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第十九話 アークキマイラと幸運の女神

投稿少し遅れました! すみません!

「フワラ~!」


 開幕一番、私の指示を待たずして動き出したのはモッフルだった。


 私達の中で一番丈夫な体を持つ巨大毛玉が、《突進》スキルのエフェクトを纏いながらアークキマイラへと勢いよく体当たりする。


「クオォォォン!」


 けれど、これまでの道中で相対したモンスターと違い、クエストボスはその程度じゃ怯まなかった。


 多少のダメージを受けながらもしっかりとその強靭な足で地面に踏ん張り、蛇の尻尾がモッフルに向けて鎌首をもたげる。


 ぴかっ、と瞬く閃光。

 それがモッフルの体を射貫き、一撃で二割近い体力を奪い取っていく。


「たぬ吉、《アラウンドヒール》!」


「ポン!」


 私達の一歩前に進み出たたぬ吉がくるりと宙返りし、ほわーん、と緑色のエフェクトを周囲に拡散する。


 同時に、同じエリアで戦闘する私達全員へと継続回復がかかるけど……それだけじゃ、モッフルの受けるダメージを軽減しきれていなかった。


「クオオ、オォォン!!」


「モ、モフ」


 キマイラが前足を振り上げ、モッフルを連続で殴り付ける。


 ゴリゴリと削れていくモッフルの体力を見てか、今度はピーたんが動き出した。


「キュオオ!」


 上空から背後を取り、放たれるのは《ウィンドシャワー》。私達との戦闘でも使った、風属性の全体攻撃。


 強烈な風の暴威に晒されて、流石に攻撃を続けられなくなったのか。たまらずキマイラは距離を取った。


 よし、今がチャンス!


「モッフル、《踏みつける》! ピーたん、《切り裂く》!」


「フワ!」

「キュオオ!」


 後退直後のキマイラに向け、二体のモンスターが攻撃をしかける。


 巨大な毛玉に踏み潰され、ハヤブサの鉤爪に切り裂かれて、流石のキマイラも大きく体力を失っていく。


「クオォ……オォォォォォォン!!」


 けれどそこで、キマイラが思い切り奇怪な咆哮を上げた。


 ビリビリと大気を震わせるそれを間近で受けたモッフルとピーたんは、びくりと体を硬直させ怯んでしまう。


 やばっ、助けなきゃ!


「えいやーー!!」


 インベントリから適当に引っ張り出した魔力回復薬と体力回復薬を、纏めて数本投げ付ける。


 本来の効果に加えて、ランダムで状態異常を引き起こすその薬は、いくつかは外れたけど……モッフルに体力回復薬が、ピーたんとキマイラには魔力回復薬がそれぞれ当たった。


「フワラ!」

「キュオオ!」


 まず、モッフルとピーたんは状態異常なし。そんなパターンもあるんだね。


 そして、キマイラはと言えば……。


「クオオ、クオォォン」


 《麻痺》の状態異常にかかり、攻撃しようと前屈みになった体勢のまま硬直していた。


 よし、大当たり!


『なんという好都合なw』

『このゲームクレハちゃんにだけ異様に優しくない?? 俺にも優しくしてくれていいのよ??』

『リアルラック怖い』


「都合良くて大いに結構! モッフル、ピーたん、やっちゃって!」


 コメントが盛り上がりを見せる中、私は二体のモンスターに雑すぎる指示を飛ばすけど、どちらもしっかりスキルを使って限界まで猛攻を仕掛けてくれる。


 これ、本来ならスキルのCTを管理しながら逐次指示を飛ばさなきゃいけないんだよね? 勝手に動いてくれるこの状況、私にぴったりかも。


 ノリと勢いでここまで来たけど、運しか取り柄のない私にはいい感じにハマるスタイルだったのかもね。


「クオォォォン!!」


 そうして畳み掛ける中、再度上がった咆哮にモッフルとピーたんが怯む。


 麻痺が解けたみたいだけど……あのキマイラ、見た目の割に行動パターンは少ないのかな? 相手が怯んでいるうちに攻撃するつもりなんだろうけど、こっちにはまだアイテムもあるし、たぬ吉の回復もある。


 そう簡単にモッフルを倒せるなんて思わないことだね!


「クオォ!!」


「えっ、こっち来るの!?」


 なんて思ってたら、キマイラはモッフルも空にいるピーたんも無視して、私達の方に突っ込んで来た。


 アイテムを使った私を敵として見定めたのかと思ったけど、どうも狙いはサーヤちゃんみたい。


 護衛ミッションなのは分かってたけど、まさかこんな露骨に狙ってくるなんて!


「モッフルもピーたんも間に合わない、たぬ吉は戦えないし、私もそれは同じ……! こうなったら……!」


 取り敢えず、もう一度麻痺になる可能性を信じて回復薬を投げ付けるも、かかったのは《毒》状態。

 キマイラの体力ゲージも限界だから痛いだろうけど、これじゃあ止まらない。


「たぬ吉、サーヤちゃんをお願い!」


「ポン!」

「ひゃっ」


 私はサーヤちゃんをたぬ吉の方に突き飛ばし、攻撃範囲外に逃がして貰う。


 私の敏捷じゃ回避なんて無理だけど、たぬ吉ならギリギリどうにかなるはず。


 後は、私が生き残るだけ!


「クオォォォン!!」


「きゃあ!!」


 飛び掛かって来たキマイラに突き飛ばされ、私の体力はあっさりゼロに。その一撃は、《不死の加護》によってどうにか乗り切る。


 でも、目の前にはまだキマイラがいる。

 これが、私にとって最後のチャンスだ!


「《テイム》!」


 キマイラに向けて、私は唯一使用可能なスキルを叩きつける。


 クエストボスがテイム出来るかどうかわからないけど、私に出来るのはこれだけ……お願い……!


『テイムに失敗しました』


「っ!?」


 無情に響くメッセージと共に、キマイラが大きく口を開ける。

 そこに収束していく光のエフェクトは、もうゲームについて詳しいとか関係なくヤバい攻撃だと一瞬で理解出来てしまった。


 うぐぐ……ここまでなの……!?


「キュオオ!!」


 最後の瞬間。視界が光に包まれると同時に飛び込んで来たのは、ピーたんだった。


 私に向けて放たれた光の砲撃をその体で受け止め、一発でその体力全てを喪失して死に戻ってしまう。


「ピーたん!!」


 あの子だってモンスターだ、死んだわけじゃない。何なら、時間が経てば復活だってする。


 でも……最初は私と触れ合うことすら拒否していたあの子が、こうして体を張って守ってくれたことが嬉しくて。


 こんなところで負けられないと、強く思った。


「んぐっ……!」


 ピーたんが作ってくれた一瞬の隙をついて、最後の魔力回復薬を取り出すと、一息で呷る。


 最大値たった10しかない私の魔力ゲージが一瞬で全快し、表示された状態異常は《移動不可》。完全に逃げ場はなくなった。


 でもどちらにせよ、これが正真正銘、最後のチャンスだ。


「お願い……通って!!」


 祈るように、掌を再度キマイラの頭に叩き付ける。

 射程を考えるとこんな風に触れる必要はないんだけど、なんとなくこの方がいい気がしたんだ。


「《テイム》ーー!!」


 力の限り叫んだ私の掌から、淡い光のエフェクトがキマイラを包み込み──


『アークキマイラのテイムに成功しました。名前をつけてください』



名前:なし

種族:アークキマイラ

タイプ:戦闘

レベル:19

体力:250/250

魔力:170/170

筋力:80

防御:60

敏捷:70

知力:50

器用:50

幸運:20

スキル:《切り裂く》《スネークアイ》《噛みつく》

特殊スキル:《咆哮》《ライトバスター》



 こうして私は、辛くもクエストボスに勝利を納めるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ピーたんとアークキマイラ良いライバル関係になりそう
[良い点] 大手ギルドがクレハちゃんのことを知ったら勧誘が酷いことになりそう
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