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美仁は異界の悪魔の子  作者: 山寺絹
54/64

54・恋の策略

 




 オルガは宣言通り翌日もやって来た。その翌日も、翌々日も。毎日のようにカイの家へ通い、ディディエに纏わりついている。

 勿論美仁は面白くないのだが、狭量だとディディエに呆れられたく無いので笑顔で二人を見ていた。

 カイがリンゴンベリーを摘みに行くと言うと、オルガも着いて来た。この日もディディエに纏わりつき、足を滑らせてディディエの腕にしがみついた。大きな胸をディディエの腕に押し付ける様を見た美仁は、二人に背を向けリンゴンベリーをやけ食いしながらベリー摘みをした。


「お前…食べ過ぎじゃないか?その実、全く甘くないだろう?」


 呆れたようにロンが美仁に声を掛けた。


「うん。酸っぱくて苦い…。」


 美仁は振り向いて眉を寄せて言うと、ロンの指先が目に入った。ロンの指先も美仁と同じく赤く染まっている。沈んでいた気持ちが少し軽くなった。


「あははは!ロンだって食べてるじゃない!」


「甘い実もあるのかと思ったんだが、この実は甘くないのだな…。」


 ロンも苦い顔をして言うので、美仁は更に可笑しくなる。そんな美仁の頭に、ロンはポンと手を置いた。


「最近浮かない顔をしていたが、平気か?辛いのなら、遠くに連れて行ってやる事も出来るが。」


 ロンは心配してくれていたらしい。心配をかけてしまった事を申し訳なく思いながら、美仁は眉を下げて微笑んだ。


「大丈夫。心配してくれて、ありがとう。」


「あら、美仁さん。ロンさんとと~っても仲が良いのね。」


 オルガの甘ったるい声に振り向くと、オルガとディディエがこちらを見ていた。オルガはにっこりと笑う。


「私、美仁さんとお話したいの。良いかしら?」


「…はい。勿論、良いです…。」


 オルガが森の奥に進んで行くのを美仁は追う。ロンとディディエの姿が見えない程に離れると、オルガは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「美仁さん、私、ディディエが好きなの。」


 やっぱり。分かってはいたが、改めて言われて心臓を握られたような感覚に襲われる。何も返さない美仁に、オルガは更に言葉を重ねた。


「ディディエは私にとっても良くしてくれるし、何より素敵だわ。男色じゃないし…。それに、ポルーキュラに来るまでの旅で、何度もお似合いの恋人同士だと言われたのよ。美仁さんも、そう思わない?」


 美女でスタイルの良い自信に満ち溢れたオルガと、そんな彼女に戦闘力でしか勝てないと卑屈になる美仁。たしかに美男美女でお似合いかも知れないが、美仁だって負けたくなかった。


「でも、ディディエの恋人は私だもの。ディディエはちゃんと、私を愛してくれてる。」


「それはアナタ達パーティに女性が美仁さんだけだったからじゃない。ディディエもこの村に滞在して、私と一緒に過ごしていたら、きっと私の方を好きになるわよ。」


 あれ?…そうかも知れない…。女性としての魅力に関しての自信が無い美仁は、オルガの主張にあっさりと負けた。

 一緒に居る時間が長かったから、ディディエは自分を好きになった…うん…有り得る…。しかもディディエは美仁を女神だと言う。それは、美仁がディディエの呪いを解く手助けをしたからだ。恩義を恋慕と勘違いしている可能性があるかも知れない。

 考え込む表情をした美仁を見て、勝利を確信したオルガはニヤリと口角を上げた。


「貴方はディディエに相応しくないって分かったかしら?だから美仁さん、しばらく私達の邪魔をしないでくれる?美仁さんはオーロラを見たらまた旅立つんでしょ?それまでの間よ。」


「でもオルガさん、夜は?夜ディディエが勝手に私のベッドに入って来るのはどうしたら良いの?」


 美仁の疑問にオルガは真っ赤になった。


「そっそんなの!理由をつけて断れば良いでしょ!ロンさんと寝るとか!」


「ええ~?ロンと寝るなんて言ったら、ディディエ怒るよ~。」


「もう!とにかく!理由をつけて断るのよ!」


 オルガはプリプリと怒ってディディエの方に行ってしまった。しかし今夜もディディエに愛を囁かれ、美仁はディディエの腕の中で眠る事になる。オルガの計画は、上手くいかないようだった。

 今まで立ち寄った町々で声を掛けてくる女性達に辛辣な態度を取っていたディディエが、オルガにはそうでなかったのには理由があった。カイがこの村でこれからも生きていくのに、悪い印象を与えるべきでないと思ったからだ。だからオルガに対して出来るだけ紳士的に振る舞いながらも、オルガに気持ちは無いとオルガの目の前で美仁と睦まじい様を見せつけた。


 美仁はオルガに毎日睨まれるので、逃げるように魔物を狩るようになった。ロンに乗って冒険者支援協会のある町に行き、夜まで帰らない日も増えた。

 夜は愛しい人を抱き締めて眠る事が出来るが、もっと同じ時を過ごしたいと思っているディディエは不満が溜まっていた。

 ディディエは今日も冒険者支援協会に行ってきた美仁と、家の外に出て空を見上げる。


「今日もオーロラは見えなさそうだね。」


「ああ。曇ってるな。明日は見えるかな?」


「見えると良いな~。」


 美仁は残念そうに部屋に戻ろうとする。ディディエは美仁の手を掴んで引き止めた。吃驚した顔の美仁が、ディディエを見上げる。


「どうしたの?ディディエ?」


「美仁、最近俺達二人の時間が少ないと思わないか?」


 真剣な目をしたディディエに美仁はたじろぐ。腕を離して欲しくて力を入れても、ディディエは更に力を込めて離してくれない。


「それは、しょうがないよ。オルガさんも来てるし…。」


「オルガが来る前に美仁は出掛けてるだろ…ロンに乗って。美仁は荷物をここに置いてないから、俺は美仁がちゃんと帰って来るのか不安になる。」


 辛そうに顔を顰めて話すディディエに、美仁の心は揺れた。


「ディディエは、私のお陰でエルフに戻れたと思ってるでしょ?ちゃんと考えた方が良いと思うの…。私への想いは、本当に異性への愛なのかって。」


 突き放すような事を言っている自分の方が泣きそうで、とても情けない気持ちになる。それでも勘違いのままディディエの人生を縛る事を、美仁は良しとはしなかった。


「ディディエはすごいカッコ良いし、オルガさんはすごい美人で、二人が並んでるとすごくお似合いに見えるよ。」


 美仁は無理矢理笑顔を作って伝えた。ゆっくりとした動きでディディエの手から逃れて部屋に戻ろうとするも、再びディディエに腕を引かれた。今度は強く引かれてそのままディディエの腕の中に閉じ込められる。


「嫌だ。何でそんな事言って俺から離れようとするんだよ…。俺には美仁だけだ。美仁しかいらない。俺がオルガの事何とも思ってないの知ってるだろ?オルガの相手すんのもこの村に居る間だけだと思って…。俺はもう美仁が居ないと生きていけないのに…。」


 ああ、纏まんねぇ…。ディディエはそう呟くと美仁の手を取り地面に膝を付いた。前にもこんな事があったな、と美仁は思い出す。


「こんなカッコ悪いのは予想してなかったんだけど…俺の気持ちを受け取って欲しい。愛してる。美仁、俺と結婚して欲しい。」


 返事を待つディディエの顔は、不安の色が見えている。


「本当に、私で、大丈夫なんですか…?」


 以前美仁がディディエに想いを伝えた時もそうだった。美仁は何故かこういう場面で敬語になる。ディディエは真剣な表情で美仁を見つめた。


「美仁がいい。美仁以外考えられないんだ。」


「ありがとう…。私もディディエを愛してます。ディディエと結婚したい、です。」


 幸せな気持ちが溢れて泣きそうになる。ディディエは、美仁の指に細い金で出来た指輪をはめると、その指にキスをした。


「これも、着けていいか?」


 指輪と同じ、金で出来た細い鎖のネックレスだ。小さい平らな長方形の金のチャームが付いている。


「可愛い。」


 美仁が微笑むと、ディディエは美仁の後ろに回りネックレスを着けた。ネックレスに指輪を着けた美仁を見て嬉しそうに目を細める。


「ディディエ、ありがとう。」


 美仁がディディエに抱き着くと、ディディエは優しく美仁を抱き締めて溜息をつく。


「もっとカッコ良く求婚するつもりだったんだけどな~。夢で会ったら口を滑らせそうで、夢見ないように蝶に頼み込んでたのに…。」


 美仁はディディエを見上げて目を瞬かせた。ディディエが頼み、それを夢見蝶が聞いていたとは思わなかった。


「夢見蝶がディディエの頼みを?」


「ん?ああ。結構聞いてくれるぜ?前も美仁に会わせてくれって頼んでから寝ると、会えたからな。二日連続とかでも。」


 それであんなに夢を見ていたのかと得心がいった。納得していると、幸せそうに微笑むディディエに顔を覗き込まれている事に気が付いた。


「どうしたの?」


「美仁、ここで結婚式挙げて行こうぜ。カイとアムルとロンに参列してもらって、愛の女神の教会で。」


「え?…えっ?」


 熱い瞳で美仁を見るディディエに、結婚式を挙げる事は全く考えていなかった美仁は戸惑いを隠せない。


「早速明日申し込もう。だから俺に黙って出掛けたりしないでくれよ。」


「あ、分かった…。」


 ディディエがとても嬉しそうで、美仁も幸せな気持ちになる。


「ディディエ、ごめんね…。」


「何で?俺今最高に幸せなのに?」


 ディディエは幸せそうに美仁の頬に何回もキスをする。


「もう不安にさせない。美仁が俺を疑わないように、全力で愛すからな。」


「ありがと…。私の気持ちは、ディディエにちゃんと伝わってる?」


「勿論。」


 ディディエは甘く微笑みそう言うと、美仁に深く口付けた。

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