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美仁は異界の悪魔の子  作者: 山寺絹
22/64

22・ヘネラルの街

 

 注意。喧嘩の表現があります。


 ーーーーーーーーーー





 美仁とロンは宿をとると街を歩いた。目当ては食材の買い出しと夕食をとる為の食堂を見付ける事だ。お酒は明日買うとロンには言い含めてある。


「お前、その締まりの無い顔は何とかならんのか。」


「…え?まだニヤけてた?…いや、だってさ、朝食付きであの値段だよ?冒険者カード、最高だなーって。」


 美仁は元々垂れている目尻を更に下げてロンを見た。ロンは注意されても直らないニヤけた顔を呆れたように見返す。


「守銭奴…。」


「なによー。お金は大事!頑張って貯めても、使ったらすぐに無くなっちゃうんだからね!」


「…そうか。まぁ、次の狩りではもっと貢献出来る筈だ。」


 美仁は目をぱちくりさせてロンを見た。ロンは海での狩りで役に立てなかった事を少し気にしていた。ロンは海に潜る事が出来ず海上で待機するしか無かった事で、面目を失墜したと思っている。


「あはは!いいよ~。貯金は趣味みたいなものだから!ロンが手伝うような事ではないよ。でもありがと!ん~、まぁ確かに、お酒代を稼いでくれると嬉しいかな!」


 美仁はそう言って笑うと市場へ向かう。市場には様々な店が並んでいる。

 ビジャリカ国の特産品であるローズヒップ製品を扱う店には美容クリームや石鹸、オイル、ローズヒップティーが並び、美仁はローズヒップティーを買った。


 市場の中にポテトチップスの屋台があり、美仁が目を輝かせて屋台へ吸い寄せられるように近付いた。

 パキオミ山脈周辺にジャガイモの原産地があり、そこでは約三十種類以上のジャガイモが栽培されている。ビジャリカ国で作られるポテトチップスは、その様々な種類のジャガイモを使って作られている為、赤、紫、オレンジ、黄色とカラフルだ。

 店員が試食させてくれ、二人はパリッとポテトチップスを頬張る。厚みがあってしっかりとした歯ごたえに、パキオミのピンク岩塩を使った塩味は、素材を生かした薄味で美味しい。

 美仁は大喜びでポテトチップスを大量に購入した。


 ほかにもラピスラズリを使った装飾品の店もあるが、美仁は余り興味が無く素通りする。毛織物を扱う店も多かった。

 ビジャリカ国は毛織物の有名な産地で、パキオミ高地のアルパカ、リャマ、ピクーニャから良質な体毛が採取され、様々な毛織物製品が生産されている。

 店に並べられているのはパキオミ地方特有のカラフルな色合いのものから、シンプルで落ち着いた色合いで単純な縞模様や簡単な絵柄のついたものと、バリエーションに富んでいる。

 深海の水の冷たさに何の反応もしなかった寒さに強い美仁は、ここも素通りした。自身が寒さに強い事を自覚しているから必要性を感じなかったのではなく、服は今持っているものだけで充分だと思っていたからだった。



 市場を歩いていると賑わっている食堂を見つけ、美仁達は中に入った。客層は船乗りや冒険者が大半で、店内はかなり騒々しい。

 この店は店員も客も獣人が多かった。猫のような耳と尻尾を持つ可愛らしい店員が席に案内してくれた。


 ロンは地ビールを早速注文している。美仁は困った顔をして笑うと、マリスカルコシードという海産物の煮物とチュペデマリスコスという魚介類のオーブン焼き、チャルキカンという牛挽肉と野菜の汁気の少ないスープを頼んだ。


 注文してすぐに来た大ジョッキに入った地ビールは、赤味がかった琥珀色をしていてロンは美味しそうに飲んでいる。フルーティーでコクのあるバランスのとれた味わいのこの地ビールは人気らしく、他のテーブルでも多くの客が飲んでいた。


 美仁は水を飲みながらマリスカルコシードを食べる。貝や海老をはじめ様々な魚介類を入れて水分を少なめに炊き上げたこのスープは旨みが凝縮されていて美味しい。

 美仁が美味しい美味しいと幸せそうに食事を味わっている間、ロンは食事をつまみながら酒をどんどん注文し、飲んでいた。

 明日、酒を買う約束をしており、どの銘柄の酒を買うか考える為か、違う種類の酒が次々に飲み干されていった。

 勿論ウルバノから聞いたジュタも注文していた。まずはストレートで飲み、次はジュタサワーという甘酸っぱいカクテルで。


 ロンは酒を飲む時、とても楽しそうだ。美仁は、酒とはそんなに美味しいものなのか、と少し興味が湧く。美仁はあと一月で十七歳になるが、ここビジャリカ国では飲酒出来るのは十八歳からだ。

 国によって飲酒可能になる年齢は違う。ミズホノクニは二十歳からだった。


 翡翠、柘榴、金剛、三人の女仙達もお酒を飲むのが好きだった。美仁はロンの姿を見て彼女達を思い出し、翠山を出て一月も経っていないのに、昔を懐かしむように微笑んだ。


 美仁は今日の食事で、特にチュペデマリスコスが気に入った。魚介類を水分少なめで煮てとろみをつけ、チーズをかけてオーブンで焼いた料理で、魚介類の旨みとチーズのまろやかさがとにかく美味しい。

 ビジャリカ国は貝類が豊富に獲れる為、海岸沿いの街でならこの料理は何処でも楽しめる。



 二人は今回の食事に大変満足し、店を出て宿に向かった。ビジャリカ国はワインが気軽に楽しめる値段で売られている為、ロンがワインをかなり飲んでいても驚く程の会計にならなかった。

 パリャレサの街での夕食でも、酒屋でも大金を払った事で、高額会計に慣れてしまったのかも知れない。そんな、美味しい食事と嬉しい会計にご機嫌で歩いていた美仁に水を差す存在が現れた。


「お嬢ちゃん、かなりお金持ちみたいだねぇ。」


 細い路地から下卑た笑いを浮かべた男達がぞろぞろと出てきた。


「あなた達は、誰ですか?」


 美仁は自分達を取り囲むように移動する男達を訝しむように目を細める。


「さっきの店でお嬢ちゃん達を見てたんだ。そっちの兄ちゃんが、かなり飲んでたのもな。」


 食堂に居た客らしいが、美仁もロンも記憶にない。


「お嬢ちゃん達沢山お金持ってるんだね。おじさん達にも分けてくれないかなぁ?」


「嫌よ。このお金は私が稼いだお金なの。お金が欲しいのなら、おじさん達も魔物を倒して売れば良いじゃない。」


 リーダー格の男との会話中に他の男達が美仁とロンの後ろに回り込む。美仁を何処かの金持ちの娘だと勘違いしているらしい彼等は、身代金目当てに美仁を捕まえるつもりだ。


 先にロンを処理しようとした彼等は、ロンの後ろから短剣で襲いかかろうとした。しかしロンがその場で回転しながら蹴りを入れて三人を一息に片付けてしまう。

 蹴られた三人は蹲り呻いている。ものすごい音がしたので骨が折れている者もいるかも知れない。


 慌てた男達は、今度は美仁に向かって来た。美仁を捕まえて人質にする算段だ。

 ロンは自分に向かって来ない者は相手にするつもりが無く、その様子をただ見ていた。男達が、次々に地面に転がされていくその様子を。


「本当に治安が悪いんだねぇ。」


 美仁はそう言うと、破落戸達をそのままに宿へと帰って行った。




 翌日の宿で出た朝食はアユヤという丸く平らなパンとマンハールというキャラメルクリーム、そしてアボカドのサラダだった。

 アユヤは二層に剥がれやすくなっており、間にマンハールを塗ったりアボカドサラダを挟んだりして食べた。

 マンハールは甘すぎたが、ビジャリカ国でよく食べられている朝食らしく、旅を楽しみたい美仁は喜んで食べた。

 朝食を終えると、ロンお待ちかねの酒屋へ買い物に向かう。相変わらずの仏頂面なのに、浮かれているのが分かるのが可笑しい。



 酒屋にはワインが多く揃えられていた。ワイン大国のガルニエ王国よりも値段が安い。それはビジャリカ国がガルニエ王国に比べて人件費が安くブドウが育てやすい為だった。

 南北に長い国土のビジャリカ国は温暖地域もあれば冷涼地域もある。そして基本的に乾燥している為に様々な特徴を持つ良質なブドウが育つ。その為、このビジャリカ国では多種多様なワインが造られていた。


 ビジャリカ国はフィロキセラというブドウの木の根や葉に寄生する害虫の被害を受けていないのも大きい。

 エルブルス大陸のワインの産地は二百年程前に、この、ほとんど目に見えない程小さい害虫によって壊滅状態に追いやられてしまった。根に寄生する虫の為、薬剤での駆除が出来ず対策は難航していたが、ブラゾス大陸原産のブドウには寄生しない事が分かり光明が見えた。

 ブラゾス大陸原産のブドウに接ぎ木をする事で、フィロキセラをブドウ畑から駆逐する事に成功した。



 ロンは昨夜飲んだワインの中から気に入った物を選んで店主に伝えている。注文を聞いた店主はにこやかにワインのボトルをテーブルに並べていく。

 ビジャリカ国のワインが品質が良くコストパフォーマンスに優れているとはいえ、その中でも高級ラインをロンが選んでいる為、ボトルの数に比例して店主の顔がどんどん喜色に染まっていく。


「ちょっとロン!もうその辺にしてよ!」


 テーブルを埋め尽くすように立ち並ぶボトルに慌てた美仁は叫ぶようにロンを止めた。ロンは眉間に皺を寄せてちらりと美仁を見ると、店主に向かう。


「ではあと、このカベルネ・ソーヴィニヨンと地ビールを一樽頼む。」


「はい。畏まりました、旦那様。」


 ニヤニヤと嬉しそうな店主の揉み手が止まらない。ロンが最後に選んだワインは、店に並ぶ他のワインの三倍程の値段がするが、このクオリティのワインをガルニエ王国で買うとすると更に数倍のお金が必要になる。

 そんな事は知らない美仁は、憤慨しながらも店主にお金を払い、並べられたボトルを次々にアイテムボックスに収納していく。最後に地ビールの樽を仕舞うと、ロンを一睨みして店を出た。


 ロンは美仁の機嫌が悪い事など気にならず、口角が上がっている。様々な品種のワインに地ビール、ジュタを手に入れたのだから当然だ。美仁は、存外金のかかる従魔に溜息をついた。


 そして冒険者支援協会で解体の済んだ魔物の素材を売り、大金を得た美仁は簡単に機嫌が良くなり次の街へ向かった。旅の目的地である地獄のある国、クヤホガ国とは真逆の方向にあるデル国へ。

 ロンのジュタ飲み比べの為に、美仁はロンに乗りデル国へと飛び立った。

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