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美仁は異界の悪魔の子  作者: 山寺絹
31/64

31・祝福される結婚式

 




 愛の女神の神殿に、大勢の参列者が座っている。神殿の外も、ガルニエ王国の王太子と王太子妃を一目見ようと来た人々で埋め尽くされていた。


 神殿内に、美仁もロンも居た。周りの人々が身分の高い者である事が、纏っている空気で分かる。

 場違い感で居た堪れず、美仁はずっと爪先を見詰めていた。隣のロンは堂々としている。流石はドラゴン。どっちが主か分かったもんじゃない。


 神殿の扉が開かれ、カロルとカロルの父ジョルジュが入場して来た。カロルのウエディングドレス姿は大層美しかった。胸元のシャープなカットとフリルが映えるドレスは、上品で知的でカロルに大変似合っている。


 一歩一歩、カロルとジョルジュはゆっくりと歩みを進める。

 ジョルジュは美しい顔を引き締めて歩いていたが、リュシアンと交代してミレーユの元に行くと涙を溢れさせていた。

 ミレーユは、そんなジョルジュを労いながら涙を拭いてあげている。


 美仁は美しいリュシアンとカロルが並んで歩いている姿を、胸がいっぱいになりながら見ていた。

 大切な友達が、幸せそうに微笑んでいる。リュシアンもとても幸せそうだ。

 キラキラと輝いて見える二人を見て、少し涙ぐんでしまった。


 愛の女神の司祭が祝福を述べ、リュシアンとカロルが祝福を受けると、神殿内にピンク色の花弁がヒラヒラと舞い落ちてきた。司祭が驚いた顔をしている。

 誰の仕業なのか分からないが、参列者達は奇跡的な光景に感動していた。

 式典が続き、リュシアンがカロルのベールを上げてキスをすると、何処からともなく声が聞こえた。


「祝福を。」


 神殿内に響いた声は、優しくて甘い女性の声だった。司祭はこの声を聞き、先程の花弁が誰の御業であったのか理解した。

 そして愛の女神に祝福された二人の結婚式に立ち会えた奇跡に喜びを感じながら、式典を終了させた。



 神殿から王城まで続くパレードが始まる。リュシアン、カロルの乗る馬車に雪之丞、力丸が続き、その後ろに国王に王妃、リュシアンの弟リシャール王子が乗る馬車がゆっくりと進んで行く。

 リュシアンとカロルが手を振る度、大きな歓声が上がった。


 美仁達参列者は、王城のパーティー会場に別の道から向かう。参列者が他国の王族、貴族が大半の為、皆馬車での移動だ。

 美仁はロンと城まで歩いた。履きなれないヒールで歩いている為、かなりノロノロと歩いていると、ロンが腕を差し出してきた。

 掴まれ、という事だと思い腕に掴まると、ロンはフンと鼻を鳴らし自分の腕に美仁の腕を絡ませた。腕を組んで歩くと歩きやすくなる。


「おお~。ロン、ありがとう~。」


「今日だけだ。」


 ものすごい顰めっ面のロンだが、美仁に歩調を合わせてくれている。使役した当初と比べ、ロンはかなり優しくなった。

 眉間に皺を寄せたロンと、ニコニコと上機嫌の美仁はゆっくりとした歩調で城に入って行った。


 席に座り待っていると、同じテーブルに見目麗しい男女がやって来て座った。


「こんにちは。貴女もカロル様の御友人ですか?私はシャルロットと申します。」


「あっ、私は美仁です。カロル、様とは、はい…友人ですっ。」


 美仁に話し掛けてきたのは、とびきりの美女だった。ハニーブラウンの髪も、薄い緑色の瞳も、着ているドレス以上にキラキラ輝いている。

 美しすぎるカロルの友人に、美仁は緊張してしまう。


「私はウィリアム・ゴーティエです。」


「私はジャン・ジラールです。お名前を伺ってもよろしいですか?」


 ウィリアムは一見冷たそうに見え、ジャンは目がキラキラとしていた。どちらもタイプは違うがイケメンだ。

 美仁は赤面し、とても目を合わせられない。


「儂はロンだ。」


「ロンさん?こんにちは~。俺はランディ。冒険者してます。隣、失礼しますね~。」


 憮然とした表情のロンの言葉を返しつつ、飄々とした男が登場した。ランディはロンの隣に座り話し続ける。


「俺、こんなに貴族様が大勢居る所なんて初めてで、緊張してるんですよ。何か失礼があったらすいませんね!」


「儂も貴族ではない。冒険者だ。」


「あ!って事はカロルが冒険者してた時のお知り合い?俺もカロルとダンジョンに潜ってたんですよ!」


 ランディが明るく話していると、ランディの後ろに大柄な男が現れた。その大男は、上半身裸に農民が履くような布製のズボンにブーツだけを身に纏い、顔や体に赤い戦化粧を施している。

 とても王族の結婚式に出席出来る出で立ちではないが、この男を連れて来たのはパレードを護衛していた騎士だ。


「おうお前、久しぶりだな。こっちで一緒に酒を飲もうぜ。」


「わああ!コンバグナ様…!お久しぶりです。…でも俺の席ここですよ?」


 後ろの大男に全く気付かなかったランディは、体を跳ねさせて驚いた。

 コンバグナは戦いの神。宗教画に描かれている、そのままの姿で現れたコンバグナを、参列者達は驚きの表情で見ていた。


 この世界では神は実在するが、相見えるのは難しい。神は天上界や地獄に居る事が多く、下界に居たとしても一所に留まっている事は珍しい為だ。

 そんな神の一柱が王太子の結婚式に参列するとは、リュシアンとカロルの結婚が神に祝福されているものなのだと、皆が理解した。


「独りで飲んでいてもつまらんからな。来い。」


 そしてランディは抵抗虚しく、笑顔のコンバグナに連れて行かれた。明るく振舞っているように見えたランディだったが、貴族ばかりが参列している為少し緊張していた。しかしコンバグナに捕まり、更に居心地の悪い思いをする事になってしまった。

 参列者達がパーティーが始まるのを待っている中、コンバグナは酒盛りを始める。コンバグナはランディにも飲めと勧めるが、この注目の中飲める筈もなく、ランディは酌をする事だけに務めた。


 パーティーが始まり、国王陛下の挨拶中もコンバグナは飲んでいた。すると、突然ランディの目の前に豊満な肉体の女性が現れた。眉尻を上げて腰に手を当ててコンバグナを睨んでいる。


「ちょっとコンバグナ!何でアンタがここに居るのよ!私だって式典中の祝福だけで我慢したのに!」


 コンバグナは面倒臭そうな表情で返す。


「俺はカロルから招待されたんだよ。地獄でな。ランディ、覚えてるだろ?」


「はっはい…。カロルはコンバグナ様を招待しておりました。」


 ランディは頭をコクコクと頷かせて肯定した。

 ランディはカロルと地獄と呼ばれるダンジョンに潜り、その時にコンバグナに会っていた。

 カロルとランディはダンジョン内で三度コンバグナに会っており、更にここでコンバグナに再会した事がこれからのランディの運命を決めてしまう事となる。

 コンバグナがカロルの招待客だと知った女性は、悔しそうに身悶えした。


「なんですってぇ~!ぅぅうう!私も直接祝福したい…そしてこの美味しそうなご馳走も食べたい…。」


 国王陛下の挨拶も途中で止まり、パーティー会場にいる全員がこのテーブルに注目している。

 それはそうだろう、とランディは思った。ランディも、会場にいる者達も、この女性が誰であるかを知っている。

 リュシアンとカロルが、このテーブルに近付き頭を下げた。


「愛の女神、メイリーベ様。わざわざお越し下さいまして、ありがとうございます。もしよろしければ、このままこちらのテーブルでお楽しみ頂けたらと存じます。」


 リュシアンは微笑みメイリーベに提案した。するとメイリーベは一瞬嬉しそうに笑い、リュシアンとカロルの方へ体を向けるとピンク色の花束を出す。

 この花は、先程神殿内に舞い落ちてきた花弁と同じものだ。


「二人に祝福を。」


 リュシアンが花束を受け取ると、会場内で拍手が起こる。


「メイリーベ様、二人を祝福して下さりありがとうございます。皆様と、コンバグナ様、メイリーベ様に御祝福頂き、二人はこの上ない幸せ者でございます。それでは皆様、パーティーをお楽しみ下さい。」


 国王陛下の挨拶でパーティーが始まった。カロルはコンバグナとメイリーベに礼をする。


「コンバグナ様、メイリーベ様、この度は誠にありがとうございます。皆様、お二柱様にご挨拶したいと思うでしょうから、こちらのランディは他の席に移らせて頂きますね。」


 やっと解放されたとランディは安堵した。神に(まみ)えるのは幸運だが、酒席を共にするなんて恐れ多すぎる。


「分かった。ランディ、また後でな。」


「はい…。それでは失礼します。」


 もう会う事は無いと思うのだが、コンバグナはそのつもりは無いようだ。何故なのかと首を傾げながらランディは席を立った。カロルは再度、二柱に礼をする。


「それでは、私も失礼致します。沢山お召し上がりください。」


 カロルは微笑み中座した。リュシアンも礼をしてカロルの後に続く。


「カロル、助かった。コンバグナ様、登場したと思ったら、急に酌をしろって言ってさ。」


「ランディの事を気に入っているみたいですね。」


「…なんで俺…?」


 ランディは、神に気に入られる心当たり等全く無く、首を傾げながら元居たテーブルに戻った。リュシアンとカロルは他国の王族へ挨拶をしに向かう。


「ランディ、お疲れ様。」


 戻って来たランディに、ウィリアムが話し掛けた。ランディは困ったように笑っている。


「ウィリアム!久しぶりだな~。全然気付かなかった!いや~、光栄な事なんだけど、すごく緊張した~。」


 貴族であるウィリアムと冒険者のランディは顔見知りだった。カロルを心配したウィリアムが、時折冒険者支援協会の酒場に顔を出し、カロルの仲間であるランディに接触した為だ。


 美仁はそんなウィリアムとランディの話を聞いていたが、誰かの視線に気付き、その視線の主を探した。

 目が合ったような気がしたが、気の所為だったのだろうか。その視線の主達は、会話をしながら酒を飲んでいる。

 彼等が自分を気にする事などある訳がないと納得をして、美仁もご馳走に手を付けた。

 しかし、その視線は気の所為などでは無かった。その二柱は確かに、美仁の事を見つめていた。

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