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第二十一話 ショートカットと再会するフレンド

 クエストの制限時間は一時間。

 ここから一旦始まりの町に戻って、準備を整えて、平原に移動して、戦って、初めての町でお婆ちゃんのいる場所を探す……正直、あまり余裕はない。

 特に、私は戦闘がモンスター頼りで攻撃手段に乏しい以上、フィールドボス戦にかかる時間は多めに見ておいた方がいいよね。


 なら、まずすべきは町に戻るまでのショートカットだ。


「モッフル!」


「フワ!」


 私のしたいことを察してくれたかのように、モッフルが乗りやすいよう体勢を低くしてくれる。

 テイムしたばかりのポチとたぬ吉をインベントリに待機状態で収納すると、サーヤちゃんの手を取ってモッフルの上に飛び乗った。


「跳ぶよ、掴まって」


「えっ、えっ」


「モッフル、《大跳躍》!!」


 何やら困惑している様子のサーヤちゃんをしっかり抱き締めながら、モッフルに指示を出す。


 このスキルには、現在いるエリアに隣接するエリアへとランダムに移動することが出来る効果がある。

 迷いの森から更に奥へ進んでしまう可能性もあるわけだけど、運が良ければ町までひとっ跳びで戻れる可能性も存在する。


 そして……運勝負なら、私は負けない!


「──よしっ、大当たり!!」


 見事町へと続く門の前に着陸した私は、モッフルを待機状態にしつつ飛び降りる。

 サーヤちゃんが突然の事態に目を回しちゃってたけど、流石に休ませている時間もない。抱きかかえたまま、大急ぎで武器屋へと向かう。


『女の子家まで送ってあげるのか。優しい』

『クエスト内容に入ってなかったから、多分森に放置しといても大丈夫だったと思うけどな』


「えっ、そうなの!?」


 当然送り帰してあげなきゃいけないものだと思ったから連れて来たけど、余計なお世話だった!?

 思わぬロスを食っちゃったけど、ここで放置するのもなんだかあれだし……モッフルが稼いでくれた時間もある、最後までやっちゃえ!


「サーヤ、無事だったか!」

「パパー!」


 半ばヤケクソ気味になりながら到着したその場所で、目を覚ましたサーヤちゃんが武器屋のおじさんに抱き着いて涙を流す。


 心温まる光景にほっこりしつつも、あまりのんびりしてられないと踵を返そうとして……おじさんに待ったをかけられた。


「待ってくれ、嬢ちゃんのお陰で娘が無事に帰って来たんだ、これはお礼だ、受け取って欲しい」


「いや、別にお礼なんて……」


 正直急いでるから後にして欲しいと思ったけど、断れる空気でもなく。

 そうして渡されたのは、武器屋らしく一振りの剣だった。しかも、でっかい。



名称:バスタードソード

種別:武器

効果:筋力+30、防御+20

能力:《パワーストライク》《グランドクラッシュ》

装備制限:プレイヤー、筋力30以上



 うん、ごめん、気持ちは嬉しいけどいらない!! 装備出来ないよ!!


「あ、ありがとうございます……」


 とはいえ、今そんな問答をしている場合じゃないから、とりあえず受け取っておく。

 手渡しされたそれを手に、何となくサーヤちゃんから期待の眼差しを送られている気がしたので背負うだけ背負ってみる。

 ……装備は出来ないから完全にただの飾りなんだけど、とりあえず喜んでくれたみたいだからよしとしよう。


「それじゃあ、私は行きますね。サーヤちゃん、また!」


「うん……お姉ちゃん、お婆ちゃんのことお願い!」


 軽く手を振ると、私はすぐに背中を向けて走り出す。

 ちょっともたついたけど、まだ時間はある。急がないと。


『それで、準備となるとやっぱアイテム買い込むのか?』

『でもクレハちゃん、お金あったっけ』


「ぶっちゃけ、あんまりないよ! 一応、連続クエスト二つの達成報酬と、ちょこちょこ倒したモンスターからのドロップ金で多少は集まってるけど……今ボロボロのみんなを全快させた上で揃えるとなると、正規品じゃ足りないかも」


 私自身は体力なんて10でも1でも変わらないから別にいいけど、散々戦ったモッフルや限界まで弱らせてテイムしたポチの体力と魔力は全快させたい。たぬ吉も、探索やアラウンドヒールの連発で魔力が残り僅かだ。


 自然回復なんて待ってられないし、かと言ってアイテムで無理矢理回復させるほどの資金もない。

 となれば……私に頼れるのはただ一つ。フレンドの存在だけだ。


「お願い、ログインしてて!」


 お姉ちゃんは今、仕事中でログインしてないのは確定してる。

 だから、残るフレンドはたった一人。この時間帯ならいるはずだと、祈るような気持ちでフレンド欄を開き……確かにこの世界に存在することを示す白い輝きを見て、よしっ、と拳を握り締めた。


「えーっと、現在地は……こっちか!」


 マップから今いる場所を割り出し、急いでそこへ向かう。

 到着した私は、思わぬ光景を前に一瞬足が止まってしまった。


「こ……ここにいるの……!?」


 そこは、一言で言えばお城だった。

 いくら中世風の街並みとはいえ、ど真ん中にどーんと構えるその威容は周囲から浮いているとかっていうレベルじゃなく、どうしてこんなものがあるのかと製作者に問いただしたくなるくらいだ。


 でも、その理由もすぐに分かった。

 入り口のところに、純白のお城にはあまり似つかわしくない看板がデデーンと掲げられていたからだ。


「曙光……騎士団?」


 なんかどこかで聞いたような、聞いてないような。

 うーん、と首をかしげていると、その答えはコメント欄から飛び込んで来た。


『ゼインとこのギルドじゃん。ここに用あるのか?』


「ゼイン? ……ああ、思い出した! TBOを始めてすぐ会った騎士の人だ」


 開始初日、強いモンスターをテイムしようと平原の奥地に進んでいた私に、親切に声をかけてくれた四人パーティのリーダー、ゼインさん。

 確かに、「何かあれば曙光騎士団を頼れ」って言ってくれてたような気がする。……すっかり忘れてたよ。


「おや、君はあの時の?」


「ふえっ」


 そんな風に記憶を呼び起こしていると、唐突にお城から出て来た人に声をかけられた。

 目を向ければ、そこにいたのは今まさに話題に上っていた一人の騎士。覚えているより更にぴかぴかの装備に身を包んだゼインさんだった。


 そして、その傍にはもう一人。


「クレハ……ちゃん?」


「ティアラちゃん! 久しぶり!」


 私の、このゲームで初めて出来たフレンド。

 輝く銀色の髪に、どこか自信なさげで庇護欲をそそる垂れ目がちな碧の瞳。

 私のバトルドレスを作ってくれた生産職の女の子の姿を見付け、勢い込んで声をかけるのだった。

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