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第二十六話 お誕生日とプレゼント

「もー、みんな好き勝手言うんだから」


 私はスマホの画面から配信動画についたコメントを眺めつつ、なんとも複雑な心境を味わっていた。


 みんな、人をなんだと思ってるの? 確かに運は良い方だけど、御利益もなければ人の運を吸ったりなんて出来ないよ。


「まあ、投げ銭いっぱいしてくれたし、いいんだけどさー」


 そんな状態だけど、怒るよりも先に感謝の気持ちが湧いてくるのは、やっぱりお金がたくさん入ったから。


 えっ、現金なやつめって? 人間だもん、仕方ないじゃん。


「それに、ちゃんとクエストも達成出来たしね」


 TBOとリンクしたスマホ画面に映るのは、とあるアイテム。

 サーヤちゃんからの薬を無事お婆ちゃんに届け……何がどうなっているのか、瀕死だったはずのお婆ちゃんがその場で全快して元気になったお礼にと、私にくれたものだ。



名称:幸運の首飾り

種別:アクセサリー

効果:幸運+50

能力:なし

装備制限:なし



 幸運を上げるだけの、ゲームとしては特に意味のない装備品。視聴者のみんなからも、『使い道ねー』と呆れられていた。


 でも、幸運頼りで進む私にとっては十分有意義だし、何より……たとえ虚構の世界だろうと、サーヤちゃんの大切なお婆ちゃんをこの手で助けられた証と思えば、それだけで嬉しい。


「さて、それはそれとして……お姉ちゃん、喜んでくれるかな」


 スマホの画面を閉じた私は、買い物袋を引っ提げながら鼻歌交じりに家のドアを開ける。


 キッチンへと赴いてエプロンをつけた私は、そのままご飯の支度。


 今日は特別な日だから、目一杯豪勢にしなきゃね。


「るんるんらら~ん♪」


 鼻歌に留まらず、もはや普通に歌い始めたりなんかして、リズム良く作業を進める。


 お姉ちゃん、あれでかなり食べるからなぁ。なんで太らないか不思議なレベルだけど、きっと食べたもの全部胸に行ってるんだろうね。


 ……べ、別に、羨ましくなんてないんだからね!?


「ただいまー」


「あ、お姉ちゃん、おかえりなさーい!」


 声をかけつつも、準備万端整えた私はリビングにてお姉ちゃんを待ち構える。


 いつもならすぐに玄関まで出迎えに行くから、少し疑問に思ったのか。少し違和感を覚えた素振りで部屋に現れたお姉ちゃんに向け、私は手にした紐を思い切り引っ張った。


「お姉ちゃん、お誕生日おめでとー!」


 パァン! と鳴り響くクラッカーの音に、お姉ちゃんはびっくりして目を丸くしている。


 うん、サプライズ成功!


「今日はご馳走だよ! さあさあお姉ちゃん、お風呂にする? ご飯にする? それとも私? なんちゃっ……」


「紅葉にするわぁぁぁぁ!!」


「ぶふぅ!?」


 軽く冗談交じりに言ったら、思い切り抱き締められた。


 ちょっ、お姉ちゃんの胸で息が出来ない、窒息するぅ!


「今日は朝からずっとそわそわしてたから、実はちょっぴり期待してたんだけど……こんなにも祝って貰えるなんて、お姉ちゃん嬉しくて死んじゃいそう!」


 わかった、わかったから離してぇ……私が死ぬぅ……!


 そんな思いでされるがままになっていると、ようやく私の状態に気付いたお姉ちゃんから解放される。


 ふう、危ない危ない、川の向こうで手を振るお母さん達が見えたよ。


「ごめんなさい、お姉ちゃん嬉しくって」


「あはは、これだけってわけじゃないから、この調子だと色々心配なんだけど……じゃあ、落ち着いた今のうちに渡しておくね」


「えっ」


 とてて、と部屋の奥へ向かった私は、その手に大きな包みを持って帰ってくる。


 呆然としたままのお姉ちゃんに、私はそれをそのまま手渡した。


「はい、私からのプレゼントだよ。最近ネットで有名な快眠枕なんだって!」


 えへへ、と笑う私に、お姉ちゃんは反応しない。

 どうしたのか、と思いながら首を傾げると、お姉ちゃんはその場に崩れ落ちた。えぇ!?


「お、落ち着くのよ私の体。今の状態で本能のまま動けば紅葉を抱き潰しちゃうもの。耐えて、耐えるのよ私の鋼の精神力……!!」


 全くもってしょーもないことで今にも崩壊しかかっている自称鋼のメンタルに、思わず苦笑。


 抱き潰されるのは困るけど……仕方ない。


「じゃあ、私からぎゅってしてあげるよ」


「えっ」


 今日はお姉ちゃんの誕生日、我慢させるなんてよくないよね。

 そう思って、私の方からお姉ちゃんを抱き締めた。


「いつもありがとう、お姉ちゃん。大好きだよ」


 日頃の感謝を込めて、笑顔を見せる。

 そんな私に、お姉ちゃんはスッ、と表情を消し──思い切り私を抱き返した。むぎゃっ。


「私も大好きよ紅葉ぃぃぃぃ!!」


「お、お姉ちゃん、ほんとに、ほんとにつぶれるぅ……」


 ギブギブと肩を叩く私に構わず、思い切り頬擦りまでしてくるお姉ちゃんの暑苦しさに、本当に耐えきれるだろうかと若干心配になりつつ。


 いざ解放された時には、生まれて初めて空気の美味しさというものを実感した。うん、呼吸って素晴らしい。


「それにしても、この枕高かったんじゃない? 大丈夫なの?」


「大丈夫、これでも結構配信でお金入ったしね。全然平気」


「そうなの? ふふ、この調子だと、お姉ちゃんの収入越えられちゃうかもねえ」


「あはは、そこまでは行かないと思うけど……でも、うん。それを目指すのも悪くないかな?」


 元々、ただお金の問題で始めたゲーム配信だけど、今ではすっかり私の生活の一部になってる。


 レベル1のまま進むなんてバカみたいな縛りに喜んでくれる人達がいて、こんな私に力を貸してくれる人がいて……思った以上に、楽しくて充実した毎日が送れている。


 ティアラちゃんやゼインさんへのお返しも考えなきゃだし、次の町では渚が待ってるし……まだまだやることは山積みで、この先もっと楽しくなりそうな予感がしてる。


 だから。


「今日はお姉ちゃんと英気を養って、明日から思いっきりゲームするぞー!」


「ふふふ、頑張ってね。でも、学校の勉強もしなきゃダメよ?」


「はぁーい……」


 思い切り拳を突き上げ気合いを入れる私に、お姉ちゃんから現実的な課題を投げ掛けられてしょんぼりしつつ。


 こうしてこの日の夜は、姉妹水入らずで更けていくのだった。

一旦一区切り! ということで次話から少し更新頻度落とします、すみません。

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[一言] 紅葉可愛い過ぎる(^_^)
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