第十五話 料理スキルと気難しい(?)ピーたん
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ピーたんをテイムした翌日。
今日も今日とてTBOをやろうとログインした私は、しかしフィールドには出ずに町を散策していた。
理由は一つ、食いしん坊だらけの我がモンスター達を満足させるべく、《料理》スキルを習得するためだ。
「それで、ここがそのスキルを教えて貰える場所かー」
『そうそう』
『カフェテリア、スイーツドロップだな』
私の前にそびえたつのは、西洋建築が並ぶ石造りの町には若干不釣り合いなガラス張りのカフェテラス。
なんでこんな見た目にしたんだろって思うけど、多少浮いてる方がプレイヤーから見つけやすいからかな? 料理スキルは基本的に攻略の役に立たないって話だし、楽に見付けて欲しかったのかもしれない。
あ、ちなみに今日はモンスター達全員先に探索に出してるよ。ここで屋台の時みたいにつまみ食いされたらとても弁償しきれないからね。
「ごめんくださーい」
扉を開けて中に入ると、当たり前だけど普通に経営していた。
ちらほらと見えるNPCに混じり、プレイヤーも何人かテーブルについて雑談を交わしてる。
……ゲームの中だといくら食べても太らないからか、プレイヤーが食べてるのは特大パフェだったりフルーツ盛りだったり、やたらとボリューミーだった。
うん、気持ちは分かる。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」
カウンターまで行くと、NPCの店員さんからそう尋ねられると同時、目の前にウィンドウが表示される。
このお店のメニューなのか、色んなスイーツや飲み物の名前と値段が表示されたそれらを下にスクロールしていくと、一番下に『弟子入りしたい』という項目があることに気付く。
「いえ、私に料理を教えてください!」
この選択肢をタップしてもいいんだけど、せっかくVRなんだからと直接声に出してお願いすることに。
すると、ポーン、と音が鳴ってクエストが開始され……にこやかだったNPC店員さんの表情が一気に鬼教官のそれへと変貌する。
「なるほど、そういうことならいいでしょう……私の持てる技術、全て伝授して差し上げます。ご覚悟を」
「は、はい」
ゴゴゴゴ、という音が聞こえてきそうなほど迫力満点の目で射抜かれ、ちょっとばかり腰が引けつつ。私はお店の奥にある厨房へと案内される。
……どうでもいいけど、店員さんがいなくなった後、お店の方はどうするんだろ? え、外ではまた別の店員さんが出現するから大丈夫? 店員さんは姉妹がたくさんいる設定? 検証したら最低でも三十人以上いる?
いやいや、どういうことなの。
「それでは、これからあなたに料理というものを教えて差し上げましょう」
「よ、よろしくお願いします」
メタ的な疑問を頭の隅に追いやりながら、ついに始まった料理修行。
とはいえ、その厳しい顔つきとは裏腹に、別段難しいことをやるわけじゃなかった。
内容は、クエスト開始と同時に習得した《料理》スキルのチュートリアルみたいな感じ。
素材を使ってメニューウィンドウ上でぱぱっと調合……合成? して料理を作る簡易調理。
それから、実際に道具を使って手作業で料理を作っていくテクニカル調理の二つをそれぞれ教えて貰った。
「簡易調理は簡単に出来ますが、味は固定でデフォルトのものしか作れません。一方で、テクニカル調理はそうした制限が解除され、素材の選択から調理法まで自由に選べます。味の方はその分保証できませんが、完成した料理は自分で名前をつけて簡易調理の一覧に登録し、《レシピ》として他人に伝授することも出来るので、色々挑戦してみてください」
「なるほど、分かりました!」
というわけで、一通り説明が終わったところで、最後に実際にテクニカル調理を実行することに。
あくまでテクニカル調理のチュートリアルみたいなものだからか、基本素材は店員さんから分けて貰えた上、《クッキー》のレシピまで伝授してくれた。ここにプラスアルファで何か足すも足さないも自由みたい。
「うーん、せっかくやるなら何か混ぜたいけど、昨日みんなに色々食べさせちゃったからアイテムがそんなに……うん?」
とりあえず今回は適当に作るだけにしようかと思ったら、お店の窓をこんこんと嘴でつつくピーたんの姿が視界に映った。
……昨日からずっと姿が見えないと思ってたけど、ついに探索から帰って来たんだ。
窓を開けてあげようかと思って近づいたら、自分で開けてずんずんお店の中に入って来るピーたん。いや、なんで呼びつけたの。
「キュオオ」
「これが拾って来たアイテム? ひとまずありがとうね」
ピーたんは戦闘タイプだからか、集めたアイテムはたぬ吉と比べるとかなり少なく……というか、一つしかなかった。
オレンジ。特に何の変哲もない、ただのオレンジだ。
『珍しく微妙なもん持って来たな』
『料理に使うくらいしか使い道のない外れアイテムだこれ』
「なるほど。まあ、タイミングドンピシャではあるね」
それを私が受け取ると、ピーたんはそのまま素材が並べられたキッチンをじっと見つめる。
……もしかして、これを使って新しい飯を作れって言いたいんだろうか。ひょっとして、モンスターの餌じゃお気に召さなかった? 意外とグルメだねこの鳥。
「しょうがない、仲間の頼みだし、腕によりをかけて作ってあげよう」
どうせ何か混ぜるつもりだったんだし、とオレンジを素材として追加して、せっせと調理開始。
ボウルで素材を混ぜたり、練ったり、焼いたりと……まあリアルに比べれば断然簡略化された手順をガイドに従って踏んでいくと、ものの数分でクッキーが焼き上がった。
「よーし、完成!」
名称:オレンジクッキー
説明:モンスターが大好きなオレンジ風味のクッキー。
うん、知ってたけど本当に何の効果もないね。名前も説明も何の捻りもないし。
まあ、ここから変に凝った名前に変えるほどじゃないし、これでいいか。
「キュオッ、キュオオ!」
「はいはい、今あげるから」
クエスト完了の報告を聞きながら、クッキーを早く食べたい様子のピーたんに出来上がったばかりのそれを食べさせてあげる。
一口でぺろりと平らげたピーたんは、しばしその場で硬直し……
「キュオー!」
「わわっ、なに!?」
一声叫び、そのまま窓から外へ飛び出していった。
……どうしたんだろ。一応探索中になってるけど。
『もしかして、クッキーが口に合わなかった?』
『なるほど、クレハちゃんメシマズ説』
『ピーたん家出の巻』
「えぇ!? いや、そんなことは、ない、よね……?」
私、普段から料理だってちゃんとするし、メシマズ属性なんて持ち合わせてない。
でも、ゲームの中だからなぁ……味見も出来なかったし、もしかしたら本当に不味かった可能性も?
「ど、どうしようみんな」
『さあ……また戻って来た時のために今度こそ美味いもの用意しておくとか?』
『一応、可能性としては料理の腕でモンスターからの好感度が変わるんじゃないかって説もあるしね』
『確証はないし、好感度っていうのもそういうのがあるんじゃない? 程度のもので実証はされてない』
「えぇぇ……」
なんとも曖昧な情報に、どうしたらいいのか分からないまま。
私はその日、たぬ吉やモッフルが集めてくれたアイテムを使った料理に邁進するのだった。