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美仁は異界の悪魔の子  作者: 山寺絹
13/64

13・別れ

 




 美仁とカロルは、朝から王都を見て回っていた。貴族区に平民区を観光し平民区で食べ歩きをした後、城を見に貴族区へ向かった。


「ここがガルニエ王城なんだ…。」


「そうです。奥に見えます二つの塔が錬金塔と魔術塔です。」


「高い塔だねぇ~!」


 二つの色違いの塔を見て、美仁は感心していた。


「ここにリュシアン様がいるんだねぇ。」


「あ、美仁。リュシアン様と明日会う事になりました。」


「あ!そうなんだ!じゃぁリュシアン様のお顔を見たらミズホノクニに帰るね。」


 気になっていたリュシアンに会えるのが嬉しくて美仁は顔を輝かせたが、カロルはショックを受けたような表情を浮かべた。こんなに早く美仁が帰るとは思っていなかったからだ。


「もう帰ってしまわれるのですか?屋敷は居心地が悪いのでしょうか…?」


「あ!違う違う!私、他の女仙様にも修行をつけて貰ってて、そろそろ、その修行の予定なんだ。」


 眉を下げて悲しそうな表情をしているカロルに慌てて美仁は訂正をした。カロルと共に発つ際に翡翠から、金剛の修行が始まるので長居しないようにと言われていた。


「そうなのですね…。それなのに、私と共にガルニエ王国まで来てくれて、ありがとうございます。」


 カロルは美仁の手を取り、感謝を述べた。


「違うよ、カロル。私がカロルと来たかったの。ミズホノクニを出て色々見れたのも嬉しかったし、カロルの家族に会えたのも、嬉しかった。初めての友達で、別れるのが嫌だったんだ。」


「美仁…。私も同じ気持ちです。折角仲良くなれたのに…。ミズホノクニは遠いですから…。」


 寂しそうに目を伏せるカロルの手を、美仁は握り返し答えた。


「私がミズホノクニから出て、冒険者になったらカロルに会いに来るよ。」


「ふふ。絶対ですよ。待っていますからね。」


 二人が笑いあっていると、城門からすごい勢いでこちらに向かって来る人影が見えた。


「えっ、何!?」


 カロルも美仁も驚き身構えた。顔の見える距離まで近付くと、カロルは安心したように力を抜く。カロルの知り合いらしい。近付いて来る人物の顔を見て美仁は固まった。その人物は背の高いダークエルフで、兎に角美しい男だった。その男はカロルと美仁の前まで来ると、勢い良く止まった。


「貴方達は…。…カロル様?」


「…はい。イヌクシュク様。ご無沙汰しております。」


「…驚きました。カロル様がそのような姿をしている事も。カロル様の魔力にも。そして、お連れ様の魔力にも。」


 イヌクシュクと呼ばれたダークエルフは、カロルと美仁を交互に見た。カロルは、冒険者姿をしており、ヴァイキングヘルムを被っている。この兜を被っていても自分だと気付かれてしまうのだな、と思い、フルフェイスの兜を買う決意をした。美仁は、絶世の美形に見られた事で、顔を赤くして固まっている。

 イヌクシュクはカロルの魔力量が、以前よりも大幅に増加している事について考え込んでいる。何やらブツブツと呟いていたが、何か思い付いたように顔を上げると辞去の挨拶をして去って行った。嵐の様なイヌクシュクを、二人はポカンとした表情で見送った。


「…とにかく、すごいイケメンだったわ…。」


 美仁は、やっと動けるようになり呟いた。カロルは美仁の呟きに頷いて同意した。





 翌日、屋敷の食堂にカロルと美仁は並んで座っていた。カロルの母ミレーユに、ジョエル、シャルルも席についている。カロルの父ジョルジュは、もう仕事に行ってしまったらしい。


「美仁さん、今日帰られてしまうと伺いましたわ。美仁さんのお住まいは遠いですが、是非またいらして下さいね。」


 ミレーユに輝く笑顔でこう言われ、美仁は赤くなって恐縮した。


「ありがとうございます。急にお邪魔してしまい、すいませんでした…。」


「カロルのお友達なのですから、大歓迎ですよ。」


 更にジョエルから、美しい顔を優しく微笑ませてこう言われると、真っ赤になった美仁は固い笑顔で頷いて答えた。


 朝食後カロルの自室でカロルと美仁は、リュシアンが来るのを待っていた。カロルが用意した、お土産のお菓子が並べられている。


「こんなに沢山…。カロル、ありがとう。全部、すっごく美味しそう。」


「料理人が頑張ってくれましたからね。何とか間に合って良かったです。」


 美仁は様々なお菓子を感激しながらアイテムボックスに仕舞っていく。


「カヌレとマカロンは私の大好物なので、沢山作りましたよ。」


 カロルがニコニコと笑いながらお菓子を手渡した。


「もしかして、カロルが作ったの?」


「少し手伝っただけですけどね。」


 美仁は驚いてカロルを見た。まさか、カロル手ずから作ってくれたとは思ってもみなかった。口を滑らせてしまい、カロルは困ったように笑っている。


「大事に食べるねぇ…。」


「美仁、泣くのはまだ早いですよ。」


 涙目になる美仁につられて、カロルも泣きそうになったが、二人はどんどんお菓子を仕舞っていった。お菓子を仕舞い終わるとカロルは綺麗に包装された包みを美仁に手渡す。


「これも、貰って下さい。」


「えっ?…ありがとう。見てもいい?」


 カロルはにっこり笑い頷いた。美仁が袋を開くと中から真鍮製のコンチョを付けた髪留めが出てきた。コンチョは丸く緩やかなカーブを描き、表面は細かく叩かれ雪平模様がついている。


「綺麗…。カロル、ありがとう。カロルには沢山貰っちゃったね。」


「こちらこそ、ですよ。ゴムを違う物に変えればブローチ等にも出来ますので、お好みでどうぞ。」


 カロルは一つの三つ編みを背中に垂らし、その先に真鍮のコンチョを付けていた。自分にもお揃いの物を贈って貰えた事が嬉しくて、美仁の目元にじわりと熱いものが滲む。


「ありがとうカロル。大事にする。」


 美仁は涙目で笑顔を作る。ヘアゴムは手首に通した。美仁の髪は肩の辺りで切りそろえられている。髪を伸ばしてこのコンチョを付けたいと思った。


 ゾエという侍女がリュシアンの来訪を告げに来た。美仁とカロルは、ミレーユに挨拶しているリュシアンの元へ向かう。

 部屋に入ると乗馬服を着ている黒髪の美男子が立っていた。蒼い瞳が、愛おしそうにカロルを見つめている。


「カロル、久しぶりだね。乗馬服とても似合っているよ。」


「ありがとうございます。リュシアン様もとても素敵です。あの、こちら、私の友人の美仁です。ミズホノクニで大変お世話になりました。」


 カロルか微笑んで美仁を紹介しているが、美仁は真っ赤な顔で新たな美形の登場に「またすごいイケメンがきた…。」と狼狽えていた。


「美仁さん、はじめまして。カロルの婚約者のリュシアン・ガルニエです。夢見蝶を貸して下さったのは貴女ですか?夢でカロルと会えた事、とても嬉しかったのです。ありがとうございました。」


 リュシアンは美仁に微笑んだ。美仁は更に赤くなる。湯気が出ているに違いない。顔中が熱い。


「いいいいいえ!夢を見た後のカロルさんはもうつやっつやで!とても嬉しそうだったです!」


 美仁は混乱のあまり、カロルにとって恥ずかしい事を、リュシアンにとっては嬉しい事を口走った。カロルは赤くなり、リュシアンは更に嬉しそうに微笑む。


「嬉しい話を聞かせてくれて、ありがとうございます。ではローラン侯爵夫人、カロル嬢をお預かりします。夕方には帰ります。」


「はい。お気を付けていってらっしゃいませ。カロルも、気を付けてね。美仁さん、またいらして下さいね。数珠丸様もいらっしゃいますので、大丈夫だとは思いますが、お気を付けて。旅の無事をお祈りしております。」


「ミレーユ様、ありがとうございました。とても楽しかったです。お邪魔しました。」


 美仁がぺこりとお辞儀をすると、三人は退室した。庭に出ると、数珠丸はジョエルとシャルルと共に待っていた。ジョエルもシャルルも鬣を触らせて貰っている。シャルルはまだ怖いらしくビクビクしながら触っているが、ズブラレウの鬣に触れ感動していた。


「数珠丸、お待たせ。」


 美仁は数珠丸に近付いた。カロルも数珠丸の正面に向かう。


「数珠丸、大変お世話になりました…。数珠丸には、本当に色々助けて頂いて…感謝しています…。」


 カロルは感極まり思わず数珠丸の顔に抱き着いた。その声は涙声だ。


「…俺も楽しかったぞ。元気でな。」


 数珠丸は低く優しい声で答えた。それを見て美仁は泣いている。


「カロルゥ~、元気でね…!また会いに来るから…。」


 涙がとめどなく溢れてくる。止める術も無く、顔をしわくちゃにして泣いている美仁を、カロルは可愛く思い、泣き笑いした。


「美仁…、貴女も元気で…、必ずまた会いましょう…。」


 美仁とカロルは抱き合い別れを惜しんだ。美仁は涙に濡れたまま見送りに来ていた人々に礼をして、数珠丸に跨った。


「じゃあね!」


 美仁は手を振ると、数珠丸は地を蹴り上空に跳んだ。また三日間の旅が始まる。帰りは行きとは違う街に立ち寄り、様々なお菓子を買い集めた。ミズホノクニに着く頃には、美仁の財布はすっからかんになっていた。

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