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美仁は異界の悪魔の子  作者: 山寺絹
12/64

12・ガルニエ王国へ

 




 今日は翡翠の許可を得て、近くの街に来ていた。もうすぐカロルが帰ってしまう為、お土産を買おうと美仁が提案したのだ。カロルが優秀な弟子だったので翡翠も笑顔で送り出してくれた。

 美仁はカロルが帰る際に、ガルニエ王国まで見送る事にしていた。なのでカロルのお土産をアイテムボックスに入れてある。大きな物も余裕で入る広さがある為、カロルは温泉饅頭にお煎餅、ミズホノクニのお酒、更には大太鼓や三味線といった楽器まで購入していた。


 買い物を終えた二人は、大通りを歩いていた。日帰り温泉に入れる旅館へ向かっている。この街は温泉街で、観光客向けに街が造られていた。街は滝から流れる川を挟んで大通りが通っており、木で造られた橋がいくつも掛けてある。

 二人は旅館に入り、温泉に浸かった。カロルは温泉の湯を手で肩にかけている。


「温泉なんて、前世ぶりです。」


「あはは!私はこっちに来て初めて入った~。」


「私は温泉旅行によく行っていましたよ。旅館の食事に気持ちの良い温泉を、贅沢に感じていましたね~。」


「へぇぇ~。旅館の食事って良いね!自分で作らなくても出てくる美味しいご飯…最高だぁ~!」


「ええ。転生前の私も同じような事を考えていました。最高ですよね。」


 二人は顔を見合わせて面白そうに笑った。





 そして、カロルがガルニエ王国に帰る日がやって来た。荷物を纏めてリュックを背負う。大きな荷物は美仁のアイテムボックスに入れてある。


「お師匠様、お世話になりました。」


 カロルは翡翠の家の前で深々と礼をした。翡翠はにこやかに笑い頷き答える。


「妾も楽しかったえ。また遊びに来りゃれ。」


「翡翠様は放浪癖があって留守にする事が多いから、先に真珠様の所に行った方が良いよ。」


「美仁、放浪癖とは随分な物言いじゃのう。」


 翡翠は横目で美仁を睨んでいるが、扇子で隠された口元は笑っていた。美仁も楽しそうに笑っている。カロルも、そんな二人を見て思わず笑顔になる。


「お師匠様、ありがとうございました…。それでは失礼します。」


 カロルは再度、深々と礼をすると、雪之丞に跨った。美仁も数珠丸に跨る。


「翡翠様、いってきまーす。」


 美仁が初めての国外旅行にワクワクしながら翡翠に手を振ると、数珠丸、雪之丞、力丸の三体は地を蹴り出立した。

 ガルニエ王国へは、雪之丞達の速さに合わせて飛ぶ為、六日程かかる。一日目は、ミズホノクニとエルブルス大陸の間にある無人島で休む事にした。

 美仁はアイテムボックスからテントを出し、手早く設営する。カロルはその間に食事の支度をしていた。それ等の道具や材料は、美仁のアイテムボックスから出した物だ。


「アイテムボックスって本当に便利ですね。」


「私もそう思う!翡翠様はこの術を編み出して仙人になったんだって~。」


「そうなのですか。私も国外追放になったら、是非翡翠様の元でこの術を習得したいですね。」


 美仁は首を傾げてカロルを見た。国外追放、と言ったか?この美少女は、そのような罰を受けるような心当たりがあるのだろうか。


「国外追放?カロルが国外追放されるの?」


「可能性の話ですよ。先の事は分からないですから。」


 美仁は更に首を傾げている。遠いガルニエ王国から修行に来たという事だけでも、カロルが変わり者の貴族令嬢である事は分かりきっている。やっぱりカロルは変わってる、と美仁は深く考えずに食事を続けた。


 夜の見張りは魔物達に任せて二人はテントで眠った。ミズホノクニに来る際にカロルが立ち寄ったルトロの街は、街並みが素晴らしかったそうだ。ミズホノクニから出るのが初めての美仁は、ルトロの街がとても楽しみだった。

 そして次の日、ルトロの街に着いたのは丁度夕方。夕焼けに赤く染まる、断崖の上の白い建物群に二人は感嘆の息を漏らす。


「ここはテッサリア国のルトロの街です。港町なので、魚介類も美味しいですよ。」


「港町…ホントだ!下に港がある~!」


 高低差の激しいルトロの街は階段や坂が多い。二人は街に入り宿の手配をしてレストランに向かう。美仁は初めて食べるテッサリア料理を堪能した。


 カロルと美仁は、こうして夜には街に降りて休みながらガルニエ王国へ向かう。

 ミズホノクニを出発してから六日目の昼頃、ガルニエの王都に到着した。魔物を街に入れる際には手続きが必要らしく、カロルは街の入口の衛兵に声を掛けた。雪之丞と力丸は、カロルの冒険者カードに従魔として記載されている為入街許可はすぐに下りたが、数珠丸は主が傍にいない為衛兵の上官に確認するとの事で、少し待つ事になった。待つ間にカロルは書類にサインをしている。従魔と街に入るには手続きが必要なのかと美仁は少し面倒に思った。

 待っていると、表にガルニエ王国騎士団の副団長が来たらしい。カロルが慌てて表に出て行き、副団長から数珠丸の入街許可を貰っていた。


 街に入り魔物達をカロルの家に預けて昼食をとる事にした。カロルには貴族区に普段生活している屋敷と、平民区に冒険者として活動する時に利用する家があった。三体は、平民区の家の庭で休んでいる。家の管理を任されている夫婦は三体を見て腰が抜けんばかりに驚いていた。カロルに紹介され安全だと説明を受け、少しばかり恐怖心は和らいだようだが、家の中で緊張して待っている事だろう。

 二人は平民区のカフェに来ていた。ハムサンドにオムレツ、食後には洋梨のタルトにアイスクリームを頼んだ。美仁はオレンジジュースを、カロルはカシスシロップの水割りを飲んでいる。


「タルトもアイスも美味しかった~!翠山では中々食べれないから嬉しい。お土産に沢山買って帰ろ~。」


「では料理人に頼んで沢山作って貰いましょう。他に何かあれば教えて下さい。」


 ニコニコと提案するカロルに、美仁は慌てて首を振って答えた。


「え、そんな悪いよ…。泊めてもらうのに、お土産まで貰えないよ。」


「いいえ。お師匠様と美仁は私の恩人ですから、これ位させて下さい。足りない位なんですから。」


 翡翠はカロルに修行をつけたので、恩師と呼ばれても良いかも知れないが、美仁は何もしていない。カロルにこう言われ、美仁は恐縮してしまう。


「近々、リュシアン様には会えそう?」


 美仁は話題を変えた。美仁は一目カロルの婚約者を見てから帰りたいと考えている。


「まだ分からないのです。リュシアン様はお忙しいですから、難しいかも知れませんね。」


「そっかー、残念。カロルの大好きなリュシアン様に会いたかったな。」


 カロルは頬を赤くして立ち上がった。


「では、屋敷に向かいましょう。屋敷の庭なら、数珠丸達ものんびり寝れると思いますから。」


「もう、はぐらかすんだから~。」


 美仁はカロルを揶揄いながら追いかけた。屋敷ではカロルの兄弟が、早速カロルに会いたいと楽しみに待っているらしい。埃に塗れた冒険者姿のままでは会えないからと、湯浴みに着替えをさせられた。


「ドレスを着るのって初めて…。」


「とてもよく似合っていますよ。」


 美仁は鏡の前でくるくると回っている。恥ずかしさもあるが、綺麗な服が着れるのは嬉しい。

 そして、カロルの後に続いて入った部屋で、美仁はびっくりしてしまった。カロルの兄弟が、美男子すぎたのだ。


「カロル!お帰り!」


「お姉様!お帰りなさいませ!」


 カロルと同じ白銀の髪に濃い青い瞳の背の高い美男子と、白銀のフワフワした髪に青緑の瞳の幼い顔の美男子が、カロルを笑顔で出迎えている。


「お兄様、シャルル、ただいま帰りました。こちら、友人の美仁です。ミズホノクニで大変お世話になりました。しばらく屋敷に滞在しますので、よろしくお願いしますね。」


「これは美仁様。カロルがお世話になりました様で、ありがとうございます。私はカロルの兄、ジョエルです。よろしくお願いします。」


「美仁様、私はシャルルと申します。よろしくお願いします。」


「美仁です。よろしくお願いします…。」


 美しい三人に注目され、美仁は赤い顔をして挨拶をした。三人に案内されてソファに座り、借りて来た猫のような大人しさでお茶を飲んだ。

 カロル達の話が終わり、カロルの部屋に移動すると、カロルが気遣わしげに美仁に声を掛けた。


「美仁、どうかしましたか?元気がないように見えますが…。」


「カロルの兄弟…イケメンすぎじゃない?緊張しちゃって…。」


 美仁は赤くなって答えた。カロルはホッとしたように微笑む。


「ふふ。緊張していたのですね。あの通り、少し過保護ではありますが、普通の男の子ですよ。」


「ごめんね。私、イケメン耐性が無くて…。あと、イケメンすぎる時点で普通じゃないから。」


 カロルは可笑しそうに笑う。美仁も笑ったが、イケメンは関わるものでは無い、鑑賞するものなのだと思った。


 それなのに、夕食時に紹介されたカロルの父母もまた、輝かんばかりの美男美女で、夕食後にカロルが彼等に翠山での事を報告する際には、美仁はジョエルとシャルルに捕まりカロルが来るまで話をする羽目になった。

 カロルが報告を終え部屋に入ると、美仁のアイテムボックスに入っている楽器を出して部屋に収納していった。ジョエルとシャルルは、大太鼓を軽々運ぶカロルにも、何処からともなく楽器を出す美仁にも驚いていた。

 するとカロルから可愛らしい音色が聞こえてきた。カロルは掌サイズの四角く薄い板の様な物を出し、確認する。


「殿下からだね。カロルと会えなくて随分寂しがっていたよ。部屋でゆっくり話すといいよ。」


 なるほど、これは電話なのかと美仁は納得した。あちらの世界で旧時代に使われていたスマートフォンと形が似ている。これは魔石通話機といって、魔力を動力にした電話である。形がスマートフォンに似ているのは、これはあちらの世界からの転生者であるカロルが、スマートフォンを参考にして錬金術で創り出したからだ。そしてガルニエ王国のエリート錬金術師達が集う錬金塔から発売されている。

 そしてカロルに、リュシアンから着信があった。ジョエルはカロルの背中を押して、部屋から出してしまう。


「…では皆様、おやすみなさいませ。」


 カロルは三人に挨拶をし、チラリと美仁に目配せをした。美仁は、これから想い合う二人が魔通話をするのかと目を輝かせている。

 カロルが退室すると、今度はジョエルとシャルルから、楽器を何処から出したのかと質問攻めにされる事になったのだった。

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