第十話 不幸中の奇跡
VR週間ランキング一位になりました!! みなさんありがとうございます!!!
今回はティアラちゃん視点です。
私──倉井涙子がTBOを始めたのは、一ヶ月くらい前だった。
リアルではまともに他人と会話も出来なくて、学校にも馴染めず友達の一人も作れなかった私は、話題のゲームをすることでみんなの会話に混ざれないかな、とか……そんな風に思って、このゲームに手を出したんだ。
でも……たとえゲームであっても、現実はそんなに甘くなかった。
ドジでどんくさくて運も悪い私は、戦闘をしてもモンスター一体倒すことも出来ず、生産をしても失敗ばかり。
ネットで調べて、初心者がまず作るべきだっていう回復薬すらまともなものが出来なかった。
そんな酷い有り様で、クラスのみんなと話が合うはずもない。変なやつだと笑われて、何も状況が変わらない私にすぐに飽きられて……結局、ゲームを始める前と今とで、何一つ私を取り巻く状況は変わらなかった。
「えへへ、それじゃあトレード成立だね! ありがとう、ティアラちゃん!」
今回の出店で何も売れなかったら、もうこのゲームを止めよう──そう思っていたところに、この子が現れた。
プレイヤーネーム“クレハ”さん。私と同じくらいの身長の、小さくて可愛い女の子だ。
「い、いえ、私の方がずっと……」
満面の笑みでお礼を言ってくれるクレハさんに、私はごにょごにょと形にならない言葉を並べ立てる。
お礼を言わなきゃならないのは、私の方なのに。
こんな……ほとんど売り物にならないだろうと思ってた装備やアイテムを(物々交換だけど)買ってくれて。
ただ私を憐れむでもなく、私のアイテムこそを必要だと言ってくれた。
本当に、どれだけお礼を重ねても足りないくらいなのに、上手く言葉に出来ない自分をこんなにもどかしいと思ったことはない。
「うーん、やっぱりこれ可愛いなぁ、ねえねえ、これって生産職の人が自分でデザインしたりするの?」
「あ、えと……デフォルトデザインっていうのがいくつかあって、それを少し自分で弄ったのがその装備で……」
どうにか説明しながら、改めて私の装備を着こんだクレハさんを見る。
ゴスロリ風のワンピースドレスに身を包んだクレハさんは、控えめに言って愛らしかった。
赤をメインに白いフリルをあしらい、胸元には名前の元になっているルビーの嵌め込まれたリボンが大きく花開く。
その石言葉の通り、情熱と幸運を体現したひまわりのように輝く黄金の髪と相まって、まるで絵本の中から飛び出してきたお姫様みたい。
「おっと、そろそろお姉ちゃんと合流する時間だ。それじゃあ、私はそろそろ行くね」
「あ……」
そんなクレハさんが、夢の終わりを告げるかのようにメニュー画面の時計を見る。
このままただ見送ったら、夢が本当に夢だけで終わってしまう。そんな気がして。
「ま、まって!」
気づけば、自分から声をかけていた。
「うん? どうしたの?」
「そ、その……私、普段は学校が終わった後、夕方頃にログインしてるの。だからその……ま、また会えるかな!?」
お礼とか、普段どこで遊んでるのかとか、言いたいことが渋滞し過ぎて、結局その半分も言葉に出来なかった。
けれど、クレハさんはそんな言葉少なめな私に笑いかけ、元気よく首肯してくれた。
「うん! 今度はお客さんと生産職ってだけじゃなくて、友達として一緒に遊ぼ!」
「あ……うん……うんっ!」
遊びの約束までしてくれて、思わず緩みそうになる涙腺をぐっと堪えながら、私は何度も頷く。
友達……私の、初めての友達。えへへ。
「それじゃあティアラちゃん、またねー!」
「うん、またね! クレハ……ちゃん」
少しだけ呼び方を変えてみたことに、クレハちゃんは気付いただろうか?
とてとてと駆けていく背中を見送りながら、私はぐっと拳を握り締めた。
「私、これからはもっとがんばるね。もっと色んな人とちゃんと話して、もっと強くなって……クレハちゃんの役に立てるような、もっとすごいデメリット装備を作るから!」
「いや、デメリット装備以外も作ろうぜ?」
大柄な男の人にそう突っ込みを入れられ、私はそのままの体勢で硬直する。
……こ、この人、まだいたんだ……独り言、思いっきり聞かれちゃった……うぅ、恥ずかしい……!
羞恥に耐えきれずに走り出した私を、その人が咄嗟に追いかけて。
その後広まった誤解と弁明の騒動の結果、男の人に“ロリコン紳士”の通称がつくことになるんだけど……その展開はさすがに、私のせいじゃない、と思いたい。