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第二十八話 お揃い衣装と意外な事実

「ティーアラちゃーん! あーそぼー!」


 スイレンと一緒に空を飛び回って遊んだ私はその翌日、早速ティアラちゃんのいる曙光騎士団のギルド本部を訪れた。


 夜のうちにフレンドチャットで了承は取ってあるので、後は普通にパーティを組んでスイレンと合流、いつものように配信しながらクエストに臨むだけだ。


「……あれ、出てこない?」


 ところが、いつまで待ってもティアラちゃんが出てこない。


 時間を間違えたかな? と確認しても合ってるし、フレンド欄をチェックした限りここにいるのも間違いない。


 メッセージを飛ばしてみると、少しだけ待って、の返答。

 うーん、じゃあ先に配信だけ始めちゃおうかな。


「みんな、こんにちはー! 今日も張り切っていくよー!」


『おつー』

『一日会えなくて寂しかったわー』

『日々の癒し』

『24時間配信してどうぞ』


「いや無理だから。それに昨日は友達と一緒にペガサスに乗って遊んでただけだしね、攻略も何もしないんじゃ退屈でしょ?」


『クレハちゃんの挙動眺めてるだけで楽しいからええんやで』

『空飛んではしゃぐクレハちゃん見たかった』

『逆にモッフルの時みたいにびっくりして泣いてた可能性』

『涙目クレハたんかわいいprpr』

『通報した』『通報した』『通報した』


 昨日一日配信しなかった反動とでも言うかのように、すごい勢いで流れていくコメント欄。


 こんな風に思って貰えるなら、配信するだけしてみても良かったかな?


 ただそこ、私は泣いてないから!!


『ところで、友達って誰? ティアラちゃんかゼイン?』


「ああ、そうそう。今日の予定なんだけどね、その友達とティアラちゃんと三人で、金策クエストしようと思ってるんだ。ほら、私レベル1でギルドに入れないから、お金貯めて自分のホーム買おうと思って」


『あー、そういえばそんな縛りあったな』

『割とすぐ解放されてたから忘れてたわ』

『今更だけど中々めんどくさいな、個人倉庫解放されないとデスペナがえぐいのに』


「あはは、まあ、色々不都合があることは承知の上でやってるしね。それに、そっちの方が何かと面白いでしょ?」


『違いねえ』

『縛りで王道を越える快感よ』


 私の意見に、視聴者のみんなからも概ね好意的な反応が返ってくる。


 うんうん、やっぱりゲームは楽しまないとね。それでみんなが一緒に楽しんでくれたら、もっと楽しい。それでお金も入ってくるんだから最高だよ。


 まあ、そのためにももっと見てて面白いプレイしなきゃなんだけどね。よーし、がんばるぞー!


「あ、あの、スピカさん、ちょっと待って……!」


「ダメですよ~、クレハちゃん待っているんでしょう? 早く行かなきゃ~」


「うん?」


 そんな風に視聴者の人達と雑談していたら、ギルドの方から声が聞こえてきた。


 一人は、以前ゼインさんと一緒に行動していた女の魔法使いさん。

 歳はお姉ちゃんと同じくらいに見えるけど、おっとりした雰囲気のせいかより母性みたいなものが感じられる。


 そしてもう一人は、待ちわびた私のフレンド。ティアラちゃんだ。


「ティアラちゃん、こんにちは!」


「ひゃい!? ク、クレハちゃん、こんにちは……!」


 私の挨拶に、ティアラちゃんはびくりと体を震わせる。


 相変わらず、少しばかり自信なさげなおどおどとした雰囲気の女の子だけど、その装いは大きく変わっていた。


 私の着ている《紅玉のバトルドレス》と対を成すような、紺色のドレス。

 胸の部分には蒼玉の宝石があしらわれ、全体的に落ち着いた雰囲気を醸し出す。


 手には小さな短杖ワンドを携えていて、スピカさん? と並んでいると、なんだか見習い魔女みたいで可愛らしい。


「装備、新調したんだね。すっごく可愛い!」


「あ、ありがとう……! えと、その、クレハちゃんとお揃いで、嫌じゃなかった……?」


「え、なんで? 二人一緒のデザインなんて仲良しみたいでいいじゃん、私は好きだよ!」


「ふえぁっ!?」


 素直に思ったことを伝えると、ティアラちゃんはボンッと顔を真っ赤にしながらフラリと後ろに倒れていく。


 えっ、なんで!? と慌てる私を余所に、まるでその展開を予想していたかのようにスピカさんがティアラちゃんを受け止めた。


「す、すき……わたし……すきって……」


「えーっと……ティアラちゃん、大丈夫?」


「ひゃい!! だいじょうぶれふ!!」


 すんごい思い切り舌を噛みながら捲し立てるティアラちゃんに、本当に大丈夫かと心配になる。


 けれど、どうやら私以外はそう思わなかったようで、コメント欄は全く異なる盛り上がりを見せていた。


『なにこれ尊い』

『無自覚にたらすクレハちゃんである』

『わざとやってんのかってくらい的確に急所を貫いた感』

『そっちの運も極振りなのか……』


 いや本当に、みんな何の話をしてんの?? たらすも何も、私もティアラちゃんも女の子なんだけど? この可愛らしいお揃いのドレスが見えないのかな君たちは?


「ふふ、これは色々と大変そうね~。クレハちゃん、今日はティアラちゃんのこと、よろしくね~? 昨日からずっと楽しみにしてたんだから~。そのドレスも、クレハちゃんに合わせたいからってそれはもう一生懸命作って~」


「ス、スピカさん!? それは言わない約束ですよぉ!!」


 スピカさんの言葉を遮ろうと、ティアラちゃんが思い切りぴょんぴょんと跳ね回る。


 大学生くらい? のスピカさんと小学生程度のティアラちゃんじゃ体格差がありすぎて、全く遮れてないけど。うん、可愛い。


「はい、わかってます。ティアラちゃんにはたくさんお世話になりましたから、恩返しも兼ねていっぱい楽しんできます!」


「ふふふ、クレハちゃんもいい子ね~」


 そのまま、いい子いい子、とスピカさんに撫でられる。


 完全な子供扱いに若干微妙な心境に陥るけど、いつものことなのでいちいち目くじらを立てたりはしない。


 決して、スピカさんのなでなでが心地好くて文句を言うタイミングが掴めなかったわけじゃないのである。


「それじゃあ二人とも、行ってらっしゃ~い、フィールドは危ないから、気を付けるのよ~」


「はーい、行ってきます!」


「い、いってきましゅ!」


『何この遊びに出かける姉妹と見送る母親の図』

『スピカさん母性の塊だからな』


 未だ落ち着かない様子のティアラちゃんの手を握り、続けて向かうはスイレンとの待ち合わせ場所。第二の町だ。


 一度行った町なら、それぞれの町の中央にある転移ポータルで瞬時に移動可能ということで、それを利用し瞬間移動。


 するとそこには、既に準備万端待ち構えたスイレンの姿が。


「スイレンー! 待ったー?」


「ううん、今来たとこだよ! それで、そっちがティアラちゃん?」


 私が手を挙げて呼び掛けると、スイレンは極自然に私を抱き締め、その流れで隣にいたティアラちゃんへと視線を向ける。


 ああ、紹介しなきゃな……と思ったんだけど、何やらティアラちゃんの様子がおかしい。どうしたんだろ。


「えっ、あの、スイレン……さん? ……え、クレハちゃんのお友達って、スイレンさん!?」


「うん、そうだよ?」


 それがどうしたの? と言おうと思ったら、続けてコメントの方も一気に騒がしさを増していく。


『マジで!?』

『クレハちゃんやべー子だとは思ってたけど、スイレンと友達だったのか……通りで……』

『類友とはこのことだな』


「え、何、みんなスイレンのこと知ってるの?」


「えと、その、知ってるも何も……その人は、最強のソロプレイヤーって言われてる、TBOで一番有名な配信者さん……だよ?」


「え……」


 スイレンが配信してるのは知ってたけど、まさかそんなに有名だったなんて。


 そんな思いで未だ私を抱き締めるスイレンに目を向けると、悪戯が成功した子供のようにニヤリと笑みを浮かべていた。


「ふふふ、それじゃあ改めて。TBO配信者、《天雷》のスイレンとは私のことよ。よろしくね?」

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