第十一話 待ち合わせとお姉ちゃん登場
「ふっふふんふふーん♪」
『ご機嫌だなクレハちゃん』
『鼻歌可愛い』
「だって、こんな可愛い装備貰えたんだもん、ご機嫌にもなるよ」
始まりの町の片隅でベンチに腰掛けながら、私はコメントに対しそう答える。
私は今、お姉ちゃんと合流するために待ち合わせの真っ最中だ。
デバッグの仕事をある程度片付けてから来るって言ってたから、ちょっと遅い合流になってるの。
「まだかなー、お姉ちゃんまだかなー」
ぷらぷらと足を揺らし、暇つぶしに辺りを見渡せばたくさんの人々が目に入る。
NPCだったり、モンスターを連れたプレイヤーだったり……プレイヤーでもモンスターを連れ歩いていない人はいるけど、そういう人は探索に出してるのかな? あるいは、大きくて町中では出せないタイプなのか。
ひとまず連れている人だけでも観察すれば、やっぱり初期モンスターだったからか、馬だったり狼だったりを連れている人が多いように思う。
けれど、みんなレベルアップと共に成長、ないし進化させたのか、私が見た記憶にある姿より随分と大きく、カッコイイモンスターに変貌を遂げているみたい。
そうでなくとも、竜やコカトリス、ケルベロスみたいないかにもファンタジーなモンスターもたくさんいて……一体どこでテイムしたのかと、ちょっと気になる。
『こうしてただ待っているだけでもクレハちゃんは可愛いな』
『お菓子あげたい』
『通報した』
『通報した』
『このロリコン野郎め!』
『待て待て誤解だ、俺はただお菓子をあげたいと思っただけだ!』
「そうだよみんな、大体私はロリじゃないよ、高校生だもん」
『『『えっ』』』
私の言葉に、コメント欄が一斉に同じ文字で埋め尽くされた。
……うん、分かってたけど、分かってたけど!! やっぱり勘違いしてたのね君達!!
『てっきり小学生かと思ってた』
『俺も、精々中学生だろうなとばかり』
『高校生……? 嘘だろ……?』
「うぅ、みんなしてひどい!」
大半の人は勘違いしてるだろうとは思ってたけどさ、せめて一人くらい分かる人がいたっていいじゃない!!
いくら背が低いからって、もっとこう……言動とか雰囲気とかそういうので、大人の魅力的なものを感じてくれてもいいじゃない!?
『大人の……魅力……?』
『えっと……まあほら、元気出せ、そのうち大きくなるさ!』
『大丈夫、俺は小さいクレハちゃんが好きだぞ!!』
「うるさーーい!!」
ついには雑なフォローまで入れ始めたコメント欄にキレ、カメラに向かってぶんぶんと手を振り回す。
そしたら今度は、『そういうとこが子供っぽいから余計に信じられないんだよなぁ』なんて意見が。ぐぬぬ。
『それにほら、お姉ちゃん待ってるんだろ? そろそろ来る時間じゃないか?』
「むむ、それもそうだね」
私とお姉ちゃんの待ち合わせ時間は十時頃。今はその五分前だ。
お姉ちゃんに限ってチュートリアルや検証に手間取ってるってこともないだろうし、そろそろ……。
「……うん?」
来るかな? と思っていたら、町の奥から凄まじい勢いで突っ走って来る一体のモンスターが見えた。
昨日最初の一体を選ぶ時に見たのと同じ、バトルウルフ。白い毛皮に覆われた狼が、猛スピードでこっちに向かって突っ込んでくる。
そして、そのバトルウルフの上には……。
「クレハちゃーん、待ったー?」
桜色の髪を風に任せて振り乱し、狼の上に両手を広げて立ち上がるスーパー美人なお姉ちゃんの姿が。
って、ちょ!?
「お姉ちゃん、何してるの!? バトルウルフって騎乗モンスターだっけ!?」
『いや戦闘モンスターだよ!? なんで乗れんの!?』
『ちゃんと跨らないと騎乗系のスキル何も機能しないはずだよな? いやそもそも騎乗モンスターじゃなかったら何の補正もかからないし……え、あんな乗り方出来るの!?』
『まるでいみがわからんぞ!!』
私だけでなく、その映像を見た視聴者の人達も、更に言えば近くにいた他のプレイヤーやNPCさえもぎょっと目を剥く中、お姉ちゃんはそんな数々の疑問を正面から受け止め、笑い飛ばす。
「せっかくゲームだもの、初登場はカッコつけなきゃ損だと思って」
「カッコつけすぎだよ!?」
「というわけで、とーう」
「ふえっ!?」
揺れる狼の上から、その足場の悪さを一切感じさせない軽やかな跳躍を見せたお姉ちゃんが、そのまま私目掛け突っ込んでくる。
やばい、ぶつかる!? と、そう思ってぎゅっと目を瞑ると……。
「ふふ、一応、こっちでは初めましてって言った方がいいのかしら? 朝に一応言っておいたけど、あなたのお姉ちゃん、サクラちゃんよ。よろしくね☆」
次に目を開けた時には、きゃぴーん、と私が一度は考えてもやらなかったポーズを決めながら、私の体を片手で抱き上げたお姉ちゃんの顔が目の前にあった。
……いや、その、え?
真上から突っ込んで来たお姉ちゃんが、どうして私を抱き上げた格好で綺麗に着地を決めてるの? 目を瞑ってた一瞬の間に一体どんな挙動が繰り広げられてたの?
『やべえ、なんだ今の動き……』
『体操選手かよ』
『クレハちゃんもヤバかったけど、こっちのお姉さんは別の意味でやべえ……』
どうやら、私と違って視聴者のみんなはバッチリその動きを見ていたらしい。
何なら、周りにいた人達からはパチパチと拍手すら送られている。
ある意味、お姉ちゃんの思惑通りというべきか。
私一人だけなんだか置いてけぼりを喰らいながらも、こうして無事に姉妹で合流を果たすのだった。