第二十九話 百合配信と金策方針
スイレンが私の想像以上に有名人だったという衝撃の事実を経た後、無事ティアラちゃんとのフレンド登録も三人でのパーティ申請も終わり……そして……。
「ああ~何この子! ちょっと幸薄い感じがまた可愛い……!」
「はわわわわ……!?」
思いっきり、ティアラちゃんがスイレンの獲物と化していた。
人目も憚らず(と言っても移動したからそこまでじゃないけど)頬擦りするスイレンのテンションに、ティアラちゃんは困惑しきりだ。
「ほらスイレン、ティアラちゃん困ってるでしょ、私じゃないんだから少しは遠慮して」
「おっとそうだった、可愛い子を見るとつい癖で。ごめんねティアラ」
「い、いえ、私は全然……!」
パッと体を離したスイレンに、ティアラちゃんが慌ててフォローを入れる。
そんな中で、視聴者のみんなは違うポイントに注目していた。
『いや待って、今さらっと私じゃないんだからって言った??』
『普段二人でこんなことしてんの?? 何それ尊い……尊い?』
『スイレン見事なロリコンムーヴかましてたからどっちかというと通報案件では』
『だがそれがいい』
「……そうなの?」
なぜかコメントを見たティアラちゃんまでもが詰め寄ってくる展開に、私はどう答えたものかと少し迷う。
とはいえ、誤魔化してどうなるものでもなし、結局は正直に伝えることに。
「うん、スイレンは学校でいつもベタベタしてくるんだよ。意外だった?」
『スイレンがこんなキャラだったのは意外』
『普段の配信は結構なガチプレイヤーだからなぁ』
『いやそんなことよりスイレンとクレハちゃんが同じ学校という情報が何より意外というか驚愕なんだが??』
『小中高一貫校なんじゃね』
『納得した』
「納得するなー! 私は高校生だって言ってんでしょー!」
前にもちゃんと言ったのに、まだ信じてくれてないの!? 全く、いくら小さいからって失礼な!
ていうか、小中高まで全部同じ敷地内にある学校って存在するの? ありそうでなさそうな……うーん。
「ね、ねえ、クレハちゃん……学校で、いつもそうやって抱き合ってるの?」
「え? あーうん、抱き合ってるというか抱き着かれてるというか」
「……嫌じゃない?」
「ううん、別に? 夏だと少し暑苦しいけど、スキンシップは好きだしね」
ティアラちゃんに恐る恐る質問されたので、素直にそう返す。
すると、ティアラちゃんは口をパクパクさせたり視線を彷徨わせたり、急に挙動不審になった。
どうしたのかと首を傾げていると……何かを堪えるように顔を赤くしながら、思い切り私に抱き着いてきた。
「な、なら……わ、私がしてもいいよね!?」
「ああ、うん、いいよ?」
順序が逆では? と思ったけど、まあ細かいことはいいや。
なぜか必死にしがみつくティアラちゃんをあやすようにポンポンと撫でてあげると、嬉しそうにふにゃりと笑顔を浮かべてくれる。
うーん、可愛い。
『なにこれ尊い』
『こっちは納得の尊さ』
『てえてえ』
『スイレンもこの純粋さ見習ってどうぞ』
『てかクレハちゃんモテモテな件』
『うらやま、俺と代わって』
『殺す』
『貴様は越えてはならん一線を越えた』
『天誅』『抹殺』『滅殺』『万死に値する』
私がティアラちゃんの可愛さに癒されている横で、なぜかコメント欄は殺伐とした単語が乱舞していた。
君たち本当にさっきから何をしてるの?
「それでスイレン、金策クエストって、具体的にどんなことやるの?」
「やること自体はシンプルだよ。パーティでクエスト受けて、それをひたすらこなすだけ。出来るだけたくさん効率よく、ね」
「なるほど?」
確かに、やることはシンプルだ。
でも、それだけならわざわざ三人集まらなくてもいいような? と思っていると、そんな私に──ついでに視聴者に向けて──ニヤリと笑みを浮かべてみせた。
「もちろん、ただこなすだけじゃないよ、効率よくってところが重要なの」
「というと?」
「効率よくクエストをこなすなら、複数一気に受けて一度の探索で纏めて達成するのが一番。特に採集系のクエストは稼ぎがいいからそれを中心にするんだけど、アイテムを持てる数っていうのは制限があるからね、どうしても限界があるの。そこで使うのがこちら」
そう言ってスイレンが取り出したのは、大きなリュック。
ポイ、と投げ渡されたそれを受け取ると、詳細情報が表示された。
名称:拡張バッグ
種別:武器
効果:なし
能力:《アイテム所持数拡張》《敏捷低下》
装備制限:プレイヤー
「プレイヤーがそれを装備して、荷物持ちになるの。ただ、それをすると武器枠が埋まって戦えなくなるから……」
「なるほど、それを他のプレイヤーが戦って補うんだね」
「その通り。クレハ正解」
「えへへー」
頭を撫でられ、ドヤッと胸を張る。
やっぱり子供、とかってコメントが流れた気がするけど、気付かなかったことにしよう。うん。
「もちろん、プレイヤーが戦わない前提ならモンスターだけ戦わせるっていうのも手だけどね。クレハみたいな例外を除いて、テイムしたモンスターは指示がないと勝手に戦闘したりしないから、採集荷物持ち担当と戦闘担当で二人いた方が無難ってわけ」
「なるほど、そういうことなんだ」
確かにモンスター達はともかく、私自身は役立たずだもんね。武器枠が埋まると《カースドバスター》が使えなくなるけど、これだって結構博打みたいなものだから普段は使わないし。
「なら、えっと、私も荷物持ちした方がいいですよね……? 戦闘はあまり出来ないですし」
「そうだね、二人で採集しまくって、その護衛を兼ねて私が討伐クエストもこなす。そんな感じの流れ。分かった?」
「りょーかい! それで、受けるクエストはもう決まってるの?」
「もちろん。採集クエストの稼ぎが特に大きくて、クエスト外のアイテムも高めの値段で売れることが多い、ここアドベント周辺では定番の金稼ぎエリア──」
そう言って、スイレンは町の外を指差す。
建物が無数に並び立つ街中において尚、その存在がはっきりと目視出来るそれは、天を衝かんばかりに聳える大きな岩山だった。
「山岳エリア、《聳え立つ試練》。あそこで金銀財宝、ざっくざく掘り当てるよ!」




