第十四話 名付けセンスとおさわり厳禁
「名前はー……よし、ピーたんにしよう。よろしくね、ピーたん」
「キュオオ」
私がそう言って撫でようとすると、ピーたんの嘴によってべしっ! と弾かれる。
……ダメージは入ってないから攻撃じゃないんだけど、まさかのおさわり拒否!?
『拒否られてるw ウケるw』
『多分名前が嫌だったんだな』
『ドンマイ』
「ええ!? 可愛い名前にしたのに!?」
ガビーン、とショックを受けていると、ピーたんはまるでその説を肯定するかのように一つ鳴き声を上げた。
そんなー、一度決めた名前はもう変えられないのに!
「大丈夫、お姉ちゃんは可愛いと思うわよ、ピーたん!」
「うう、ありがとうお姉ちゃん」
ぐっ、とサムズアップしながらフォローを入れてくれるお姉ちゃんにお礼を言いつつ、さてどうしようかとピーたんを見る。
この子のスキルは、全て攻撃系。
どれもお姉ちゃんとの戦闘中に見せて貰ってるし、別段今から検証する理由もない。
一度お試しで戦闘するくらいならいいと思うけど……。
『それにしても、やっぱ経験値入らなかったな』
『不死の加護も万能ではないか』
「うん? どういうこと?」
私が考え込んでいると、コメントで何やら議論が巻き起こっていた。
はてどういうことかと首を傾げていると、視聴者のみんなはその理由を教えてくれた。
『このゲーム、パーティ組んでても入る経験値は貢献度によって決まるんだが、不死の加護で攻撃を受けても貢献度にカウントされないんだなと』
『テイム自体に攻撃判定はなくても、テイムに成功したらそれまでの貢献度に応じた経験値が入るはずだからな。クレハちゃんがレベル1のままだし、間違いないだろ』
「あー、そういえば攻撃を受けるのも戦闘に参加した扱いになるとかなんとか、コメントで見たような」
すっかり忘れてたけど、みんなそこまで考えてたんだね。
もし経験値が入ってたら、私もレベル上がったんだけど……いやいや、今はレベル1のままどこまで行けるかチャレンジしてるんだから、入らない方が良いの。
そう考えておこう。
『それで経験値入るなら初心者のパワーレベリングに使えると思ったんだがなー』
『そう甘くないか』
「よくわかんないけど悪いこと企んでるね、君たち」
私がカメラに向かってじとー、っとした視線を送ると、一斉に流れる『目そらし』のコメント。
ほんと、息ぴったりだね君たち。
「ポンポン!」
「フワラ~」
「あ、たぬ吉、モッフル、お帰り~!」
そんなバカみたいなやり取りをしていたら、ちょうどたぬ吉達が探索から戻ってきた。
取り敢えずアイテムを受け取って褒めてあげてると、コメントには『結局甘やかすクレハちゃんの図』との声。うっさいわ。
「えーっと、手に入ったアイテムは……」
薬草×13
魔茸×8
ゴブリンの角×9
毛玉×18
大鬼の牙×1
金剛石の金棒×1
ほうほう、今回はマンドラゴラはなかったか。
代わりに、なんか凄そうなのが……。
名称:金剛石の金棒
種別:鎚
効果:筋力+40
能力:防御貫通
装備制限:プレイヤー、筋力50以上
スキル:防御貫通
効果:クリティカル攻撃発生時、相手の防御を特大ダウン。
「うん、私は装備出来ないよねやっぱり」
『は?』
『いや待った待った』
『とんでもねえ装備さらっと持ってくんじゃねえ!w』
「そうなの?」
正直、私はまだそこまで細かい知識がないから判断出来ないんだけど……どうやらこれ、フィールドボスからドロップする超レアアイテムらしい。
「えっ……それじゃあこの子達、探索でフィールドボス倒してきたの!?」
『いや、そういうわけじゃない。ボス倒したにしては素材少ないし、拾っただけだろ』
『ごく稀に探索でそのエリアのボス素材拾ってくることがあるんだよ……その時点でめちゃくちゃ確率低いんだけどな』
「へ~」
どれくらいの確率かは知らないけど、どうやらこの子達はかなりがんばってくれたみたい。
ふふふ、私を置いていったことについては、この装備に免じて許してあげよう。
と、それはそれとして……。
「お姉ちゃん、はいこれ、あげる」
「え?」
私はお姉ちゃんにトレードを申し込み、手に入れたばかりの《金剛石の金棒》を載せた。
それを見るなり、お姉ちゃんはわたわたと慌て始める。
「いや、あのねクレハちゃん、これ序盤ではかなり強力な装備なの、そんなにポンとあげちゃダメよ?」
「でも私は使えないし、今日はあまり役に立てなかったし……せっかくだから、お姉ちゃんに使って欲しいなって」
お姉ちゃんのステータスが筋力40以上あるのは、さっきコメントでも触れられてたからまず 間違いない。
なら、これはお姉ちゃんが持つべきだ。
「いつもお仕事がんばってるお姉ちゃんにプレゼントだよ、ありがとうね」
「クレハちゃん……! ええ、ずっと大事にするわね!! もうこの装備で最後まで突っ走ってあげる!!」
「いやいや、プレゼントくらい何度でもするから、普通に更新してね?」
むぎゅうぅ、と潰されそうなくらいの勢いで抱き締められ、私は思わず苦笑する。
プレゼントをゲームの中だけで済ませるつもりなんて毛頭ないし、私としては取り敢えずあったからあげただけって感じなんだけど……こうも喜ばれるとは思わなかったよ。
『ほんと仲良しだなこの子ら』
『姉妹愛てえてえ』
『てえてえのはいいが、クレハちゃんのモンスター達喧嘩してるぞ。放っておいていいのか?』
「ほわい!?」
思わず叫びながら振り返ると、モッフルとピーたんが思い切りどつき合ってた。
何してるのかと思ったら、いつものように採取ポイントでご飯を食べていたモッフルの餌をピーたんが横取りしたっぽい(視聴者情報)。
「もー、モッフルもピーたんも落ち着いて! ほら、ご飯ならこれあげるから」
取り敢えず、たぬ吉とモッフルが集めてくれた魔茸と薬草、それに強制クエストの報酬で得たモンスターの餌を二体にありったけ出す。
モッフルは薬草と魔茸を貪り、ピーたんは普通に餌の方を齧り出したので、ひとまず喧嘩は無事終息したみたい。ふう、よかった。
「もう、みんな食い意地張ってるんだから……この分だと、もう少ししっかりしたご飯を考えた方がいいかも」
たぬ吉から「一緒にしないで!?」的な視線を感じるけど、気付かなかったことにしておこう。
うん、ごめん、2対1で多数派の印象が強くなったの。
『おっ、クレハちゃん料理スキルに挑戦か?』
『あれ完全な趣味スキルであんまりやってる人いないから興味ある』
私の呟きに、視聴者からはそんなコメントが。
なんでも、他のスキルと違って生産にも分類されない趣味スキルは、使えても攻略の役に立たない代わり、誰でもちょっとしたクエストをこなすことで簡単に習得出来るらしい。当然、魔力の消費もない。
そういうことなら、今度狙ってみようかな。モンスターの餌だけは料理スキルで作れるみたいだし。
「キュオオ!!」
「わわっ」
などと考えていると、餌を食べ終わったピーたんが翼を広げ、どこへともなく飛び去っていく。
これは……確認するまでもなく、探索に出掛けたね。
「はあ、ピーたんはちょっと反抗的だなぁ、フィールドボス戦に向けたレベル上げの前に、ちゃんとご飯で躾けないと」
『いや、料理にそんな効果ないからな?』
『つーか、レベル15以上差があることを思えばこれでもまだマシという』
『贅沢な悩みってやつだなw』
コメントからのそんな突っ込みを、私はそっと聞き流しつつ。
ひとまず今日のところはここまでということにして、お姉ちゃんと一緒に町へ戻り、その足でログアウトするのだった。