表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美仁は異界の悪魔の子  作者: 山寺絹
8/64

8・畑を収納術

 





 勉学も修行も休める今日、美仁はアイテムボックスの改良をしようと考えていた。今までは何も考えずにアイテムをポンポン入れていただけだったが、今後旅をする際にお金の節約をする為にアイテムボックス内で畑を作ろうと思い付いたのだ。

 まず、アイテムボックスの広さや形状を考える。今は翡翠の家程の広さがある。美仁は家をイメージして作った為家に似た形をしている。


「まずはアイテムボックスの中に入ってみようかな。」


 美仁はアイテムを仕舞う要領で自分をアイテムボックスに収納した。アイテムボックス内は真っ暗で空気が無い。驚いた美仁は咄嗟に精霊達に頼み、明かりと自分の周りに空気を出して貰った。


「………はぁ~~~…。…そうか。アイテムボックスの中は時間も空気も無いんだった。」


 死ぬ所だった美仁はのんびりとした口調で翡翠の教えを思い返した。アイテムボックス内を精霊に照らして貰い、見て回る。テントや調理器具、魔物の皮や薬草類、肉類が乱雑に置かれている。


「アイテムを置く棚が欲しいかな。…畑が出来たら作ろう。」


 美仁はアイテムが置かれた場所とは反対側の区画を畑にしようと考え、土の精霊に大量の土を出して貰う。土を出して貰ったが作物を育てる為に必要な深さが分からなかった為、一度アイテムボックスから出て長光達の所へ向かった。

 長光と小豆は畑の雑草を抜いていた。タヌキに似た姿の二頭が背中を丸めて作業している姿は大変愛らしい。


「長光、小豆、ちょっと聞きたい事があるんだ。」


「はい。美仁様、何でしょう?」


「畑の土ってどのくらいの深さが必要なの?」


「美仁様畑を作られるんですか?」


 長光は首を傾げながらも畑について教えてくれた。更に翠山で育てている作物の種を譲ってくれる。

 美仁は礼を言い種をアイテムボックスに仕舞うと、小夜と昼食の支度を始めた。昼食後、美仁はアイテムボックスに入らずに数珠丸の所へ向かった。


「タホンとガレルダァを使役したいんだけど、何処にいるか知ってる?」


「…ああ。すぐに発つか?」


「うん!お願い!」


 数珠丸に乗ると数分で目的地に着いた。


「この森にタホンもガレルダァもいる。俺はここで待っているからな。」


 美仁は頷くとこの森に居るものの気配を探った。小さい魔物の気配がいくつもあるが、どれがタホンとガレルダァのものか分からない。美仁は気配を消して近くの気配から確認していった。

 この森はゴブリンが多い。美仁は何体もゴブリンの気配を追った為にゴブリンの気配が分かるようになってしまった。ゴブリンにしか出会えない事にげんなりした美仁は、ゴブリンの気配は無視をして他の気配を追って行った。出来るだけ群れている気配を避け一体だけでいる気配を追っていると、くすんだ黄緑色をした魔物が茂みからのそのそと出てきた。


「あ!タホンだ!私と使役契約を結んで!」


 やっと出会えた目的の魔物に喜んだ美仁は勢いよくタホンに頼み込んだ。タホンは驚いて身を竦めたものの、逃げる様子はない。契約してくれるのだろうと踏んだ美仁は巻物を出した。


「ごめんね。ちょっと痛いけど、血を貰うね。」


 美仁は自分の掌を切り付け血を巻物に擦り付けると、タホンの指を少し切り、自分の血痕の上にタホンの血を落とした。

 金剛と買い物をした際に買っていたポーションをタホンに飲ませ、血が止まったのを確認すると巻物に触れチャクラを流す。契約が完了すると巻物を仕舞い、美仁はタホンに名前を付けようとタホンを見た。


「君はタヌキに似てるから、ポンタだ!私は美仁。よろしくね。」


「タヌキ…?美仁。よろしくお願いします。」


 ポンタは首を傾げたが、すぐにペコリと頭を下げた。その様子が可愛らしくて美仁はデレッとした笑顔で頷いた。

 次はガレルダァを探す。小型の魔物の気配を覚えてきている美仁は、覚えの無い気配を探す。そうして見つけたのは、小夜よりも白っぽいガレルダァだった。

 ガレルダァに声を掛けると、こちらも逃げる様子はない。ポンタの時と同じように契約をした。ポンタとの契約から三十分も経っていないのに、美仁の掌の傷は無くなっており、また合口で切らなければならなかった。美仁は怪我の治りも早いのだが、痛みはしっかりある為に今回も顔を顰めながら自らを切り付けた。


「じゃあ君の名前はシロね。私は美仁。よろしく!」


「はい。美仁、よろしくお願いします。」


 シロもペコリと頭を下げる。ポンタ同様とても可愛らしくて、美仁は目尻を下げて頷いた。

 待ってくれていた数珠丸に乗り翠山に戻ると、ポンタとシロを翡翠に紹介した。そしてこの二頭を長光と小豆の元で畑の世話を学ばせたい旨を伝えた。翡翠は美仁の意図が掴めず、眉を寄せ訝しんでいたが了承し、二頭は畑の世話を学んでいった。

 二頭が畑について学んでいる間、休みの度に美仁はアイテムボックスに入り畑や棚を作っていった。

 畑はゴボウの種もあった為、深さ一メートル程アイテムボックス内の床を掘り下げて、そこに土を敷き詰めた。土の精霊は、それぞれの野菜が育ち易いように土を管理してくれるらしい。他の精霊達も美仁の畑に協力してくれるらしく、光の精霊と火の精霊が日光の役目を担ってくれ、風の精霊が畑の区画に空気を送ってくれた。アイテムボックス内は時間の概念が無いのだが、畑の区画に時の精霊が時間の流れを創り出してくれた。水の精霊は、水瓶に水を入れてくれ、土の中の水分量の管理もしてくれるらしい。美仁の畑は、精霊の力でかなり良い環境が整った。

 アイテムボックス改良を決意してから三ヶ月が経ち、ポンタとシロをアイテムボックスに入れて種まきをした。


「季節に関係無く育てる事が出来るなんて…。」


「精霊のお陰だね。皆、ありがとう~。」


 種まきをしながら感心しているポンタの言葉に、美仁はニコニコと応え精霊達に感謝を伝えた。精霊達は嬉しそうにくるくると回ってみせた。ポンタとシロの巣を畑の隅に作った。


「蝶達もここで暮らして貰おうかな。お花があれば良いのかな?」


 蝶達は好みの花があるらしく、小さい花が沢山集まった集合花が良いやら、何色の花が良いやら、果実が良いという要望を伝えてきた。美仁は休みの度に数珠丸に頼み花を集めた。果実が良いという要望には蜜柑の木を植えてあげた。

 ポンタがアイテムボックス内で畑仕事をするようになり、しばらくはシロも同じようにしていたが、美仁は小夜に頼んで普段小夜がしている仕事をシロに教えて貰った。小夜は家事全般が完璧に出来、行き届いた気配りの出来る素晴らしい従者だった。同じ種族という事もありシロは小夜に懐き、よく学んでいた。


 ある日、アイテムボックス内で棚を作っているとシロから翡翠が呼んでいると念話が入った。アイテムボックスから出ると、目の前に翡翠が立っていた。突然現れた美仁に目を丸くしている。


「…そなた、何処に行っておった…?」


「アイテムボックスに入ってました。」


「は!?そなた何とも無いのか?アイテムボックス内で何をしておった!?」


 驚いた翡翠の勢いに押され身を竦ませた美仁は縮こまりながら答えた。


「あ、あの…アイテムボックス内は初めは空気も明かりも無かったですけど、精霊達のお陰で中に居れるようになりました。アイテムボックスの中で畑を作って、野菜を作ってます。」


「畑?野菜ぃ?…はぁ…美仁、そなたには本当に驚かされる…。アイテムボックス内に生命が存在する事は不可能な筈じゃが…。そなたにはその原理が通用しないようじゃの。」


 翡翠は片眉を上げ笑いながら以前金剛の言っていた、ただの童ではない、という言葉を思い出した。目の前の少女はやはり、人間ではないのだろう。精霊達がやけに美仁に対して協力的なのも、きっとそのせいだ。


「まぁ良い。近々弟子が増える。そなたと同じ年頃の娘じゃ。」


「え?そうなんですか?どんな子ですか?」


 美仁は目を輝かせた。同じ位の女の子、友達になれるかも知れない。


「ガルニエ王国の貴族の娘らしい。ニホンという国を知っておったぞ。」


「え…。」


 ガルニエ王国は、島国であるミズホノクニの隣にあるエルブルス大陸にある国だ。通常であれば陸路と海路を使い約二ヶ月の旅となるが、数珠丸がいるので三日でここまで来れる。

 翡翠の言葉に美仁の表情は曇ったが翡翠は、仲良くな、と言うと家に戻って行った。

 美仁は日本を知る少女が少し怖かった。日本人には無い色を持つ自分、また悪魔と言われるだろうか…。辛い思い出がよみがえる。もうすぐ翠山にやってくる女の子は、どんな子だろう。仲良くなりたい。でも…。

 美仁は期待と不安の入り交じる数日間を過ごす事になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ