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美仁は異界の悪魔の子  作者: 山寺絹
24/64

24・死神渓谷でひと狩り

 

 注意。残酷な表現があります。


 ーーーーーーーーーー




 美仁が頼んだ朝食はエッグベネディクトだ。酵母で発酵させ、表面にとうもろこしの粉をまぶして焼いた丸いパンを横二つに切り、ベーコン、ポーチドエッグを乗せた上からオランデーズソースをかけてある。

 ナイフで切ると、とろりとした黄身が流れ出た。ベーコンの塩味と卵のまろやかさ、ソースのバターの香りと爽やかな味わいに、美仁は思わず目を閉じ震えた。


「これ好き…!」


「ああ。美味いな。」


 同じものを食べているロンも同意する。ロンのナイフとフォークを使った食べ方は美しい。綺麗に食べるな、と美仁は感心している。


「美仁、ロン、待たせてすまない。悪いんだが…美仁の持ち運ぶ能力を、見せて貰えるだろうか…。」


 カイは言葉だけで初対面の美仁を信じる事は出来ないから、と少し申し訳無さそうな顔で言う。アムルも同様の表情を浮かべている。


「良いですよ。」


 美仁は信用出来ないのは仕方の無い事だと分かっている。自分は彼等とは初対面で、レベル一の旅人で、おまけに経験値はゼロのまま。内心で自虐的に笑い納得して、船で獲った魚を出した。


「これは、私達がエルブルス大陸からこちらに船で来る時に獲った魚です。残念ながら売れなくて…。一週間以上前に獲ったんですけど、アイテムボックスなら鮮度を保ったまま収納が出来ます!」


 桶に入った魚は異臭も無く新鮮な状態なのが分かる。驚いたような感心したような顔でカイとアムルは魚を見る。魚が何も無い所から出てきた事にも、それが獲れたてな状態の事にも驚いていた。

 自分の能力は証明出来ただろうか…。美仁は魚を一旦アイテムボックスに仕舞うと、二人を見た。


「すごいね。それって、生き物も入れる事が出来るの?どのくらいまで入るの?どこで覚えられるの?」


 興味が沸いたアムルが矢継ぎ早に質問してくる。美仁はたじろぎながらも返答する。


「生き物は、私の従魔しか入れた事ないです。中で野菜は育ててますけど…。大きさは、家と小さい畑と塔が一つずつで…。えっと、この収納術はミズホノクニの私のお師匠様から教えて貰いました。」


「えー、すごい。中で野菜も育てられるんだ!そしたらビフツェルートも育てられるかな?生きたまま渡せると良いんだもんね!」


 アムルはオレンジ色の瞳をキラキラと輝かせ頬を紅潮させて美仁に詰め寄る。美仁は更にたじろぎ答えた。


「えっと、ごめんなさい。ビフツェルートが何か分からないんです…。」


「あ!そっか。ごめんごめん!ビフツェルートは植物系の魔物なんだ。根っこが豚みたいな形をしていて、引っこ抜くと暴れるらしいよ~。」


 凶暴な魔物なのかと美仁は心配になった。アイテムボックス内で暴れてポンタやシロ、蝶達を傷付けられては困る。美仁の懸念を感じ取ったらしいアムルは安心させるように笑う。


「ビフツェルートってすごい弱いみたいだから、大丈夫だよ。栽培方法はビフツェルートを育ててる獣人達に聞かないと分からないから、そこで聞いてみよう。」


 アムルは美仁がパーティに加わる事を歓迎しているようだ。むしろ、それが決定事項のように話を進めている。そんなアムルに、カイは水を差す。


「ちょっと待って。気になったんだけど、美仁はここまで何で来た?」


「え?何で?」


「魚を一週間以上前に獲った、と言ったよね。俺達はここまで駅馬車を利用してヘネラルから四ヶ月以上かけて来たんだ。君は北ブラゾス大陸から、どうやってここまで来た?」


「ああ。ロンに乗って来ました。」


 にっこりと笑って答えた美仁を、カイとアムルは疑問符を頭上に浮かべポカンとしている。


「ええと?ロンに?」


「はい。ロンはドラゴンなので。」


「えっ!?」


 カイとアムルは同時にロンの顔を見た。二人は驚きと戸惑いを隠す事無く表情に出す。ロンは次の美仁の発言が分かっている為か、眉間に眉を寄せ不機嫌な顔だ。


「ロンは私の従魔なんです。なのでデル国のタラポトからここまで一日で来れました。」


 予想通りの言葉が紡がれロンは眉間の皺を更に深くした。


「…儂は美仁以外乗せんからな。彼奴等と旅をするのなら、その駅馬車とやらに乗る事になるぞ。」


「あ~。そうだね。ロンってば、翡翠様も乗せてくれなかったもんね~!」


 美仁がロンを見ると、カイとアムルは再び相談をし始めた。その間に美仁は朝食を食べ終わる。エッグベネディクトを気に入った美仁は、このマフィンとオランデーズソースのレシピを手に入れようと心に決めた。


「美仁、ロン。何度も待たせてすまない。一緒に地獄へ行くという申し出、受けさせて貰うよ。美仁のアイテムボックスが無ければ俺達は地獄に入れないだろうからね。これから、よろしく。」


 カイは優しく微笑み手を差し出す。美仁も手を差し出して、二人はしっかり握手をした。


「よろしくお願いします!」


 カイはパーティで行動した際のルールを説明してくれる。主にお金に関する取り決めだ。パーティの財布があり、そこから宿代や薬代等生活費が支払われる。

 クエストをこなした際にはパーティの財布と個人に分配される。そのパーティの財布はリーダーのカイが管理してくれているらしい。


「それで、仲間が増えたからお金を増やす必要がある。死神渓谷の魔物は強いが素材が高く売れるから、少し稼いでから行こうと思う。」


「良かったな、美仁。大好きな金稼ぎだぞ。」


 ロンに揶揄われ、美仁は頬を膨らませてロンを睨んだ。


「早速行きます?そしたら、ちょっと素材買取窓口に行ってきます。」


 そう言うと美仁は素材買取窓口へ向かった。美仁を待つ間にカイとアムルは食事を済ませ、ロンは食後のコーヒーを飲んでいる。

 しばらくすると、美仁は気落ちした様子で戻って来た。そんな美仁に、カイが優しく問いかけた。


「どうした?」


「あ、いや、また全部売れなかったから、がっかりしちゃって…。」


「なんだ、まだ残っているのか。後何があるんだ?」


 ロンが呆れたように言うと、美仁は肩を落とす。


「コルジァ・レスコフとレデウリオとピスクググが十体ずつ…。あと焼けたカラマテウティスと魚…。」


「結構残ってるな。」


「カラマテウティスなんてよく捕まえたね。あんなのが出てきたら船は大騒ぎだったんじゃない?」


 アムルが面白そうに聞いてくる。美仁は気落ちしたまま、お金を稼ぐのは大変だな、と実感していた。美仁はため息をつきながらもアムルに答える。


「いや、カラマテウティスは美味しいってロンが言うから、潜って探してきたの…。」


 カイとアムルは目が点になった。職業旅人のこの子は、収納術といい、ドラゴンを従魔としている事といい何だか底知れない。


「じゃあ、行こうか。」


 リーダーの声で三人は立ち上がり、死神渓谷に向かう。昨夜は気づかなかったが、砂ぼこりが舞っている。

 昨夜は寒かったらしいが、今は太陽が昇り冬場なのに暖かい。カイもアムルもマントを脱いでいる。

 四方を山脈に囲まれている死神渓谷は、高温で乾燥した気団が谷に閉じ込められる為だ。その為、夏場は六十度近くになる事もある。



 広大な砂漠を二時間程歩いた所で魔物に出くわした。砂に足を取られ、砂漠で生活する魔物相手の戦いは不利だ。

 そして出会ったのは狼のような見た目の魔物、モルコヨテ。十数体の群れでこちらを取り囲むように動いている。


「この狼みたいなのは売れますか?」


 低く唸りながら身を低くしたモルコヨテに囲まれているのに、全く緊張感の無い質問をされたアムルは驚きながら答えた。


「え?うん…毛皮と牙は他の部位より高く買い取って貰えるよ。」


「そっか!ありがとう!」


 お金になる魔物だと聞きやる気を出した美仁は、合口を出すと宙を蹴り素早く数体を切りつけた。美仁の瞳はメラメラと金銭欲に燃えている。

 そんな美仁の頭上を何かが通った。振り仰ぐと翼の生えた蛇が飛んでいる。


「アムル!あれは?あれは売れる?」


 瞳をメラメラキラキラさせた美仁がアムルを見る。アムルは魔法で風の刃を生み出しモルコヨテを攻撃していた。空を見上げたアムルは驚愕の表情を浮かべ叫ぶ。


「あ…アンフィスバエナ!多分高く売れるけど、かなり強いよ!僕達の手に負えない…!」


 美仁は最後まで聞かずに空に飛び出した。美仁がいた所には半数のモルコヨテが転がっている。


「こっちは任せるね!あいつを倒して来るよ~!」


「儂も行く。」


 美仁とロンは飛んでいるアンフィスバエナを追って行った。

 アンフィスバエナはドラゴンに似た魔物で、蛇の体に蝙蝠の羽を持ち、鱗の生えた足がある。そして、尾にも蛇の頭がある毒々しい双頭の魔物だ。


 追われている事に気付いたアンフィスバエナは、尾を持ち上げ美仁目掛けて毒を吐き出した。美仁が難無く避けると後ろからロンが美仁を追い抜きアンフィスバエナの尾を殴り付けた。

 攻撃されたアンフィスバエナは速度を上げ地上に降り立つと、ロンに向かって毒を吐く。砂が毒に塗れ所々毒々しい色に染まり泥濘が出来る。


 ロンは浮かんだまま尾を蹴りつけた。何度も衝撃を与えられた尾にある頭はぐったりと地面に横たわり、アンフィスバエナが動く度に引き摺られている。

 美仁は合口をアンフィスバエナの頭にズブリと刺した。アンフィスバエナは美仁の気配に気付く事無く絶命し崩れ落ちる。

 アンフィスバエナがロンに意識を向けていた為、気配を全く感知させず美仁は簡単に獲物に近付き仕事を終わらせる事が出来た。

 良い所を持って行かれたロンは、口をへの字に曲げ眉間に皺を寄せた。





「美仁とロンは、大丈夫かな…。」


 残ったモルコヨテを倒し、一箇所にまとめたカイとアムルは美仁達を心配していた。


「エルフの魔法を使っていたな。」


「うん。あれだけ飛べるなんて、魔力量も多そうだし、すごい子だね。」


「…余り心を許しすぎるなよ。」


「でも、彼女良い子だと思うよ?」


 カイ達が話をしていると、美仁とロンが飛んで来るのが見えた。怪我一つ無い二人の姿に、アムルは手を振り、カイはホッとしたように笑った。

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