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美仁は異界の悪魔の子  作者: 山寺絹
26/64

26・苺のショートケーキ

 




 ビジャリカ国に入ってからも、美仁達は駅馬車に乗り旅を続けている。目的地はデル国のナクタの街。その街ではビフツェルートの栽培が盛んに行われているらしい。


「カイ、アムル、おはよー。」


 朝、宿の食堂に降りるとカイとアムルが既に朝食をとっていた。美仁もロンも席に座る。

 ソーセージとトマト、マヨネーズにザワークラウトが挟んであるホットドッグと、オレガノで風味付けされたポトフが朝食だった。

 冒険者支援協会のマークを看板から下げている宿は、冒険者の客が多い為朝食からボリューム満点だ。


「あ、私、今日で十七歳になったの!」


 美仁は食べながら報告する。一つ歳をとる事が嬉しいようで、ニカッと白い歯を見せて笑う。


「え?そうなんだ!おめでとう!」


「おめでとう~。」


「ありがとう~!」


 アムルとカイが祝いの言葉をくれる。美仁はタレ目をさらに下げてお礼を言った。


「本当に二百も年下なんだな…。」


 ロンは今だに美仁が子供である事が信じられないように言った。ロンの言葉にアムルが反応する。


「えっ!ロンも二百代なの?僕と同じ位だ!」


「ん?そうか。アムルはエルフだったな。」


 呪いにかかった元エルフの年代を聞いて美仁は驚いた。この子供にしか見えない狐の獣人は、自分の十倍以上生きているらしい。

 しかし人間にとっては年長者だが、エルフの中ではまだまだ若造だ。


「今日は祝いだな。」


 ロンが美仁の頭に手を乗せて笑った。ロンは酒を毎日飲んでいるが、今日もお祝いに託けて飲めると思っている。


「シロにケーキをお願いしてるんだ。」


 美仁はうふふふふと笑う。アイテムボックスの中ではシロがケーキを焼いてくれている。火の精霊が協力してくれているので、アイテムボックスの中でスポンジを焼く事が出来る。今日の夕食が楽しみだ。



 ビジャリカ国は南北に細長い国だ。美仁達は今その国を縦断している。今日は馬の引く駅馬車に乗り、次の街に着いた。

 宿をとり、宿の食堂へ向かう。美仁が誕生日だという旨を伝えケーキの持ち込みの許可を貰い、食事を頼んだ。


 ヘネラルでも食べた、海産物の煮込みのマリスカルコシードに、美仁が虜になったチュペデマリスコスを食べる。魚介類の旨みが存分に出ているこの二品は、美仁だけでなくカイ達にも大好評だ。

 食事を終えると、美仁はシロとポンタを呼んだ。


「お誕生日おめでとうございます。美仁。」


 二頭は可愛らしくお辞儀をする。シロが持っているのは、フワフワのスポンジに生クリームを塗り苺を乗せた、日本のショートケーキだ。六等分にして、シロもポンタも一緒に食べた。


 従魔とはいえ魔物が同じ食卓についている事は珍しく、美仁達のテーブルは訝しげに見られていた。

 だが、シロとポンタが上手にフォークでケーキを食べる様子は可愛らしく、周りの者を笑顔にさせていた。


「美味しい~。シロ、ありがとう。ポンタも、苺すごく美味しいよ。」


 シロもポンタも褒められて嬉しそうに照れている。


「シロとポンタのお陰で美味しい昼食を食べられるんだよね。ありがとう。」


 カイも優しく微笑み二頭を見た。馬車の旅での昼食は、朝街で購入したサンドイッチやおにぎり等の軽食がほとんどだ。

 暖かいものも食べたかった美仁は、毎日スープを作っている。具材はポンタとシロの育てている野菜だ。更にはデザートに果物まで出てくるのだから、ポンタとシロ様様である。


「果物もね!どれもすごく美味しいよ!」


 アムルにも礼を言われて恥ずかしそうに縮こまる可愛い二頭は、ケーキを食べ終わるとアイテムボックスに帰って行った。

 美仁にとっての誕生日とは、ケーキが食べられる日だ。

 美仁が日本に居た頃の児童養護施設ではその月に産まれた子供達を纏めて祝っていた。産まれた事を祝われてケーキを食べられる、楽しい日だった。


 翠山でも翡翠は誕生日を祝ってくれた。ケーキは無かったが、いつもより豪華な食事で祝ってくれた。カロルと共にガルニエ王国に行ってレシピを手に入れてからは、シロとケーキを焼いて皆で食べていた。

 十七歳の美仁の誕生日は、皆でケーキを食べ、ロンが大量に酒を飲んで終わった。



 ビジャリカ国の旅は一ヶ月以上続き、デル国に入りナクタの街に着く頃には二月も終わりに差し掛かっていた。

 美仁とロンはポンチョを羽織っている。途中の街で美仁の姿を見て心配してくれた商人が半額で良いからと売ってくれたものだ。

 デル国は今雨季であり、今美仁達がいるナクタは標高3900メートルの高地なのだ。乾季の昼間でも半袖になる事は無いこの地で、この寒い雨季に美仁の肘から先も膝から下も出ている服装は目立っていた。

 見てるだけでも凍えそうだと笑われ、美仁自身は寒さを感じていなかったが、有難く割引して貰いロンの分も一緒に購入した。



 ナクタの街は獣人ばかりが住んでいる街だった。ビフツェルートを栽培している畑を教えて貰い、その場所へと向かった。

 ビフツェルートの栽培方法を聞く為に、ポンタとシロも一緒に居る。朝から畑に来たが、既にこの農場では農夫が働いている。農家の朝は早い。このビフツェルート農場でもそれは同じで、日の出と共に作業を始めていた。


「お仕事中にすいません。ビフツェルートの事でお聞きしたい事があるのですが、少し宜しいでしょうか?」


「え?…ええ。では休憩時間にしますので、その間でしたら。」


 獣人の農夫は皆に声を掛けて朝食をとり始めた。皆、美仁達を不思議そうに見ては、気にしないようにエンパナーダやサンドイッチを食べ始めている。

 カイが声を掛けた農夫も、サンドイッチを食べながらカイを見る。


「それで、ビフツェルートの何を知りたいんです?」


「野生のビフツェルートの生息地と、栽培方法を知りたいのです。」


 農夫の眉間に険が現れる。


「冒険者の貴方方に、何故それが必要なんです?」


「地獄に入る為に必要なんです。五十株、出来れば、生きた状態で。」


 農夫の表情から険が消え、代わりに困惑の表情を浮かべた。


「地獄?…何だって、そんな所に…?」


「この子の呪いを解く為です。火の王の呪いをかけられてしまい、解呪には直接お願いするしか無いと…。」


 カイは目を伏せて同情を誘うような鎮痛な表情を作る。農夫は哀れむようにアムルを見た。

 小さい狐の獣人が、強力な呪いをかけられてしまった事に同情してくれている。周りで休憩している農夫達も、同じような表情を浮かべてアムルを見ていた。


「…分かりました。ビフツェルートの栽培についてはそれ程難しいものでは無いのです。ビフツェルートはリフアオ湖付近で栽培されているし、野生のビフツェルートもリフアオ湖からノラタ湖周辺に多く生息しています。私達は、ビフツェルートにこの湖の水を与えて育てています。塩分濃度0.1パーセントから0.2パーセントの水を与えて下さい。」


 ポンタとシロはうんうんと頷きながら真剣に話を聞いている。美仁はカイ達とパーティを組んでから、馬車で揺られている時間ビフツェルート用にアイテムボックス内の畑も拡張し、土も敷いておいた。


「あと、土から出すと暴れます。収穫の際は直ぐに目隠しをして手足を縛って下さい。目隠しをすると暫くは大人しくなります。植え替えの際は直ぐに新しい土に植えてあげて下さい。」


 ポンタはふむふむと頷いている。アイテムボックス内の畑は土の精霊が状態を管理してくれているので、ビフツェルートを直ぐに植える事が出来る。


「あと、ビフツェルートは花が咲いて暫くすると、土から出て来ます。出て来たビフツェルートも食べる事は出来ますし、妊娠したビフツェルートは土の中にまた入り出産してまた新しい命が育っていきますよ。畑に若芽のものから花が咲いたもの、土から出て来たものとありますので、後で案内しましょう。」


「ありがとうございます。」


 美仁達は礼を言い頭を下げた。ポンタもシロも深々と頭を下げている。農夫は朝食を終えると、農場内を案内してくれた。

 若芽の状態のビフツェルートを見せてもらう。農夫は小さい緑の丸い葉が幾つもついている若芽を優しく掘り起こす。

 土から出て来たのは、拳程の大きさの豚に似た塊根だった。背中から茎を生やした小さい塊根は心地良い土から出されて、むいーむいーと騒ぎ暴れている。


「これは生後間もないビフツェルートです。こんなに小さいと暴れる姿も可愛いんですけどね。」


 農夫はそう言いながら優しい手つきでビフツェルートを植える。次に向かった区画は大きくなった葉っぱが青々と輝いていた。


「ここは、先程のビフツェルートが一年成長した位の子達が植えてあります。一年経つと、この大きさになります。」


 そう言いながら農夫はビフツェルートを掘り起こす。シャベル等は使わずに、大きな手を使って土を掘っている。この農夫は、土を掘るのが得意な種の獣人だ。

 塊根を傷付けぬ様に優しく土を取り除き、目隠しをしてビフツェルートを抱き上げた。この時点でスイカ程の大きさがある。

 目隠しをされたビフツェルートは大人しく抱かれている。農夫は直ぐにビフツェルートを植え直した。


「これから花が咲き受粉の時期が来ます。このビフツェルートは来年には出産をするでしょう。」


 それから農場内の蕾のビフツェルートから花が咲いているビフツェルート、そして放牧されている地上に出たビフツェルートを見せて貰った。

 花が咲いた段階で売りに出すらしく、放牧されているのは受粉を待つビフツェルートだけだと言う。そして病害虫の対処方法を教えて貰った。


「教えられる事は以上です。」


「丁寧に教えて下さりありがとうございました。」


 獣人の農夫に礼を言うと、農夫はアムルを見て切なそうに笑った。


「無事に呪いが解かれると良いですね。」


「はい…。ありがとうございます。」


 手を振り美仁達を見送ってくれている彼は、同族が火の王という強力な存在に呪われた事に同情し、こんなにも丁寧に教えてくれたのだ。

 騙してしまった事に心が痛む美仁達だったが、野生のビフツェルートを採取しにリフアオ湖南部に向かった。

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