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第十三話 二度目のユニークとお姉ちゃん無双

「うー、たぬ吉もモッフルも私を置いてけぼりにして……いいもんいいもん、新しい子テイムして、その子だけ甘やかし倒すんだからー!!」


『拗ねたクレハちゃんかわいい』

『そもそも最初から新しい子テイムするつもりでここに来てる件』

『それな』


「しゃらーーっぷ! そこうるさいよーー!!」


 好き勝手言ってくれるコメント欄に突っ込みを入れながら、私はぷんすこと森の中を闊歩する。


 なお、私自身の戦闘力はゼロなのでお姉ちゃんがいなければとっくに死に戻ってる。お姉ちゃん迷惑かけてごめんね。


『しかし、さっきのブラックウルフをテイムするのかと思ったらしないし、一体何を狙ってるんだ?』

『探索、騎乗と来たからな。次は戦闘タイプがいいと思うんだけど』


「あーうん、そこは悩み中だよ。本音を言うと、モッフルより強い戦闘タイプの子がいいなって思うんだけど……」


『あれより強いってユニークしかあり得ん』

『前回はゼインが乱獲したから出ただけで、今回はさすがに出ないだろ』


「チェストぉ!!」


 視聴者のコメントを遮るように(文字だから遮るも何もないけど)、お姉ちゃんが近くに現れたブラックウルフを切り捨てる。


 相棒のガルルも合わせて、すでにかなりの数を倒したと思うんだけど、全く疲れた様子がない。さすがお姉ちゃん。


 というか……


『なあ、このペースで狩り続けたら本当に出るんじゃないか? ユニーク』

『いやいやいや、そんな簡単に出たら誰も苦労しないから』

『そもそも昨日ゼイン達が狩り尽くした量には到底届かんだろ』

『そもそも、たくさん狩れば出るって情報自体確定じゃないけどな』


 うん、私もそれが気になってた。


 お姉ちゃんはさっきから、一人(と一匹)で凄まじい勢いで狩り進めてる。


 この分なら、もしかしたらユニークモンスターだって出ちゃうかも? なんて期待が高まってくるよね。


「よいしょっと! うふふ、クレハちゃん、今の見てた?」


「うん、お姉ちゃんカッコいい! がんばって!」


「ええ、お姉ちゃん頑張っちゃうわよ~!」


 出るかどうかはわからないけど、どうせテイムするならユニークの方が良い。

 というわけで、ひとまずお姉ちゃんを煽ててより一層がんばって貰うことに。『お姉ちゃんチョロい』とかってコメントが流れて来るけど、戦闘に夢中なお姉ちゃんは気付かなかった。


「さて次はー……と、あら?」


 そんなことをしていたら、不意にお姉ちゃんが足を止め、ノリノリだった表情がちょっとだけ引き締まる。


 どうしたの? と声をかけようとして……一瞬遅れて、私もお姉ちゃんの視線の先にいたものに気が付いた。


「上……?」


「キュオオオ!!」


 森の中ではなく、空の上。

 甲高い鳴き声を上げて大きな翼を翻すのは、鋭い目と漆黒の翼を持つ、一体のハヤブサだった。



種族:ガナーファルコン

レベル:17



「ひゅー、つっよーい」


『つっよーい、って呑気だなクレハちゃん』

『モッフルよりレベル上って、明らかにユニークだぞ?』

『マジで出るとかどうなってんだ本当にw』

『もうちょっと感激しなさいなw』


「いやこう、まさか本当に出てくるとは思わなくて、どうリアクションしたものかと」


 最初からわかってたことだけど、モッフルがいない今の私じゃ手も足も出ない。

 しかもモッフルと違って、見た目からしてすごく好戦的な雰囲気が伝わってくるし、明らかな戦闘タイプのモンスターだ。


 まさに、狙ってたドンピシャの相手。だけど、空を飛んでてテイムのスキルが届かない。


「クレハちゃん、この子すっごく強いけど、テイムしちゃう~?」


 お手上げとしかいいようがないこの状況。果たしてどうしたものかと首を捻ってると、お姉ちゃんがそう尋ねて来た。


 まあ、するかしないかで言われたら……


「もちろんしたいよ。けどどうやってしようかなって」


 ここで高レベルをテイムすれば、私にとってもお姉ちゃんのお仕事的にも助かるだろう。

 でも、それを実行する術がないの。


「じゃあ、お姉ちゃんに任せなさい! ガルル、クレハちゃんをよろしくね!」


「ガウッ!」


「あっ」


 自らの相棒を私の護衛に残しながら、お姉ちゃんが剣を手にガナーファルコンへと挑みかかる。


 そんなお姉ちゃんへ向けて、ガナーファルコンは大きく翼をはためかせた。


「キュオオオ!!」


 それに合わせて放たれるのは、強烈な竜巻。

 空から地上へ向けて放たれる突然の魔法攻撃にぎょっとしていると、お姉ちゃんはそれをひらりと回避してみせた。


「ふふふ、甘い甘い♪」


 たんっ、と地面を蹴り、近くの木へと足を伸ばす。

 その木を再び蹴り上げたお姉ちゃんの体は、さながらボールのように力強く舞い上がり──魔法スキル使用直後で硬直するガナーファルコンの目の前に到達した。


「《クイックスラッシュ》!」


「キュオオ!?」


 剣術スキルによる攻撃を受け、空中でバランスを崩すガナーファルコン。

 けれど、流石に一撃でどうにかなるほど柔ではなかったらしく、しっかりと体勢を立て直していた。


「あら、残念。流石にこれだけレベル差があると一撃でとは行かないわね。まあ、もう一回やればいいんだけど」


 地面に着地しながら、なんでもないことのようにお姉ちゃんは呟く。


 いや、あれってそんな簡単に出来ることなの??


『サクラさんのあの動き、スキルじゃないんだよな?? え、リアルプレイヤースキル?』

『敏捷ガン上げすればあるいは……』

『いやでもレベル差って言ってたし……サクラさんレベルいくつなんだ』


「それね。聞くの忘れてたけど、お姉ちゃんのレベルっていくつなんだろ……」


「私のレベルなら、今さっき7に上がったところよ?」


『『『は……?』』』


 さらりと告げられるそのレベルに、コメントが同じ文字で埋め尽くされた。

 君達、驚いた時は同じ反応する決まりでもあるの?


『マジで? レベル7であの動き? 敏捷特化?』

『敏捷特化だったらあんなにダメージ通らねえよ、明らかに40近くは筋力に振ってる』

『それであの動きってもはやチートだよやべえ』


 お姉ちゃんの一撃で、ガナーファルコンの体力はおよそ1割程度減少してる。

 私は今まで一度もダメージを通せたことがないから、基準がたぬ吉とモッフルしかいないんだけど……この反応を見るに、レベル7であれはかなりの大きなダメージみたいだね。


「ポイントはほとんど筋力、敏捷、器用に振ったから攻撃受けたら終わりなんだけどねー、ギリギリのスリルも楽しいわよ」


「なるほど、お姉ちゃんって私と打たれ強さは変わらないんだね」


『何この紙装甲姉妹』

『バランスわっる。壁になってくれるタイプのモンスターもいないし。モッフルでギリ?』

『だが強い理不尽』

『それな』


 そうこう言っている間にも、お姉ちゃんとガナーファルコンの戦いは続いていく。


 巻き起こる竜巻を躱して跳び上がり、一撃。お姉ちゃんが着地したところをガナーファルコンが鉤爪を用いて襲撃してきたけれど、それをさらりと《パリィ》という防御系スキルを使って剣で弾き、無効化。隙を作って、再度斬りつけていた。


「ふふふ、そんな攻撃じゃ、何度やっても私には届かないわよ♪」


「キュオオオオ!!」


 お姉ちゃんの余裕綽々の笑みに怒ったみたいに、ガナーファルコンは再び翼を広げる。

 また竜巻かな? と思ったんだけど……今度は、無数の小さな風の礫を生成し、一斉に撃ち放って来た。


「あら、こんな攻撃もあるとは知らなかったわね!」


 お姉ちゃんは、それすらもあっさりと回避。そこは流石だ。

 けれど。


「ほえ?」


 たまたまその先にいた私に向かって、風弾の雨は容赦なく降り注いだ。


「しまっ、クレハちゃん!」


「ガルルゥ!」


 ガルルが私の首根っこを咥えて回避してくれたけど、流石に無抵抗のお荷物を庇い切れるほど甘い弾幕でもなかった。

 風弾の一発が私の体を捉え、思い切り弾き飛ばされる。


 絶大なダメージによって、急激に減少していく私の体力。

 そのまま、為す術なくゼロになるかと思ったそれは──一度底を突いた瞬間、ぴこんと1ポイントだけ復活した。


「うわあ、危なかった!」


 私の新装備、《紅玉のバトルドレス》が持つ《不死の加護》が発動したみたい。

 これがなかったら、私見学してただけなのに死に戻るところだったよ……危ない危ない。


『流れ弾にやられたかと思えばなんという幸運w』

『まあ、不死の加護なら10%くらいで発動するからまだ……』

『十分すげーよw』


 10%しか発動しない効果だったのかー……CT60秒にしてはケチくさい。


 でも、これで正真正銘後がなくなったわけだし、私もそろそろがんばらないと!


「よくもやってくれたね! お返しに私も新しいアイテムの力を見せてあげるよ!」


 空飛ぶハヤブサにそう宣言しながら、取り出したのは《体力回復薬・毒》。

 体力回復と引き換えに何らかの状態異常を引き起こすこれを使って、あのモンスターを墜落させてあげるんだから!


『え、もしかしてクレハちゃんそれ投げるつもり?』

『やめとけって、器用値低いと飛んでる相手になんてロクに当たらない』


「とりゃーーー!!」


『『あっ』』


 コメント欄に何か忠告が流れた気がするけど、それより早く投擲モーションに入った私は、力の限りポーションを空に向かって投げつけていた。

 綺麗な放物線を描いたそれは、ガナーファルコンへと吸い込まれるように……当たるはずもなく。


 あっさりと外れただけでなく、たまたま落下地点にいたお姉ちゃんに当たってしまった。


「うわぁ!? ご、ごめんお姉ちゃん!!」


 お姉ちゃんを援護するつもりだったのに、却って邪魔しちゃったよ!!


 状態異常から回復させる薬なんて持ってないし、どうしたら……! と焦る私だったけど、なぜかお姉ちゃんはその場で立ったまま真っ直ぐにガナーファルコンを見上げていた。


「よくも……私のクレハちゃんを傷付けてくれたわね!! お仕置きしてあげるわ!!」


 その叫びと同時に、お姉ちゃんの全身から湧き上がる真紅のエフェクト。

 えっ、一体何が!? と思いながら、ステータス一覧からお姉ちゃんの状態を確認してみると……。



状態異常:バーサーク

効果:筋力大アップ、防御特大ダウン。



 こんなとんでもない状態異常に陥っていた。


『いやいや待って待って、こんな状態異常あったの!?』

『確かにあのポーションで発生する状態異常はランダムだし、この辺じゃ発生しないものに陥る可能性もあるけどさあw』

『ピンポイントでそんなの引く??』


 コメント欄が沸き立つ中、お姉ちゃんは怒りも露わに剣を構え、宙に跳び上がる。

 筋力が上がったせいか、はたまたお姉ちゃんの執念の為せる技か。

 一瞬でガナーファルコンの目の前に到達したお姉ちゃんは、心なしか怯えているように見えるそのモンスターへと剣を振りかぶる。


「てええええい!!」


「キュオオオオ!?」


 半分以上残っていた体力が、一瞬でほぼゼロに。

 あまりの大ダメージに《気絶》の状態異常を起こしてしまったらしいガナーファルコンが、そのまま私の前に落ちて来る。


「ええっと……なんだか予想外の展開だけど、まあせっかくだし」


 すっ、と手を掲げ、瀕死の状態で私の射程へと飛び込んできたその子に、私はすぐさまスキルを使用。


「《テイム》」


『ガナーファルコンのテイムに成功しました、名前をつけてください』


 私は待望の、戦闘タイプのモンスターをテイムするのだった。



名前:なし

種族:ガナーファルコン

タイプ:戦闘

レベル:17

体力:150/150

魔力:220/220

筋力:50

防御:30

敏捷:80

知力:80

器用:40

幸運:10

スキル:《飛翔》《サイクロン》《切り裂く》

特殊スキル:《ウィンドシャワー》

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[一言] 発動確率10%ならそのCTも納得
[良い点] 幸運「物欲センサー?知らんな」
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