第十二話 森の戦闘と偶の不運
「へー、騎乗モンスターじゃなくてもプレイヤーが乗ることは出来るんだ」
「ええ、そうよ。もっとも、システム的なサポートはないから誰でも出来ることじゃないけどね」
少しだけ得意げに、お姉ちゃんはそう語る。
無事合流した私達は現在、駆け出しの平原とは別方向にあるもう一つのフィールド、《迷いの森》の中にいた。
乱立する木々のせいで見晴らしが悪く、モンスターも一段と強力。
そのため、駆け出しの平原である程度慣れたプレイヤーが、フィールドボスと戦うまでのレベル上げの場所として利用するフィールドなんだって。
この場所でパーティ登録したお姉ちゃんと一緒に戦闘しつつ(私以外の)レベル上げ、そして何より、もう一体ちゃんとした戦闘タイプのモンスターをテイムするのが今回の目的だ。
お姉ちゃんほどすごいことは出来ないけど、私もがんばるぞー!
という話をしたところ、お姉ちゃんからは複雑な表情。ほわい?
「まあ、私のはシンプルにプレイヤースキルの問題だから、少ないとはいえ出来る人もいるのだけど……クレハちゃんのテイムは本当に運任せだから、真似出来る人はどこにもいないのよねえ。だから、心配しなくても十分凄いわよ?」
『それな』
『クレハちゃんは強運すぎる』
『いやでもそろそろ失敗するはず、きっと、多分』
『でもここまで来たら運一つで最後まで突っ走って欲しい』
『期待期待』
「なんかそう言われると緊張してきたよ」
確かに私は人より運が良い自信はあるけど、あくまで運は運。お姉ちゃんみたいに自分で磨き上げた技術ってわけでもないし、いつかそっぽ向かれそうで怖いんだよねぇ。
特に今回は、実際に私が格上モンスターをテイムすることで、お姉ちゃんの検証作業をお手伝いするっていう目的もあるし。視聴者のみんなには内緒だけど……そこそこ不安だ。
「って、そんなこと言ってたらモンスターだ」
そうして薄暗い森の中を歩いていると、たぬ吉が発動した《索敵》に敵モンスターが引っ掛かった。
数は二体、バトルウルフとよく似たモンスターで、ブラックウルフと言うらしい。
「ちょうどいいわね、私とクレハちゃんで一体ずつ、肩慣らしと行きましょう」
「うん、分かった」
とは言っても、私はモンスターにお願いするだけで何もしないんだけどね。
というわけで……
「それじゃあガルル、かっ飛ばすわよ! 《噛みつく》!」
「ガウ!」
まず先陣を切ったのはお姉ちゃん。
攻撃スキルの指示を受けて突っ走るバトルウルフ、ガルルの背に乗り、まだこちらに気付いていないブラックウルフへと突っ込んでいく。
「《クイックスラッシュ》!」
接触の寸前、跳び上がったお姉ちゃんが剣を抜き、スキルを発動。持ち前の身体能力にシステムアシストを受けて加速した刃が、ガルルの牙と同時に炸裂。
一瞬にして、一体倒してしまった。
「お姉ちゃん、すごい……!」
『いや本当にすごいな、なんだよあの動き』
『このゲームあんなこと出来んの……? ちょっと俺練習してみようかな……』
あまりにもカッコいいお姉ちゃんの戦いぶりに、視聴者のみんなもあっさりと虜になってしまったらしい。
よーし、私達も負けてられないぞ! お姉ちゃんの妹らしく、カッコいいとこ見せちゃうもんね!
「モッフル、《突進》!」
「フワラ~!」
私の指示を受けたモッフルが、凄まじい勢いでブラックウルフに突っ込んでいく。
そして直前で飛び上がり、思い切り《踏みつける》!
「フワフワ~!」
「ギャオウ!?」
モッフルの一撃を受け、ポリゴン片と化し四散するブラックウルフ。
そんな光景を眺めながら、私は指示を出した時の格好のまま固まっていた。
『突進よりも踏み潰したい気分だった模様』
『言うことは聞いてないけど目的は達成してるからセーフ』
『実際、突進は踏みつけるより威力高いけどCT長いし、倒せるなら踏みつけで倒した方がいい』
『クレハちゃんの指示いらない説』
『モンスターの方が有能』
「ねえみんな、あんまり言うと私泣くよ? 泣いちゃうからね? ……ぐすん」
モッフルが私の指示よりずっと的確な攻撃で敵モンスターを倒してくれた事実に、さめざめと泣き崩れる私。
うぅ、私なんて所詮は運だけの女ですよーー、ちんちくりんのポンコツドジっ子ですよーーだ。
「そんなに落ち込まないで、クレハちゃん」
「お姉ちゃん……」
そんな風にいじけてたら、お姉ちゃんが私の体をそっと抱き締めてくれた。
顔を上げると、優しく微笑むお姉ちゃんと目が合う。
「クレハちゃんは十分凄いわよ、今だって、推奨討伐レベル5以上のブラックウルフをレベル1のまま倒してるんだから。運も実力のうちって言うでしょ? 自信持って」
「うう、お姉ちゃん……!」
よしよしと慰められた私は、そのままお姉ちゃんに抱き着く。
こういう優しいところがあるから、お姉ちゃんはやっぱりお姉ちゃんなんだよ。
私生活はだらしないし家事も全く出来ないお姉ちゃんだけど、これからも私がお世話してあげるからね!
『姉妹仲が良いのは大変良いことなんだが、モンスター集まって来てるぞ』
「おっといけない、まだフィールドの中だった」
お姉ちゃんから離れて辺りを見回すと、確かにブラックウルフがちらほらと。
たぬ吉に索敵の指示を出しておけば良かったなぁ、と思ったけど、いつの間にかいなくなってる。
また探索に出掛けたのかな? まあ、たぬ吉は良いアイテム持ってきてくれるし、いいんだけど。
「全くもう、私とクレハちゃんの逢瀬を邪魔するなんて、無粋なモンスターね」
『いやいや、どっちかというと君らがモンスターの縄張り入って勝手にいちゃこらし始めたというか』
「全部纏めてぶっ飛ばしてあげるわ! 行くわよ、ガルル!」
「ガオゥ!!」
『うーん、この理不尽である』
コメントにちょこちょこ突っ込まれながらも、やる気を漲らせたお姉ちゃんが剣を片手にバトルウルフと一緒に狼の群れに突っ込んでいく。
バッタバッタとなす術なく薙ぎ倒されていくモンスター達を見ていると、確かに理不尽だと思わなくもない。
「でも、そういうゲームだしね。さあ、私達もレベルアップのためにがんばるよ、モッフル! ……モッフル?」
反応がないのでもう一度辺りを見回すと、モッフルの姿も見えなくなっていた。
念のためメニューからモッフルの状態を確認してみれば、そこにはハッキリと《探索中》の文字。
『昨日はヤバイくらいしっかり戦いまくってたのに、今日はやる気ない様子のモンスター達よ』
『まあ、これが本来の正しい形だよな。レベル差ヤバイんだし』
『ソロでこうならなかっただけ運が良い』
『むしろさっきの交戦でサクラさんが強すぎたからクレハちゃんは任せておけば大丈夫でしょと判断された説』
『もしそうだったらめちゃくちゃ賢いなw』
『なお置いてけぼり食らったクレハちゃんは完全にやることなくなった模様』
私の言いたいことを視聴者のみんなが一つ残らず言ってくれたので、もはや何を口にすることも出来ず。
手持ちぶさたな私は、地面にのの字を書いていじけながら無双するお姉ちゃんの姿をただ遠い目で眺めるのだった。