第二十話 クエスト達成と最後の試練
「やっ、た……危なかったぁ……」
テイムの成功を告げるメッセージを聞いた私は、ぺたんとその場に座り込む。
ふう、今回ばかりはダメかと思ったよ。
『クレハちゃんお疲れ様』
『まさかクエストボスまでテイムしてしまうとは……』
『ボスってテイム出来るんだな』
『クエストボスに関しては出来るやつと出来ないやつがいる』
『フィールドボスは全部無理だけどな』
脱力する私とは対照的に、コメント欄は盛り上がる。
テイム、運以前にそもそもシステム的に不可能になってるパターンもあり得たのか……我ながら、本当に運が良かったなぁ。
「でも、がんばった甲斐はあったよね」
今の戦闘で、ピーたんは途中でやられちゃったから何もなかったけど……モッフルはレベル18に。
たぬ吉もレベル10になって、新しく《デコイ》というスキルを覚えた。
説明を読むに、分身を作って敵の攻撃をそちらへ誘引するスキルらしく、何かと打たれ弱い私のメンバーには有用な力になると思う。
「アークキマイラ……んー、ポチも仲間に出来たし」
『ポチてw』
『キマイラ、まさかの犬扱い』
コメントの突っ込みは一旦スルーして。
「何より……ちゃんと助けられたしね」
たぬ吉に引き摺られて安全圏まで逃がしていたサーヤちゃんの元へ歩み寄った私は、その頭をぽんぽんと撫でる。
本当にギリギリの勝負だったけど、こんな小さな女の子を助けられたんだもん。それに見合った遣り甲斐というか、達成感はあったよね。
「助けてくれてありがとう、テイマーのお姉ちゃん!」
「えへへ、どういたしまして。でも、危ないからもうこんな森に一人で来ちゃダメだよ?」
「うん……でも、どうしてもお婆ちゃんを助けたかったから……」
悲しげにしゅんと俯く女の子の手には、輝く薬草が一つ握り締められている。
目的のアイテムはちゃんと手に入れられたんだ。偉いね……と言おうと思ったら、サーヤちゃんはその苦労して手に入れた薬草を、私に向かって差し出した。
「あのね、お姉ちゃん。薬草は手に入ったけど、私じゃあ隣町まで持っていけないの……あの怖いモンスターもやっつけたお姉ちゃんなら、きっと隣町にも行けるよね? お願い、お婆ちゃんにこれを届けてあげて!」
『クエスト:娘を捜してを達成しました』
『クエスト:薬を届けてが発生しました』
クエスト:薬を届けて
内容:《冒険の町アドベント》に住むお婆ちゃんに《上質な薬草》を届ける。
※本クエスト発生からゲーム内にて一時間以上経過すると、イベント内容が変化します。
「っ……!?」
第二の町って、そんな名前だったんだ──なんて、現実逃避気味に考えてしまうほど衝撃的な内容に、私は声を詰まらせた。
連続クエスト、三つ目……第二の町まで、一時間以内!?
『うわマジか』
『これはえぐい』
『多分これ、時間内にやれないとお婆ちゃん死ぬパターンだよな……クエストは達成出来るけど』
頭を過った可能性がまず間違いないことを、聞くまでもなく視聴者のみんなが教えてくれた。
確かに、このクエストは推奨レベル20。そこまでレベルが高いなら、フィールドボスは既に倒しているか、倒してなくても十分勝てる。一時間以内というのも、決して短すぎるというほどじゃない。
だけど……私はプレイヤー最弱のレベル1。
今の戦闘だって、アイテムと運の力で半ばゴリ押ししたようなものだ。ピーたんが庇ってくれなかったら、クエスト自体失敗していた。
フィールドボスは、そんなギリギリの勝負をしたアークキマイラより更に強い。
対する私は、切り札とも言えるテイムがフィールドボスには使えず、アイテムも空。ピーたんも……プレイヤーと違って復活まで時間がかかる。一時間以内には復帰出来ない。
「ダメ……なの?」
状況は絶望的。でも。
「ううん、大丈夫。私に任せて」
不安そうなサーヤちゃんに、それでも私は笑いかける。
確かに、私の持てる全てはもう出し尽くしてしまったかもしれない。
でもまだ、今の戦いで得た新しい仲間とスキルがある。
クエスト自体はソロでしか出来なくても、私には頼れる友達がいる。
だから。
「あなたの薬、私が絶対に届けてみせる!」
諦めるのも嘆くのも、全部終わった後でいい。
今はとにかく、足掻くだけだ!




