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第二十三話 激突、フィールドボス

 ゼインさんのユニコーンは、凄まじいの一言だった。

 支援系のモンスターだとは言ってたし、戦闘はあまり強くないというのも嘘じゃないんだろうけど、それを補ってあまりあるほどとにかく速い。


 ケマリンはもちろん、ゴブリンだって全くと言っていいほどこちらへ手出し出来ず、まともにやったらそれだけで三十分は取られそうなフィールドボスまでの道程を、僅か十分足らずで走破してしまった。


「到着、と。もう少し進めばフィールドボスとの戦闘エリアに転移されるから、ここでバフをかけてあげるよ」


「はい、本当にありがとうございました! この恩は必ず返します!」


「なに、構わないさ。だけどそうだな、ティアラが君にいつも会いたがっていたから、時間がある時にでもギルドに遊びに来てくれると嬉しい」


「分かりました、必ず行きます!」


 ユニコーンから飛び降り、モンスター達を召還。そこへ、支援スキルの光が降り注ぐ。


 筋力、防御、敏捷、知力それぞれにバフがかかったのを確認すると、改めてゼインさんへと頭を下げる。


「それじゃあ、頑張ってくれ」


「はい!」


 ユニコーンの手綱を操り、ゼインさんが帰っていく。

 その背中を見送った私は、気合いを入れ直すために両頬を張り飛ばすと、よし、と拳を握り締めた。


「行くよ、みんな」


 たぬ吉、モッフル、ポチそれぞれに目をやり、ついでに『頑張れ!』とか『負けるな!』とか激励を送ってくれる視聴者のみんなにも手を振って、いざボス戦へ。


 てくてくと歩みを進めていくうち、ふと世界がズレるような違和感。

 それがエリア切り替えの合図だったと気付くのと同時、空から一体のモンスターが降ってきた。


「ガァ……グアァァァァ!!」


 全身緑色の肌に、凶悪な一本角。

 二本の足でしっかりと大地に立ち上がり、空いた両手に握るのはそれぞれ大きな盾と金棒。


 モンスターらしい凶暴性を感じる咆哮を上げる一方で、瞳の奥には確かな知性の光を見て取れる。


 ゴブリンドオーガ。

 それが、ここ《駆け出しの平原》を支配するフィールドボスの名前だった。


「ゴブリンなのかオーガなのか、どっちなのこれ」


『そこを気にしてしまったか……』

『敢えて誰も触れないでいるTBO七不思議の一つである』


 七不思議というにはショボくない?


「まあ、名前も長いしボス鬼でいいや。さあ、勝負!!」


「グオォォォ!!」


 しょーもないやり取りを交わしていると、ボス鬼が金棒を構えて突っ込んでくる。


 見上げるような巨体から繰り出される金棒のひと振りは迫力満点で、正直私は腰が抜けるかと思った。


「フワ~!」


 けど、そんな恐ろしい攻撃の前に、モッフルが飛び出す。


 そのもふもふボディで金棒の一撃を正面から受け止め、ガクンと減少する体力ゲージ。


 今の攻撃だけで三割近く……ゼインさんから防御バフ貰ってなかったらやばかったかも。


「たぬ吉、《アラウンドヒール》!」


「ポン!」


 どうにか頭の回転が再起動した私は、すぐにたぬ吉へと指示を飛ばす。


 範囲回復スキルがモッフルの受けたダメージを徐々に癒していくけど、それだけじゃ追い付きそうにない。すぐに次の攻撃が迫っていた。


「なら、これも追加で!」


 素早くインベントリから取り出したのは、貰ったばかりの《体力回復薬・毒》。


 ランダム状態異常がどうなるかわからないけど、格上のボス鬼に勝つためにはこれで上振れを狙うしかない!


「フワ~ン」


 グン、と体力が回復したモッフルだけど、少し様子がおかしい。なんというか、桃色のオーラみたいなエフェクトを出してる。


 一体なんだろうかとモッフルの状態を確認すると……



状態異常:魅了

効果:敵の攻撃を誘引しやすくなる。



 よし、大当たりだ!


『一番頑丈な毛玉がこれを引くとは、相変わらずの幸運』

『けど壁用スキルがあるわけでもなし、長くはもたんぞ』


 喜びも束の間、コメントからはそんな懸念が伝えられる。


 確かに、うちの子の中ではモッフルが一番丈夫だけど、あくまでこの子は騎乗モンスター、戦闘は本職じゃない。


 たぬ吉の援護ありきでギリギリ耐えてるだけなんだし、今のうちに攻めないと!


「ポチ、お願い!」


「クオォォン!!」


 私の雑過ぎる指示を受けてか、ポチが駆け出す。


 狙うは、モッフルの相手に夢中になりすぎてがら空きとなった背後。


「クオォ!!」

「グアァ!?」


 ポチの《切り裂く》と《噛み付く》による連続攻撃が見事に決まり、ボス鬼の体力ゲージが減少する。


 と言っても、それは全体からすればほんの僅か。

 さすがにこれだと、勢いだけで押し切るのは無理そうだ。


「《野生解放》の効果もあるはずなんだけど……強いなぁ」


 相手はレベル20。こっちのポチは19で、レベル一つしか違わないはずなんだけど……フィールドボスは特別強いのかな?


 えっ、ボスモンスターはテイムしたら弱体化する? そういう補正? なにそれ悲しい。


「でも、それならこっちもその分じゃんじゃん攻撃するだけだよ!」


 そうして取り出したのは、《魔力回復薬・毒》。

 体力回復薬だとせっかく削った体力が戻っちゃうし、相手に使うならこっちの方がいいだろう。


「とりゃ!! 麻痺来い!!」


 思い切り投げつけながら、私は幸運を天に祈る。


 一定時間動きを止める麻痺の状態異常を引けば、あの大量の体力ゲージも一気に削れるはず。お願い、来て!


「グオ、オォ……?」


「やっ……た?」


 見事命中した回復薬によって、ボス鬼が動きを止める。


 けれど、どうも麻痺の時とは様子が違うようで……体力を残したまま、ズズン、とその場に崩れ落ちた。



状態異常:睡眠

効果:一定時間の経過、もしくは何らかの攻撃を受けるまで行動不能となる。この間、受けるダメージは倍となる。



「おお、結構すごい状態異常だ!?」


 攻撃するまで行動不能、つまり一度でも攻撃すればあっさり動き始めちゃうけど、代わりにその一発に関してはダメージが大きくなるのか。チャンスだね。


 えーっと、うちの子達で一番ダメージが大きくなるのは……。


「クオォォン!!」

「フワフワ!!」


「えっ、ちょ、ポチ、モッフル!?」


 ちゃんと指示を出さないと、と思っていたら、私の指示を待たずモンスター達が動き出す。


 モッフルの《突進》が勢いよくボス鬼に当たる瞬間、ポチもまた口内に収束した光の魔法、《ライトバスター》を解き放ち──()()()()()着弾した。


「グオォォォ!?」


 さっきまでとは比べ物にならない大ダメージを受け、のたうち回るボス鬼。


 おお、よくわかんないけど、今のだけで三割くらい削れたよ。すごい!


『相変わらずクレハちゃんが指示飛ばすよりも的確に動くモンスターである』

『睡眠中の同時攻撃って、普通プレイヤーがモンスターに合わせてやるもんなんだけど……モンスター同士で出来るもんなんだな……』

『クレハちゃん不要説』


「う、うるさーい! 私がいないとそもそも睡眠にならなかったんだし、ちゃんと私も活躍してるよ! ……し、してるよね?」


 何だか不安になって傍らにいるたぬ吉にそう問うも、当然答えなんて返ってくるはずもなく、黙々と回復スキルでモッフルを癒している。


 コメント欄に『クレハちゃんドンマイ』とかって慰めの言葉が流れるけど、大きなお世話だよ!


「いいもん、モンスターの力は私の力だし! みんな、ガンガンやっちゃえー!」


「クオォォン!」

「フワラー!」

「ポン!」


 私の投げやりな指示のお陰か、そうでもないのか。モンスター達は私の指示も待たずに動き周り、ボス鬼を追い詰めていく。


 私自身も一応、回復薬を投げて援護するんだけど、さすがにそう都合の良い状態異常ばかり引けるわけじゃない。


 むしろ、投げても当たらないことの方が多かった。


 うん、私元から運動音痴だから仕方ないよね、どんな幸運もノーコンは補正しきれないもんね。ぐすん。


 ただ、それでもどうにかなっていたのは、曲がりなりにもモッフルが壁役として機能していたから。最初に引き当てた《魅了》の状態異常によるところが大きい。


 その効果が切れてしまえば、この均衡状態は保てなくなる。更に、


「グゥ……ウオォォォォ!!」


「な、なに!?」


 ボス鬼の体力ゲージが半分を割ったところで、唐突な変化が訪れた。


 緑色だった体が、その怒りの度合いを示すかのような赤色に。

 角が大きく成長し、これまでの“大きなゴブリン”から正しく“オーガ”のような恐ろしげな姿へと変貌を遂げたのだ。


『最終形態来たな』

『ここからが正念場だぞ』

『頑張れクレハちゃん!』


 コメントの激励に、さっきまでのように答える余裕もないままに。


 深紅の赤鬼は、手にした金棒を振り上げて私達に襲い掛かって来た。


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― 新着の感想 ―
[一言] 大剣使うの忘れてない?
[良い点] >むしろ、投げても当たらないことの方が多かった。 ボスの周囲に地雷撒いてるとしか読めないw
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