!?
「クレハ、私にもそんなことしてくれたことないのにー、ティアラちゃんだけ特別扱いはずるいよ!」
「いやだって、スイレンは私のご利益なんてなくても強いじゃん」
「えー、じゃあご利益はいいからご褒美ちょうだいよ、さっきからクレハのこと守ってあげてるんだからさ」
「ご褒美って、何がいいの?」
なんだかこのままだと離してくれなそうな気配を感じたから、試しに聞いてみる。
すると、スイレンは少しだけ考えた末、いつもと同じ悪戯っ子の表情で思わぬ要望を口にした。
「じゃあほら、ちゅーしてちゅー。幸運の女神のキス、ご利益もありそうだし欲しいなー?」
「ああ、そんなことでいいの? じゃあ早速」
「えっ」
なぜか逆に驚いた反応をするスイレンへと、私は顔を寄せていく。
幸運の女神のキスになるかは知らないけど、まあほっぺにちゅーすれば納得してくれるかな、なんて思っていると……。
「だ、だめー!!」
突如間に割り込んできたティアラちゃんによって、それは唐突に中断された。
驚く私に、ティアラちゃんは少しだけ慌てた様子で視線を彷徨わせ……すぐに、意を決して口を開いた。
「い、いくらスイレンさんがクレハちゃんの一番の友達だったとしても……クレハちゃんはあげません!!」
ひしっ、と私に抱き着きながら、がるるー、と可愛らしく威嚇するティアラちゃん。
え、何これ、どういう状況?
「えっ、何この子、めっちゃくちゃクレハに懐いてるし……可愛い。まとめて食べていい?」
そしてスイレンはスイレンで、なんだかハアハアと息を荒くしながら、謎の圧を放ってティアラちゃんをビビらせていた。
いや、本当に何なのこの状況!?
『修羅場は修羅場なんだけど俺が思ってたのとなんか違う』
『スイレンが完全に変質者な件』
『通報した方がいいのでは?』
『いいぞもっとやれ』
コメント欄もなんだか混沌としていく中、私はただひたすらに困惑を深める。
呆然とする私を、なぜか庇うように前に出たティアラちゃんは、スイレンに向かって宣言した。
「わ、分かりました、ならこうしましょう……私が今回、スイレンさんより活躍出来たら、クレハちゃんは諦めてください! 代わりに……わ、私は食べていいですから!!」
「うん、オッケー。勝敗の判定はクレハに任せた!」
「軽っ!? というか食べるってなに!? しかも私が審判!?」
こうして、すさまじく軽い調子でスイレンが了承したことにより……私にとっては何がなんだかわからない、謎の勝負が幕を開けるのだった。




