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第二十二話 戦闘準備と新装備

「こんなところで会うなんてその、奇遇だね! あ、えと、その、こんなところっていうのは悪い意味じゃなくて、前に会った時はギルドになんて入ってなかったし、そもそも私みたいなのが曙光騎士団に入れて貰えるなんて思ってなくて……えと、その……」


 私を見て、ゼインさんを見て、色々と言葉を選びながら訂正を重ねて喋り続けるティアラちゃん。


 なるほど、ティアラちゃん、ゼインさんのギルドに入ってたんだ。

 詳しい経緯は分からないけど、ティアラちゃんなりに頑張って来た結果なんだろう。


 本当は、もう少しゆっくりとその話を聞いてあげたいところなんだけど……今は時間がない。


「ティアラちゃん、お願いがあるの!」


「ひゃい!? な、なんでしょうか!?」


 がしっと手を掴みながら、私はティアラちゃんに顔を寄せる。

 途端、ティアラちゃんは顔を真っ赤にして敬語に戻っちゃったけど……怖がらせちゃったかな?

 

 少し焦り過ぎたか、と内心で少し反省して一息入れつつ、私は改めて本題を切り出した。


「この前買わせて貰ったアイテム、全部無くなっちゃって……今ある分だけでいいから、また買わせて貰えないかな?」


「え、えと、なんだか急いでるみたいだけど……どうしたの?」


「それが……」


 私の様子を見て何かあったと察したらしいティアラちゃんに、私はクエスト内容を開示する。


 アイテムが底を突き、モンスター達もボロボロ……そんな状態でフィールドボスに挑まなきゃならない旨を伝えると、ティアラちゃんはこくりと頷く。


「分かった、そういうことなら、私すぐに準備するね! ……あ、えと、ゼインさん、いいですか?」


「構わないさ、そういうクエストを絶対に失敗したくないという気持ちは俺にも分かる。元よりこちらはただ素材集めに行こうとしただけだしね。……そうだな、せっかくの機会だ、僕にも協力させて貰えないか?」


「え? ゼインさんが?」


 思わぬ提案に面食らう私に、ゼインさんは「ああ」と一つ頷く。


「ソロクエストなら戦闘に手を貸すことはできないが、それ以外なら制限もない。もちろん、君さえ良ければ、だが」


「いえ、そういうことなら私からお願いしたいくらいなんですけど……でも、どうしてそこまで?」


 ティアラちゃんですら、フレンド登録した間柄というだけで特別まだ仲良くしているわけじゃない。ゼインさんなんて、それこそ一度フィールドですれ違っただけだ。


 それなのにどうして、と問う私に、ゼインさんはふっと楽しげな笑みを浮かべる。


「僕は結構コレクター気質があってね、珍しい物が好きなんだ。アイテムや装備、モンスターもそうだし……プレイヤーもだ」


「プレイヤーも?」


「ああ。他の誰でもないオンリーワンを極めたプレイヤーは、見ていて楽しいからね。実は、君の配信動画も見させて貰ってる」


 キングケマリンの一発テイムは僕も笑ったよ、と肩を竦めるゼインさん。

 私としては、配信の視聴者とこうして面と向かって話すのは初めてで、どう反応していいやら少し戸惑い気味だ。


「だから、君のことは個人的にすごく応援してるんだ。推しの力になるのは視聴者の誉れ……というだけじゃ、理由にならないかな?」


 ならないかな? と言われても、私としては正直よくわからない感覚だ。

 ただ、ゼインさんが嘘を吐いているわけじゃないってことだけはよくわかった。


「分かりました、そういうことなら、遠慮なく甘えさせて貰いますね!」


「よし。じゃあ僕はモンスターを回復させてあげるから、ティアラはアイテムの用意をしてくれるかい?」


「は、はい! えっと……クレハちゃん、一つ気になってたんだけど……」


「うん? 何?」


「その背中の剣は、一体……?」


「あ」


 言われて、そういえば貰ってからずっと背中に装備(使えないけど)したままだったと思い出し、バスタードソードを取り外す。


 ゲームの中だからか、筋力1なのに特に重さとかもなかったんだよね。うっかりしてたよ。


「ただの飾りみたいなものだよ。これがどうしたの?」


 お礼に貰った剣だから、いくら私に使えないからってそのまま譲渡するのもどうかと思わないでもないけど……なんて思っていたら、ティアラちゃんは少しだけ考え込む素振りを見せた後、思わぬ提案を口にした。


「あの……その剣、私に預からせて貰えない、かな? その剣を素材に、クレハちゃんでも使える装備に出来ないか試したいの」


「そんなこと出来るの!?」


「あ、えと、あくまで可能性だよ!? でも……私も、少しでもクレハちゃんの、友達の力になりたいから……任せて貰えないかなって……」


 ティアラちゃんの声が、後半に進むにつれて段々と尻すぼみになっていく。

 何をするのか分からないけど、この様子だとあまり成功率が高い賭けでもないのかもしれない。


 でも、賭けなら私の得意分野だ。


「分かった、お願いしてもいい?」


「……! うん、がんばるね! えっと……ちょっと待ってて、すぐ終わるから!」


 私が剣を渡すと、ティアラちゃんは心底嬉しそうに笑顔を浮かべながら、踵を返してギルドの中へ駆けこんでいく。


 そんな姿を、ゼインさんは面白そうなものを見る目で見詰めていた。


「なるほど、あれを使うつもりか。ふふ、どうやら、ティアラに随分と好かれているようだね、君は」


「え?」


 好かれて……そうなのかな?

 もしそうなら嬉しいけど、随分と、なんて言うほど好かれることなんてした覚えはないんだけど。ティアラちゃんが優しいだけでは?


「さて、それじゃあティアラが戻って来る前に、こちらも出発の準備を整えておこう」


 頭を捻る私の横で、ゼインさんはメニューを操作。

 すると、待機状態だったモンスターが一体、光のエフェクトと共に目の前に現れた。


「わあ、ユニコーンだ!」


 輝く黄金の一本角に、純白の馬体。

 ペガサスと並ぶ有名モンスターを前に瞳を輝かせていると、ゼインさんは少しばかり得意気に鼻を鳴らす。


「綺麗だろう? あまり戦闘向きではないんだが、ペガサス以上の敏捷値を持った最速の騎乗モンスターだ。これに乗れば、道中のモンスターを無視して安全にフィールドボスのところまで辿り着けるだろう。更に……と、君のモンスターも出してくれないか? ボス戦に連れていく全員だ」


「? 分かりました」


 ゼインさんに促されるまま、私はたぬ吉、モッフル、ポチの三体のモンスターを呼び出す。

 すると、ゼインさんはすぐに傍らのユニコーンに指示を飛ばした。


「ユニ、《アラウンドヒール》」


「ブルル!」


 ユニコーンの角から溢れ出る光が私のモンスター達に降り注ぎ、減少していた体力が一瞬で全快する。

 すごい……こんなに一気に回復するなんて……!


「こんな感じで、ユニは色々と支援スキルが使えるんだ。戦闘前に色々とバフをかけてあげるから、途中まで一緒に行こうか」


「はい、ありがとうございます!」


 やっぱり、見た目に違わずゼインさんってすごい人なんだなぁ。

 こんなにも良くして貰って、どうやってお返しすればいいんだろ……推しって言ってくれたし、配信頑張ればいいんだろうか? 終わったら聞いてみよう。


「クレハちゃん、お待たせ!」


 積み上がっていく恩義にどうしたものかと思っていると、ティアラちゃんが戻って来た。

 トレード申請を受理すると、前回と同じ回復薬・毒シリーズの二つが山のようにどっさりと放り込まれていて、思わず自分の目を疑ってしまう。


「こ、こんなにたくさん!? えっと、あの、ティアラちゃん、実は私、今回もそんなにたくさんお金あるわけじゃなくてね?」


「ううん、そんなのいいから! それと、はいこれ!」


 いや、そんなのいいってわけには……と思っていると、続けて渡されたのはさっきのバスタードソード。

 けど、その姿はもはや原型がないほどに様変わりしていた。



名称:呪怨の大剣・カースドバスター

種別:武器

効果:筋力-50、防御-50、知力-50

能力:《狂気付与》《野生解放》

装備制限:なし


スキル:狂気付与

効果:攻撃した対象に一定確率で《バーサーク》の状態異常を付与する。


スキル:野生解放

効果:装備したプレイヤーの操るモンスター全ては言うことを聞かなくなり、筋力大アップ、知力大アップ。※常時発動。



 大剣の柄部分で妖しく輝く紫の宝玉。おどろおどろしいオーラのようなエフェクト漂う刀身。

 そして、肝心のスキルに関しても恐ろしいメリットとデメリットを兼ね備えた強烈な代物だった。


 バーサークって確か、筋力が上がる代わりに防御が下がる、マイナスなのかプラスなのか判断に悩む効果だったよね? お姉ちゃんをバーサークにしたことあったし、間違いないはず。


 それに、モンスターが言うことを聞かなくなる、か……レベル差がある以上、今も常にその状態と言えるけど、果たしてこのスキルを会得したら何か変わるのか、変わらないのか。


 これはまた、中々怖い賭けだね。

 でも、その方が私らしい。


「えっと……《怨念の宝玉》っていう、強力なスキルと引き換えに性能がぐっと下がるレアアイテムを使って作った装備なんだけど……使えそう、かな……?」


「うん、すごく使えそう。本当にありがとう、ティアラちゃん。大好きだよ」


「ふえぇ!?」


 今度はただ背負うだけじゃなく、システム的にしっかりと装備。

 町中で暴れられても困るから、一応モンスター達は待機状態に戻して、と……。


「このクエストが終わったら、絶対に何かお返しするから。また会おうね、ティアラちゃん!」


「だい、すき……だい……あ、あうぅ……」


 なぜかさっきまで以上に顔を真っ赤にしてフリーズしているティアラちゃんに疑問を覚えつつ、私はゼインさんの元へ。

 どういうわけか、「君も大概罪作りだね」なんてゼインさんに呆れられたけど、どういう意味だろう? 借りを作りすぎって話だろうか?


 それならうん、否定できない。


「まあいいか。それじゃあ行くよ、しっかり掴まってるんだぞ」


「はい! お願いします!」


 ゼインさんと一緒にユニコーンへと跨り、町を出発。


 こんなにたくさん力を借りて、失敗なんてするわけにはいかないよね。

 待ってなさいよ、フィールドボス。絶対に私が倒してあげるから!

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― 新着の感想 ―
[一言] ティアラちゃん、呪われてる?
[良い点] 百合に挟ま・・・らない男、ならヨシ!
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