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美仁は異界の悪魔の子  作者: 山寺絹
47/64

47・ルチャラマ遺跡3

 

 注意。残酷、戦う表現があります。


 ーーーーーーーーーー





 ディディエはウルバノ達とダンジョン内で再会してしまった事で、この休憩中カシュと美仁を近付けない事に専念した。食事の準備も食事の最中も、美仁の近くに居る事でカシュに対して牽制していた。夜の番も、美仁は免除にして寝ている間にカシュと美仁が接触してしまう事を避けた。

 ディディエの牽制や根回し、そしてウルバノ達の監視もあって、美仁とカシュが接触する事無く朝を迎えた。


「カイ、おはよー。」


「おはよう。早いね。」


「うん。…ん~~~!いっぱい寝た~。」


 美仁は伸びをして体を動かすと、昨日と同じ朝食を作り昼食分のおにぎりも握った。


「よし。皆を起こそうか。」


 朝食の支度が出来、カイと美仁はそれぞれのテントに入る。全員揃うと朝食を食べ始めた。

 昨夜、パーティのリーダー達の話し合いで、安全地帯を出る順番が話し合われた。魔物や宝箱が再出現するのに一時間かかる為に、次に出立するパーティは一時間待たなければならない。カイ達の攻略速度の早さから、カイ達が一番に出る事になったのだ。

 カイ達は食事を手早く済ませると、食器類やテントも早々片付けて安全地帯を出た。カシュが何か言いたげに美仁を見つめていたが、ディディエはその視線から隠すように間に立ち邪魔をした。


 七階層目は、遺跡の壁に絞め殺しの木の気根が張り巡らされたジャングルのような階層になっていた。中には気根が地まで達し、太い幹として成長しているものもあった。空が見え、鳥の声まで聞こえるこの階層は、地下深いダンジョンとは思えない。

 絞め殺しの木から、飛び降りてきた何かがディディエの背中に取り付こうとした。ディディエの背中に辿り着く前に、その何かはロンによって叩き落とされた。


「ヤルクスか。」


「気付かなかった。ロン、ありがとな。」


 ロンはディディエに無言で頷いて返す。ヤルクスは翼の生えた足のある蛇の魔物だ。木に登り飛び降りて獲物を狩る魔物で、強くはないのだが、気配を感じさせずに攻撃して来る厄介な魔物だった。

 他にも上階には居なかったナーガ等の蛇に似た魔物が多く出現するようになった。



 ダンジョンに入って五日目、十五階層目に降りるとすぐに大きな広間に出た。広間の奥には獅子の頭を持つ大きな魔物が座っていた。その魔物が侵入者を見た目玉は六つ。獅子の頭に山羊の頭、そして蛇の頭を尾に持つキマイラだ。

 更にはナーガが十体部屋の隅で槍を持ってこちらを見ていた。侵入者に気付くと鎌首を持ち上げるように上半身を起こして槍を構える。


「キマイラは山羊が魔法を使うよ。蛇には毒があるから気をつけて!」


 アムルの言葉を聞いた美仁はキマイラに向かった。キマイラの後ろに回り込み、蛇の頭と対峙する。ロンと挟み撃ちをしている形になるが、攻撃を仕掛けない美仁をロンは訝しんで見ている。美仁の意図を掴めないロンは、自身も攻撃はせず、ただキマイラの攻撃を避けていた。

 蛇の頭を見ていた美仁は、山羊の口が何か言っている事に気が付いた。強力な魔法だったら困る。そう思った美仁は、キマイラの背に飛び乗った。そして呪文を唱えているらしい山羊の頭を合口を一振りし切り離した。

 大きな山羊の頭が地面に転がり落ち、キマイラの背からは血が吹き出す。キマイラは飛び跳ね暴れているが、吹き出した血に塗れながらも美仁はまだその背に掴まり乗っていた。苛苛と獅子の頭は吼え憤怒の形相でいるが、美仁が落ちる事は無い。

 怒りに燃えた蛇の頭は鎌首を持ち上げ美仁に向かって大きな口を開けた。咬まれると思った美仁は、腕を上げて蛇の攻撃を待った。しかし蛇は、口を開けたまま毒液を噴射した。


「ぶえええええええええ!これは気持ち悪い!!!」


 間近で毒液を吐かれた為、美仁は全身黒い毒液塗れになっている。キマイラの血と毒液塗れのまま美仁は蛇の尾をキマイラから切り離す。

 そんな美仁を呆れたように見ながら、ロンは素早く獅子の頭とキマイラの体に連撃を繰り出し絶命させた。


「何をやっているんだお前は…。」


「いやぁキマイラの毒ってどんなのなのかなって…。まさか吐かれるとは思わなくて~。」


 残念なものを見るようなロンの視線に、えへへと美仁は照れ笑いを浮かべる。ナーガ達を片付け戦利品を手にしたカイ達が美仁を心配してやって来た。


「美仁大丈夫?」


「美仁、毒消し!早く飲んで!」


 アムルが慌てて毒消しの瓶を差し出して来るが、美仁は首を振って断った。


「あ、いらないよ。この毒も多分効かないんじゃないかな?」


 そう言うと美仁は腕に付いている黒い毒液を舐めた。苦くて顔を顰めると、カイ達は信じられないものを見たような表情で美仁を見ていた。明らかに引いている。


「…あ~…ベタベタで気持ち悪いから、洗い流そうかなぁ…。」


 美仁は誤魔化すように笑うと、水の精霊の出した水で全身を洗い流し、風と火の精霊による暴風とも言える温風で乾かす。

 美仁は反省した。毒の賢人ジャラは変態なのだ。アレの元に居た為に普通の感覚から離れてしまっていたようだ。キマイラの毒と聞き、試してみようと思ってしまった。


「悪い影響を受けてる…。」


 美仁は難しい顔をして呟いた。そして自分から毒を受けに行くのは止めようと反省した。


「この瓶は何だ?」


「ん~…多分、キマイラの毒じゃないかな?」


「それ欲しい!」


 アムルの言葉に瞬時に反応した美仁は、ロンの持っている瓶に飛び付いた。その様子を見てカイ達は更に変な顔をする。

 ドン引かれてる!美仁は慌てて言い訳を募った。


「あの!あのね!ヤムドク大陸に居る賢人様が、毒の研究をしてるの。それで、キマイラの毒を持って行ったら喜ぶんじゃないかって思って!」


「毒の賢人なんて居るんだ…。」


「え?何賢人様って?」


 アムルは呆れたように笑っている。毒の賢人の存在を信じてくれていないのかも知れない。カイは賢人を知らないようだ。


「賢人てのは、人を超えた存在だな。何らかの能力を持っていて、不老不死で秘境に暮らしてるらしい。」


「へぇ~、知らなかったな。美仁はその毒の賢人様と知り合いなんだね。」


 ディディエの説明に、カイは感心している。そんなカイに、美仁は頷き、先程の変態行為を払拭する為説明を加える。


「私がこっちに来てから育ててくれたのがミズホノクニの賢人様達なの。毒の賢人ジャラ様は紹介して貰って、しばらく毒の事を教えて貰ってたんだ。」


「美仁がそれだけ強くて色んな能力を持っている理由が分かったな。とりあえず、毒をわざと浴びるのも、舐めるのも止めとけ。頭イカれたのかと思ったぜ。」


 ディディエは揶揄うように笑った。美仁は羞恥心のあまり顔を真っ赤にして黙り込んだ。そんな美仁をディディエは更に揶揄う。


「ファノブナの蜂蜜も欲しいって言ってたけど、まさか飲んでないよな?」


「のっ飲んでない!飲んでないよぉ!あれだって、ジャラ様にあげようと思って…!」


 美仁は真っ赤な顔を上げて否定した。ディディエはとても楽しそうに美仁を揶揄っている。


「ディディエ、美仁を虐めないの。さぁ、宝箱の解錠をしてくれよ。」


「はいよ。」


 カイが蒸気でも出しそうになっている美仁の頭に手を置いて助け舟を出すと、ディディエは足取り軽く宝箱へ向かった。真っ赤な顔をして一生懸命否定していた可愛い美仁を堪能したディディエはご機嫌だった。

 他の階層では見る事の無かった豪華な装飾の施された宝箱を開けると、剣と盾、ローブ、装飾品が出てきた。


「ダンジョンから出たら鑑定して貰おう。」


 カイがそう言って美仁を見ると、美仁は宝箱の中身をアイテムボックスに仕舞った。そして一行は奥にある縦長の琥珀色の岩、転移岩に向かう。


「目、閉じとけ。目が回るからな。」


 美仁はディディエの言葉に大人しく従い、目を閉じて転移岩に触れた。全員で転移岩に触れると、カイの持っていた転移石が粉々に砕けた。

 目を閉じたままの美仁も、目眩のするような体がよろめく感覚に襲われた。そしてその感覚が消え、恐る恐る目を開けるとダンジョンの入口に戻っていた。


「あ、ディディエ、ありがとう。」


 ディディエが美仁の肩を抱いていた。本当によろめいてしまい、ディディエが支えてくれていたのだろう。

 ダンジョンを出た一行は、冒険者支援協会へ向かった。戦利品の買取りと鑑定を頼む。



「次は北ブラゾス大陸のダンジョンに行こうぜ?北ブラゾス大陸回ってから南に戻って来れば、美仁もクヤホガで酒が飲めるようになってるだろ?」


 ディディエはこう提案した。出来るだけ早くこの地を去ってカシュとの再会を果たせないようにする算段だ。


「いいねぇ。パキオミ山脈のポテトチップス無くなっちゃったから買いたいと思ってたんだ~。」


 美仁が賛成するとは思わなかったディディエは一瞬驚いた顔をしたが、嬉しそうに笑った。ディディエの提案にカイも頷く。


「うん。今回のダンジョンは美仁達には物足りなかっただろうし、パキオミ山脈の高地に高レベル帯のダンジョンがいくつかあるらしいから、そっちに向かおうか。」


「決まりだな。」


 翌日から一行は北ブラゾス大陸へと駅馬車を乗り継いで向かった。北ブラゾス大陸の雄大な自然を楽しむ旅をしつつも、クエストを受けたりダンジョン攻略をしたりしながら一行は北ブラゾス大陸を回った。

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